読者からの疑問に答えてマルクス主義「従属論」の不等価交換論とは?
~エマニュエルの不等価交換論について~

 われわれは、本紙前号から、帝国主義による途上国収奪の定量分析に関する国際的諸研究を紹介しているが、「不等価交換」概念が分かりにくいという疑問が読者から寄せられた。そこで、基本的な考え方を紹介したい。
 各国政府や世銀にある貿易統計は、「等価交換」を前提にしている。そして、ブルジョア経済学者は、貿易とは国家間の商品と貨幣の「等価交換」なのだから、そこに「不等価交換」が入る余地はないと強弁する。例えば、今年のノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル教授ら3人の研究は、「途上国が低開発なのは社会制度に原因がある」と言う。「経済発展と繁栄の根本原因は西洋式民主主義制度」であり、「中国は権威主義制度なので発展しない」と断言する。笑止千万、これでは、中国革命以来の、とりわけ改革開放以来の40年以上の経済成長も、西側経済が長期低成長にある現実も全く証明できない。
 第二次世界大戦後、途上諸国が政治的に独立しても、なぜ「低開発」のままなのか? そこには必ず「不等価交換」のからくりがあるはずだと、この根本問題に正面から挑戦したのが、マルクス主義「従属論」の研究者であった。その先駆者がアルジリ・エマニュエルである。その後、様々な論争や修正研究がなされるが、戦後の出発点がエマニュエルにあるのは間違いない。
 エマニュエルの優れた点は、マルクスが先進国と後進国の交易における不当労働量交換と搾取の作用を見出したわずかな指摘に着目し、マルクスの『資本論』第三部の生産価格論を、中心国(先進国)と周辺国(途上国)との間の不等価交換論、価値移転論に創造的に適用したことである。マルクスの生産価格論は、一国の異なる資本構成の間の剰余価値の移転による平均利潤形成と、高度に近代化された設備を有する有機的構成の高い資本が低い資本から剰余価値を移転させ、資本蓄積を急速に増大させていくことを証明した。これを有機的構成が高い産業を持つ先進国と、近代化の遅れた産業しかない途上国との関係に適用したのである。


 マルクスの生産価格論によれば、資本と労働力の産業間移動が自由で、利潤率と賃金率が産業間で均等化されるなら、商品の市場価格の基準となる「生産価格」は、費用価格、つまり生産費(c+v)プラス「平均利潤」(r:剰余価値mの社会的平均配分)となる。その場合、その商品に対象化される総価値(c+v+m)は、資本の有機的構成(c/v)が社会的平均より高い産業は低い産業より大きい。従って、利潤率を均等化する諸資本間の競争は、有機的構成の高い産業から低い産業へ剰余価値を移転させる。
 以下は、伊藤誠氏の論文から必要箇所を圧縮して引用し、表にまとめたものである。

*参考文献:「グローバリゼーションの時代における国際的不等価交換の意義」(伊藤誠)

不等価交換の第一形態~有機的構成の低い途上国から高い先進国への価値移転

 では、エマニュエルは、前記のマルクスの生産価格論をどのように適用したのかを考えてみよう。エマニュエルの不等価交換には二つの形態がある、まず第一形態から。
 中心国Aと周辺国Bは、それぞれ異なる商品の生産に特化し、相互にその商品を貿易を通じて交換する。その際、中心国では資本の有機的構成が高い産業が発展し、労働力は両国間を移動しないが、資本は高い利潤を追求して自由に国際資本移動をするとする。その結果、諸国間に利潤率の均等化傾向が生じる。つまり国際貿易関係を通じて生産価格が形成され、中心国と周辺国の間に「不等価交換の第一形態」が成立する。
 仮に剰余価値率(m’=m/v)がA国、B国ともに100%で同じとすれば、例えば、《表1》のようになる。
――不変資本(c)は1年間の「消費不変資本」とし、資本は年1回転するものとし、中心国Aの産業が(80+20)の資本構成を持ち、年間に総価値V:80c+20v+20m=120の価値の生産を行い、周辺国Bの産業が(20+80)の資本構成を持ち、年間に総価値V:20c+80v+80m=180の価値の生産を行う。
――次に、国際的な資本の自由競争により、平均利潤率50%が成立し(平均利潤率r=両国のm合計/両国の費用価格R合計=100/200=50%)、それぞれの商品が価値形態としては等しい150の「生産価格」で交易されるとする。しかし、その背後で、中心国A国の総価値V120と周辺国Bの総価値V180の不等労働量交換が、表向き(公式統計上)は、国際的な「生産価格」の等価交換として交易される。
――つまり周辺国BのV180と生産価格150の差額30の剰余価値がA国に移転される。この30が不等価交換、収奪額となる。

不等価交換の第二形態~第一形態に高い賃金率と高い剰余価値率を加味する

 だが実際には、中心国と周辺国との間には、賃金率と剰余価値率にも大きな格差がある。これを第一形態に加味したのがエマニュエルの「不等価交換の第二形態」である。例えば、《表2》のようになる。
――中心国Aの産業が、有機的構成に加えて、賃金率や、機械化水準の高さから来る労働の強度も高いとすれば、例えば、A国の産業の剰余価値率が20%、B国の産業の剰余価値率が500%とする。A国の総価値Vは80c+20v+4m=104、B国の総価値Vは20c+80v+400m=500となる。
――次に、資本の国際競争によって、両国の間で利潤率が均等化され、平均利潤率r=両国のm合計/両国の費用価格R合計=404/200=202%、国際的な生産価格は費用価格100に202の平均利潤を加えて、302で交易される。
――つまり、国際的に、A国でもB国でも302で販売される商品交換を通じて、その裏で、総価値104と500の大幅な不当労働量交換が行われ、周辺国BのV500と生産価格302の差額198の剰余価値が中心国Aにが移転される。これが実際により近い不等価交換、先進帝国主義による新興・途上諸国に対する価値収奪である。

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