「日米共同統合演習キーン・ソード25」が10月23日から11月1日にわたって行われた。同演習は、陸海空自衛隊人員約3万3千人、艦艇約30隻、航空機約250機と米人員約1万2千人、艦艇約10隻、航空機約120機が参加する過去最大規模の日米共同演習だ。演習は、沖縄・南西諸島を含む全国の23の都道府県にある米軍基地・自衛隊基地と「特定利用・港湾」に指定された28施設のうちの11施設を含む全国36ヶ所の民間港湾、空港を使って実施された。日米だけでなく豪軍とカナダ軍も加わる多国間演習で、英、仏、独、印、伊、リトアニア、オランダ、ニュージーランド、フィリピン、韓国、スペイン及びNATOがオブザーバー参加した。また、9月2日から11月下旬に3年ぶりに実施された陸自隊員の8割、10万人を動員する「令和6年度陸上自衛隊演習」と連携して実施された。
米軍が指揮し自衛隊を組み込む対中国戦争の予行演習
「キーン・ソード25」は、①日本全土と周辺海空域を舞台に、②米軍の指揮統制下で一体となり、③実際の対中戦争を想定して陸海空の自衛隊三軍の総力と米軍の陸軍・空軍・海軍・海兵隊・宇宙軍が揃って参加した大規模な戦争の予行演習だった。中国に対する軍事的威嚇、挑発以外のなにものでもない。「キーン・ソード25」は対中戦争を実際に想定し、12月にも制定するといわれる「台湾有事版日米共同作戦計画」のシナリオを先取りして米軍と全自衛隊を動員する実働演習だった。そのシナリオは中国に対する台湾や沖縄・南西諸島を戦場にする海洋限定(通常)戦争だ。台湾海峡および東シナ海、南シナ海など中国近海で攻撃を仕掛けて、中国海軍の壊滅と沿岸部戦力に大打撃を与え、中国を屈服させようとするものだ。「台湾有事」や「尖閣有事」は戦争を始めるためのきっかけに過ぎない。どんな口実を作ってでも米は戦争に持ち込みたいと思っている。
しかし、米軍が想定するように海洋限定の通常戦争にとどまる保証はどこにもない。全面戦争に、さらには核戦争に拡大する可能性が大きい。仮にこの想定に限定されても、日米が中国海軍と中国沿岸部に攻撃を仕掛ければ、当然日米の部隊の展開する南西諸島、九州、日本全土が報復攻撃の対象になる。「キーン・ソード25」は、日本が戦争の被害を一手に引き受け、大打撃をうけるという常軌を逸した戦争の演習だ。自衛隊員だけでなく日中両国の多くの住民が再び戦争の惨禍を被ることになる。中国との緊張をエスカレートさせ自滅を引き寄せる戦争の準備ではなく、中国との真剣な対話=平和共存外交こそ必要だ。
対中軍事演習の画期をなすキーン・ソード25の特徴
今回の「キーン・ソード25」は、以下の特徴をもつ画期をなす軍事演習だった。第1に、日米指揮権統合の先行的実施だ。実施された主要部隊司令部における指揮所活動訓練は本年度内に発足する「自衛隊統合作戦司令部」と在日米軍司令部の再編で、米軍の指揮下に自衛隊の全部隊を組み込み指揮統制の一体化を先取りするものだ。第2に、米軍の指揮下で自衛隊のほぼ全部隊を動員することにより日米が一体となって対中戦争体制を実際に構築し、「日米共同作戦計画」のシナリオに沿って軍事作戦を行う予行演習をするものだ。そのために初めて大規模な陸上自衛隊演習との連携と統合が行われた。10万に及ぶ自衛隊員を実際に動かして戦争前夜の配置体制につかせたのだ。
陸上自衛隊演習では全国から部隊を九州・南西諸島に機動展開させ、いわば対中開戦に向けて陣地に配備する予行をした。東シナ海や台湾海峡での戦闘を想定して航空自衛隊、海上自衛隊は北海道・東北沖の日本海、青森・三沢沖、四国沖、沖縄東方の太平洋の4つの海空域で対空、対艦戦闘訓練を行い、呉、岩国を始め全国の日米の基地から艦船、航空機を出撃させた。南西諸島や奄美からミサイルを撃つ想定で、北海道では米軍のハイマースと自衛隊の多連装ロケットシステムの共同の実弾射撃訓練を実施した。さらに、宇宙、サイバー、電子戦の「領域横断作戦」やドローンの使用など実戦で使われている最新の軍事技術の訓練が組み込まれた。
全国の日米の基地でゲリラから基地を守る訓練が繰り広げられた。神奈川の米軍基地、自衛隊基地では自衛隊だけでなく米海軍、豪空軍、カナダ海軍が参加してゲリラによる基地攻撃を想定した共同基地等警備が実施された。京都(経ヶ岬米軍Xバンドレーダー基地)でも経ヶ岬の空自部隊や福知山の陸自部隊だけでなく、宇治、今津、八尾、姫路などの陸自部隊も参加して大規模な「日米共同基地警備訓練」を行った。九州と南西諸島は最前線となり激しい戦闘を想定して演習が繰り広げられた。鹿児島県では奄美大島の奄美駐屯地、瀬戸内分屯地はもちろん、基地のない徳之島の海岸、漁港、運動公園などを使って陸上作戦(対着上陸訓練、水陸両用作戦)が実施された。九州各県の航空自衛隊は四国沖の対空、対艦戦闘訓練に参加した。大分県の日出生台演習場では航空自衛隊の輸送機からの空挺部隊の降下訓練が行われた。佐賀県では、陸上自衛隊の部隊が玄海原子力発電所に展開した。
北部、東北方面隊のミサイル部隊が南西諸島に展開
与那国島で陸自オスプレイ破損事故
キーン・ソード演習の第3の特徴は日米のミサイルと航空機による対艦戦闘を全面に押し出したことだ。沖縄・南西諸島はそのための展開拠点と戦場として使われた。戦争計画に従って北海道や青森のミサイル部隊、大量の兵員と装備が運び込まれた。常駐のミサイル部隊とともに送り込まれた日米のミサイル部隊は南西諸島を盾に東シナ海の中国艦隊への戦闘、太平洋にいる米空母部隊の防波堤の役割で演習した。海兵隊は遠征前進基地構想(EABO)に基づき、奄美、石垣には高機動ロケット砲ハイマースを持ち込み、自衛隊がそれを支援した。現状では日本側の対艦ミサイルは射程200キロの地対艦ミサイルだ(米軍は艦載のトマホークを持つ)。しかし、来年度から射程1000㎞のミサイル配備、さらには射程1600㎞のトマホーク(艦載)配備が始まる。これらのミサイル配備が始まれば、自衛隊は中国本土を攻撃できる武器を持つようになり、米軍の先兵として対中攻撃の先頭に立つことになる。九州や南西諸島は対中攻撃基地になる。今回のキーン・ソードは現有兵器に基づくものと考えられるが、その性格は長射程ミサイル配備の瞬間にさらに攻撃的、侵略的なものへと代わる。
第4に、キーン・ソードは民間空港・港湾の軍事利用をさらに拡大した。沖縄県知事が自粛を求めた民間空港(3カ所)民間港湾(5カ所)が演習で使用され、那覇基地を陸自オスプレイが、与那国島を陸自と米海兵隊のオスプレイが使用した。与那国島では陸自オスプレイが離陸時に機体破損事故を起こした。政府は自衛隊の基地が被弾して使用不能になった時への対応だとして多数の民間空港、民間港湾を演習で使用した。それは平時から自衛隊と米軍が大手を振って民間空港・港湾を利用することに道を開き、有事には攻撃対象となることを意味する。
沖縄であがる抗議の声
演習の中で対中戦争での実戦の想定がますます強まり、戦争体制へあらゆるものが引きずり込まれていく。しかし、演習が実際の戦争に転化したときの状況は取り上げられない。野戦病院の設置や負傷者の沖縄本島病院への移送訓練などは行われた。しかし戦争になれば京都祝園や大分・敷戸で大型弾薬庫は一番先にたたかれる。爆発したとき周辺に住む住民をどうするのか。全国の自衛隊基地、空港・港湾、公共インフラが攻撃される場合も人々の命をどう守るのか。守ることなどできないのだ。リアルに戦争の予行演習をすればするほど、戦争の危険と住民の命の危険は大きくなる。戦争に備えることなどできない。周辺国、特に中国と平和共存し、協力していくしか日本が平和に発展できる道はない。
戦争への危機感を強める沖縄では次々と演習中止を求める声が上げられた。10月16日「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」「沖縄平和市民連絡会」など県内外の19団体は「キーソード25の中止を求める共同声明」を発表した。ミサイル配備から命を守るうるま市民の会が呼び掛けた10月19日の「『キーン・ソード25』に中城湾港・公道を使うな!緊急行動」には140人の市民が集まり抗議の声をあげた(本紙19㌻参照)。宮古島と石垣島でも市民団体による抗議の行動が行われた。10月28日、全港湾沖縄地方本部は、那覇新港ふ頭で抗議集会行い、500人の港湾労働者が「港を軍事利用させない」と抗議の声をあげた。玉城デニー沖縄県知事は「有事をあおって過重な配備が行われるのは到底納得できない。県側に何の情報もない」と批判した。また、演習中の陸自オスプレイの事故について人的操作ミスとする調査結果を発表し運用再開を決めた防衛省に対して、「欠陥機オスプレイの配備撤回」を強く求めた。
(YN)