【解説】
米中・中ロ首脳会談の歴史的意義
米帝覇権の後退と
新たな多極化秩序の始動

 米中首脳会談(5月13~15日)と中ロ首脳会談(5月19~20日)は、二重の歴史的転換であった。米帝一極支配の時代は過去のものとなり、米中間の力関係が変わったこと、そして世界の経済・政治・外交がはっきりと北京を軸に動き始めたことを、二つの会談は明確に示した。

米中首脳会談――「建設的戦略的安定」とは何か

 米中両国は、「今後3年あるいはそれ以上の期間」にわたり「建設的で戦略的に安定した関係」に入ることで合意した。だがそれは、正式の条約でも和解でもなく、共同声明も発表されなかった。破局と戦争を避けるために相互に認めた枠の中にとどまる「管理された競争」であり、中国が一貫して掲げてきた平和共存路線の現代的な具体化である。これはアジア太平洋を対決から協調へと向かわせるデタント(緊張緩和)の始動だが、まだ盤石ではない。依然として台湾に対する武器売却の可能性をちらつかせている。しかし、個々の米中矛盾と、これまでのように一途対中戦争準備に向かうのとは違う。
 トランプがこの枠組みを受け入れざるをえなかった背景には、9年に及ぶ攻守の逆転がある。トランプは2期目就任以降、超高率追加関税、技術封鎖、輸出管理強化、半導体輸出制限、留学生ビザ制限、デカップリングなど次々と中国の屈服を狙う攻撃を繰り出してきた。だが145%の追加関税は中国を屈服させるどころか、コストの大半を米国の消費者に転嫁させた。半導体やAIへの技術封鎖は、かえって中国の自立化を加速させ、35項目の核心的ボトルネック技術のうち30項目が突破された。レアアースの輸出規制は米国を交渉の席へ引き戻す梃子となり、中国は制裁の域外適用を無効化する「阻断令」を初めて発動した。米連邦債務は39兆ドルに達し、利払いが軍事費を上回るなかで、対中関係の安定はトランプにとって財政上迫られたものでもあった。12名の企業トップを引き連れた訪中は、世界最大の中国市場を必要とする米国の衰退を象徴するものであった。
 米中間の「建設的戦略的安定」の試金石は台湾問題である。中国側は台湾問題が核心的なレッドラインであり、これを踏み外せば中米関係の安定はなく、「トゥキディデスの罠」に言及し「重大な危機」に陥る、つまり戦争を覚悟するのかと警告した。その場でトランプは何も返せなかった。米中の力関係が変わった瞬間だ。トランプは帰国の機中で台湾問題を問われて「その話はしない」とかわし、「台湾独立は見たくない」と繰り返し述べた。ヘグセス国防長官は沈黙を守り、140億ドル(2兆2千億円)の台湾向け武器売却は署名されぬまま机上に残された。米国の「戦略的曖昧さ」は浸食されたのだ。少なくとも11月の中間選挙までは、中国への協力拡大を演出せざるをえないトランプにとって、この枠組みは当面の基本路線とならざるをえない。

中ロ首脳会談――多極化秩序の制度的確立

 米中会談直後に北京で開かれた中ロ首脳会談は、米帝後退の中で、中ロ両国がいかに戦略的強化を進めるか、どのような国際秩序を築くのかを指し示した。プーチン大統領にとって25回目の訪中であり、戦略協力パートナーシップ樹立30周年、善隣友好協力条約署名25周年という節目に、両国は同条約の延長で一致した。25回に及ぶ首脳往来は世界でも例を見ない密度であり、中ロ関係が一時的な取引ではなく、制度として根を張った長期戦略であることを物語っている。
 中ロ関係の強靱さの本質は、完全な一致にあるのではなく、対立する領域が存在しない点にある。米中関係とは対照的に、中ロはエネルギー、宇宙、金融、ハイテクから人的交流まで、衝突要因のない協力を積み上げてきた。2026年1~4月の貿易額は852億ドル、前年同期比19.7%増に達し、その大半が自国通貨で決済され、脱ドル化が進んでいる。40件を超える協力文書には、中国の北斗とロシアのGLONASSの相互運用など、米国の技術封鎖の射程を超える戦略技術協力が含まれた。これは、グローバル・サウス諸国がAIや最先端技術で米国一国に依存しない技術の選択肢を得る物質的基盤である。
 両首脳が発表した二つの共同声明は、この会談の核心である。第1の「包括的戦略協力の強化に関する共同声明」は、両国関係を「非同盟・非対抗・第三国を標的にしない」と明示しつつ、核心的利益では強く支え合う関係を制度化した。基本原則は主権の相互尊重、内政不干渉、平等互恵、平和共存――平和共存五原則の現代的再定式化である。とりわけ重要なのは、ロシアが「台湾は中国の一部」との立場を改めて明示し、「日本の再軍備」を名指しで批判し、NATOのアジア太平洋進出、AUKUS、アジア版NATO、核共有、ミサイル配備への反対を明記したことだ。
 第2の「多極化と新型国際関係の提唱に関する共同声明」は、二国間関係を超えて世界秩序そのものを論じた点で、決定的に重要である。両国は、第二次世界大戦後の脱植民地化、冷戦の終結、グローバル・サウスの台頭こそが多極化の土台だと位置づけた。これは、民族解放闘争の歴史的遺産を国際秩序の中心に据えるものにほかならない。声明は、安保理常任理事国2国の公式文書として「新植民地主義」を名指しで批判し、「世界に唯一の発展の道はなく、上位の国家も民族も存在しない」と断じた。安全の不可分性を掲げ、主権国家に中立の放棄を強制してはならないとし、国連憲章を国際関係の根本規範として、少数国が作った「ルールに基づく秩序」がこれに取って代わることを拒否した。「いかなる文明も他より優越しない」として、人権を口実とした内政干渉にも反対した。
 これらは、長年グローバル・サウスが訴えてきた要求が、安保理常任理事国2国の公式声明として体系的に提示されたことを意味する。米中で覇権後退を管理する枠組みが設けられ、中ロでその後退が開く空間を埋める国際秩序の原則が示されたのである。

中ロ・イランの連携――イラン戦争のただ中で追い込まれる米帝

 今回の歴史的意義は、米中・中ロの二つの首脳会談だけでは捉えきれない。年初以来、欧州、アジア、アフリカ、グローバル・サウスの首脳や閣僚が相次いで北京を訪れている。この半年で、国連安保理の5つの常任理事国は、すべて北京を訪れた。5月だけでも、タジキスタン、米国、ロシア、パキスタン、セルビアの首脳・政府首脳が中国を訪問した。北京はいまや、米中関係、中ロ関係、中東危機、欧州の対中再接近、グローバル・サウス外交が交差する世界政治の結節点となっている。
 その中でも決定的に重要なのは、中国とロシア、そしてイランの3国の連携強化である。トランプは自ら仕掛けたイラン戦争で戦略的敗北を喫して窮地に陥り、中国の協力を求めて北京に乗り込んだ。だが中国は対イラン圧力要請を断固として拒んだ。会談に先立ち、イランのアラグチ外相が最高指導者の親書を携えて先回りし、核協議の帰趨にかかわらず中国との戦略的提携は揺るがないと伝えていた。
 中国・ロシア・イランは、軍事同盟でも同盟関係でもない。だが、今日の世界情勢を切り開いていく強力な3国間戦略関係が形成された歴史的意義は大きい。反帝国主義の立場で結ばれたこの連携の政治的・経済的な影響は大きい。中国はイランとサウジアラビアの国交回復を仲介した実績を踏まえ、習近平の中東和平4項目提案とパキスタンとの連携によって、対話と恒久停戦への道を進めている。中ロ共同声明は米・イスラエルの攻撃を国際法違反と厳しく批判し、停戦にとどまらず「紛争の根本原因の除去」を求めた。これは、米国の力づくの、あるいはNATOや日本など米同盟国を通じた「解決」とは根本的に異なる、国連憲章と国際法に基づく解決の道である。
 3国の連携は、トランプが描く「自らの成果としての戦争終結」を打ち砕き、米国の野放図な侵略行動を押し返す力となる。制裁を強めるほど各国が代替システムを築いている。ロシアは脱ドル貿易を加速し、イランは地域統合を広げ、中国は代替決済網とユーラシアの陸上連結網を強化してきた。米の戦争と制裁に耐え抜いたイランの果たす役割は、今後ますます大きなものとなるだろう。

日本の対中軍事戦略の崩壊――なぜ「はしごを外された」のか

 米中・中ロ首脳会談と歴史的転換は、日本の支配層に大きな衝撃を与えた。高市政権の対中軍事戦略は、米国が対中対決の前面に立ち、日本がその後ろ盾の下で最前線を担う、という前提の上に組み立てられていた。だが米中が「建設的戦略的安定」に入れば、その前提そのものが崩れる。台湾への無条件の軍事保証をトランプが事実上退けたことは、「2027年台湾有事」に政権の命運を賭けてきた高市の足元を直撃した。米中会談前にトランプと会おうとした試みは不発に終わり、事後の日米電話会談はわずか17分。日本は頭越しにされ、まさに「はしごを外された」のである。
 しかも中ロ共同声明が「日本の再軍備」を名指しで批判したことで、日本の孤立は安保理常任理事国2国の公式文書のレベルで刻印された。シャングリラ会議でも、中国代表は日本を名指しして批判する一方、米国とは「建設的戦略安定」を発展させたいと明言した。中国の戦略は一貫している。
 米中デタントは始まったばかりで、自動的に進むわけではない。戦略的根拠を失った高市政権は、追い詰められるほど対中対決を先鋭化させ、日比軍事同盟やSQUAD(日米豪比)の構築によって、いまやデタントの最大の妨害者として前面に出ている。この妨害をどう打ち破るかが、日本の反戦平和運動に問われている。

2026年6月9日
『コミュニスト・デモクラット』編集局

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