財官の癒着と腐敗を引き金にした自民1強体制の崩壊
石破政権は、10・27衆院選に惨敗し、自公政権は少数与党に転落した。民主党政権発足以来15年ぶり、さらには自民党が下野して以来30年ぶりのことだ。第2次安倍政権以降盤石に見えた「自民一強支配」体制がついに崩壊した。有権者は安倍政治、岸田政治へNOを突き付けた。政治腐敗と企業献金問題が直接の引き金だが、軍事最優先と人民生活破壊、医療介護制度と社会保障制度破壊、統一教会との関係、健康保険証の廃止とマイナカード強行等への人民の不信と怒りが選挙結果に表れたとみるべきだ。岸田、安倍政治だけではない。歴代自民党政権、自公政権が行ってきた、新自由主義改革、日米同盟最優先、法人税減税とセットの消費税増税、医療・介護・福祉等社会保障切り捨て、非正規労働拡大、長時間労働等々数十年に及ぶ悪政の矛盾がここにきて選挙結果として現れたのだ。
少数与党となった自公政権は、予算委員会、法務委員会(選択的夫婦別姓)、政治改革特別委員会(旧文通費、企業献金問題等)の委員長を立憲民主に、安保委員会の委員長を維新に明け渡さざるをえなかった。13名を超える野党議員の賛成を得なければ、年度予算をはじめとするいかなる法案も可決できない。この有利な政治状況を真の人民の政策実現へとつなげていくことが重要だ。
石破政権は、野党の一部を抱き込み法案成立の協力を得る「部分連合」を追求している。7議席から28議席に拡大し、軍事と原発推進、改憲等の政策的一致点の多い国民民主党の取り込みである。石破政権は、同党が掲げる「103万円の壁」や「トリガー条項」を基本的に受け入れ、臨時国会の補正予算、通常国会における巨額の軍事予算と戦略的企業への財政投入等を含む来年度予算案を成立させる算段だ。国民民主党は、取り込まれ、協力することを前提に自公との協議に易々と応じている。選挙民の思いを裏切る行為を絶対に許してはならない。
政治不安定化の背景にある人民生活悪化と政権への不満
日本の自公政権の少数与党化と政治的不安定は、先進帝国主義諸国に共通している。トランプ政権の誕生=バイデン・ハリスの惨敗、ドイツ連立政権崩壊、フランス・マクロン政権の不安定化、イギリスの危機と政権交代、また別の意味で韓国の政治的混乱と崩壊寸前の尹政権など資本主義の危機と行き詰まり、これを背景とした政権政党の危機の中で起こったことだ。とりわけ軍事最優先と戦争、人民生活悪化、労働環境の悪化、それによる人民生活破壊が長期化し、現政権が全く改善の方策を打ち出せないことが原因だ。
国会での「103万円の壁」問題が支持される背景には人民生活の困窮、とりわけ親世代から継続した若者の根深い貧困問題、高額の授業料や教育費、奨学金の返済など劣悪な教育環境と生活実態がある。だからこそ「103万円の壁」問題に矮小化してはならない。消費税減税と廃止、法人税増税、最低賃金の大幅アップ、同一労働同一賃金など雇用の安定と収入の増加、教育費負担を削減させるなど人民生活にとって重要な課題は山積している。
だが政府は全く逆のことをやろうとしている。さらなる人民関連「サービス」の切り捨てと収奪をもくろんでいる。11月29日、「財政制度審議会」は2025年度予算編成に向けた建議を公表した。医療費自己負担限度額の引き上げ、全世代の医療負担原則3割、要介護1・2の介護給付外し、介護サービス利用料の負担率引き上げ、生活保護基準の引き下げと国保加入の義務化、学校や図書館など公共施設の統廃合、下水道事業の予算削減と使用料引き上げ等が並ぶ。これらを含む自公政権の予算案が通常国会に提案される。
アベノミクスの「トリクルダウン」政策は大企業と富裕層をますます富ませ、大企業の内部留保を553兆円(2024年第3四半期)まで膨張させた。一方で、中小・零細の製造業・非製造業は、生き残るために低賃金と非正規化を労働者に強いた。大企業の企業収益のために非正規雇用・請負労働の拡大と労働強化、企業収益優先の雇用流動化、低賃金を労働者全体に押しつけてきた。実質賃金は年々目減りするのに、毎年のように料率が上がる社会保険料、医療費や教育費負担の高騰。亢進するインフレ。生活の切り詰めもいつ限界を超えるかわからない。将来が見えない。アベノミクス破綻のツケこそが、「トリクルダウン」して労働者に押しつけられてきた。菅、岸田政権が引き継ぎ、石破首相もまたこれを引き継ごうとしている。
軍事費倍増か人民生活防衛か 両立はできない
臨時国会冒頭、所信表明演説で石破首相は、「少数与党」となった結果として「幅広い合意形成」を目指すとしたが、具体策にはほとんど触れず、政治献金の廃止や人民生活防衛のための諸策にも言及しなかった。最優先事項として挙げた第一番目が「防衛力の抜本的強化」だ。最大の対立点は、対中軍拡・大企業優先をとるか、人民生活・いのちとくらしをとるかだ。両立は不可能だ。トランプは同盟国の負担増を主張し軍事費GDP比3%との発言もしている。このまま対米従属を続けて人民生活の窮乏化と崩壊を招くか、米国ときっぱり手を切るかが突きつけられているとみるべきだ。
安倍政権による集団的自衛権行使解禁と戦争法(2015年)強行、岸田政権の「安保3文書」閣議決定と2027年までに米と共に中国と戦争できる体制を作り、南西諸島と日本列島の対中戦争基地化、弾薬庫の新増設、武器輸出の強化と軍需産業育成、そのための5年間で43兆円にのぼる軍事費の調達を対米公約。石破政権は、これを引き継ぐつもりだ。今臨時国会で軍事費の補正予算として過去最大の8268億円を計上した。2024年度当初予算の7・9兆円と合わせた軍事費は約8・7兆円。2022年の1・5倍の規模だ。防衛省の2025年度概算要求8・5兆円さえすでに超えているのだ。
年明けの通常国会には、「サイバー攻撃の可能性」で他国の主権侵害であっても先制攻撃をかけ、民間への情報提供も強制する「能動的サイバー防御(ACD)」法案を上程しようとしている。さらに、石破政権は国内の軍需産業の兵器輸出における国際競争力を強化する「防衛産業戦略」の策定を2025年中に行うことも明らかにしている。
昨年度超えだけを意識した一般会計13・9兆円(財政支出21・9兆円、事業規模39兆円)の補正予算は、住民税非課税世帯への3万円給付、子ども一人当たり2万円加算と電気ガス料金・ガソリン代補助に1・3兆円を当てるが、半導体産業の支援に1・5兆円、地方創生に1・8兆円を支出し、財源に6・6兆円の国債を追加発行する。24年度末の国債発行残高は1100兆円を超える。このツケが若者と将来の世代に回されることになる。
政府は2026年度に軍事費増税(たばこ税、所得税、法人税)を行う方針を確認した。日本共産党も含め野党全体が、中国脅威論、対中軍拡容認論に毒され、軍事費財源論に明確にNOを突きつけ、増税も国債も反対だと強く主張できない。米国に従属した対中国戦争体制準備と国民生活の抜本的な立て直しの両立は不可能である。人民の命と生活を守るために、対中戦争準備と巨額の軍事費を撤回させることを鮮明に主張すべきだ。
対中戦争準備をやめ、「いまこそ日中友好」を
最大の対決点とすべきは、対中軍拡・戦争準備のための5年間で43兆円に及ぶ大軍拡予算を撤回させることだ。そしてそれを人民生活防衛、いのちと暮らしに回させることだ。
人民運動と世論が作り出した少数与党という優位な条件を、国会内での与野党の駆け引きに矮小化させてはならない。そのためには自公政権への不信と怒りの声を具体的な要求を掲げた行動と結びつけて闘うことが必要だ。運動と世論の力を強めることで、野党の安易な妥協を許さず、対決姿勢を維持させることができる。軍事費を削って人民関連予算に回せ、大企業優遇税制の廃止と累進税制の抜本強化による富裕層への増税、消費税減税から廃止を要求しよう。
全国各地で、イスラエルの虐殺糾弾・パレスチナ連帯闘争、沖縄反基地をはじめ基地建設と弾薬庫新増設反対闘争、軍事費削減と生活防衛闘争、改憲反対闘争、原発再稼働反対闘争、反貧困と生活支援闘争、教科書改悪反対・日の丸・君が代強制反対闘争、日本の戦争責任・加害責任追及の闘い、差別に反対する闘争、外国人差別と入管法反対闘争、部落解放闘争、労働組合運動などが取り組まれている。それら一つ一つが石破政権と対決する重要な闘いだ。
トランプ政権の誕生で、また日本の新たな政治状況のもとで、「27年台湾有事」阻止、対中戦争準備阻止が最重要課題の一つとなる。そのような中で、反基地闘争をつなげる「戦争を止めよう!沖縄・西日本ネットワーク交流集会」が、リードする全国的な政党・組織がない中で開催された。ここでは戦争を煽るのは中国ではなく、日本と日米安保こそが東アジアの脅威であるとの認識が拡大している。反中プロパガンダと対決し、「いまこそ日中友好」を掲げ日本政府と対決していこう。衆院選の結果生まれた政治状況を人民に有利な方向へ生かすため、現に今闘っている地道な闘争を継続強化していこう。
2024年12月7日
『コミュニスト・デモクラット』編集局