米帝の攻撃を撃退し勝利的前進
「7つの変革」からコムーナ国家建設へ

セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使の講演会が、大阪で3月22日に行われた。「ベネズエラは新たな段階へ ~〝7つの変革〟を踏まえた提言」と題し、「リブ・イン・ピース☆9+25」と「キューバを知る会・大阪」が主催した。90名近くの参加者が会場を埋め尽くし、『不屈の民』の演奏と合唱で大使を迎えた。大使の講演は、話の最初にマドゥーロ大統領就任式で人民が唱和した「マドゥーロ YES! ヤンキー NO!」が紹介され、西側メディアがベネズエラ問題を「国内問題」に歪曲することを批判。終始一貫して、反米・反帝の堅固な姿勢で貫かれた。講演は私たちの予想を超える全般的なものとなった。昨年7月28日大統領選挙、今年1月10日大統領就任式から、目下遂行中の〝7つの変革〟、さらにトランプ新政権の新たな攻撃、「反ファシズム国際会議」などに至るまで、包括的な内容であった。最後に、第2期トランプ政権に対する大使の姿勢は毅然としたものであった。「極度の苦境に陥ったかつてとは違って、それに十分対処することができる状況にある」と、自信にあふれた言葉で締め括られた。以下の報告は、紙数の関係で省略する部分もあるが、できるだけ講演に即したもので、見出しは、報告者が付けた。
(小津)
大統領選挙は単なる国内問題ではない 米帝国主義に対する勝利
昨年7月の大統領選挙では、マドゥーロ大統領への人民の信頼感が示された。米帝は極右のマチャドとゴンサレスを通じて介入を試みたが失敗した。野党は分裂し、逆に与党は結束を強化して勝利した。それは、単に大統領選に勝利したというだけでなく、帝国主義に対する勝利である。米帝と西側帝国主義諸国は、マドゥーロ大統領の勝利を認めず、ベネズエラを孤立させようとした。しかし、キューバをはじめ、メキシコやコロンビア、米州ボリバル同盟の諸国など、マドゥーロ大統領の再選を認め祝福する国が多数あり、6年前のように孤立させることはできなかった。1月10日の大統領就任式では、人民の「マドゥーロ YES! ヤンキー NO!」の大合唱が行なわれた。
米帝の介入はボリバル革命の25年間に及ぶ USAID、NEDが主要な役割
西側メディアは、単にベネズエラ国内でのボリバル政府と野党の闘争だ、国内問題だと報じているが、隠していることがある。ベネズエラは、ボリバル革命の25年間攻撃にさらされ続けているということ。それをメディアは報じない。隠している。米帝による工作は、伝統的にCIAによって行われていたが、1990年代からはUSAIDが主要な役割を果たし、さらにNEDなどが加わった。2019年から22年にかけて、USAIDからベネズエラの反政府NGOへの支出は巨大な増加となっている。ベネズエラ以外の所への支出は、ベネズエラに比べればずっと少なく、さらにいっそう減少している。何年にもわたってベネズエラの内政に介入してきたが、それがどんどん大っぴらになってきている。だが、USAIDのこのような工作は非常に長くて、2002年のチャ
ベス大統領の暗殺未遂にもかかわっていた。その他、クーデター策動、マドゥーロ大統領暗殺未遂、経済封鎖、石油生産の妨害、外交的に孤立させる、暫定大統領擁立など、様々な策動をしてきた。こういったことは、すべてまとめて「ハイブリッド戦争」と呼ばれている。このようなことは西側のメディアでは報じられていない。
昨年の大統領選挙も米帝との闘いが中心 ハッキング、ニセ集計結果の大宣伝

昨年の大統領選挙でも、クーデターが米帝によって計画された。選挙前から、選挙中も、選挙後も、極右を使って様々な策動が行われた。軍隊を刺激して兵士に暴動を起こさせようというシナリオや、既存の選挙システムを台無しにしてしまうことなども含まれていた。マドゥーロ政権と人民にとっては米帝との闘いがメインであった。
大統領選挙の集計と結果発表の際、選挙管理委員会の正式発表がなされる前に、ベネズエラの電話システムが3時間にわたってハッキングされ、その間にニセの集計結果が発表された。アストラという偽名で活動していたハッカーが、それをやった責任者は自分だとチャットで明かした。チリにいて、5万ドルを受け取り、正式発表前にハッキングして、その間にマチャドらにニセの結果を公表させた、と。そのシナリオは、裏付けのないニセの統計を西側メディアで公表して世界に流布し、正式の選挙結果をニセの選挙結果に取り替えてしまおうとするものであった。
マドゥーロは、最高裁に訴えてすべての資料を検証するよう求めた。そして、正式発表が正当な裏付けのあるものだということを明らかにして、国内の安定を取り戻そうとした。最高裁は、すべての候補者に選挙に関する全資料の提出を求め、3週間にわたって調査・検討した。だが極右勢力は出頭もせず資料提出もしなかった。最高裁は、選挙管理委員会によるマドゥーロ勝利の発表は正当なものであると結論付け、終止符が打たれた。制裁・封鎖の中で、ベネズエラの民主主義が示された。
米帝の制裁・封鎖で深刻な経済危機 西側メディアはマドゥーロ政権のせいに
いわゆる「制裁」は一方的強制措置である。封鎖が2015年から10年間行われてきている。トランプ1期目の2017年から1000以上の制裁が課され、経済的な落ち込みが非常に激しいものだった。メディアではそれを報じずに、政府の政策が悪かったのだとした。経済が破壊され、GDPは2015年から5分の1になり、石油生産は破壊されて2015年から22年までに87%減った。外貨収入がほとんど断たれて食料など生活必需物資の輸入ができなくなった。国連の人権専門家は「人道に対する罪」と報告し、CEPR(経済政策調査研究センター)は「集団的処罰としての経済危機」として4万人が命を落としたと報告した。
人民の団結と新たな創意工夫で 米帝の政権転覆策動をはね返す
米国はそれで政権交代をさせようとしたのだが、失敗した。ベネズエラ人民は経済戦争の中にあっても、自由、民主主義、独立を守ることの重要性を認識していたからである。飢餓や絶望にさらされながらも、その中で逆に、政府と人民はいっそう団結して自分たちの政策を進めていこうという意志をもち、飢餓や絶望の中で新たな対応が行われた。2015年に「祖国システム」が始まった。デジタル化した意識調査により国民の要求に沿った政策を行なっていこうとするものである。2016年には食料配給システム「CLAP(供給生産地域委員会)」がはじまった。困窮した家庭に家を供給するため住宅供給は継続された(今年500万戸を達成)。参加型民主主義、熟議民主主義のコムーナ(コミューン)による自治を全国各地で発展させていった。
経済回復を背景に「全国人民協議」
昨年4月と8月に2回「全国人民協議」が行われた。地域の問題の解決を目的としたプロジェクトを人民が提案し、投票で優先したいプロジェクトを決める。最小単位の地域人民委員会コンセホ・コムナールが4万8000ほどある。それぞれに議会があってそこで議論が行われ、自分たちに必要なものは何なのかを決める。それを上の段階の約5000あるコムーナ・サーキットに上げて、7つにまで絞り、やりたいプロジェクトを投票で決める。それに政府が資金を提供する。それを今年から年4回実施する。大統領は、国家予算の30%をこれに投入することを目標にしている。
ベネズエラ経済は2021年から回復に向かった。3年連続して上昇し、2024年には第1四半期にGDPの8・5%増を記録し、この年は南米で最も高い経済成長率を記録した。今日、ベネズエラは、さまざまな分野で国内生産を発展させているが、特に食料生産を非常に増やしている。スーパーで売られている食品の85%が国内で生産されている。
「7つの変革」でコムーナ国家建設へ
大統領選挙で提起された〝7つの変革〟(25~31年)は、昨年11月に350万人が参加して国民的議論が行われ、提案は50万にのぼった。
(1)経済の変革:石油依存を克服して経済を多様化する。(2)完全な独立:主権だけでなく、国の近代化をはかる。デジタル化により、中央に情報集中。各種の手続きを一本化。(3)平和・主権・安全保障:国の安全保障をさまざまな面から強化する。ガイアナとの紛争地域エセキボの回復も含む(そこではエクソンモービルが石油を違法に開発・操業しており、米国にとっての重要地域)。また、コムーナで平和裁判官を選挙で選ぶ。(4)社会的変革:国民の福祉。食料分配をより公平にする。教育や医療などの向上も。(5)政治面での改革:コムーナを軸に人民権力を確立する。国民の合意で進める。(6)エコロジー変革:包括的な環境保護政策。災害に向けた基金。農業と環境問題を融合するアグロ・エコロジー強化。(7)地政学的変革:ALBA(米州ボリバル同盟)やBRICS+などを通じて、国際的に影響を与えていく。ラ米カリブでの統合を進めていく。代替的な金融や資金の流れをつくる。
世界で今30か国が違法な制裁の対象国になっているが、それは世界人口の半分を占めるので、世界全体に大きな影響を与える。だから、米国のドル覇権から解放されねばならない。
第2期トランプ政権 人民は対応できるし、孤立もしていない
トランプ政権の第1期目はハイブリッド戦争だったが、第2期はミックスである。「圧力、領土拡張、矛盾のある言動」だ。最近トランプ政権のファシズム的な方向が現れたニュースがある。米国への移民を正当な司法プロセスを経ずに刑務所に送っている。ベネズエラ人を主要な対象としている。全く証拠がなくてもベネズエラ人ということだけで、犯罪組織に属していると思われた者は対象になる。3月15のトランプの命令で、14歳以上のベネズエラ人で犯罪組織にいると考えられる者は強制送還・国外追放される。それは1798年の「敵性外国人法」をもとにしたものである。第二次大戦のとき、日本、ドイツ、イタリアからの移民がこの法律をもとに強制収容所へ送られた。マドゥーロ大統領はそれを拒否し、移民の帰国に取り組んでいる。
ベネズエラでは、ボリバル革命が始まってからずっと右翼はファシズム的な新自由主義を展開してきた。ファシズム的観点が、経済的に脆弱な人々、特に若い人々の間に入ってきている。新たなファシズムの潮流ネオ・ファシズムが世界的に広まっている。これに対して、昨年9月に「世界反ファシズム国際会議」がカラカスで行われた。世界97ヵ国から1200人以上が集まり議論が行われ、「反ファシズム・インタナショナル」の設置が提唱され、各国に反ファシズム組織をつくっている。
2025年にトランプが返りざいて、さまざまなものを結びつけた制裁を行なっている。ベネズエラは、2017~19年のころと同じではない。準備ができていて、対応の態勢が整っている。また、国際的に孤立していない。多極化か、一極化か。主権か従属か。世界は大きく変化している。新たな多くの友好国がある。昨年の国連総会では、120ヵ国が制裁に反対した。
質疑応答
Q:日本政府はベネズエラに対してどんな態度を取っているか?
A:2017年にリマ・グループというものが設立された。これはマドゥーロに対抗した候補者グアイドを大統領として承認するためのもので、日本も米国と同じく、グアイドを承認した。基本的にこの傾向は変わっていないが、最近、駐ベネズエラ大使を任命するなど、変化がみられる。
Q:経済制裁を具体的に知りたい。
A:制裁=一方的強制措置は1000以上。資産凍結では、CITOGO(ベネズエラ国営石油公社PDVSAの米国子会社)やイングランド銀行にある金塊が差し押さえられている。法的枠組みについては、2015年のオバマの大統領令がおおもとにある。それによって国際取引から排除されている。それにプラスして、企業や銀行が過剰にベネズエラを避けるということがある。「人道的取引」は免除ということになっているが、免除されていない。医療も含めて必要なあらゆる物品が入手できないという状況になった。国連が仲介して代わりのメカニズムがつくられた。だが、米国は企業に脅しをかけた。ロシア、中国、キューバなどのおかげで、必要物資を入手できた。それに加えて、国内でコムーナと人民の努力があった。
Q:シェブロンの撤退(2月27日、トランプ大統領がベネズエラでの石油事業許可の取り消しを発表)はどんな影響があるのか。
A:シェブロンについては、ちゃんと説明するには半日ほどかかるが…。世界のエネルギー状況を見ると、1位ベネズエラ、2位サウジ。サウジは、もう限界。ベネズエラは40%程度で、余裕がある。米国はエネルギー消費世界一。シェール・オイルのおかげをこうむっているが、高価。ベネズエラの石油はずっと安い。シェール・オイルはだんだんなくなっていく。5~10年程度で終わりと言われている。米国にとってベネズエラは重要。船で4日で石油を運べる。シェブロンがボツになって最もマイナスの影響を受けるのは米国だ。
Q:コムーナについて。
A:コムーナの重要性は主に3つある。(1)人民の優先的プロジェクトを人民の議論で決める。民主主義モデルが変化した。自分の代わりに議論してくれる人を選ぶのではなく、自分たちが直接議論する。(2)今年、国民議会選挙と地方選挙がある。与党は各地方で候補者を選ぶ。草の根から、コムーナの中から選ばれる。(3)大統領はコムーナ国家をつくろうと憲法改正を呼びかけている。コムーナが国家全体に拡大するように、現在、人民が議論中である。