2026年8月26日午前、ネパール北部の高山地帯で巨大な氷と岩の塊が崩落した。進行するほど破壊力を増す超高速の土石流。発生地点から遠く離れた地域で被害が突然最大化するこれまでにない災害であった。被害は温室効果ガスをほとんど排出していなかった労働者や住民に集中した。気候危機による災害が深刻化する中、救援にあたった社会主義中国は、再生可能エネルギーへの転換と排出の劇的な低減を進める一方で、「事前予防」により気候災害から人民を守る取組みを本格化させている。
氷河崩落―進行するほど破壊力を増す土石流
氷河はネパール側の標高約5200mの落差1400mの急斜面を崩落して土石流となり、7分以内に中国・ネパールの国境検問所があるギロン(吉隆)に到達、さらにネパール側に下り、次の15分以内にラスワガディ、ティムレ、シャブルベシなどを襲った。災害はボテコシ川からトリシュリ川へと下流に拡大し、遺体と瓦礫は発生地点から数百㎞離れた地域でも発見された。ネパール側が死者1453人、不明5644人(9月26日)、中国側が死者43人、不明519人(9月5日)。ネパールでは約2万人の救援要員が投入され、約1万3700人が救出された。
災害発生時にM5.1の地震波が観測されたことから、当初は、地震により氷河湖が決壊したと推測された。実際、2025年7月には同じ場所が氷河湖の決壊による洪水に襲われていた。しかし今回は違った。災害前後の衛星画像と地形の解析を行った専門家は、大規模な氷河崩落と判断した。地震波はその凄まじい氷河崩落によるものだった。
洪水とは異なる。崩落した氷体は急斜面を落下し、氷河堆積物や岩石を削りながら取り込み、進行するほど破壊力を増大させた。氷、巨岩、土砂、泥水が混合して液体コンクリートのようになり、時速約190㎞で谷を下る高密度の流体となった。住民や労働者に避難の時間はなかった。
「第三の極」で急速に進む氷河損失と永久凍土の融解
ヒマラヤ地域は、南極、北極に続く「第三の極」といわれる。この地域の氷河は約20億人の住民の水源となっているが、衛星解析では、1990~2020年に総面積の約12%、推定氷量の約9%が失われた。とりわけ約4分の3を占める0・5平方㎞未満の小規模氷河が急速に縮小している。氷河損失は長期的には水不足をもたらし、短期的には氷河湖の形成、斜面不安定化を促す。さらに、永久凍土が融解すれば、岩盤や土壌の結合力が低下し、氷河氷崩、岩石雪崩、地滑り、河道閉塞、決壊、土石流が相互に転化しうる。ヒマラヤ氷河の縮小と雪氷圏の不安定化が、人為的な地球温暖化と結びついていることは科学的に確立している。今回の氷河崩落の原因を温暖化だけに単純化することはできないが、災害が発生しやすい環境を拡大していることは間違いない。
2025年7月の災害は、チベット側の氷河湖の決壊による洪水だった。このときは監視していた中国側から事前情報が伝えられ、避難時間が確保された。氷河湖の監視システムは、ネパール側でも米国USAIDとNASAが事業を進めていたが、2025年1月にトランプ大統領が資金援助を取消し、事業は打ち切られていた。しかし、2025年7月の教訓を「危険な氷河湖を個別に監視すればよい」と理解していたならば、今回のような氷河崩落には対応できない。監視すべきは氷雪圏全体である。
働いていた人々が最大の犠牲者となった
災害対応当局によると、水力発電事業関係者の行方不明が933人にのぼった。一部はトンネル内に残された。電力を生産し、トンネルを掘り、発電所と導水路を建設し、山岳地域の開発を担っていた労働者が災害の最大の犠牲集団となった。
ラスワガディの税関ヤードでは、周辺集落から集まった労働者が、ネパールと中国を往来するトラックの積み降ろしに従事していた。労働者は荷役組合をつくり、交代制で仕事を分配していた。谷には税関職員、入国管理職員、銀行員、警察、軍、武装警察もいた。ラスワガディは中国チベット自治区へ通じる主要な陸路であり、カイラス山巡礼から戻る人びとや外国人旅行者も滞在していた。行方不明者には592人の外国人と、同行していた127人のネパール人が含まれた。
初期集計によると、13の水力発電施設が損傷し、約410メガワットの発電能力が被害を受けた。橋梁、道路、送電線、通信設備、水文観測施設(降水量・水位・流量・水質・地下水位・積雪深などの水文要素を継続的に観測する施設)も破壊された。水力発電所の被害は、電力供給、病院、給水、通信、食料保存、企業活動、家庭生活を同時に不安定化させる。道路と橋の破壊は、救援隊と重機の進入を妨げ、食料、医薬品、飲料水、燃料の輸送を遅らせた。水文観測所が流失すれば、下流へ伝えるべき情報も失われる。被災者は家だけでなく、生産手段、雇用、教育、社会資本を同時に失ったことになる。救援には長期的な公共事業が必要となる。
世界排出のわずか約0.1% ―気候責任と被害の逆転
ネパールの年間温室効果ガス排出は、世界全体の約0.1%にすぎない。歴史的累積排出に占める割合もごく小さい。にもかかわらず、その人民は、氷河崩落、洪水、地滑り、干ばつ、水不足という形で、急速に深刻化する気候損失を負っている。気候危機は「人類共通の問題」であるといわれるが、原因への責任、危険に晒される度合い、対応能力、損失を回復する資力は同じではない。産業革命以来、化石燃料による蓄積と植民地支配から富を得た帝国主義諸国と、植民地化、従属、債務、資源収奪を受けてきた国々を、同じ責任主体として扱うことはできない。
2000~2019年に世界が被った気候変動由来の損失と損害は、少なくとも2兆8000億ドルに達したとの分析がある。一方、「損失と損害」に対応する気候基金への拠出の約束は、2025年末時点で約8億1701万ドルにすぎない。2025~26年に用意された初期実施枠も2億5000万ドル規模であり、被害の大きさと比べれば桁違いに小さい。気候資金が融資として供与されれば、被災国は、災害の復旧費用を債務として負わされる。これは支援ではなく、気候危機を利用した新たな従属だ。歴史的排出国と化石燃料企業が負うべき責任は、慈善的な援助ではなく、返済不要の資金、技術移転、債務帳消し、損失補償として具体化されなければならない。
ネパールの谷で労働者や住民が命を失った事実は、気候正義の用語を現実へと引き戻す。氷河を溶かす二酸化炭素をほとんど排出してこなかった人びとが、貨物を運び、トンネルを掘り、発電所を建設し、その現場で最も重い犠牲を払ったのだ。
中国から被災地への統合救援動員
中国側では、習近平国家主席が発災後直ちに指示を出し、李強首相らを現地に派遣し、チベット自治区、応急管理部、消防救援隊の専門救援部隊、人民解放軍、武装警察が動員され、被災者の避難、行方不明者の捜索、道路啓開、物資輸送、二次災害監視が統合的に進められた。8月28日の政治局会議は、「人民至上・生命至上」を堅持し、国籍を問わず、「国内外の行方不明者を全力で捜索する」よう求めた。対照的に米国は、災害援助対応チームを派遣せず、援助は当初50万ドル、追加分も含めて約410万ドルにとどまった。
さらに中国は、ネパール人の帰国支援、行方不明者情報の共有、気象・水文・氷河湖・雪崩情報をネパール側と交換した。救援の進展とともに、トンネル救助、無人機、橋梁、通信、法医学など、専門能力を近隣国が補完する必要性が明らかになった。中国は、200万ドルの緊急援助と50トンの救援物資に加え、無人機、DNA鑑定機材、トンネル専門家、法医学チーム、仮設橋(ベイリー橋)を送り、ネパールと共にこれを担った。
社会主義中国の「事前予防」による人民安全国家建設
2026年も欧州の熱波やカナダの山火事など、気候危機による深刻な災害が続く。中国共産党政治局は2026年4月に防災・減災・救援能力の向上を集中的に検討していた。災害発生後の救援を強化するだけでなく、国家の発展計画へ災害リスクを組み込む転換であった。習近平は、防災・減災・救援において、党の全面的指導、人民至上・生命至上、自然法則の尊重、予防優先、改革・革新、システム観念、社会共同統治の「七つの堅持」を提起した。
その核心は、「災害リスクを下げ、災害損失を減らす要は事前予防にある」という認識である。山間部の谷口、洪水流路、崖・斜面周辺など、人口が集積する高危険地域について、建設規制、避難移転を組み合わせ、事前にリスクを減らし、新たなリスクを生み出さないことが目標とされた。さらにインフラの設計基準を「過去の気候経験」から「将来の気候シナリオ」へ移行させ、交通、電力、水利、通信、医療などの生命線に気候リスクを導入しようとしている。過去最大を基準に設計するだけでは、気候変動によって変化する極端な事象に対応できないからだ。
8月28日の政治局会議は、目前の捜索救助に加え、チベット高原の氷河・氷河湖資源調査を急ぎ、動態的監視と警報を強化し、災害連鎖リスクの識別能力を高めるよう指示した。上流・下流の監視、警報、応急対応を連動させ、危険地域の避難経路と避難場所を具体化することも要求された。高原・山岳・国境などの遠隔地で消防救援力を増強することも求めた。救援が終われば元に戻るのではなく、災害によって発見された制度的空白を、調査、予算、配置、法制度の変更へ結びつけようというのだ。
気象警報システムによる「事前予防」を南南協力で拡大
中国の気象早期警報システム「媽祖」(MAZU)は、人工知能予報、風雲気象衛星、現地レーダー、地上観測を統合し、「監視―予報―警報―対応」を構築する。気候災害の「事前予防」に繋がるこのシステムを、南南協力によりグローバル・サウスの各国に拡げようとしている。40カ国以上がクラウド上で試用し、パキスタン、エチオピア、ソロモン諸島、ヨルダン、スリランカ、モンゴル、ジブチの7カ国で現地版が運用されている。風雲衛星データは139カ国・地域へ提供されている。パキスタン版では、氷河湖決壊、季節風、豪雨、山洪水に対応する機能が現地の観測設備と統合されている。これは、グローバル・サウスの国々へ完成品を販売するだけの輸出モデルとは異なる。現地機関との共同開発、人材育成、データ共有、継続的な更新を組み合わせることで、受入国自身の主権と技術能力を高める可能性を持つ。
排出削減進める中国、気候危機と戦争を加速させる帝国主義
再生可能エネルギーは、将来の実験ではなく、米国を含め、世界の電力体系を変え始めている。中国は2030年までのCO2排出ピークアウト、2060年までのカーボンニュートラルを国家目標とし(「双炭素」政策)、エネルギー、産業、交通、建築、土地利用、炭素市場を含む政策体系を整備してきた。2025年の再生可能エネルギー発電量は3.99兆キロワット時、電力消費の38.5%に達した。2026年6月末の太陽光発電設備容量は12.72億キロワットであった。
その一方で米国は気候危機を加速させる動きを止めない。連邦政府の温室効果ガス排出データベースについて、トランプ政権は、約8000の対象施設の3分の2以上を報告義務から除外し、石油・ガス部門の報告を2034年まで遅らせる方向を打ち出した。
戦争によって排出される温室効果ガスについては包括的な集計は存在しない。それは1997年の京都議定書交渉で、米国防総省の要求により、軍事作戦の燃料使用が各国の排出目録から事実上除外されたからだ。2015年のCOPパリ会議後も軍事排出報告は自主的なものにとどまった。世界の軍事・軍需部門を総排出の3.3~7%とする研究もあるが正確な全体像はつかめない。戦争による排出は戦争準備から始まる。戦車、航空機、艦船が消費する燃料に限らない。森林・湿地の破壊は炭素吸収源を奪い、都市と住宅の破壊はガス漏れと火災を生み、石油・ガス施設への攻撃はCO2とメタンを大量放出し、復興はセメント、鉄鋼、輸送、エネルギーを必要とする。米・イスラエルによるガザへの破滅的な攻撃においても、多くの人命が失われ、大量の温室効果ガスが排出された。帝国主義による戦争行為を止めなければならない。気候危機を止めるためにも、高市政権を倒し、日本の戦争準備と軍国主義・軍事産業国家化を止めることは重要な課題である。
誰のために、何を、誰の管理で生産するのか
先進帝国主義国での物質・エネルギー消費を削減しなければ、途上国の鉱物、土地、労働力の収奪は減らない。その意味で、先進国における選択的脱成長は、気候正義と脱植民地化の条件である。しかし、途上国の人民に対し、医療、住宅、電力、公共交通、上下水道、教育、通信、災害対策の「成長」まで放棄させることはできない。縮小すべきは、軍需生産、プライベートジェット、豪華車、不動産・金融投機、広告による過剰消費、富裕層の高炭素生活である。拡大すべきは、人民の基本的必要と社会の再生産を支える公共部門である。「成長か脱成長か」ではない。何を、誰のために、どの資源を使い、誰の管理で生産するのかが問われなければならない。
植民地主義的収奪では、資源が外部資本の所有・支配下で輸出され、利益が国外へ移転される。現地住民は土地、水、健康を失い、低賃金労働と債務だけが残される。鉱山、油田、プランテーション、港湾、鉄道は、宗主国市場への輸出を目的に建設される。これに対し、主権的発展は、資源と主要生産手段を公共的に管理し、収入を教育、医療、住宅、電力、交通、食料主権、産業化へ再配分することを目指す。同じ鉱物やエネルギーを使用するからといって同一ではない。国家所有であれば自動的に人民的・生態学的になるわけでもない。国家企業が生産量と外貨収入だけを追求し、住民の土地利用権、労働者安全、生態系を軽視するならば、公共所有の潜在力は実現しない。
気候危機に立ち向かうために必要な転換は、主要エネルギー、交通、住宅、資源、金融を公共的に統制し、長期計画のもとで排出削減と人民生活向上を同時に進めることである。社会主義中国は、「双炭素」政策、気象技術の南南協力、災害の「事前予防」により、これらを着実に実行し、拡げているのである。
(SK)
