防衛省は8月29日、来年度(2026年度)の軍事費を過去最大の8兆8454億円(前年度概算要求比3.6%増)とする概算要求を発表した。しかし、予算増はこれだけにとどまらない。概算要求にはSACO関連費、米軍再編関係費のうち地元負担分、稼働数工場、弾薬確保経費の一部が「事項要求」とされ計上されていない。これだけで本予算は2000億円程度増える。今年は人的基盤強化の経費の一部も「事項要求」に加えられた。12月の政府予算案の段階で9兆円を超えるのは確実だ。さらに23、24年度と同様なら、今年度(25年度)も補正予算で5千億円程度が追加される可能性が大きく、来年度も同様だ。補正予算だけで2年間で1兆円増える。防衛省の発表でも「5年間で43.5兆円」(契約ベース)規模のうち、すでに35兆5千億円以上が使われており、残りは8兆円しかない。最終年度は9兆円をはるかに超えるだろうから、このままでは2兆円以上の支出超過が前提だ。初めから43・5兆円を守るつもりなどないのだ。GDP比2%でこれだから、さらに米国の要求通り5%になればとんでもない軍事費増となることが予想される。
長射程ミサイルの開発・量産・配備の加速


防衛省は、概算要求の発表と同じ日に複数の長射程ミサイルの配備計画を発表した。地上発射型の12式地対艦ミサイル能力向上型(射程1000km)の最初の配備先として熊本健軍駐屯地の第5ミサイル連隊へ今年度内の配備を公式に発表した。27年度に静岡県富士駐屯地の特科教導隊にも配備する。同ミサイルの「艦上発射(艦発)型」は護衛艦「てるづき」を改造し、「空中発射(空発)型」はF2戦闘機を改造して27年度から運用開始する。どちらも当初28年度以降の計画の27年度への前倒しだ。さらに高速で変則軌道を描いて飛ぶ、「島嶼防衛用高速滑空弾」早期配備型(射程500~900km)の配備にも着手。当初の計画を1年前倒しして、今年度中に富士駐屯地の特科教導隊に配備した上で、27年度に上富良野駐屯地(北海道上富良野町)と、えびの駐屯地(宮崎県えびの市)に配備する。「島嶼防衛用高速滑空弾」は最終的に2000kmから3000kmに延伸され事実上の中距離弾道弾になるから北海道にも発射基地を置く計画だ。中国を狙う長射程ミサイルの本土への早期の分散配備により中国への軍事的圧力を強めるつもりだ。日本列島全体が中国への攻撃拠点になろうとしている。来年度概算要求では、7つの重点項目のうち長射程ミサイル(「スタンド・オフ・ミサイル防衛力」)の取得のための予算に1兆246億円を計上。射程や速度、飛翔様態、発射プラットフォームが異なる7つのミサイルの開発、量産・配備をすすめる。新たに極超音速誘導弾の取得に305億円を計上する。トマホークや戦闘機発射巡航ミサイルJASSM、JSMの調達費用も含まれる。
ドローンなど無人機調達予算は一挙に3倍
防衛省は今回の概算要求の最大の目玉として「無人アセット防衛能力」として、陸海空自衛隊で 10種類・約1000機のドローン・無人機を取得して「多層的沿岸防衛体制」「SHIELD」を27年度に構築するとしている。そのために3128億円、前年度の約3倍の予算をつぎ込む。無人機の導入は戦争の敷居を低くし、攻撃力を上げるためだ。
小型衛星をネットワーク状に配置しリアルタイムにミサイル情報を監視する「衛星コンステレーション」の計画に25年の予算で2800億円を計上したのに続いて、次世代SDA(宇宙領域把握)衛星の製造や宇宙作戦集団を新しく編成し、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊へ改編する。トランプ政権が推進する次世代型の統合防空ミサイル防衛(IAMD)システムや「ゴールデン・ドーム構想」システムとの一体化も視野に入れられている。中国、ロシアに対する軍事的優位の追及は、日米一体となって宇宙の領域に拡大しようとしている。
領域横断作戦能力の強化と兵站・継戦能力・機動展開の強化
宇宙・サイバー・電磁波領域を含む領域横断作戦能力の強化も狙う。沖縄の第15旅団が増強され師団となる。防衛省の副大臣を1名から2名に増員し、先端軍事技術分野での意思決定を支援する体制が整えられる。
研究開発費は3512億円で1.6倍だ。日英伊共同開発による次期戦闘機(GCAP)に 2066億円が計上され、35年の配備と輸出にむけた開発が本格化する。
長射程ミサイル以外の弾薬・誘導弾に2583億円。装備品の維持整備・可動確保に1兆7492億円、司令部の地下化など施設の強靭化に1兆636億円(前年度の1.5倍)が計上される。弾薬庫の整備に692億円が計上されている。自衛隊の南西地域への海上輸送力強化のために民間船(PFI)を活用する。コンテナ船を2隻追加し8隻体制にする。
武器よりご飯、ミサイルよりコメ 軍事費削減を政治的争点に
概算要求には自衛隊との一体化が進む海上保安庁の予算や、デジタル庁、国土交通省、文部科学省など防衛省以外の予算で計上される軍事関連予算は含まれていない。これらを含めれば軍事予算はさらに増える。
軍事費増の財源の為にこれまで社会保障費など財政支出の削減や決算剰余金や税外収入を軍事費に優先投入してきたが、つじつま合わせはもう限界だ。軍事費確保のための増税なしにはやっていけなくなっている。トランプ政権の要求するGDP比5%となれば大増税や生活関連予算の大幅削減は避けがたい。軍事予算の削減を求める闘いは、財政危機の下で人民生活をこれまで以上に犠牲にして始まろうとしている異次元の軍拡に歯止めをかける重要な闘いだ。それなしに生活と命を守ることはできない。中国との戦争準備をやめさせるためにも、人民生活をまもるためにも軍事予算に削減の声を広げていこう。
軍備増強・軍事費増の更なる加速を提言した防衛省有識者会議
9月19日、防衛省の「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が報告書を出した。同会議は安保3文書の後にさらに軍拡を進めるために現「防衛力整備計画」3年目に早くも次の軍拡加速を提言した。有識者の座長には元経団連会長が、メンバーには大学教授や元統合幕僚長や元防衛大臣、防衛官僚、読売新聞社長、三菱重工の名誉顧問が名を連ねている。
報告書は軍事費2%の指標の重要性を強調し、更なる「防衛力の強化のために必要な対応」を国民に説明せよと主張した。米の要求である5%を受け入れて軍拡を加速すると共に、今後の軍拡のための増税を行えとの提案だ。さらに現在の「防衛力整備計画」の前倒しと見直しを行えと提言した。
具体的な提言は、現在の「防衛力整備計画」にさらに追加・増強するものが書き込まれた。真っ先にウクライナ戦争の教訓からドローンや無人兵器の開発と大量導入があげられている。第2に、長射程ミサイル(トマホークや12式ミサイル延伸型)のVLS(垂直発射システム)を装備した原潜装備を提起した。1000~1600kmの射程を持つミサイルを装備し、隠密性の高い潜水艦で広い海洋から中国を狙って攻撃力を高めろとの主張だ。SLBM潜水艦に準ずるような戦力を持てとの主張だ。
戦争遂行のために継戦能力を高め、自前の軍需産業の強化のために戦後作られてこなかった国営工廠設立や民間から資金を集めるための防衛公社を提案した。武器輸出を本格拡大するために救難・輸送・警戒・監視・掃海の「5類型」と「共同開発」への限定を解除し、殺傷兵器の紛争当事国への輸出にも踏み切れと主張する。
軍拡の加速によって軍事費の膨張が人民生活を圧迫せずにはおかないが、「安全保障と経済の好循環」の名のもとに軍事力強化と経済政策の一体としての推進、経済の軍事化(軍事ケインズ主義)が強調されている。戦争による消費しか生まない武器生産や軍事組織が人民生活を改善するなどあり得ない。軍拡で潤い、軍需産業を経済の柱にしたい財界の願望が露骨に現れている。
(NOW/Y)