ボリバル革命与党連合の結束と圧勝
5月25日、ベネズエラで国民議会選挙と州選挙が行われ、54政党が参加した(うち与党連合はPSUV+12政党)。反政府勢力は極右がボイコットを主張し、参加した野党は3つに分裂した。(地方選挙は4年ごと、国民議会選挙は5年ごとで、今年はそれが一緒になった。市町村選挙は7月に行われる。)
昨年7月の大統領選挙で勝利したマドゥーロ大統領は、ベネズエラ社会主義統一党(PSUV)が牽引する与党連合「大愛国極」を率い、終始有利に選挙戦を闘った。その結果、国民議会の9割近くを獲得し、州知事選では1州を除く23州で勝利した。PSUVを中心とする与党連合「大愛国極」の得票は、国民議会選では2020年の約430万票から今回の約500万票へ70万票増加し、地方選では21年の約370万票から約500万票へ130万票増加した。
選挙結果の詳細は次の通りである。投票率43.18%。PSUVを中心とする与党連合「シモン・ボリバル大愛国極(GPP)」は、国民議会285議席中253議席、州知事23州を獲得。野党は、「民主同盟」「UNT Unica同盟」「Fuerza Vecinal同盟」の3党合計で国民議会28議席、州知事1州であった(州知事はこれまで与党19州、野党4州だったが、今回はエセキバ州が加わって1州増加。国民議会の285議席のうち3議席は先住民枠)。
キューバは「ベネズエラ民主主義の勝利」と報じ、ディアス・カネル大統領は「包囲と制裁にもかかわらず、人民の大多数の支持を得てその制度を強化している」と述べた。与党連合の圧勝は、団結とコムーナ運動による強力な支持の下で、ボリバル革命がかつてないほど強力なものとなっていることを示した。新国民議会は来年1月に発足する。その下でコムーナ国家建設による社会主義への移行のための憲法改正とその具体化が本格化する。
われわれは、ベネズエラの社会主義指向革命の前進を心から歓迎し、連帯する。
マドゥーロ政権が内外政策で主導権を掌握 米帝の反革命的介入を未然に封じ込める
ベネズエラの社会主義指向のボリバル革命は、チャベス時代から一貫して米帝国主義の政治的・軍事的・経済的な覇権主義的介入との対決と闘争の歴史であった。トランプは、まさにその第1期に、フアン・グアイドを暫定大統領に指名し、露骨な介入を企てた。米国の大統領個人が他国ベネズエラの大統領を「指名」するという、独立も主権も蹂躙する権力の植民地主義的・暴力的な簒奪であった。それに連動して、大規模な経済制裁を発動し、混乱に陥れ、同時に反革命野党を総動員し、街頭での暴力・破壊活動を煽動した。マドゥーロ政権を一気に打倒する謀略であった。マドゥーロ大統領は、トランプ再選を見越して先手を打った。
マドゥーロ政権は、昨年7月の大統領選挙で大勝し、ベネズエラの国内外政治の主導権掌握に乗り出した。国内的には、トランプ政権が安定する前に、国民議会選挙・地方選挙で勝利し、革命権力を早期に安定させ、堅固にすることに集中した。そのために、野党を分断する必要がある。粘り強い交渉で野党分断に成功した。
対外的には、社会主義中国、ロシア、BRICSなどとの政治的・経済的協力関係強化を打ち出し、米帝主導の西側帝国主義との対決路線をいっそう鮮明にした。今年5月は一つの転機であった。マドゥーロ大統領はモスクワでの大祖国戦争勝利80周年記念式典に出席し、プーチン大統領と戦略的提携で合意し、習近平国家主席とは戦略的提携を再確認した。またCELAC首脳会議を主導し、その後ベネズエラ代表団は中国・CELACフォーラムに参加した。
反革命野党の分裂と敗北 極右の反革命暴力と選挙妨害をはねのけて
今回の選挙をめぐり、極右野党勢力は繰り返される内紛によって分裂した。米帝国主義は、トランプの大統領再選と米新政権発足直後の過渡期の中で後手に回った。何よりも、全力を傾注したバイデン政権時の露骨な大統領選介入に失敗したことで、反革命極右野党陣営の消耗は頂点に達していた。極右勢力の大半は選挙ボイコットを主張し、選挙に参加した野党勢力を激しく非難して、その選挙活動を妨害した。選挙参加の野党勢力も3つの陣営に分裂したままであった。
米国と西側マスメディアは、与党連合の圧勝があまりにも明白なので、それを正面から非難できず、「投票率の低さ」に注目して酷評した。だが、大統領選の高い投票率に対して、国民議会選、地方選の投票率はこれまでも低く、40%を少し超えるレベルである。今回は、極右勢力がボイコットを主張し妨害活動を行なってきたが、それでも43%超と、これまでよりも少し増加している。
反革命極右野党の選挙妨害活動は国軍が中心になって阻止した。投票日の前後10日間で、石油施設などへの60件以上の攻撃を阻止した。大使館、病院、警察署、公共事業所、地下鉄駅、電力・石油・サービス施設および公人に対するテロ攻撃が計画されていたが、そのテログループのリーダーを逮捕し、大量の武器、ミサイル、手榴弾を押収した。その多くは米国から持ち込まれたもので、テロリストはコロンビアの元大統領サントスやウリベから資金援助を受けていた。
残念なことにオスカル・フィゲラ書記長のベネズエラ共産党は、昨年の大統領選挙では米帝の傀儡で反革命候補のゴンサレスと一緒にマドゥーロ糾弾に躍起となり、引き続き今回の選挙も反革命極右野党と一緒になって「茶番だ」「いかなる正当性も欠いている」と非難した。
社会主義への移行という新たな時代コムーナ国家建設へ
マドゥーロ大統領は、テロリストやファシストの試みを阻止して「選挙は大成功であった」とし、「ベネズエラは社会主義への移行という新たな時代の加速段階に入った」「文化的、政治的、文明的、経済的に新たな時代の到来を加速し深化させる」時が来たと述べた。来年1月に発足する新国民議会では、コムーナを憲法に書き込み正式な政治制度にすることを目指す。大統領は、コムーナに重点を置いた選挙制度の包括的な改革案を新議会に提出すると発表した。この改革は、選挙制度をベネズエラの現在の状況に適応させ現代化することを目的としている。
今年2月に創設された憲法改正委員会は、1999年憲法の改正に関する協議プロセスの拡大と、社会のあらゆる層と国内のあらゆる地域における参加と対話の促進を決定して、憲法改正協議を12月まで延長した。この改革プロセスが可能な限り包括的なものとなり、国全体が求めている提案を包含するものとなるようにするとしている。
マドゥーロ大統領が昨年の大統領選で掲げた「7つの変革計画」(本紙113号、114号参照)は、今後の社会変革の基本的な枠組みとして法制化された。それは、社会主義への移行という新たな時代へ進むことを目的としている。それを、ここ数年加速的に増加し発展してきたコムーナを中心にして、コムーナ国家の建設によって行おうとしているのである。
ガイアナとの領土紛争を煽る米帝国主義 対抗策としての「エセキバ州」
今回、ベネズエラとガイアナとの係争地エセキボ(スペイン語ではグアヤナ・エセキバ)を1つの州として、知事と国民議会議員の選挙が行われた。この地域はガイアナが実効支配しているため、実際の投票は隣のボリバル州で行われ、これをめぐる新たな紛争は生じていない。逆に、選挙前にガイアナ政府と米帝が軍事的衝突事件をでっちあげて軍事紛争を起こそうとした。だが、それはベネズエラの素早い暴露と対応によって阻止された。
エセキボ地域は、帝国主義からの植民地独立のころから続く歴史的に長期にわたる係争地である。その沖合で2015年に巨大油田が発見されて以降、米英帝国主義とエクソンモービルが一方的に開発を行い、石油を略奪しはじめた。また、米帝が、ベネズエラに対する軍事的介入の拠点としてガイアナに米南方軍を常駐させるようになった。それに対して、ベネズエラ政府と人民およびガイアナ人民が闘っている。それがエセキボ紛争の本質である(参照記事:本紙108号・[急浮上したエセキボ紛争])
マドゥーロ政権は、ガイアナ政府との話し合いを繰り返し求めている。だが、ガイアナの政府と軍を従属させている米帝が、紛争を煽る方向へ誘導している。ここ数年は軍事演習を繰り返し、軍事的挑発も行なっている。そのような状況に対抗するため、ベネズエラは、23年12月にエセキボ地域についての国民投票を行い、9割の圧倒的多数の賛成によって領有権を確認し、「エセキバ州」の設立を宣言した。今回の選挙はそれに続くもので、米帝による策動への対抗措置である。ベネズエラの基本的な立場は、外部からの干渉を排除し、両国間の直接対話によってこの地域の共同開発をしていこうというものである。
(小津)