連載1回目が、アンドレア・リッチ氏の第1論文で、地域別・各国別の価値移転総額の推移を計算したとすれば、今回の連載2回目の第2論文は、貿易に伴う不等価交換が、先進帝国主義諸国と新興・途上諸国の一人当たりGDPをどのように変化させていくかを考察したものである。新興・途上諸国の、特に新興諸国のGDPは急速に増大したが、それは労働者・人民を豊かにしたのか? それとも、むしろ貧困化・窮乏化と貧富の格差が深刻化しただけなのか?
以下の考察は、リッチ氏が作成した表について、氏の評価を参考にしながら、その意味合いについて、われわれ独自に考察したものである。
(編集局)
*『Unequal exchange and increasing global inequality. Effects of trade value transfers on world income distribution over 1995-2019』
参照 CD111号 途上国収奪の定量的分析 (その1)
第2論文
「不等価交換と世界的不平等の拡大1995年から2019年にかけての貿易価値移転が世界の所得分配に及ぼす影響」
1.一人当たりGDPの地域別・時系列変化
表1は、世界を、中心地域、新興周辺地域、貧困周辺地域の3つに分類し、地域別に、1995年、2007年、2019年の時系列変化を比較した。GDPの世界平均を100とした場合、例えば、北米2019年の一人当たりGDPは、世界平均の5.462倍になり、サハラ以南は世界平均の13.5%しかない。つまり、北米の一人当たりGDPはサハラ以南の40倍にのぼる。
全体として、一人当たりGDPについて、先進帝国主義諸国が突出し、新興・途上諸国との間に絶対的段差があり、西側帝国主義による途上国収奪の構造がくっきりとあること、新興・途上諸国の一人当たりGDPの時系列変化は、社会主義中国などを除き、変化がないか減少していることが分かる。
表2の一人当たりの不等価交換についても、先進帝国主義諸国が増やし続け、新興・途上諸国が吸い上げられ続けていることが示されている。
また、各地域とも、あくまでも一人当たりGDPは平均である。各地域・各国内部での富裕層と貧困層の貧富の格差(階級的格差)は表示されていない。各地域・各国の貧困層、とりわけ新興周辺地域と貧困周辺地域の貧困層の絶対的貧困化は25年間で悪化したことは容易に想像できる。
結論として、第2論文からも、新興・途上諸国がその経済発展によって帝国主義の仲間入りをしたとか、収奪する側になったという謬論がいかにデマに満ちているかが分かる。
詳しく見てみよう。特徴は以下の通りである。
――第1に、中心地域、新興周辺地域、貧困周辺地域の3つの地域で一人当たりGDPの水準に明らかに格差がある。2019年を縦に見て欲しい。中心地域(北米、経済通貨同盟、西ヨーロッパ、東アジア、オセアニア)は、平均の3.5倍から5.5倍なのに対し、新興周辺地域(中国、ロシア、東ヨーロッパ、中南米、中東)は、東欧こそ平均の1・2倍だが、それ以外は平均の7割~9割にとどまり、貧困周辺地域(南アジア、東南アジア、中央アジア、北アフリカ、サハラ以南)に至っては、平均の1割台から4割にとどまる。まず、中心地域――新興周辺地域の間に質的・根本的段差があり、中心地域――貧困周辺地域の段差は隔絶している。
――第2に、時系列推移(表の横の変化)の累積変化率(1995-2019)をみれば、新興周辺地域、貧困周辺地域ともに、1995年から2019年の25年間で増えたのは中国4.32倍、ロシア1.41倍、東欧1.28倍、南アジア1.33倍の4地域に限られ、それ以外は減少するかゼロ成長であった。
――第3に、一目瞭然だが社会主義中国の25年間の一人当たりGDPの増大が突出している。中国の最貧国からの脱却を示している。1995年のサハラ以南を見て欲しい。世界平均の14.5%と、中国の17.2%と変わりがなかった。ところが2019年の中国の91.4%に対して、サハラ以南は13.5%だ。中国は4.32倍になったのに、サハラ以南はむしろ減少しているのだ。社会主義制度の優位性が鮮明に出ている。
――第4に、中心地域の一人当たりGDPは絶対水準こそ、例えば北米では平均の5倍をキープしているが、この25年間で増えていない。経済通貨同盟や西ヨーロッパではむしろ減少している。先進国といえども新自由主義とグローバル化時代の一人当たりGDPが増えていないのである。
――第5に、累積変化率についてみた場合、3つの地域全体において、1995年から2007年にかけて増えたのに、その後08年から19年にかけて減少する地域が多い。これは、07-08年のグローバル金融恐慌が打撃を与えたことが読み取れる。
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図1は、表1を視覚化したものだ。1995年から2019年にかけての中心地域、新興周辺地域、貧困周辺地域の3つの地域の一人当たりGDPの相対的なトレンドを、世界平均を1とする対数スケールで表したものである。線形目盛では一つのグラフに入らないため1単位の増加が10倍に相当する対数目盛を使って表示したものと思われる。
3地域の断絶、つまり中心地域の一人当たりGDPの突出、貧困周辺地域との隔絶、それだけではなく新興周辺地域との隔絶が一目で分かる。また、グラフは新興周辺地域を中国とその他新興地域に区分し表示している。それによれば、新興周辺地域が増えたのは、社会主義中国が一貫して増え続けたことによることが分かる。むしろその他新興地域は頭打ちから減少に転じている。社会主義の優位性はこのグラフからも分かる。
2.一人当たり不等価交換
表2は、一人当たりの不等価交換(年間移転額)をドル表示で、1995年から2019年までの25年間の推移をみたものである。「現行ドルで」欄は一人当たりの不等価交換額を示し、「一人当たりGDP比」欄は、その不等価交換額を一人当たりGDPで除したものである。各期間「95-19」「95‐07」「07-19」はそれぞれの期間の平均である。特徴は以下の通りである。
――第1に、不等価交換から得る所得は、1995年から2019年にかけて、中心地域で軒並み急増している。一番上の欄を横に見ていくと、北米は761ドルから2680ドルへ、経済通貨同盟は1720ドルから4836ドルへ、西ヨーロッパは2429ドルから6921ドルへ、いずれも3倍から3・5倍へ増えている。にもかかわらず北米は全期間約4%とほぼ変わらないのは一人あたりGDPそのものが急増しているからだ。絶対額でも一人あたりGDP比でも北米よりヨーロッパの方が数字が大きい。
――第2に、これとは逆に、新興周辺地域、貧困周辺地域とも、同じ25年間で、中心地域へ吸い上げられる所得は急増している。中国では絶対額では比較的少ないが196ドルから426ドルへ、ロシアは767ドルから1850ドルへ、東欧は901ドルから1309ドルへ。
――第3に、「一人当たりGDP比」を見た場合、「95-19」で経済通貨同盟や西ヨーロッパでは平均して10.3%、12.7%を占めており、2007年までよりもそれ以降の方が増えている。それぞれ8.5%から12.2%へ、10.6%から14.8%へ。
――第4に、ここでも社会主義中国は、一人当たりGDPで14.1%(95-19)を中心地域へ貢いでいるが、07年までの19.1%(95-07)に対し、それ以降は10.0%(07-19)に減らしている。小康社会建設や絶対的貧困からの脱却政策という共同富裕の実現を目指す社会主義中国の成果を示している。
――第5に、東南アジアは特に顕著で、25年間で中心地域への貢物は463ドルから1631ドルへ増え、とりわけ一人当たりGDP比で46.8%、一人当たりGDPの約5割を中心地域へ吸い上げられている。北アフリカで、一人当たり所得のほぼ30%に相当する価値が恒常的に流出している。
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図2は、中心地域-新興周辺地域-貧困周辺地域の3つの地域のGDPに占める価値移転の相対的な割合をグラフ化したものだ。中心地域では1995年の5.4%から2019年には7.8%に大幅に増えた。これに対して1995年にGDPの約20%もの価値流出から出発した新興および貧困の2つの周辺地域は共に流出に変わりはないが、異なった傾向を示している。新興地域の流出額は2000年代初めから急速に減少し、2019年には6.3%にまで減少した(基準の0.0へ向かって右肩上がり)。一方、貧困地域は1990年代に急速に流出額が増え、2000年代初頭から減少したが、2019年には22.8%と、依然として1995年の出発時点と同程度の流出規模となっている。
参照 CD111号 途上国収奪の定量的分析 (その1)