はじめに
現代帝国主義研究の1回目は、ビジェイ・プラシャドらトリコンチネンタル社会調査研究所の『ハイパー帝国主義』を紹介した。2回目は、中国の理論家、チェン・エンフー(程恩富、Cheng Enfu)およびルー・バオリン(Lu Baolin)の『新帝国主義の五つの諸特徴~レーニンの帝国主義理論を二十一世紀に発展させる』を上下2回にわたり紹介する。2019年7月に初めて発表され、その後、時代の変化を踏まえて加筆された複数の版がある。以下の紹介は、独立系社会主義雑誌『マンスリーレビュー』に掲載された2021年5月改訂版に基づくものである。ただし、章・節編成や小見出しは、United World International版『新帝国主義の五大特徴について:レーニンの帝国主義理論を基礎として』のものを採用した。
チェン・エンフーは、中国を代表するマルクス主義経済学者の一人で、中国社会科学院マルクス主義アカデミーの元院長である。また、世界政治経済学会会長。世界政治経済評論の編集長、世界マルクス主義評論の編集長を兼ね、国際的なマルクス主義理論界でも活躍されている。ルー・バオリン氏は、曲阜師範大学経済学部教授である。
論文の副題は、「レーニンの帝国主義理論を21世紀に発展させる」である。ここに著者の狙いが込められている。左翼・共産主義者の間で、本で学んだレーニンの『帝国主義論』から「5つの標識」、中でも「独占」規定だけを抜き出し、現代帝国主義に外面的・機械的に当てはめるやり方が流行っている(帝国主義ピラミッド論、中国帝国主義論、ロシア帝国主義論など)。大企業、大資本家、大富豪が存在すれば、全部「独占だ」「帝国主義だ」と騒ぎ立てる。それは階級的に何を意味するのか? 米帝国主義や日本を含むG7帝国主義の脅威と危険を相対化し過小評価すること、逆に中国やBRICSを帝国主義と糾弾すること、それによって人類と平和の真の敵、その侵略性・残虐性および収奪性を否定し免罪することである。
21世紀の今日では、どんなに後れた途上諸国でも、ましてや新興途上諸国には個々の独占資本や大富豪が存在する。しかし、マルクス主義の政治経済学と史的唯物論は、対象国の生産様式を決定する際、ウクラード構成の全面的な分析を不可欠とする。前資本主義ウクラードが大きな割合を占める場合は、なおさら必要だ。その観点からすれば、独占資本主義ウクラードが支配的な段階に至るまでに資本主義が発達した国はG7を中心とする西側帝国主義に限られる。しかも新興・途上諸国の独占資本や大富豪の殆どは政治的にも経済的にも独立してはいない。米欧日のG7帝国主義とそのグローバル金融資本による途上国収奪の手下・代理人として働いているのである。いわば「買弁ブルジョアジー」だ。だからこそ、100年前のレーニンの時代の独占資本主義と植民地主義支配の構造が、現代の最新の独占資本主義と新植民地主義支配の構造とは、何が、どう違うのか、それをレーニンの「標識」からではなく、現実の諸事実や統計から解明する必要があるのである。それがマルクス主義者の役割なのである。
われわれは、レーニンが『帝国主義論』を、世界資本主義が自由主義資本主義から独占資本主義へ移行した100年前の膨大な新聞・諸資料・諸文献から収拾した諸事実に基づいて、マルクスの『資本論』を導きの糸として書き上げたことを知っている(『帝国主義論ノート』)。われわれも同じように、レーニンの『帝国主義論』を導きの糸としながら、このチェン・エンフーやプラシャドらの研究を参考にしつつ、あくまでも最新の新帝国主義、現代独占資本主義の実体と構造を新しい事実に基づいて解明しなければならない。
(編集局)
*『Five Characteristics of Neoimperialism Building on
Lenin’s Theory of Imperialism in the Twenty-FirstCentury』by Cheng Enfu and Lu Baolin
https://monthlyreview.org/2021/05/01/five-characteristics-of-neoimperialism/
*『On the Five Characteristics of Neo-imperialism:Based on Lenin’s Theory of Imperialism』
On the Five Characteristics of Neo-imperialism: Based on Lenin’s Theory of Imperialism (Pt. 1/2) – United World Internationa
On the Five Characteristics of Neo-imperialism: Based on Lenin’s Theory of Imperialism (Pt. 2/2) – United World International
[1]新自由主義的グローバル化時代の決定的意義
(1)チェン・エンフーらの「新帝国主義」とは?
まず、著者らは、分析対象となる「新帝国主義」(Neoimperialism)を、「独占資本主義の経済のグローバル化と金融化を特徴とする歴史的発展の特定の現代的段階である」と規定する。では、その段階は、どのような段階を経てきたか?3つの段階を示す。
――第1段階は、「20世紀初頭、資本主義は自由競争の段階から、レーニンが帝国主義の段階と呼んだ私的独占の段階」。この段階では、「不均等な経済的・政治的発展の法則をもたらし…海外への拡大と世界の領土再分割とのために、列強は様々な同盟を形成して激烈に闘い、二度の世界大戦を引き起こした」
――第2段階は、第二次世界大戦後の米ソ冷戦、体制間対立の時代である。この時代には、「多数の経済的に後進的な国々が次々と社会主義の道を歩み始め、資本主義と社会主義の対立は強まった」が、社会主義への移行は後進国に限られた。著者らはこう指摘する。「マルクスとエンゲルスは『共産党宣言』で、資本主義は必然的に社会主義に取って代わられると予想したが、これはほんの少数の国々で可能であったにすぎなかった」
――第3段階は、1980年代以降の新自由主義的グローバル化の時代だ。著者らは、この段階が、それまでの段階とは全く異なる特徴を有する新しい段階と規定する。そして「延命の時代」「延命の段階」とする。曰く、「資本主義と帝国主義のシステムは、重大な問題に苦しんだけれども生き延びた(despite suffering grave problems, survived)。特に1980年代から1990年代初頭にかけて、資本主義は新自由主義政策への戦略的転換を実行し、新帝国主義の段階へと進化した。これは冷戦に続く帝国主義の発展の新段階を表している」。これを「後期帝国主義」(late imperialism)とも呼ぶ。そして、なぜ、どのようにして生き延びたのか、その諸原因、諸特徴を解明する。それが本論文の主な内容である「5つの主要な特徴」、すなわち、(1)生産と流通の新たな独占、(2)金融資本の新たな独占、(3)米ドルと知的財産の独占、(4)国際寡頭制連合の新たな独占、(5)経済的本質と一般的傾向である。
(2)プラシャドらの「ハイパー帝国主義」論文との違いは?
チェン・エンフーらの「新帝国主義段階」は、「1980年代以降の新自由主義的グローバル化」を時代規定の中心軸に据えて展開する。これに対し、前回紹介したプラシャドらの論文の「ハイパー帝国主義段階」は、新自由主義的グローバル化の諸矛盾が爆発する2008~2023年の直近段階を軸に論を展開する。
この違いは、発表の時期が関係していると思われる。チェン・エンフーらの初稿は2019年で、2016年のイギリスのブレグジット国民投票、2018年のトランプ政権誕生の直後だ。これに対して、プラシャドらの論文は2024年1月発表である。チェン・エンフーが新自由主義的グローバル化時代そのものの内実・構造を暴いたとすれば、プラシャドらはその諸矛盾が爆発する時代を包括的に描くことに重点があった。ウクライナ「代理戦争」、ガザ大虐殺戦争が長期化し、米帝主導の西側帝国主義が対中戦争準備を加速しつつあった。この両論文の発表時期の差の5年間に、一方で多くの帝国主義戦争が起こり、他方で社会主義中国が主導するグローバル・サウスの台頭と、米帝主導の5大覇権の崩壊という社会体制間の優劣と対比が鮮明に現れた時代であった。
われわれがチェン・エンフーらから引き出すべき最重要の結論は、1980年代以降の新自由主義的グローバル化時代に着目したこと、この段階において独占資本主義の構造・形態が質的に大きく変質・変容したことである。前述した「新帝国主義」の規定の際に「経済のグローバル化と金融化」と簡単に規定したが、それを「4つの新たな独占」と「経済的本質と一般的傾向」を含む5つの特徴を挙げて詳細に分析する。われわれも折に触れて「グローバル・バリューチェーン」(GVC)を論じてきたが、氏の全面分析に到底及ばない。この時代、この段階の意義を過小評価してはならないと考える。確かに今日の帝国主義の最新段階の爆発的諸矛盾を生み出し準備したのは、この「新自由主義的グローバル化時代」なのである。今回紹介するチェン・エンフーに学び、改めて帝国主義の段階規定と構造を解明し直す必要がある。
[2]新帝国主義の五つの諸特徴
(1)新帝国主義(新独占資本主義)段階の実体と構造
本論文は、目次にあるように、5つの章からなるが、内容的には大きく2つの部分からなる。第Ⅰ章から第Ⅳ章までは新帝国主義の実体と構造の詳細分析、第Ⅴ章は新帝国主義の歴史的位置づけである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目次
Ⅰ 生産と流通の新しい独占
1.多国籍企業数の世界的増加、生産・流通の高度な社会化・国際化
2.多国籍独占資本の蓄積の増大、多国籍企業帝国の形成
3.多国籍企業の特定産業の独占、国際生産ネットワークの管理
Ⅱ 金融資本の新たな独占
1.少数の金融機関による世界経済の大動脈の支配
2.金融独占資本のグローバル化
3.生産から投機的金融へ
Ⅲ 米ドルと知的財産の独占
1.「資本‐労働」関係:グローバル・バリューチェーンとグローバル労働裁定
2.「資本-資本」関係:独占・金融資本と多国籍企業の支配
3.「国家‐資本」関係:新帝国主義と新自由主義国家
4.「国家‐国家」関係:米ドル覇権、知的財産権、及び世界の富の略奪
Ⅳ 国際寡頭制連合の新たな独占
1.帝国主義的資本主義のコアとしてのG7
2.NATOと国際独占資本主義の軍事的・政治的同盟
3.西洋の「普遍的価値」に支配された文化覇権
Ⅴ 経済的本質と一般的傾向
1.新帝国主義は新しい型の独占的で略奪的な資本主義
2.新帝国主義は新しい型の覇権主義的で詐欺的な資本主義
(1)経済的覇権主義と詐欺行為
(2)政治的覇権主義と詐欺行為
(3)文化的覇権主義と詐欺行為
(4)軍事的覇権主義と詐欺行為
3.新帝国主義は新しい型の寄生的で腐朽しつつある資本主義
4.新帝国主義は新しい型の過渡的で死滅しつつある資本主義
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(2)新帝国主義構造の核心~現代多国籍企業
①「多国籍企業」の最新形態~グローバル・バリューチェーン
第Ⅰ章「生産と流通の新しい独占」は「多国籍企業」(multinational companies)の最新形態の解明である。現代多国籍企業論を解明せずに現代帝国主義は理解できない。本論文はこのことを教えてくれる。
1980年代以降の新自由主義的グローバル化時代の国際独占構造は、20世紀前後のレーニン時代の構造とは大きく異なる。レーニンが『帝国主義論』で指摘したように、列強の個々の電機・石油・鉄鋼・亜鉛独占体が一国内で生産から流通まで支配し、世界市場を占有するためにカルテルやトラストやシンジケートを形成するのではない。
多国籍企業とグローバル・バリューチェーン(GVC)がキー概念となる。1980年代以降の多国籍企業は、米欧日を中心とするG7帝国主義に本社を置き、傘下に先進国と途上国をまたぐGVCネットワークを通じて膨大な企業群を抱え、資源・原材料と中間製品の調達から生産、流通、販売に至るまでの全過程が細かく分割され、「グローバルに再配置されている」。この「インプットとアウトプットの取引は、多国籍企業の子会社、契約パートナー、サプライヤーのグローバルな生産・サービスネットワークで行われている。統計によると、世界貿易の約60%は中間製品とサービスの交換で構成され、その80%は多国籍企業を介して達成されている」。この最新の多国籍企業は、1950~60年代の単純な工場移転だけのものとは質的に異なる。
*注:日本でも高度成長期から1980年代までは、6大金融グループ(三井、三菱、住友、第一勧銀、三和、芙蓉)の6つのメインバンクを頂点として金融・商社・自動車・電機・繊維など企業集団を系列化し、日本国内での競争と独占支配を行っていた。輸出もこの系列毎に激しい競争をした。これを「フルセット産業構造」という。バブル崩壊後の1990年代以降、この「フルセット産業構造」が大きく崩れ、米欧と同様のGVC構造に変わる。
②現代多国籍企業の3つの特徴
筆者は、こうした現代多国籍企業の3つの特徴を挙げる。まず第1に、「多国籍企業の世界的増加、生産・流通の高度な社会化・国際化」だ。筆者は主張する。「多国籍企業は国際投資・生産の主要なチャンネルであり、国際経済活動の中核的組織者であり、世界経済成長のエンジンである」。「資本のグローバル化」を通じて、「生産と資本の集中がかつてなく大きなレベルに達し」「今や何万もの多国籍企業がすべてを支配している」。「世界の隅から隅まで、国や地域の圧倒的多数は、これらの巨大企業によって創出された国内生産・貿易ネットワークに統合されている。世界中に分布する何千もの企業が グローバル生産チェーンシステム内の価値創造の結節点を構成している」。まさに「生産・流通の高度な社会化・国際化」だ。
第2に、「多国籍独占資本の蓄積の増大」を通じた「多国籍企業帝国の形成」である。筆者は、幾つかの多国籍企業の売上げ規模は幾つかの先進国の経済さえ上回ると言う。2009年のトヨタの年間販売額はイスラエルのGDPを、2017年のウォルマートの総売上げはベルギーのGDPを上回った。「世界の100大経済のうち、国は30%未満で、企業は70%以上を占めた」。まさに「多国籍企業帝国」である。
第3に、「多国籍企業の特定産業の独占」である。筆者は、若干の例を挙げている。CPU市場は、インテルとADMで独占。世界の種子・農薬市場は6つの多国籍企業(BASF、バイエル、ダウ、デュポン、モンサント、シンジェンタ)で独占。医療機器メーカー25社の売上高は、全世界の60%以上を独占。医薬品・関連医療製品の47%を多国籍企業10社が独占。世界の大豆を5つの多国籍企業(モンサント、ADM、ブンジ、カーギル、ルイ・ドレフュス)が独占、等々。
われわれは、これに4つ目の特徴を挙げたい。それは、筆者も言うように、GVCの頂点に立つ多国籍企業の本社がG7帝国主義に「地理的に集中している」ことである。著者は指摘する。「膨大な利益が資本主義先進国の一部の国に流れている…これらの多国籍独占企業の親会社は、地理的に集中したままである。2017年、世界の上位500社の内、米国、日本、ドイツ、フランス、英国の企業がその半分を占めた。多国籍企業の上位100社のうち、約3分の2がこれらの国の企業である」と。
(3)「金融独占資本」が「世界経済の大動脈」を支配
①1970年代の経済恐慌~独占資本のグローバル化と金融化の出発点
第Ⅱ章「金融資本の新たな独占」は、金融資本の最新形態の解明である。現代金融資本は、レーニンがヒルファディングの研究に基づいて規定した金融資本の概念を構築した100年前のものから大きく変容した。筆者は、現代金融資本形成の経済的基礎を、新自由主義的グローバル化を加速した1970年代の「スタグフレーション」と利潤率の低下にあるとする。「1970年代の西側の景気後退は、独占資本のグローバル化の触媒として働いただけでなく、産業資本の金融化のための出発点でもあった。それ以来、独占資本は、一国的独占から国際的独占へ、産業界の独占から金融界の独占への転換を加速させてきた」。従って「資本主義のグローバル化と金融化は、互いに触媒作用し、支え合い、そうして独占資本が実体経済を捨てて仮想(バーチャル)経済に走り実体経済の空洞化を加速させた」(accelerating the “virtualization“ of monopoly capital and the hollowing out of the real economy)。
②「金融独占資本」による実体経済の空洞化とバーチャル経済
筆者は、現代金融資本=「金融独占資本」(financial monopoly capital)が新自由主義的グローバル化時代に「世界経済生活において決定的な役割を果たし、経済の金融化を生み出した」として3つの特徴を挙げる。
第1に、「少数の金融機関による世界経済の大動脈の支配」である。第Ⅰ章で論じた産業部門の多国籍企業の大多数を「合併、参加、株式保有などを通じて」支配するのが、「金融独占資本」なのである。「比較的少数の多国籍銀行が世界経済全体を効果的に支配している」。「上位737の多国籍企業が世界の総生産の80%を支配し」、「147の多国籍企業で構成されるコアが経済的価値のほぼ40%を支配し、さらに147社のうちの約4分の3が金融仲介業者である」
第2に、「金融独占資本のグローバル化」だ。ここで筆者は、金融独占資本の富の収奪の源泉を途上国収奪だと分析する。「国際金融投資大手は、発展途上国の脆弱な金融防壁を攻撃し、これらの国々が何十年にもわたって蓄積してきた資産を略奪する」。「それは、『中心』地域が発展途上の『周辺』地域の資源と剰余価値を略奪するメカニズムを構築したことを意味する。金融資本は、少数の国際金融寡頭制の手に集中され、実際の独占権力で武装し、外国投資、新規事業、国境を越えたM&Aなどを通じて、ますます増大する独占利潤を獲得した。金融資本は世界中から貢物を継続的に徴収することで、金融寡頭制の支配を打ち固める」
第3に、「生産から投機的金融へ」。金融資本の拡大・繁栄と実体経済の空洞化は不可分である。「過去30年間、…生産的投資の機会がないため、今や金融取引は実体経済との関係がますます減少してきた。余剰となった資本は投機的な計画に振り向けられ、バーチャル経済における架空の資産量が膨れ上がる。これらの発展に合わせて、大企業のキャッシュ・フローは固定資本投資から金融投資へと大きくシフトし、ますます多くの企業利益が金融活動から得られている。1982年から1990年の間、民間実体経済の工場や設備に投資されていた金額のほぼ4分の1が、金融、保険、不動産セクターにシフトされた」。「金融セクターは非金融セクター内の剰余価値の配分も支配し」「実体経済の停滞と縮小は、バーチャル経済の過度の発展と共存している」
(「下」に続く)
