高市自民党の総選挙圧勝で、「スパイ防止関連法」は通常国会成立に向けた動き一気に加速することは確実だ。それは、対外情報機関の創設、「外国人代理人登録」制度導入を通じて、戦争を遂行する国家体制と治安弾圧体制を一体のものとして強行する危険な目論見である。国会情勢は厳しい。しかし、軍拡阻止と治安弾圧法阻止は、今国会最大の対決点の一つである。「戦争準備・武器生産・治安弾圧」に「平和友好・貧困撲滅・人権尊重」を対置して、運動と世論を拡大しよう。「スパイ防止関連法」を廃案に追い込もう。
高市政権は発足早々、米CIA等を参考にした対外情報機関の設置を含むインテリジェンス(情報収集・分析)機構の整備と戦争遂行に向かう治安弾圧体制の構築に向けて動き出した。それが、いわゆる「スパイ防止関連法」だ。同法は、戦争を遂行する国家体制づくりを目的とした現代版の「治安維持法」である。立法趣旨そのものが、日本国憲法の「国民主権、平和主義、基本的人権の尊重」を否定している。危険極まりない法律だ。
1月27日、自民党は、衆院選公約に同法関連の2点を掲げた。(1)国家インテリジェンス機能の抜本的強化。国家情報会議設置法(仮称)を早期に成立させ、官邸直属の国家情報局を創設する。
(2)対外情報機関の設置。また、他国からの「不当な介入」を阻止するため、外国代理人登録法等の関連法制を整える。この公約は、自民党「インテリジェンス戦略本部」方針と日本維新の会「インテリジェンス・スパイ防止法タスクフォース」の論点をすり合わせて作成した自民・維新の「連立政権合意」の内容そのものである。
一方、すでに昨年11月、野党2党が「防諜に関する施策の推進に関する法律案、特定秘密保護法・重要経済安全情報保護活用法の一部改正案」(参政党)、「インテリジェンスに係る態勢の整備の推進に関する法律案」(国民民主党)を提出している。衆院選前から、維新、国民、参政及び日本保守が「スパイ防止関連法」の策定をめぐって高市自民にすり寄り我も我もと主導権争いを繰り広げた。共産、社民、れいわは、反対を掲げた。しかし、「中道改革連合」は沈黙し、衆院選の争点から外した。信じがたいことである。

「スパイ防止関連法」の恐るべき内容と規模
第2次安倍政権以降、政府は堰を切ったように、「特定秘密保護法(2013年)、共謀罪法(2017年)、経済秘密保護法(2024年)、能動的サイバー法(2025年)等、国民を監視する憲法違反の悪法を次々と制定してきた。すでに2013年の「特定秘密保護法」により、廃案となった1985年の「国家秘密スパイ防止法案」の大半の目的は実現させられている。「保護法」は、「国家機密事項漏洩」の処罰対象を既遂行為だけでなく未遂行為、機密事項の探知・収集など予備行為から過失にまで広げている(ただし、世論の反発により、政府の違法行為の秘密指定を禁じ、「適性評価」においても政治的な信条や労働組合の活動歴などを調査してはならない等を盛り込んだ「運用基準」を勝ちとっている)。しかし、自維政権は、これだけでは戦争の遂行はできないと考えている。
自民党「インテリジェンス戦略本部」、「自維連立合意書」が掲げる「スパイ防止関連法」の主な内容が表1である。内容、成立までの性急さ、財政的・人的規模のいずれをとっても驚くべきものだ。
日本の国家安全保障会議(日本版NSC)と同格の「国家情報会議の設置」、「国家情報局とその統括責任者の創設」を今国会で成立させる。そして、「国家情報局」の下に「対外情報庁」を設置する法案を2027年年度内の国会で成立させる。「対外情報庁」とは、米国ではCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局・情報部門)など17におよぶ情報機関(IC)の巨大組織体(85万4000人)である(次㌻図1参照)。
これまでの「日本版IC」は、内閣官房(内閣情報調査室)、外務省(国際情統括官組織)と防衛省、警察庁(警備局)、公安調査庁による省庁横断の「合同情報会議」に留まっていた。「スパイ防止関連法」は、内閣官房にある内閣情報調査室(内調)を米国と同様の「国家情報局」に格上げし、さらにその下にある機関(米国ではCIA等)を統括する独立機関としての「対外情報庁」の設置、さらに表1の4にある「影響工作対策の推進」(工作員・エージェントによる公然・非公然活動、日本版スパイ)のための要員育成をも射程に入れたものである。
政治組織・軍事組織(防衛省、統合参謀本部等)・外交組織に加え、情報機関(国家情報局)と国内治安組織の権限と規模を拡大することによって、①司令塔機能の強化、②対外情報機関の設置、③防諜能力を強化し、「戦争が遂行できる」体制を大急ぎで構築しようとしているのだ。この危険極まりない法律の強行を断じて許してはならない。

現代版「治安維持法」=外国代理人登録法等関連法
連立政権が「速やかな法案策定・成立」をめざす「外国代理人登録法」「ロビー活動公開法」(表1の4)は、いずれも「国内でロビー活動や外国の宣伝活動を行う個人・団体の登録、活動内容の及び資金の出所等の報告」を義務化し、違反した場合にこれを「スパイ活動」とみなし重罰を科す法律である。この摘発はこれまでの警察組織だけではなく、国家情報局、対外情報庁要員による内偵調査を含む公然・非公然調査任務(影響工作対策・日本版スパイ活動)によって行われる。内偵は、政府・地方機関、報道機関、民間企業、教育機関等からさらに一般市民にも及ぶ。政府の戦争政策や弾圧政策に反対する言論活動や運動を「国益に反する宣伝」と当局が見なせば、「未登録の外国代理人(スパイ)」として監視、拘束、逮捕、処罰の対象となり得る。「監視」対象とされるだけで、報道、労働運動、市民運動の自由、表現の自由は萎縮させられる。
参政党の神谷宗幣代表は、「スパイ防止法」の目的を「極端な思想の人たちをあぶり出すため」と断言し、「治安維持法は共産主義者にとっては悪法だった」と戦前の「治安弾圧」を賞賛した。それは、不安定雇用と低賃金、物価高と生活困窮に対する政権政党と資本家・独占企業に向けられるべき不満や怒りの矛先を中国と日本在住の外国人に向かわせる意図的なプロパガンダでもある。
かつて、治安維持法は、天皇中心とする「国体」の変革または私有財産制度の否認を目的とする結社を処罰することを主旨としたが、二度の改正を経て、社会運動全体を封殺した。取り締まりの対象は一般市民に及んだ。さらに、天皇制軍国主義政府は、1899年制定の「軍機保護法」を対中国全面戦争に入った直後の1937年8月に全部改正し、軍事機密の対象範囲の拡大と機密漏洩の重罰化、戦争政策と戦争動員に対する国民の協力態勢の確立、抵抗と反発を撲滅し物言えぬ社会を作り上げた。高市も吉村も神谷も玉木も知らないはずはない。
戦争を支える「ちゃんとした日本人」にNO!を
1月28日の院内集会「スパイ防止法を考える市民と超党派の議員の勉強会」で、荻野冨士夫さん(小樽商科大学名誉教授)は、第1条の「国体」観念の組み込みこそが治安維持法の威力の震源であり、これが「スパイ防止法」にも組み込まれていることを強く批判した。治安維持法は、「国体」の不可侵性=「国体の維持は日本人の絶対的義務」(人生百科事典・常識読本1936年)をテコに、その恐れから沁みだしてくる「強制的道徳律」として、一般社会に「国体」変革の「不逞」性が植え付けられた。「思想犯」は法的責任が問われるだけではなく、全人格が否定される対象とされた。それが、社会運動全体を抑圧する間接的な機能においても威力を発揮したのだと語った。
1930年代後半には戦争遂行体制の障害となるものすべてが「不逞」分子=「非国民」として排除された。「法の暴力」が、さらに「立派な日本国民」「真の日本人たれ」という教育とプロパガンダ(全国防諜週間、『壁に耳あり』防諜標語等)によって浸透させられていった。荻野さんは、「日本国憲法により制度としての『国体』は崩壊しながらも、象徴天皇制として『国体の精華』の根は生き続けている」と言う。
現行の「社会秩序」「国際秩序」の変革を企図する者を排撃する「法の暴力」が、今の国家体制を維持するための「多数決」により正当化されようとしている。映画『教育と愛国』(2022年)で、育鵬社教科書の代表執筆者である伊藤隆東京大学名誉教授が斉加尚代監督に「育鵬社の教科書がめざすものは?」と問われ、「ちゃんとした日本人を作ること」と答え、さらに「ちゃんとした」の意味を「左翼ではない、昔からの伝統を引き継いできた日本人」だと答えたことを思い起こした。「国体」護持、侵略戦争、「スパイ防止関連法」は見事に一つにつながっている。しかし、敗戦後の闘いは、戦争遂行する「ちゃんとした日本人」の育成に抗い、これを押し返す力を育て培ってきた。「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンを今一度、声を大にして叫ばなければならぬ時が来た。
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