【解説】
高市軍国主義と日本資本主義・帝国主義の爛熟と没落(その2)

はじめに

 9月初旬、メディアが一斉に「2020年5月を底に74ヶ月間、景気拡大が続いている(いざなみ超えの戦後最長)」という報道を流した。さすがに実感がないので、讃美はできない。インフレ・物価高が成長率を押し上げたに過ぎない。ここに現在の日本の恐慌循環の特殊性が集中的に表れている。
 連載その2は、いよいよバブル崩壊後の日本資本主義・帝国主義の「異常な資本蓄積構造=超長期停滞構造」の解明に入る。一言でいえば、日本の金融資本が35年にもわたって総資本も売上も国内設備投資も増やさないまま、利潤だけを増大させたということだ。その最大の原因の一つが、日本の労働者・人民の貧困化と生活破壊にあることを明らかにする。もう一つの原因である途上国収奪と超過利潤については次号で論じる。 


(韮山隆)

【解説】高市軍国主義と日本資本主義・帝国主義の爛熟と没落(その1) | コミュニスト・デモクラット

[2]日本資本主義の超長期停滞期の資本蓄積活動
 ―「資本蓄積なき増益」「売上増なき増益」――

(1)バブル崩壊後の超長期停滞の特殊な資本蓄積構造
~総資本も売上高も増えないのになぜ利益だけが増えるのか?

 バブル崩壊後の異常な超長期停滞期の資本蓄積活動はどのようなものなのか、詳しく見てみよう。
――第1に、1991年のバブル崩壊後、日本の全産業(金融・保険業を除く)の売上高(国内と海外の合計)が頭打ちになっている(図4)。

図4 総資本売上高の長期推移(単位:百万円)

*財務省「法人企業統計年報」に基づいてわれわれが作成した。全産業の売上高(金融・保険業を除く)は、バブル崩壊前後の1400兆円半ば(1991年1474.8兆円、1992年1465.1兆円、1993年1439.1兆円)から、2021年1447.9兆円まで上下しながらほぼ1400兆円台半ばを記録し、ようやく30年後の2022年に1578.4兆円と9%ほど増えている。

図5 総資本の長期推移(単位:億円)

――第2に、1998年以降、総資本額も頭打ちになった(図5)。1993年度の646.3兆円から2022年度の688.5兆円まで横ばいである。ようやく30年後の2024年に736.6兆円へ、わずかに増える程度だ。この間、営業利益は増減を繰り返しながら25.3兆円から76.6兆円へ3倍に急増している。「売上増なき増益」「資本蓄積なき増益」と言われている。これが今日の日本金融資本の、日本資本主義の特殊な資本蓄積構造を形成している。
 ではなぜ、この特異な「資本蓄積なき増益」「売上増なき増益」が可能なのか? マルクスが『資本論』で想定した資本主義の発展とは、資本主義的蓄積(剰余価値の資本への転化)、つまり剰余価値を増やして総資本(不変資本+可変資本)を増やすことである。ところが資本総額も売上高も増えないのに利潤だけを増やし続けているのだ。何が起こっているのか?

*「法人企業統計調査(時系列データ)」から不変資本を「建設勘定+その他有形固定資産+棚卸し資産(製品・商品、仕掛品、原材料)」とし、「法人企業統計年報特集)の「調査結果の概要」から可変資本を「付加価値統計」の「人件費」を抽出し、マルクスに倣って、総資本=不変資本+可変資本としてわれわれが作成した。その結果、バブル崩壊後の不変資本は1993年449.7兆円、94年461.7兆円から、2022年474.0兆円、23年487.5兆円、24年507.3兆円へ、可変資本は同196.6兆円、200.7兆円から、同214.4兆円、221.7兆円、24年229.4兆円へ、総資本も、同646.7兆円、662.2兆円から、688.4兆円、709.2兆円、736.7兆円へ、30年以上かけて僅かの増大でしかない。なお、この「総資本」概念はマルクス主義経済学の概念であり、政府統計の「総資本」概念とは異なる。
*『季刊・経済理論』第62巻2号特集「今日の日本経済をどうみるか:長期停滞の行方」宮田惟史「日本経済の長期停滞と現代資本主義」参照。宮田氏は、この「資本蓄積なき増益」「売上増なき増益」を詳しく分析している。

(2)労働者・人民に対する異常な搾取強化で利潤を拡大

図7 総資本経常利益率の長期推移
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/zaimu/zaimu_all.pdf 財務省

 バブル崩壊後の日本資本主義のこの特殊な資本蓄積構造を読み解く鍵は、マルクスが解明した利潤率の傾向的低下法則とその対抗諸要因にある。利潤率の傾向を知るために便宜的に政府統計にある「総資本営業利益率」と「総資本経常利益率」で見てみる(図6と7参照)。両利益率共に、高度成長期から銀行・証券大手が連続倒産した1998年の不良債権危機まで傾向的に低下し、それ以降、営業利益率は底を打ち上下動を切り返し、経常利益率は何と反転し、急上昇している。

図6 総資本営業利益率の長期推移
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/zaimu/zaimu_all.pdf財務省


 利潤率の傾向的低下は、対抗諸要因によって修正される。対抗要因は傾向的低下を中断させるだけではなく、対抗要因が強烈であれば利潤率を高める作用もある。2つの利益率を底打ちさせ、反転急上昇させた対抗要因は2つある。一つは労働者に対する搾取強化、もう一つは途上国収奪による超過利潤である。

*マルクスは『資本論』第3篇第14章「反対に作用する諸原因」で、冒頭の1番目に「労働の搾取度の増大」を挙げ、「労働日の延長」と「労働強化」、剰余価値率の増大などを挙げている。2番目に「労賃の労働力の価値以下への引下げ」、4番目に「相対的過剰人口」を取り上げている。生活も生存もできない「労働力の価値以下への低賃金」は、まさに今日の非正規雇用労働者の極低賃金そのものである。マルクスは150年以上も前にこのような研究をしているのである。また、マルクスは5番目に「貿易」要因を挙げ、植民地貿易による高利潤率の事例を検討している。今日の途上国収奪による「超過利潤」、貿易を通じた「不等価交換」にも通じる先駆的な研究である。

図8 一人当たり名目労働生産性・名目賃金の推移
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/23/backdata/02-01-01.html

 上記のマルクスの利潤率の公式を見てほしい。分子の剰余価値率(m/v、搾取率)が増大すればするほど、つまり賃金(可変資本v)を減らし(図8の点線の推移)、利潤(剰余価値m)を増やせば利潤率p’は上昇する。例えば、非正規雇用労働を拡大し資本の賃金コストを引き下げることも、長時間労働をさせたり、労働強度を引き上げたりすることも、vの減少とmの増大につながる。資本は資本総額の増大によってではなく、ひたすら労働者・人民を痛めつける強搾取によって利潤を増大させているのだ。ここにバブル崩壊後の日本の労働者・人民の貧困化、生活破壊、生存そのものが困難を強いられる根本原因がある。

図9 一人当り名目賃金、実質賃金の推移の各国比較
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je22/h06_hz020105.html


 日本の名目賃金、実質賃金の超長期低迷・減少は、他の先進諸国との比較でも一目瞭然だ(図9参照)。
 政府・支配層の「賃上げ」宣伝は口先だけである。あるいは労働者階級の最上層である金融資本の労働者だけだ。金融資本は負担に耐えられないと言うが、巨額の「内部留保」の前に説得力はない。政府・金融資本の蓄積衝動を放置すればそうなる。労働者・人民の圧力で闘いとる以外にない。高市政権が狙う労働時間規制の緩和などもっての他だ。ただvを減らし、労働者の精神的・肉体的摩耗を加速したいだけである。

(3)個人消費の低迷、消費性向の急速な低下

 持続的な賃金低下・低迷は当然個人消費を冷やす。税・社会保険料などの負担が増えれば増えるほど手取り収入(可処分所得)を減らし、平均消費性向(可処分所得のうち、実際に消費する割合)を減らす。平均ではバブル崩壊時の水準約74%から直近では約65%前後まで大幅に低下した。インフレ・物価高も加わり、消費性向は、全ての年齢層で2010年代前半以降、低下傾向にある(図10参照)。

図10 二人以上勤労者世帯の平均消費性向の長期的な動向
内閣府「日本経済レポート2025年版」第2章
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je25/h06_hz020101.html
図11 消費と所得の動向総務省
「日本経済レポート(2023年度)第1章第1-1-2図消費と所得の動向
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2023/0213nk/n23_1_1.html


 GDPの約55%を占める個人消費は、2022年秋頃から徐々に持ち直しているが、物価上昇により、実質は低迷・減少気味だ(図11(1))。この背景にあるのは所得(雇用者報酬)が実質で減少傾向が続いているからである(図11(2))。

(4)バブル崩壊後の国内設備投資の長期低迷

図12 経常利益の増大と設備投資の抑制傾向
2025年度内閣府「年次経済財政報告」
第3章「変化するグローバル経済と我が国企業部門の課題」
第2節「我が国の企業行動における長期的な変化と課題」p357
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je25/pdf/all_01.pdf

 次に、分母の有機的構成(c/v)はどうか。賃金(可変資本v)だけではなく、図11にあるように、設備投資(不変資本c)もバブル崩壊以降、低迷し続けている。つまり、バブル崩壊後は有機的構成がほとんど変わらないのである。だとすれば、営業利益、経常利益の増大は、専ら、分子の剰余価値率(m/v)の増大、つまり過酷な搾取強化による。
 また、図12の経常利益と設備投資の関係を見ると、1990年代までは、設備投資が経常利益を上回っていたが、2010年代以降は、コロナショックを除けば、経常利益が急増しているのに全く設備投資に回っていないことを示している。まるでマルクスが『資本論』第二部で理論的考察として論じた「単純再生産」に近い現象が実際にバブル崩壊後の日本で起こっているのである。

(5)安価かつ大量の生活必需品輸入による「労働力の価値」引き下げ効果

 バブル崩壊後35年にわたる超長期の賃金の低迷・下落は、最底辺の労働者・人民を生存・生活不可能なまでに追い込んできたが、相対的にその上の層がギリギリの生活ができた原因の一つは、中国などからの安価かつ大量の輸入品による。100円ショップはその典型だ。
 途上国収奪は、単に海外投資による超過利潤の還流という形態だけではない。もう一つの形態がある。それは安価な生活必需品が「労働力の価値」を引き下げ、賃金(可変資本)を押し下げることを通じて、ぎりぎりの生活を可能にすると同時に、日本の金融資本が搾取率(剰余価値率)を引き上げるという形態である。これは先に*注で述べた「対抗諸要因」の「貿易」要因に該当する。
 しかし、この形態は、インフレ・物価高が深刻化すれば一変する。高市政権の円安誘導と日中対立激化政策は、実質賃金を更に押し下げ、労働者・人民のギリギリの生活を直撃する。

*アンドレアン・ロハス氏は、トランプ関税戦争発動の直後、「多くの米国人が現在の消費レベルが安価な製品の輸入に大きく依存していること、米国民の現在の生活条件は世界からの大量の安価な商品の流入なしには考えられないこと」を思い知ったという。
 そして、途上国収奪を否定する似非左翼・共産主義者を批判する。「この自明の理を認めるのは、西欧諸国のプロレタリアートが帝国主義的略奪の果実へのいかなる関与も免れていると『免罪』することに慣れている共産主義運動の陣営内ですら往々にして不愉快なものである。しかし、事実の力は警鐘を鳴らした。保護貿易と自由貿易の優劣をめぐる不毛な議論に没頭する中、多くの者はイデオロギーの相違にもかかわらず、米国の富が主にその対外貿易によって支えられていることを認めざるを得なかった」。さらにこう結論づける。この事実は「不等価交換に関するあらゆる理論が数十年にわたり指摘してきた基本的事実を反映している。すなわち、豊かな国々は安く買い高く売る一方で、逆に貧しい国々は高く買い安く売るのである。豊かな国と貧しい国との間のこの貿易の非対称性は、現代における帝国主義的搾取の根本的な仕組みを構成している」と。
 不等価交換が先進諸国の生活条件を支えている事実を、ネオファシストであるトランプが関税戦争によって自国民に思い知らせるとすれば、同じネオファシスト高市は対中貿易を悪化させることで自国民に思い知らせることになるだろう。
*「米国製か、それとも南部が負担したのか?トランプ関税と不等価交換」
https://anti-imperialist.net/blog/2025/04/15/made-in-america-or-paid-for-by-the-south-trumps-tariffs-and-unequal-exchange/


(続く)

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