米帝「三正面戦争」の戦争構造を暴く(連載その4)

最大の軍事基地帝国アメリカ戦略要衝に張り巡らされた米軍海外基地
基地が戦争を生み、戦争がさらなる基地を生む

 本紙110号から開始した本連載は、その1で「超巨額の軍事費 米軍産複合体の異常な源泉」、その2で「戦争で暴利を貪る米国の軍産・核・金融複合体」、その3で「デジタル軍産複合体と恐ろしい『自動化競争』 核戦力の近代化と核産業複合体」を取り上げた。
 今回は、海外に展開している膨大な米軍基地の全貌と、米帝による絶えることのない侵略戦争と軍事行動、日常的な途上国への干渉と介入との相関関係を明らかにする。またその背後にある社会的・経済的・文化的覇権と軍事力による支配の関係を明らかにする。                

 (編集局)

海外に軍事基地を張り巡らす米国

 米国は、世界中に巨大な軍事的プレゼンスとネットワークを構築している。それは南極大陸を除く96カ国と地域
(米国植民地を含む)に904の基地を持っている。その規模は他のどの国も追随できないものだ。
 米国に次いで海外軍事基地が多いのはトルコであるが、その数は米国の1/7の128(10カ国)。次いで英国、その数は117(38カ国、だが米英の基地は連携している)。米国の海外軍事基地の数は、世界の在外軍事基地の3/4を占める。地球上の他のどの国よりもはるかに多くの在外軍事基地を持つのが米国である。
 ただし、米軍の海外基地の正確なリスト作成は困難である。米国防総省の公表(Base Structure Report2024)によれば、米軍の海外基地は545で、グアムなど海外領土(植民地)に157存在する。さらにハワイ(対中の戦略基地だ)には129ある。ハワイまで含めると830となる。だが、非公表や秘密の基地・施設もあり変動もあるため公表は実際より少ないとされる。上記の基地数は、「世界を全ての戦争を終わらせる方向へと動かすあらゆる非暴力活動」に取り組んでいる反戦組織『World BEYOND War』の分析によっている。この団体は可能な限りの1次資料、2次資料から分析に取り組み、視覚的なデータベースで米軍基地の現状を紹介している。また、『World BEYOND War』と相互協力関係にあり、HPには「他国との協力を重視する外交政策が、武力による米国の世界支配維持優先の政策よりも価値に資する」と述べるクインシー研究所(アメリカン大学人類学者であるデビッド・バイン氏ら)からも参考にするところが大きかった。(下に紹介した同研究所の「ドローダウン」は海外基地と海外領土合わせて80か国、750と評価している。そのうち本格的な基地・施設は439、リリパッドと呼ばれる小規模軍事施設は303と分析している。)これらの丁寧な分析に敬意を表するとともに、この小論は、これらの論評を元に展開していく。
*「ミリタリーエンパイア:海外基地のビジュアルガイド」
https://worldbeyondwar.org/military-empires/
*「ドローダウン:海外の軍事基地を閉鎖することで、米国と世界の安全保障を改善」
https://quincyinst.org/research/drawdown-improving-u-s-and-global-security-through-military-base-closures-abroad/#

 クインシー研究所は、上記の「ドローダウン」の中で、海外の米軍前哨基地に関する基本情報として総数以外に次の数点をあげている。
・米国は、世界中の米国大使館、領事館、在外公館(276)の約3倍(750)の海外基地を保有している。
・冷戦終結時の約半分の施設が残る一方で、米軍基地は同時に2倍の国と植民地(40から80)に広がり、中東、東アジア、ヨーロッパの一部、アフリカに施設が集中している。
・米国は、他のすべての国を合わせた数の少なくとも3倍の海外基地を保有している。
・海外の米軍基地の建設、運用、維持にかかる費用は、納税者に年間550億ドルの負担をかけていると推定される。
・海外での軍事インフラの建設は、2000年以降、納税者に少なくとも700億ドルの費用がかかり、総額は1000億ドルを優に超える可能性がある。
・海外の基地は、2001年以来、少なくとも25カ国で米国が戦争やその他の戦闘作戦を開始するのを支援してきた。
・米国の施設は、少なくとも38の非民主的な国と植民地で発見されている。

 22万人以上のアメリカ軍兵士、兵器庫、数千機の航空機、戦車、艦船が地球の隅々に駐留している。これにより米国の侵略とその同盟国の兵站がより迅速かつ効率的に運用される。基地はまた、核兵器の拡散を助長しており、米国はNATO加盟国の5カ国に核爆弾を保有し、他の多くの国には核搭載可能な航空機、艦船、ミサイル発射装置を配備している。この核拡散は核拡散防止条約違反である。米国は朝鮮民主主義人民共和国やイランの「核開発」を侵略と制裁の根拠にしてい、米国に他国を批判する資格はない。
 表1は、海外にある米軍基地(ベースサイト)の多い国・植民地から10位を取り出したものである。
 これから読み取れるのは、以下の点だ。
①第2次大戦の敗戦国、日本とドイツ、イタリアに駐留する米軍基地が全体の約1/3を占めている。しかも基地の面積では、1番がグリーンランドの943平方㎞であり、日本は2番目で465平方㎞である。これは独、伊、英の米軍基地面積の約7倍なのである。
②しかも、米軍の人員は、日本が圧倒的に最多であり、海外展開の米兵の約3割が駐留している。
③軍事建設費は、米議会に提出されたペンタゴンの公式予算文書によるが、機密予算などは含まれておらず最小限の額と見なす必要がある。日本の「21億ドル」には、在日米軍駐留経費(思いやり予算)、在日米軍再編経費や普天間飛行場移転の新基地建設費など、日本の負担分は当然、計上されていない。また今年1月に明らかになった在日米軍の騒音賠償金700億円超ですら、米国は1円も払わず、全額日本が肩代わりしているのだ。
 自国に米軍基地が一つでもあるということは、その国がすでに米国に国家主権のある程度を譲り渡していること、従属国であることを意味している。もちろん日本は最も忠実な対米従属国である。

米帝の覇権と権益維持のための戦略的地域に重点配備 

 上で見たような世界的かつ膨大な米軍の海外展開は、主としてどの地域に配備されているのだろうか。
 米国は、ユーラシア大陸の中国、イラン、朝鮮民主主義人民共和国、そしてロシアに狙いを定めている(図1)。この包囲網形成のために500の米軍基地を張り巡らせている。中でも中国は、オーストラリア北部から太平洋を経て、東アジアと中央アジアを横切る地域で、少なくとも400の基地(ハワイを含む)に囲まれている。この包囲網は、2011年にオバマ政権が発表した「アジアへのピボット(旋回)」以降、加速度的に構築され、増強されてきている。また、ロシアも、これら中東からEUとNATO諸国、および東アジアに至る広大な軍事包囲網に囲まれている。
 この米軍の増強とは逆に、中国の軍備は自国の領土だけに集中している。他国と植民地に750以上の軍事基地を持つ米国とは根本から異なり、中国は海外に重要な軍事基地を持たないし、他国と軍事同盟を結んでいない。ただ一つ、ジブチ基地は国連平和維持、人道支援を目的としている。米軍基地に対比すること自体が誤りだ。
 次いで中東周辺地域だ(図2)。1980年以来、中東の米軍基地は、その地域だけでも少なくとも15カ国で戦争やその他の戦闘行動を開始するために少なくとも25回使用されてきた。イランとイエメンを除く全てのペルシャ湾岸諸国に米軍基地があり、オマーンに6カ所、UAEに3カ所、サウジアラビアに11カ所、カタールに3カ所、バーレーンに12カ所、クウェートに10カ所、そしてイラクにまだ6カ所ある。これら海外展開している米軍基地の存在が、中東における権益維持のための軍事作戦を可能にしている。
 もう一つ重要地域がある。それはラテンアメリカ・カリブ海地域だ(図3)。米国は、この地域に76の軍事基地を有している。主たるものは、プエルトリコの34カ所、パナマの12カ所、コロンビアの1カ所、ペルーの2カ所。プエルトリコキューバのグアンタナモをのぞいて軍事施設の大半は小規模なリリパッドだが、地元政府・軍と連携の核として重要な役割を果たし、訓練などで常時米兵のプレゼンスを作り出している。これら包囲網は、この地域での社会主義革命の萌芽を摘み取り、カリブ海の人民を400年にわたって奴隷化と植民地支配の中に押し込み続け、莫大な経済資源に対する略奪を永続化させるために機能している。
 米国の軍事覇権は、残忍で血なまぐさい虐殺と略奪、破壊の文字通りの元凶である。1776年に独立を宣言して以来、先住民を虐殺し、カナダを侵略し、メキシコとの戦争を仕掛け、ハワイを併合してきた。第2次大戦後、米国は海外に基地を拡張し、ベトナムや東南アジアでの戦争から、2001年のアフガニスタン侵略以来の20年以上の間、米国に異を唱える主権国家に対して、海外の軍事基地から無数の軍事攻撃や侵略戦争・代理戦争と政権転覆を引き起こしてきた。少なくとも世界25カ国での軍事紛争の黒幕であり続けてきた(それは、コソボ、ウクライナ、イラク、リビア、パキスタン、イエメン、シリアなどで)。暴力と戦争は米国の歴史を真っ黒に塗り上げている。
 2003年のイラク戦争だけでも、市民約20万人を含む30万人が殺され、国内外避難民は300万人とも400万人とも言われている(Costs of War Project)。イギリスの医学雑誌「ランセット」が行った調査では60万人、別の調査では100万人が侵略によって殺されたとされる。しかもイラクは兵器威力の実験場にされ、劣化ウラン弾、クラスター爆弾、サーモバリック弾、白リン弾などで、米軍は虫けらのように無実の人々を殺した。多くの地域が発ガン物質で汚染され、放射能や化学物質の影響が疑われる水頭症、小頭症、無脳症、口蓋裂、身体欠損などの先天性異常がとりわけ激戦地のファルージャなどで多発している。

https://www.davidvine.net/unitedstatesofwar.
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地域経済・環境を破壊し、人権を蹂躙する海外基地の存在

 海外の米軍基地は、先住民から土地を奪う植民地主義の一形態でもある。グアムからプエルトリコ、沖縄、そして世界中の何十もの場所に至るまで、軍は地元住民から貴重な土地を奪い、その過程でしばしば先住民を、同意も賠償もなしに追い出してきた。
 具体例の一つは、アフリカとアジアの中間にある基地の島ディエゴガルシアだ。この島はアフガニスタンやイラクの爆撃基地として重要な戦略基地であった。この島があるイギリス領チャゴス諸島の先住民は、空軍基地として米国にリースできるように、イギリスによって1967年から73年の間に一人残らず強制的に排除、追放されたのである。しかも補償金も何もなく。現在も元島民たちは英国政府に対し、島への帰還の権利と適切な補償を求める訴訟を起こし闘っている。
 さらに、米軍基地に関しては、戦争を引き起こすだけではなく、地域経済、コミュニティ、環境、人権に対する不正と破壊が幾重にも積み重なっている。最もおぞましい犯罪の一つは、米軍兵士による女性や少女の誘拐、レイプ、殺人などの性暴力だ。沖縄では、昨年だけで米軍関係者による性犯罪が4件摘発され、過去10年間で最多であった。1945年4月1日に米軍が沖縄本島に上陸してから、各地で性暴力が多発し、多くの人々の尊厳と命が奪われ続けている。現在までのその数は約1000件(「米兵による女性への性犯罪」宮城晴美)。だが、これは氷山の一角である。闇に葬られたり、泣き寝入りを強いられたりした被害者はこの何倍に上ることだろうか。
 海外の米軍兵士は、「ホスト」国との地位協定(SOFA)により、免責されることが多い。しかもこの性暴力の日常は沖縄に限らず、米軍基地を置く地球上の海外の国、植民地においても同様なのだ。
 また、米軍地位協定は、米軍基地が現地の環境規制を遵守することを免除する。基地の建設は、沖縄・辺野古のサンゴ礁や絶滅危惧種の環境破壊など、取り返しのつかない生態系被害をもたらしている。さらに、世界中の何百もの場所で、軍事基地が有毒ないわゆる「永遠の化学物質」PFASを地元の水源に浸出させ、それが近隣のコミュニティに壊滅的な健康被害をもたらしている。航空機騒音公害、実弾演習による森林火災、航空機関連の事故と墜落、有害廃棄物の投棄、劣化ウラン毒、飲酒運転による交通事故等々、米軍基地は現地の生活と環境を破壊する唾棄すべき存在なのである。
*「アメリカ覇権とその危険」
https://libya360.wordpress.com/2023/02/23/us-hegemony-and-its-perils/
*「地球上で最大の軍事基地帝国」
https://www.counterpunch.org/2024/09/23/the-biggest-military-base-empire-on-earth/ 
*「基地の帝国 2016」
https://monthlyreview.org/2016/12/01/empire-of-bases/

基地撤去は戦争阻止・主権回復と独立への大きな一歩

 崩れゆく米帝一極支配に抗い、あらゆる経済的、政治的、技術的、文化・メディア覇権がもたらす権益を享受せんがために、米国はこの軍事的覇権にしがみついている。米国とその同盟国の戦争遂行を終わらせ、植民地主義の過ちを正し、軍国主義によってもたらされる環境破壊を抑止するために、米国が地球上に配置した基地群を撤去させなければならない。そのためには、秘密・機密のベールに覆われた海外の米軍基地に関する実態と機能、今に至る歴史を学ぶ必要がある。それはまずは、自国内の米軍基地から始めるべきだろう。
96カ国に904の軍事基地がある限り、米帝による戦争の危険性は消えない。基地は戦争を生み、それがさらなる基地を生み、それがさらなる戦争を生むのだ。


        

参照記事

米帝「三正面戦争」の戦争構造を暴く(連載その1)超巨額の軍事費米軍産複合体の異常な膨張の源泉 | コミュニスト・デモクラット

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