高市首相は9月22日、国連総会の演壇から、「日本の誇りと名誉」にかけて、国連憲章の「旧敵国条項」の早期削除を求めた。単なる国内事情、自らの極右支持基盤へのアピールだけではない。その真意、本質はどこにあるのかを探る。
(編集局)
対中対決優先で外交破綻。レアアース在庫払底で財界が悲鳴
なぜ今、高市政権はこの削除要求を世界に向かって公然と打ち出したのか?軍事的にも外交的にも中国とは対話しないという中国との対決宣言である。昨年11月の「台湾有事」への日本・自衛隊の軍事介入発言を撤回するつもりは毛頭ないという意思表示でもある。
9月28日、岩屋元外相は9月27日から訪中し、王毅外相、何立峰副首相と会談した。中国側の破格の対応である。2つのメッセージがある。一つは、岩屋氏が「発言撤回は難しい」「日中共同声明の趣旨の再確認」で幕引きできないかと投げかけたのに対し、王毅氏は「曖昧なやり方では良くない。中国には『問題を解決するのは問題を起こした人であるべきだ』(解铃还须系铃人)という言葉がある」と拒否したと言う。自分で撒いた種は自分で刈り取る。当然のことだ。同じことは、日米首脳会談でもあった。トランプに対して「習近平に日本側との対話」をするよう働きかけたと言う。これが高市首相である。裏でこそこそするが、一国の首相として進退をかけて日中関係を改善する気が全くないのだ。
もう一つは、レアアースを巡るものであった。何立峰氏は「民生用なら問題ない」と述べたが、軍事関連を制限する実質は変わっていない。日本側は「政経分離」路線を追求するが、今の日中関係にこの路線は通用しない。経団連自身が、高市政権と共に「軍需産業復活で日本経済再生」を路線化しているからである。今年1月にレアアース輸出管理強化が発動されて以降、約9か月が経つ。自動車産業、電機・ハイテク産業は、在庫を使って生産を続けてきたが年内から来春にかけて在庫が払底するという。日本財界の「高市軍拡は支持するが、中国市場もレアアースも確保したい」は虫が良すぎる。
10月7日の臨時国会の衆院代表質問でも、高市首相は、あくまでも削除要求を世界に呼びかけていくと答えた。これが岩屋氏が引き出した中国側のメッセージに対する高市の回答である。
米中首脳会談の「第2次世界大戦の同盟国」合意で対中挑発は挫折
ところが、高市の「旧敵国条項削除」演説のわずか2日後、米中首脳会談で、米中両首脳は対立ではなく協力を確認し、「尊重・公平・対等にもとづく建設的戦略安定関係」を築くことで一致した。さらに、8項目の成果の第4項には、「両国首脳は、中国と米国が第二次世界大戦の同盟国であり、肩を並べて戦い、戦争に勝利したことを想起した」と明記された。
高市と日本政府は、米中両国のこの「同盟国」確認に仰天した。高市は、頼みの米国自身によってハシゴを外され、日本が「旧敵国」であった歴史的事実を突きつけられたのである。高市の反中挑発は完全に裏目に出た。中国への敵対と挑発をやめない高市首相に米国が同調しなかったことは、日本に大きな衝撃を与えた。確かに、日米同盟=安保体制は簡単に揺らぐものではない。だが対中戦争まっしぐらの高市政権の足元が政治的に揺らいでいるのは確かだ。
ファシズム復活の時代とドイツと日本の再軍備。今こそ反ファシズムを鮮明に
実は今年の国連総会でも、日本、ドイツ、インド、ブラジルの4カ国(G4)による外相会合が開催され、共同声明を通じて安保理改革の早期実施を強く提起した。ドイツと日本は、まさに81年前に敗北したファシズム国家である。この両国のファシズム復活という時代認識を持つ必要がある。
あのファシスト・ドイツは今、欧州最強の陸海空軍の構築を目指し、戦後最大規模の再軍備を進めている。狙いはロシアとの戦争であり、ヨーロッパの軍事的覇権である。ショルツ前首相が2022年のロシアの侵攻の3日後に「時代の転換点(ツァイテンヴェンデ)」を宣言したことがきっかけと言うが、わずか3日で壮大な再軍備計画が打ち出せるはずがない。ウクライナを使ってロシアを挑発し続け、侵攻を合図に一気に「戦争国家」に転換する周到な計画であった。異次元の軍事費増強。「戦える軍」への装備近代化。徴兵制の復活。戦後初の海外常駐。「車から大砲へ」自動車産業の軍需転換、老朽化した高速道路の橋梁の架け替えや補強による重戦車の輸送、鉄道・港湾の徴用・即応体制、等々。恐ろしいの一語に尽きる。もちろん反発が広がっている。高校生などは反徴兵制デモで抗議している。予算の軍事費増強による福祉・医療・子育て予算の削減反対、生活を守れの生活防衛の闘いが活発化している。
高市政権は、このドイツと全く同じ再軍備強化、民生切り捨て政治を加速している。日本の軍事費2倍化、長射程ミサイル配備、南西諸島の要塞化、さらには国家情報局の発足、スパイ防止法制定、憲法9条改憲への高市の執着等々、われわれは1年前に高市政権が誕生した際、ネオファシスト政権と断罪し、その軍国主義化・反動化を批判し、反戦運動と生活防衛の闘いを結合させ闘ってきた。
中国・ロシア・朝鮮の日本ファシズム復活への警告 条項適用を示唆
つまり、戦後80年以上が経ち、第二次世界大戦で反ファシズム勢力が勝ち取った国連と国連憲章の国際秩序をぶち壊す新たなファシズム復活の時代が到来しているのである。もちろんトランプの米帝国主義も同様だ。イスラエルと結託し、ガザでジェノサイドを繰り返し、瓦礫の山に変え、イランとベネズエラにも侵略した。キューバへも軍事的脅迫と燃料封鎖でジェノサイド的破壊を強行している。ラ米カリブでは親トランプのネオファシストが猛威を振るい、ヨーロッパでも極右ネオナチ勢力が政権奪取の間近に迫っている。
このような戦後かつてない危険な状況下で、高市首相は「旧敵国条項削除」を要求し、自らの再軍備を正当化しようとしたのである。高市演説から6日後の9月28日にも、国連総会では中国の孫磊次席大使が答弁権を行使し、同条項はファシズムと軍国主義が二度と国際の平和と安全を脅かすのを防ぐ極めて重要な制度的措置であり、変更も削除もできないと反対した。同氏は、日本が軍国主義の犯罪を認め、憲章の全内容を受け入れて加盟した経緯を指摘し、軍事費の大幅増額、殺傷兵器の輸出規制の緩和、中・長距離ミサイルの配備推進、平和憲法の改定の推進、非核三原則からの脱却の企てを挙げて、日本の行動を問いただした。ロシアのラブロフ外相も、日本はもともと憲章上の「敵国」であり、軍国主義の責任を負ったうえで加盟したと指摘して同調した。朝鮮民主主義人民共和国も、「日本は国連憲章上、依然として敵国である」と断言し、日本の条項削除要求について「恥ずべきことでばかげている」と一蹴した。
そもそも「旧敵国条項」とは何か?今や国際的には「死文化」は通用せず
「旧敵国条項」は、米英中ソの4か国が呼びかけて1945年4月25日に開幕し、6月26日に国連憲章を採択したサンフランシスコ会議で、国連憲章に組み込まれた。憲章は戦後の国際秩序の原則を示し、「旧敵国条項」は世界中に甚大な被害を与えたファシズム国=独、伊、日本が敗北した後に再び侵略を繰り返さないための担保として設けられた。憲章の3つの条項(53条、77条、107条)に関係するが、直接的にはファシズム国家だった3国が再び侵略をおかし周囲に脅威を与える危険があるときには、連合国(国連創設国)が安保理に諮ることなく軍事行動を取ることができるとしたものだ(主に第53条1項と第107条)。
高市が言及した2005年の総会決議は国連世界サミット成果文書(総会決議60/1)の一部で同条項の削除に言及したに過ぎない。より直接的には95年の国連総会で(決議50/52。賛成155、反対0、棄権3)「旧敵国条項」が「時代遅れとなった」と決議された。これを日本政府は「死文化した」と宣伝する。しかし、これら「総会決議」に「旧敵国条項」を無効化する効力はなく、その後も国連憲章は改定されず、条文は生きている。95年当時、93年に河野談話、95年に村山談話が出され、中国側はこれを一定評価したのだ。高市は、今年8月15日の全国戦没者追悼式の式辞から「反省」の文字を削除し、反省などしていないことを公言し、中国との関係の土台である「4つの政治文書」を事実上否定した。軍国主義を推し進め、対中対決の急先鋒に立つ高市が首相の座にある今こそ「旧敵国条項」はその存在意義を証明している。
国連憲章の改正には総会構成国の3分の2の賛成による採択に加え、全常任理事国を含む加盟国の3分の2の批准が必要だ(第108条)。削除のための改正案は、総会で提案すらされていない。中国とロシアは常任理事国であり、両国が批准しない限り、条項は削除できない。
日本の超軍拡阻止。日本の戦争責任、加害責任を追及しよう
高市首相、政府・外務省だけではない。「旧敵国条項」の「死文化」は、与野党も全メディアにも共通した見解である。日本共産党も同様である。世界がファシズム復活の時代に入る中で、日本が軍国主義化・反動化を加速する中で、「死文化」を主張することは、高市首相に加担するに等しい。
「旧敵国条項」は、戦後国際秩序は、5000万人とも8500万人とも言われる世界反ファシズム戦争の甚大な犠牲の上に、中国とソ連の人民、反ファシズム勢力が勝ち取った歴史的獲得物である。この悲劇的歴史を想起しよう。第2次世界大戦が世界反ファシズム戦争であることを改めて明らかにしよう。日本の天皇制軍国主義の戦争責任、加害責任を追及しよう。
高市首相は「旧敵国条項」削除の要求を撤回し、「台湾有事」介入発言を撤回せよ。侵略戦争と植民地支配の歴史に向き合い、対中戦争準備をやめ、日中平和友好に転換せよ。
