万策尽きたトランプの軍事侵攻 革命を前進させたマドゥーロの排除
トランプはなぜ大統領拘束と軍事侵攻に踏み切ったのか?一言でいえば、それはマドゥーロ政権によるボリバル革命の前進の結果である。米帝は、チャベスが権力を握って以降、ずっと政権転覆を謀ってきた。とりわけ、2013年のチャベス大統領(当時)死去に乗じて一気に攻勢をかけた。オバマ政権は14年の「対ベネズエラ法」で資産凍結や制裁を発動。15年には大統領令による経済制裁と石油封鎖を強化。続くトランプ政権は、19年グアイドを利用したクーデター策動、USAID(米国国際開発庁)による反革命工作、反革命野党による武装暴動(グアリンバ)等々、繰り返し息つく間もなく政権転覆攻撃を加えてきた。その結果、ハイパーインフレーションや通貨暴落、経済崩壊や食糧危機が起こり、人民生活はどん底に突き落とされ、栄養不良による死者の急増など深刻な被害も出た。
しかし、こうした米帝の攻撃をマドゥーロ政権と人民は乗り切ることに成功する。反封鎖法や炭化水素法で民間資本導入を認め、民族ブルジョアジーを買弁ブルジョアジーから切り離し、野党を分断した。食糧危機をCLAP(供給・生産現地委員会)やコムーナによって打開した。どん底の経済は21年頃を境に回復に向かった。24年には食料自給率85%を達成し、高い成長率を記録し、マドゥーロは24年の大統領選挙で勝利した。ボリバル革命を新たな段階へ引き上げる「七つの変革」提言を打ち出した。マドゥーロは14年以来の政権転覆攻撃に勝利したのだ。
米国は、完全に行き詰まった。残るは、軍事侵攻によるマドゥーロ排除しかない。トランプは25年秋から、「麻薬取引」を口実に、漁民を虐殺し続け、空母機動部隊をカリブ海に集結させ、ベネズエラの石油輸送船を拿捕した。この延長線上で起こったのが、1月3日の侵略とマドゥーロ大統領夫妻の拉致連行だ。
軍民団結で米の地上戦への誘惑を断ち切る
米帝の最大の目的は、世界一の石油埋蔵量を持つベネズエラの石油利権の強奪である。民主党オバマは「人権」でごまかし、トランプは本音を剥き出しにしただけだ。トランプは次の選択を迫られた。地上侵攻して軍事的に制圧するか、それともマドゥーロ不在の現地指導者を操るのか。イラン侵略を控えていたトランプは二正面作戦には耐えられない。しかも地上侵攻すれば軍民が団結してゲリラ戦を展開し、泥沼に陥ることは分かっていた。現に、マドゥーロが想定していたのは地上戦であり、団結を進めていた。
最終的にトランプは、マドゥーロを連行し、現地指導者を操って石油利権を強奪する道を選択せざるを得なかった。革命的団結が地上戦という未曾有の犠牲を阻止したのである。それだけではない。昨年5月の米=イスラエルの侵略に「12日間」で敗北し、来る再侵略に対しても鉄壁のモザイク型防衛=抵抗型経済で屈しないイランが、回り回ってベネズエラの地上戦を思いとどまらせたのである。その背後には社会主義中国とロシアを含む国際的力関係と米帝覇権の急速な後退がある。反米・反帝の闘いは全てつながっているのである。ベネズエラ情勢を国際的力関係の変化の中で見なければ判断を見誤る。
ボリバル革命を守る新たな闘い
ベネズエラ政権は、新たな闘いを迫られた。国家権力の建て直しと国内の安定である。大統領を奪われても、社会主義統一党(PSUV)とマドゥーロの側近、ボリバル軍(正規軍と民兵組織)、チャビスタは直ぐさま結束した。ロドリゲス副大統領が大統領代行に就任した。ロドリゲスは、トランプ政権との対話を模索し、戦術的後退を選択した。
地上戦を回避させたとはいえ、軍事的脅迫は続いている。トランプは、ロドリゲスやPSUV指導者カベージョの殺害と空爆を含む再侵攻を示唆した。ロドリゲスとPSUVが絶対に避けなければならないのは、トランプの挑発に乗ることだ。実際、国際刑事裁判所ICC脱退やイスラエルとの領事関係再開など次々と無理難題を押しつけ、チャビスタ内部の「左のはね上がり」と分裂を目論んでいる。団結を崩してはならない。ボリバル革命と人民に必要なのは、かつてロシア革命過程でレーニンが繰り返し選択を迫られた忍耐と「息継ぎ(ペレディシュカ)」だ。
国際的力関係は転換しつつある。次の局面転換までコムーナを無傷のまま維持すれば、ボリバル革命は再始動できる。ロドリゲスとカベージョはそう考えている。
石油主権の屈辱的譲歩 急性的危機回避と資金確保
8月末、ベネズエラ政府は軍事的脅迫を背景に「石油協定」合意を強いられた。しかし、政府はなぜ、この協定を受け入れたのか?2つある。第1は、急性的な危機の爆発、財政破綻と債務危機、ハイパーインフレの爆発を防ぐためだ。断れば、トランプと米系金融資本は襲いかかったであろう。第2は、人民の命と生活を守るための資金調達だ。大地震の復興に巨額の資金が必要になる。キューバと同様の深刻な電力危機が起こり、これも命と生活に直結する。補修には部材と資金が必要だ。我々の想像を超えた苦闘を強いられている。
「石油協定」は全てが許し難い強盗的略奪だ。1月の侵攻直後に押しつけられた油田の輸出・開発権限、振込口座の指定、米国製品の購入義務などの上に、さらに650億バレルの100年間の開発・採掘権の確保が強制された。事業主体が米国防総省の戦略資本局の下に設置された「北米ブルーエナジー・パートナーズ(NABEP)に一元化された
しかし、「100年」は、当事者間の合意により延長した場合の最長期間だ。石油協定の契約期間は25年間である。ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)がすべての対象油田に持分を維持し、NABEPの事業分からロイヤルティと所得税などを受け取る。対象は17油田(未開発の8油田と既存の9油田)で、650億バレルはこれらの油田の埋蔵量の2割を指す。米帝による全面支配ではない。油田開発や老朽施設の改善、パイプライン敷設、電力網整備などを米国資本にやらせることで、石油生産全体を回復しようとの意図だ。
パウラ・エナオ石油相は、中国とロシアとの既存の合弁・協力事業は継続すると述べた。「中国・ロシアを排除」との米政府やメディアの報道とは裏腹に、既存の協力関係は放棄されていない。この「協定」をめぐる闘いは続く。
しかし当座の資金が調達できる。英の手元にあるベネズエラの金塊40億ドルは米国が略奪した。政府の国庫には必要なカネがないのだ。6月24日の大地震は、6500人を超える死者、約1万7900人の住居喪失をもたらし、被害額は1千億ドル(約15兆円)に達する。政府は「ベネズエラ・レナセ計画」を打ち出し、①壊滅した電力網・水道インフラの超特急再建、②住宅・病院の建設、③PDVSA自体の操業資金への「還流」の3つへ集中投資する考えだ。
人民の命と生活を支える草の根自治組織「コムーナ」
急性的危機を回避できれば、全国5000以上の草の根自治組織コムーナを基盤に人民生活を再建できる。2種類のコムーナがある。第一に、都市住民の生活を守る都市型コムーナである。例として首都カラカスのバリオ(過密な貧民街)を拠点とするエル・パナールは、農村と直接ネットワークを組み、都市住民への計画的な食料分配システム(パン、魚、トウモロコシ粉など)を構築している。これにより、米国の制裁や大地震の混乱下でも物価高や物資不足から地域住民を直接保護している。第二に、生産から加工、流通を手がける地方型コムーナだ。その一つであるエル・マイサールは、米国の制裁の下でも、独自のトウモロコシ生産、畜産業、食料加工、さらには地域通貨や共同体バンクを運営し、自給自足の体制を強化している。いずれも、台所事情や隣近所をよく知る女性たちが主役だ。
チャベス時代から20年以上の実践を通じて形成されたコムーナの自立性、創造性が人民生活の破綻を食い止めているのだ。ベネズエラ政府は誰よりもそのことを自覚している。米国の制裁に対抗するため、コムーナが主導する20万haの農地拡大計画を始動させている。輸入に頼れなくなった黒豆や大豆、トウモロコシなどを、コムーナやコヌコ(伝統的菜園)のネットワークが直接栽培し、地域に供給する計画だ。ロドリゲス大統領代行は、各地のコムーナを訪問し困難な事態を共に乗り切るよう激励している。大地震の影響で延期された「全国民衆投票」を10月11日に行う計画だ。ベネズエラでは3ヶ月に1回のペースで投票が定期開催され、全国のコムーナが自分たちの地域に必要なプロジェクト(水道修理、医療機器の購入、農業用トラクターの確保など)を住民投票で決定し、直接交付金を受け取る仕組みができている。
制裁中止と大統領夫妻の解放を闘い取ろう
ここまで来れば、ボリバル革命の歴史も今日の国際的力関係も理解しようとしない世界の左翼や共産主義者の一部が叫ぶ「ロドリゲスの裏切り」「国家主権の売り渡し」「植民地支配への屈伏」等々の非難が的外れであることは明らかだ。軍事的恫喝と制裁のもとで懸命に闘っている革命政権を、海外の安全な場所から見物し採点するようなことがあってはならない。それはボリバル革命に対する冒涜であり、米帝を利する利敵行為だ。
もちろん厳しい事態が続いている。何より、マドゥーロ大統領夫妻は米国の拘置所に拘束されたままだ。弁護団は、国家元首としての免除と米国の管轄権を争い、訴追の棄却を求めている。現時点で27年6月の裁判日程が示されているにとどまる。妻フローレス氏の健康状態の悪化から、弁護団は保釈を求めている。
ボリバル革命を守りぬくロドリゲス政権を断固支持し、連帯行動を強めよう。米はベネズエラへの金融・経済制裁をやめよ。ベネズエラへの軍事的恫喝をやめよ。マドゥーロ大統領夫妻を即時解放せよ。
(N)
