トランプの世界関税戦争は、米帝国主義の一極覇権の歴史的没落とドル・金融覇権の終焉を加速し始めた。トランプの米帝一極覇権復活の荒療治が、逆に没落を加速する結果になっている。まさしく歴史の弁証法だ。
われわれは、レーニン以来の国際情勢論に基づき、主な国際的「4大矛盾」、つまり①社会主義と資本主義の体制間矛盾、②帝国主義と新興・途上諸国との矛盾、③帝国主義間矛盾、④帝国主義国内の階級矛盾の観点から考えてみたい。
米中体制間矛盾における社会主義中国の優位が明らかに
(1) トランプ世界関税戦争によって、米帝国主義と中国社会主義の体制間矛盾は新しい段階に入った。4月2日、トランプ大統領は全世界に向けて関税戦争を開始した。「相互関税」10%に加えて上乗せ関税を10~25%、特に中国に対しては145%もの異常な高関税を課した。
社会主義中国は全面撤回を要求し、報復関税とレアアースなどの輸出規制によって対抗し、「闘うのであれば徹底的に闘う」と徹底抗戦で応えた。われわれも、社会主義中国の全面撤回方針を断固支持する。
すぐさま市場が反応し、為替、債券、株価の米トリプル安(米国売り)で米金融市場が崩壊の危機に陥った。トランプは態度を翻し、上乗せ関税の90日間延期を余儀なくされた。
「米国が命じれば世界がひれ伏す」時代は完全に過去のものとなった。5月12日の米中ジュネーブ合意は、トランプ関税の屈辱的屈服の結果であり、「関税率115%引き下げ」を決め、共同声明を発表した。社会主義中国の力を世界に見せつけた瞬間だった。西側同盟諸国が「トランプをどうなだめるか」と慌てふためく中で、中国だけが毅然とした態度で徹底抗戦し、トランプ関税の大幅削減を押し付けたのだ。
(2) 中国にとって、トランプ関税攻撃は想定内であった。第1期トランプ政権に始まりバイデン政権に引き継がれたハイテク・半導体戦争、経済・貿易戦争を迎え撃つために周到な準備と態勢を構築してきた。第1に、BRICSなどグローバル・サウス諸国との「南南協力」体制を構築し、米国に左右されないグローバルバリューチェーンを構築し、第2に、航空宇宙技術や国産チップ、新エネルギー、自動車、人工知能など「質の高い生産力」に集中投資し、国内大循環(投資プラス個人消費)を主軸とし、対外小循環を副軸とする「双循環」構造を構築し、第3に、ドルに依存しない国際決済システムの構築=脱ドル化を意識的に進めてきた。この間、中国の対米貿易は、34%から12%に減少し、中国のGDPの2%程度になった。決して無視できる額ではないが、社会主義市場経済体制の強化で十分対抗できる状況を作り上げてきたのだ。共産党主導の社会主義計画経済の威力である。
米国内階級矛盾の激化と帝国主義間矛盾
(1) 米国の階級矛盾が一気に先鋭化した。真っ先に米国の労働者・人民の消費生活を直撃した。関税を負担するのは、米国の輸入企業である。そして輸入企業はその負担を労働者・人民に転嫁する。自動車やハイテク・通信機器はじめ、食料品、日用品、家電製品、建築資材などの値上げとなって人民を直撃したのだ。
瞬く間に大量の中国・途上諸国製品がスーパーから消え、港に滞り、港湾労働者やトラック運転手などブルーカラー労働者の雇用不安を引き起こし、中小零細の製造業者の不満が爆発した。全米で反トランプの抗議行動が起こった。レアアースや半導体などの供給不安が広がった。米国経済は中国・途上諸国からの大衆消費財やハイテク製品の輸入抜きには回らないことが明らかになった。
トランプ関税は、米国経済が中国・途上諸国からの「安い輸入品」に依存していること、米国の労働者・人民の生活が中国・途上諸国の収奪の上に成り立っていることを明らかにした。われわれがシリーズで解明してきた貿易を通じた「不等価交換」である。
マルクス・エンゲルスやレーニンの研究に従えば、米系グローバル金融独占資本による新興・途上諸国への海外投資が莫大な超過利潤を生み出し、米国のごく一部の「労働貴族」を買収し、米国労働運動の停滞や分裂に繋がっていることは明らかである。だが、それだけではなかった。今回の関税戦争は、中国・途上諸国からの「安い輸入品」が入ってこなければ、米国の労働者・人民はたちまち生活が立ち行かなくなることを暴露したのだ。
すなわち、米国の金融独占資本は、中国や途上諸国からの不等に安い原材料や消費物資、つまり「不等価交換」を通じて、自国労働者に低賃金を押し付けることが可能となっていたのである。米国の労働者階級の解放は、単に一国の問題ではなく、被抑圧民族との団結抜きにはあり得ないのである。
(2) トランプ関税戦争をきっかけに、帝国主義間矛盾が拡大している。トランプは当初、屈服するとみた日欧諸国を抱き込んで、西側同盟共同で対中関税戦争に持ち込もうとしたが、目論見は外れた。様子見を決め込んでいた日欧諸国は、中国の徹底抗戦を利用し、対米交渉で強気に出始めた。
しかし、日欧帝国主義の戦略敵は社会主義中国とロシアである。日本は対米従属同盟で対中戦争の先兵となり、ドイツとNATO諸国も対米従属同盟で対ロシア戦争の先兵となる道を選んだ。軍事的には対中国、対ロシアの帝国主義同盟は揺らいでいない。
米財政危機の爆発とドル・金融覇権の終焉の始まり
(1) 中国主導の脱ドル化がトランプ関税戦争をきっかけに一気に進んでいる。ドル決済システムSWIFTは、米国がドルへ跪かせ、経済制裁を加える道具である。中国は、このSWIFTを介さない、人民元を基軸においたCIPS(人民元国際決済システム)の構築と利用の拡大を進めている。そして、CIPSの基盤を形成・拡大するために、平等互恵・ウィンウィンの原則の下で多国間主義に基づく経済協力を加速している。関税制裁発動直後に、習近平主席はベトナムとマレーシア、カンボジアを歴訪し、「周辺運命共同体」の構築を宣言した。その中心は、中国とベトナムという社会主義国の結束強化だ。米中共同声明発表のちょうど5月12日には、北京で中国とCELACとの第四回合同会議が開催された(参照記事: 社会主義中国とラ米カリブ諸国の団結強化~「中国・CELACフォーラム」 )
5月27日には、マレーシアでASEAN、湾岸協力会議(GCC)、中国の3者による首脳会議が開催された。石油大国であるGCCがASEANと共に、中国主導の会議に参加するのは初めてだ。中国はこの中で、サウジアラビアと農業やエネルギー分野など70もの共同プロジェクトに調印したが、それはトランプによる形ばかりの中東歴訪に水を差すものとなった。
今後、7月にはブラジリアでBRICS首脳会議が、8月下旬~9月上旬には天津で「上海協力機構(SCO)」首脳会議が開催される予定だ。それは、9月3日、北京で抗日戦争勝利80年式典開催に合わせたものだ。
(2) トランプは、財政破綻と米国債膨張の爆発の道をまっしぐらに進んでいる。スタグフレーションは不可避だが、それどころではない。
トランプ関税戦争の直接の目的は2つある。第1に、巨額の関税収入を対中戦争・対中軍拡の財源にすることだ。ここ数十年に限っても、イラク、アフガニスタン、シリア、リビア、ウクライナ、パレスチナなど永続的な侵略戦争、軍事介入に狂奔してきた。加えてトランプは、レーガンの宇宙軍拡を真似て「ゴールデン・ドーム」計画に総額8300億ドルを投入するという。さらに中国への侵略だ。軍事費の膨張はもはや限界に達している。
第2は、富裕層の大減税の財源とすることだ。トランプは「大きくて美しい税制法」(BBB)案を成立させようとしている。この法律は大企業・富裕層への減税措置を継続強化する一方、低所得者向けの医療保険や食料援助プログラムを大幅にカットし、再生可能エネルギーへの補助金も削減する。
米国は7月に債務不履行危機に直面する。1月に法定上限に達した債務を政府預金でやり繰りしてきたが、8月には底を突くからだ。議会は、7月半ばまでに債務上限の引き上げか適用停止を決める必要がある。減税法案の成立が迫り、関税上乗せ分の猶予期限も7月上旬だ。このような中、トランプは5月4日、経済的大惨事を招くとして、債務上限の撤廃を主張した。ドルと米国債の信用を自ら破壊する行為だ。無制限の連邦債務の膨張は、米国債の無制限の発行を意味し、それは長期金利の急上昇を招く。英エコノミスト誌は、「姿変えた米金融に迫る危機」という警告を発し、連邦債務が警戒レベルにある、次の金融危機は必ず起こる、その時初めて実態の不透明な金融資本に依存している事実を「思い知らされるだろう」と危機感を露わにした。
ドル・金融覇権と基軸通貨ドルの無制限の通貨発行特権(シニョレッジ)と、無価値の不換紙幣ドルの無制限発行による財政拡張が、他の西側諸国にない米国経済の「成長」をもたらしてきた。それが世界中からの無制限な商品輸入構造を定着させ、「双子の赤字」(財政収支赤字、貿易収支赤字)の膨張をもたらし、戦後一貫した対外侵略戦争と軍事費の膨張を可能にしてきた。
いわば基軸通貨ドルの特権が米帝の一極覇権の物質的基礎なのである。関税戦争発動直後のトリプル安はいつ再燃してもおかしくない。ドル覇権の根幹をなす米国債の増発は限界に来ている。トランプは、海外保有の米国債を「100年債」に強制的に切り換え、無利子にするという、債務不履行も同然の仰天の奥の手を企てている。米帝の覇権を根底から支えてきたドル・金融覇権が、トランプの関税戦争と傍若無人によって歴史的終焉を迎え始めた。
2025年6月9日
『コミュニスト・デモクラット』編集局