7月28日にマドゥロが大統領選挙で勝利してから2カ月以上が経った。しかし今なお、米帝と極右勢力の攻撃は、さまざまに形態を変えながら続いている。彼らは、全国選挙管理委員会が発表した公的結果を認めず、最高裁の判定も無視して、政権転覆の試みを繰り返している。だが、反政府行動が縮小し衰退していく中で、ゴンサレスは、マチャドらに相談することなくスペインへ逃亡した。その際にマドゥロの勝利を認めていたことが明らかになった。「グアイド 2・0」戦略は破綻した。
しかし、西側帝国主義はまだ諦めていない。再びゴンサレスを担ぎ上げようとしている。米英や欧州連合(EU)など31カ国・機関が、9月26日に米国で閣僚級会合を開き、マドゥロ政権に対し、野党や抗議デモへの弾圧をやめて政権移行の議論を始めるよう要求した。10月4日にはゴンサレスが、来年1月10日に大統領に就任するために帰国すると表明した。実現できるとは思われないが、事態がどう展開するか予断を許さない。ベネズエラ・ボリバル革命連帯運動を強めよう。
(小津)
反革命策動の撃退とゴンサレスの逃亡
マチャドやゴンサレスが組織したテロ組織「コマンディトス」は、選挙後の2日間の武装暴動でインフラの破壊を引き起こし、25人が死亡、192人が負傷したが、軍と警察の治安部隊は48時間後に全国で秩序を回復した。この暴動の鎮圧を、西側メディアや一部左翼メディアは「弾圧」と称して喧伝した。また、CNE(全国選挙評議会)が選挙結果を出せないようにするために全国の投票所を攻撃・破壊し、選挙結果を消失させようとしたが、わずかなものにとどまり、約97%は保持された。それによってマドゥロの当選が発表されたのである。
その後8月17日と27日に反政府集会・デモが行われたが、大規模なものにはならず、むしろ縮小した。逆に8月22日にマドゥロ政権を支持する大規模な大衆集会とデモが行われ、反政府勢力を圧倒した。8月30日には電力システムへの攻撃によって全国的な停電が引き起こされたが、2019年の数日間停電したときとは違って、今回はその日のうちに回復した。5年前のときの教訓から防御システムが強化されていたからだ。9月14日には、マドゥロ大統領、ロドリゲス副大統領、カベージョ内相を含む政府高官の暗殺計画が明らかになり、それに関与した傭兵14人が逮捕された。中心人物はCIAのこの地域の責任者だった。その後もさまざまな攻撃がことごとく撃退される中で、米国によるベネズエラ政府高官16人への新たな「制裁パッケージ」が発動された。それはクーデター策動と内政干渉が失敗したことの裏返しでもある。
米帝=極右は、大統領と主要閣僚を暗殺して来年1月10日の新政府発足の際に総仕上げとして、米国と西側諸国が認めるゴンサレス政権へと向かうはずだった。まさに「グアイド2・0」だ。だが、9月7日にゴンサレスはマチャドらに相談せずにスペインへ逃亡して計画は頓挫せざるを得ない状況になった。9月2日には、3回目の召喚にも応じなかったゴンサレスに、法律の露骨な無視、偽造、共謀などの罪で逮捕状が発行されていた。居場所が不明だったゴンサレスは、スペイン大使館にいた。国民議会議長ホルヘ・ロドリゲスが対応し、ゴンサレスとの会談にはデルシー・ロドリゲス副大統領とスペイン大使ラモン・サントスも同席した。その際にゴンサレスが署名した国民議会議長宛ての書簡には、CNEの公式結果を支持した最高裁の判定を尊重することが述べられ、また、政治活動もしないことが誓約されていた。だが、スペイン下院と欧州議会がゴンサレスを勝者として承認してスペイン首相がそれを追認したことを背景に、ゴンサレスは、署名は強制されたものだとして約束を破り、ベネズエラ政府との合意に反するさまざまな公的活動や政治活動に従事し始めた。それで、政府は、機密扱いとされていた書簡や会談の録音テープなどを公開し、強制ではないことを示す具体的な状況を明らかにしたのである。
また、ゴンサレスがCIA工作員であったことが暴露された。彼は1980年代にエルサルバドルで虐殺や暗殺、テロ、投獄を行なった残忍きわまりない「コンドル作戦」で暗躍したのだ。彼は叩けば埃が出る人物なのである。
最高裁が詳細な選挙審査でマドゥロの勝利を確認
CNEが、選挙結果を宣言できる国内唯一の公的機関である。それは憲法に基づいている。にもかかわらず、米帝=極右勢力は勝手に(したがって違法に)「並行CNE」をつくり、偽りの世論調査と得票率をでっちあげ、ゴンサレスの勝利を決定した。米国の指図で野党が勝手に自分たちの候補の当選を主張することがどれだけメチャクチャなことか。誰でも分かる。それを右翼メディアと米帝の国際大手メディアが大々的に報じ、CNEの公的結果報告を不正だと喧伝した。日本のメディアも日本共産党を含む諸政党もそれに追随している。米国が支援する候補者が負けた場合は、いつも選挙は「不正」とされるのである! それはクーデターを行うために早くから計画されていた策略だった。
それに対してマドゥロ大統領は、最高裁判所に選挙結果の審査を要請することによって平和的に解決することを目指した。公聴会には大統領候補10人のうちゴンサレス以外の9人が出席したが、ゴンサレスは出席しなかった。また、ゴンサレスを支持した政党の代表者らは、選挙記録を保存していないと述べて選挙資料を提出しなかった。
最高裁は、結果を詳細に検討した後にCNEの公表結果が選挙機器の報告と一致していることを確認し、8月22日、マドゥロがベネズエラ・ボリバル共和国の大統領に再選されたことを承認する最終判決を下した。その最高裁の判決を国民議会が承認した。
国際的なマドゥロ政権支持と米=極右野党糾弾の拡大
マドゥロ勝利の国際的支持の流れを決定づけたのは社会主義である中国とキューバだ。次いでロシアやグローバル・サウスが続いた。中国は、米国をはじめとしてそれに追随する諸国が大統領選挙での誤った情報を広めようとしていることを批判し、米国の内政干渉の試みを糾弾。ベネズエラの主権と国民の選択を尊重するよう呼びかけた。キューバ外相は、ベネズエラの不安定化と暴力を煽ることを狙った米南方軍司令官ローラ・リチャードソンによる最近の内政干渉発言を糾弾した。キューバ労働組合(CTC)をはじめとしてキューバ労働者・人民が、ベネズエラにおける不安定化と暴力を促進しようとする国際的なメディア操作を糾弾し、ベネズエラ人民との連帯を表明した。ALBA・TCP(米州ボリバル同盟・人民貿易協定)は8月26日に第11回臨時サミットを開催し、マドゥロ政権への支持とベネズエラの主権への強い尊重を再確認した。8月27日時点で52カ国の政府と多くの国の左翼政党や社会組織が、マドゥロの勝利を明瞭な形で歓迎し、ベネズエラ最高裁の判定を積極的に支持し承認している。
ラ米カリブで米帝=極右野党に半ば同調したメキシコ・ブラジル・コロンビア3カ国が「最高裁の決定尊重」「内政不干渉の原則」で一致し、態度を変えつつある。メキシコのオブラドール大統領が、司法改革に対する米帝の露骨な内政干渉に反発したからだ。
経済の順調な回復と発展がコミューンの強化を可能に
マドゥロ大統領は、2024年のGDPの予想成長率が10%を超えると発表した。GDPは今年の第2四半期に8・78%の増加を記録した。今年第1四半期に記録された23年同期比8・40%増に続くものである。21年第2四半期に始まった景気回復プロセスが継続し、13四半期連続で持続的な成長を遂げたことになる。この9月には、ベネズエラで消費される食料のほぼ100%を自国で生産することに成功したと発表された。またインフレの収束も続いている。インフレ率は8月1・4%、9月0・8%で、ここ数十年で最も低い水準となった。為替レートが安定し、脱ドル化が進展している。原油生産は過去22か月で33%増加した。石油輸出も増加し、22年11月と比較して23%の増加である。
今年8月の税収が昨年8月と比較して209%もの増加となった。これを受けて、学校改革を本格化し、教員の給与改善、医療・住宅補助、食育教育を重視し、400万人の児童への給食提供に着手した。
コミューンの発展・強化を通じた「人民権力」の形成へ
マドゥロが大統領選で打ち出した政治綱領「祖国計画2025-2031」では、「人民権力」を政治システムの基盤としてうち固めること、それを地域住民の直接自治統治組織であるコミューンの発展・強化を通じて行うことを確認している。
(注) コミューンは複数のコミューナル・カウンシルを統合したものである。地域の数十のコミューナル・カウンシルが代表者を選び、コミューンを構成する。コミューナル・カウンシルは、近隣の200~300家族でつくられ、最高決定機関「人民議会」をもち、現地のさまざまな重要問題を人民自身が討議し決定し遂行する。コミューンは現在全国に約4500ある。「2012~23年の登録コミューン」(政府の公式統計)が3600あまりなので、この1年ほどで急速に増えてきている。
コミューン強化活動の第1回目は今年4月に行われた。全国の約4500のコミューンがそれぞれに社会プロジェクトを提案し(提案総数は約2万5000にのぼった)、15歳以上の人民が投票権を行使して優先プロジェクトを選択し、その実現に国家予算が充てられる。4月に承認された4347の取り組みの大半は、水と電力の供給、道路、医療、環境問題の分野に関連し、その多くがすでに完了しているという。
その第2回目が8月25日に行われた。その際マドゥロ大統領は、政府の官僚主義を削減してコミューン国家を強化する取り組みを加速するよう求めた。今年は年末にもう1回行う予定で、大統領はこの取り組みを今後年4回行うと宣言した。
6月に、マドゥロ大統領は、新しく「コミューンと社会運動」相にアンヘル・プラドを任命した。コミューンの全国的組織化の先頭に立っている「エル・マイサル・コミューン」の中心的活動家である。このコミューンは、27のコミューナル・カウンシルから成る農村のコミューンで、最も成功したコミューンのひとつである。今はまだ一次生産者にとどまっているが、最終的には地域の経済循環全体をコントロールすることを目指している。また、22年3月に、50以上のコミューンで構成する全国組織「コミューン連合」をつくり、政府と協力してコミューン間の交流を推進してきた。ベネズエラのコミューンは国際的にも注目されており、22年11月と23年3月に「コミューン連合」が中心となって、「コミューン民主主義」についての国際会議が開催された。世界各地の人民権力の経験を集め、国際的な討論の場がつくられたのである。
「コミューンか無か」――これはチャベスのスローガンである。ベネズエラ人民は、下からの人民統治と上からの人民権力を結びつけた人類史上かつてない実験に本格的に乗り出したのだ。この挑戦を支持し注目していきたい。