【解説】「超長期慢性不況」と現代帝国主義戦争

 トランプは、年初来ベネズエラに侵略し、キューバを脅迫し、イラン攻撃の圧力を加えている。歴代米政権は民主党・共和党を問わず、とりわけ2000年前後からは切れ目のない侵略戦争を継続し拡大し続けてきた。この米帝の戦争の最深部でどのように資本主義の経済法則が作用しているのか。とりわけ世界恐慌循環と帝国主義戦争との関係について考える。
 世界資本主義史上、恐慌循環の鋭さ、深さ、長さにおいて激しい恐慌・不況はこれまでに2度あった。一度目はイギリス発の「大不況」(1873~96年)、二度目は米国発の世界大恐慌(1929~33年)である。一度目は第一次世界大戦につながり、二度目は第二次世界大戦につながった。つまり、近現代史の2つの世界恐慌とも、人類が経験した2つの壊滅的な帝国主義世界戦争につながったのだ。
 世界は今、近現代恐慌史上、三度目の深刻な恐慌にさらされている。日本が1990年代以降のバブル崩壊後35年におよぶ超長期停滞に陥っていることは知られている。だが、米欧諸国もリーマンショック以降、同様の超長期停滞過程にあるのだ。そして帝国主義支配層は、この超長期停滞から脱却する活路を、この米帝主導の世界戦争に見出しているのである。以下、世界恐慌史と帝国主義戦争史の関係を考察し、実践的な方策を探る。    

  (韮山)

(1)マルクス・エンゲルス時代の「大不況」は第一次世界大戦へ発展

 まず、マルクス・エンゲルスが注目した一度目のイギリス発の「大不況」(1873~96年)を考える。これは産業革命以来の膨大な過剰資本の総決算となり、19世紀に権勢を誇った大英帝国の没落、資本主義から帝国主義段階への転化、植民地・市場・勢力圏をめぐる第一次世界帝国主義戦争につながった。
 エンゲルスは1892年7月、「大不況」の最終局面に、世界市場が狭まるだけで資本主義生産が「停止状態」に陥る、これが資本主義の「急所」「アキレス腱」だと喝破した(『イギリスにおける労働者階級の状態』の1892年ドイツ語版への序言』)。彼がこの確信を持ったのは、マルクスの死後、遺志を継ぎ、残された草稿を命をすり減らして研究したからだ。とりわけ『資本論』第三部の資本主義の基本法則である「利潤率の傾向的低下法則とその対抗諸要因」「過剰資本論」は、資本主義の集中・集積論の形で、また資本主義は世界市場を拡大し続けなければ崩壊するという危機論につながり、世界の経済的分割と領土的分割の根底をなす世界市場論としてレーニンの『帝国主義論』の土台となった。レーニンは1894年に発行された『資本論』第三部を読みこなした上で『帝国主義論』を書いたのだ。
 そしてエンゲルスは、「大不況」の行方をその「利潤率の傾向的低下法則」に基づいて展望し、その「世界市場縮小と資本主義生産静止論」と「慢性的過剰資本」論を基礎に、何と30年も前に第一次世界大戦とロシア革命およびドイツ革命を予測したのである(『1806~1807年のドイツの狂熱的愛国者を追憶して』1887年12月15日、ME全集21)。「プロシア=ドイツにとっては、もはや世界戦争以外のどんな戦争もあり得ない。それも、これまでかつて夢想さえしなかったほど大規模で激しい世界戦争である」。「800万から1000万人もの兵士が絞め殺し合う」とまで予測する。さらには天才的予言をする。「一時われわれを後景に追いやるかもしれないが」「ただ一つの結果だけは確実である。それは、全般的な疲弊が生じて、労働者階級の終局的な勝利の条件がつくり出される」と。この「世界恐慌、世界戦争と革命の弁証法」をレーニンは感激をもって紹介した(『予言』レーニン全集27)。
 「大不況」でも過剰資本は解消されず、第一次世界大戦によってようやく解消されたのである。

(2)コミンテルン時代の世界大恐慌は第二次世界大戦で解消

 次に、近現代恐慌史二度目の1929~1933年の「世界大恐慌」とその後の「特殊な不況」である。大恐慌は一般にルーズベルトのニューディール政策によって抜け出したと言われるがそれは間違いだ。実際に回復したのは、1939年にヨーロッパで第二次世界大戦が勃発し、米国が戦時景気に沸き「世界の兵器廠」となってからだ。さらに1941年の日米戦争の勃発と米国の参戦によって戦時国家独占資本主義がフル回転したからである。
 そもそも第二次世界大戦は、第一次世界大戦以降の過剰資本のはけ口をめぐって、ナチス・ヒトラー、天皇制日本軍国主義など新興の枢軸国帝国主義が凶暴なファシズムとなって、ソ連社会主義を打倒してその資源・市場を奪い、同時に広大な中国市場、英仏の植民地・市場・勢力圏を奪うために殴り込みをかけ、この世界大戦を引き起こしたのである。帝国主義戦争による膨大な犠牲と国土破壊の末に過剰資本はほとんど解消された。第二次世界大戦後の米欧日帝国主義の1970年代までの20年、30年もの長期成長は、この過剰資本の一挙的な解消があったからである。
 この当時、ソ連とコミンテルンのマルクス主義経済学者オイゲン・ヴァルガは、1929~33年恐慌からの脱却過程を、周期的に発生する「通常の過剰生産恐慌」とは異なる「特殊な不況(不景気)」と規定した。前回の繁栄局面を超えたのはようやく1939年である。従って恐慌・不況局面は計10年に及んだ。

(3)近現代恐慌史の三度目の深刻な世界恐慌循環=「超長期慢性不況」

出典:FRED経由の連邦準備制度理事会(米国)
https://fred.stlouisfed.org/series/INDPRO

 さて現在進行中の三度目の世界恐慌循環についてである。マルクス主義恐慌論では、剰余価値を生産する生産部面を重視するため、生産指数、稼働率の推移によって恐慌循環局面を分析・評価する。
 まず米国から見てみよう。図1は米国の工業生産指数である。1980年までは景気後退がありつつも、一貫して工業生産は増え続けてきたが、2007~08年のサブプライム危機・リーマンショック以降一転して長期停滞に陥った。それは現在まで18年に及ぶ。グラフは1920年代からだが、米国史上初めてのことだ。陰影の部分は米国の景気後退を示している。1980年代以降、景気後退の期間は短く、循環周期は長くなっている。この恐慌の短期化と循環周期の長期化は、ドル・金融覇権と米国経済の「金融化」によって世界中に過剰ドルが供給・拡散され、世界的な株式市場・債券市場・金融市場が過剰資本を吸収し、恐慌の爆発を先送りしているからである。

 出典:FRED経由の連邦準備制度理事会(米国)
https://fred.stlouisfed.org/series/TCU

 図2にあるように、米国の稼働率指数は1974~75年恐慌以来、長期低下傾向を示している。1970年代の90%が最高で、現在は常時80%を割り込み、直近は75%まで低下している。これは、実体経済においては米国経済は極端な空洞化によって停滞・低迷し、恒常的な過剰資本状態にあることを示している。
 図3はヨーロッパの製造業生産指数の推移である。米国と同様、サブプライム危機・リーマンショックを転換点に、コロナショックの異常な落ち込みを含み、長期停滞状態に陥っている。図4は設備稼働率の推移だ。1980年代の85%が最高で、2007~08年、コロナショックで落ち込み、現在は77.5%水準である。

出典:EU委員会の統計局eurostatより
https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=File:Total_manufacturing,rubber_and_plastic_production,_EU,_2000-2025_monthly_data,_calendar_and_seasonally_adjusted,_2000%3D_100.png
出典:経済協力開発機構(OECD)経由のFRED
 https://fred.stlouisfed.org/series/BSCURT02EZQ160S

*マルクス主義恐慌論によれば、資本の過剰蓄積とは、資本の増殖率(搾取率あるいは剰余価値率)がゼロになることである。資本の競争戦下で利潤獲得のために追加投資できなければ、資本の増殖は停止し、過剰資本状態になる。そこで資本は過剰資本を価値破壊することで新たに利潤追求を始める。過剰資本の価値破壊とは、企業の倒産・廃業、商品資本の価値破壊(安売り、廃棄)、生産資本の価値破壊(設備の廃棄・遊休、原材料処分)、利子生み資本の価値破壊(株・債券など架空資本の暴落)などを指す。
 マルクスは言う。「資本主義的生産の目的は資本の増殖である。すなわち剰余労働の取得であり、剰余価値の、利潤の生産である」。ここで「追加資本がゼロになれば、資本の絶対的過剰生産」が生じる。「絶対的とは二、三の重要な生産領域に及ぶものではなく、・・・全ての生産領域を包括するような」資本の過剰生産である。
(『資本論』第3巻第3篇第15章第3節「人口過剰のもとでの資本過剰」新日本出版社旧版第9分冊原p261、p427-429)
 

 次に、日本の鉱工業生産指数の長期推移を見てみよう(図5)。バブル崩壊後、頭打ちになり、サブプライム危機・リーマンショックの2007~08年の急低下、2018年から始まりコロナショックの2000年以降の急低下を含み、減少傾向にある。
 図6は、日本の設備稼働率の長期推移である。資本は増殖できなければ、まずは設備の稼働率を下げて、需要以上に過剰に生産した商品を在庫処分する。資本の過剰生産と商品の過剰生産は結びついている。稼働率は1974~75年恐慌で大きく低下し、バブル崩壊後は長期にわたり、基準であるゼロを割り込み続けている。つまり、バブル崩壊後、日本資本主義が超長期の過剰資本状態にあることを意味する。ここ数年、稼働率はゼロに接近しているが、これはバブル崩壊後、金融資本が海外で設備投資を増やし、国内設備投資を増やさず抑制しているからである。

出典:FRED経由経済協力開発機構
 https://fred.stlouisfed.org/series/JPNPROINDMISMEI
出典:FRED経由経済協力開発機構
 https://fred.stlouisfed.org/series/BSCURT02JPQ160S


 恐慌循環とは何か? マルクス主義恐慌論によると、典型的な恐慌循環は4循環局面を描く。恐慌―不況―好況-繁栄である。鉱工業生産が前回の繁栄局面のピークを越えて初めて不況・好況局面を脱して次の繁栄局面へ移行する。マルクスが『資本論』を執筆した時代、つまり産業革命後の資本主義が勃興期、成長期にあった時代には、この4局面は大抵10年前後であった。第二次世界大戦後は、日本を含む先進諸国は前循環の繁栄局面のピークを越えて、次々と新たな繁栄局面が到来し、工業生産は上昇基調を辿った。戦後最初かつ最大の恐慌は1974~75年恐慌、次いで1980~82年恐慌であった。だが、いずれも数年で次の繁栄局面を迎えてきた。
 しかし今回、そのパターンが大きく崩れた。とりわけ日本はバブル崩壊後、基本的に前回の繁栄局面のピークを超えることができない不況局面が35年もの長きにわたり慢性化している。日本資本主義の、いや世界資本主義の歴史上かつてなかった「特殊な超長期慢性不況」だ。欧米の場合も一度目の「大不況」時の23年に近づいている。近い将来、世界恐慌循環が繁栄局面に移行する見通しは全くない。先進帝国主義諸国が揃って資本主義史上かつてない「超長期慢性不況」に陥っているのである。

(4)なぜ「超長期慢性不況」に陥っているのか?

 では、なぜこのような近現代恐慌史を画するほどの深刻な「超長期慢性不況」に陥っているのか? エンゲルスが明らかにした「世界市場と恐慌」論に基づけば以下のように言える。
 かつて米帝と西側帝国主義は、1970年代の世界恐慌と資本主義の戦後最大の全般的危機からの活路を、新自由主義的グローバル化と1991年のソ連社会主義世界体制の崩壊に見出した。米帝一極支配が形成され、国際的力関係が帝国主義に有利に変化した結果、帝国主義とそのグローバル金融資本は、旧ソ連圏だけではなく多くの途上諸国の資源と市場を奪い、その膨大な過剰資本を解消した。
 ところが2000年代、とりわけ2010年代以降、帝国主義と金融資本にとって世界市場が暗転する。世界市場が縮小し始めたのだ。社会主義中国と新興・途上諸国が急激に台頭し始めたからだ。中国は、西側資本主義・帝国主義と全く異なる原理、利潤ではなく人民の福祉を原理とする。その中国が、自らが帝国主義と金融資本に搾取・収奪される対象から抜け出したけでなく、歴史的に搾取・収奪されてきたグローバル・サウスを主権とウィン・ウィンの対等な経済協力関係を武器に守り始めた。つまり帝国主義と金融資本の独壇場であったグローバル・サウスの資源と市場を失いかねない状況になった。
――この状況に第1期、第2期トランプ政権は「米国第一主義」戦略で対応した。米帝一極支配を再確立し、世界市場を取り込むために、中国と西側同盟国全体に対してハイテク戦争・世界関税戦争を仕掛けた。関税戦争とは自国に投資を呼び込むための脅しである。それだけでは足りない。西半球市場全体を中国から奪還する計画を明らかにした(ドンロードクトリン)。
――バイデン政権は就任と同時にプーチン政権の打倒とロシアの分裂・解体の「代理戦争」を開始した。ロシアの石油資源と市場は巨大だからだ。2027年の対中戦争計画もバイデン時代に計画された。米=イスラエルによるガザ大虐殺戦争と四方八方への侵略は中東の資源と市場を奪い返すためである。バイデンの「三正面戦争」は市場拡大戦争でもある。
――米帝と西側帝国主義が現在の「超長期慢性不況」から脱却するには、現在進行中の「三正面戦争」でも、これにベネズエラやラ米カリブを加えた「四正面戦争」でも不可能である。ロシア資本主義を打倒・解体して広大な領土・市場と資源を強奪するか、社会主義中国を打倒・解体してその領土・市場・資源を強奪するか、あるいはその両方しかない。しかし、すでにウクライナ戦争は米・NATO帝国主義の敗北が事実上確定し、強大な防衛力を保持する社会主義中国を打倒することは不可能だ。
 すなわち、米と西側帝国主義はもはや第一次世界大戦や第二次世界大戦のような一挙に世界全体を巻き込む世界帝国主義戦争を起こそうにも起こせない。つまり世界的規模で一挙に過剰資本を解消(価値破壊)できなくなったのだ。

(5)超軍事費負担下、財政破綻下の反戦運動と階級闘争

 米帝と西側帝国主義は、「超長期慢性不況」からの活路を、同時多発的な世界帝国主義戦争とそのための超軍拡に見出している。3大帝国主義がこぞって戦争と軍需産業復活を目指しているのだ。トランプは新年度軍事費を1.5倍増の1兆5千億ドルにまで急増させる。さらに米は新START(新戦略兵器削減条約)を破棄し、巨大ミサイル迎撃システム(ゴールデンドーム)で核の一方的優位を目論む。
 一方、EUは対ロシア戦争に向け、4年間で最大8千億ユーロの軍事投資「欧州再軍備計画2030」で合意、欧州産業を軍需産業を軸に根本的に再編する計画を開始した。そのために軍事費をGDP比5%に急増させている。また日本は高市の圧勝と日米首脳会談で、軍事費3.5%、5%に向けて持続的増大を強行し、軍需産業を柱に産業再編と投資を拡大する計画だ。経団連は武器輸出解禁を提言した。
 しかし、超軍拡では「超長期慢性不況」から抜け出すことは不可能だ。これら帝国主義諸国の膨大な軍事費負担は財政赤字を膨張させるだけである。米国の財政赤字は2025年末時点で約38.5兆ドルに達し、今も膨張し続けている。日本の財政赤字もすでに1129兆円を超えて膨らんでいる。EUは財政ルールを緩和し、ドイツなどの主要国は憲法改悪や特別基金で超軍事費増に邁進し始めた。
 結局、これら3大帝国主義諸国は、その軍事負担、財政破綻の負担を労働者・人民に転嫁するしかない。大衆増税と人民生活切り捨て、異常な貧富の格差と窮乏化が進む中で、労働者・人民の生活破壊は間違いなく社会変革への覚醒の諸条件を生み出す。国家財政をめぐる反戦運動、階級闘争が戦略的課題になる。現在の超軍事費負担下、財政破綻下の「超長期慢性不況」は新たな階級闘争、新たな社会変革の時代を生み出すだろう。

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました