イラン挑発、中東全域への戦争拡大策動を糾弾する
7月31日、イスラエルはイランの首都でハマスのイスマイル・ハニヤ氏を暗殺した。イラン新大統領の就任式に出席するために迎賓館に滞在していた国賓を暗殺したのだ。イランの領土で、賓客を爆殺するなど、イランへの宣戦布告そのものだ。
ハニヤ氏暗殺の数時間前には、レバノン・ヒズボラのフアド・シュクル司令官を爆殺した。イスラエルは4月にも、シリア・ダマスカスのイラン大使館を爆撃し、イラン革命防衛隊コッズ部隊の司令官を暗殺した。今回の攻撃はそれをはるかに上回る凶悪な攻撃だ。イランは直ちにイスラエルを非難し、最高指導者ハメネイ師は「この犯罪を後悔させる」と報復を宣言した。
ハニヤ代表はパレスチナ・ハマスの最高政治指導者であり、停戦協議の首席交渉官である。交渉相手を停戦協議の最中に殺害したのだ。ネタニヤフが停戦協議に応じるつもりがないことを自己暴露した。イスラエルには外交は全くないということだ。ハニヤ氏は2006年のパレスチナの選挙で勝利したハマスによって政府首班に指名され、その後ファタハ・ハマス合同政府の首班を務めた要人でもある。合法的に選挙で選ばれた唯一の代表だ。
今回の暗殺は、平気でパレスチナ人民、子どもと女性を大量虐殺し、200万人を飢餓状態と感染症などで死の淵に追いやり、民族絶滅に陥れた上に、その指導者を平気で暗殺するという凶暴な殺人国家、暗殺国家の正体を世界にさらした。文字通りテロ国家である。
われわれは、テロ攻撃を命じたネタニヤフの戦争犯罪、国際法違反の戦争行為を断固糾弾する。
レバノン侵攻はイスラエルの自滅への道
イスラエルはイランを挑発し、戦争拡大を企図しているのだ。さらには、ガザ地区のハマスと抵抗勢力だけでなく、イラン、レバノン、イエメン、シリアとイラクの親イラン民兵=「抵抗枢軸」全体に対して戦争を挑発している。イランと「抵抗枢軸」の忍耐にも限界がある。
イスラエルはヒズボラの反撃を契機にレバノン南部に侵攻するつもりだ。レバノン南部を占領し、武器や装備とインフラを破壊しようと考えている。しかし、それはイスラエルの力量を超える攻撃となり、泥沼にはまり込むだろう。第1に、ヒズボラはガザの抵抗勢力を上回る戦力と火力を持つ。イスラエル国内も被害が避けられない。第2に、イスラエルが動員できるのは予備役を含めて数万人に限られ、動員期限は1~2カ月だ。
ガザ、ヨルダン川西岸に加え、レバノンにまで手を出せば、兵力が三正面に分散される。レバノン方面ではイスラエル軍に匹敵する兵力を持つヒズボラを攻撃すれば、身動きが取れなくなる可能性が大きい。ガザでハマスの壊滅などできなかった。トンネルを利用したゲリラ戦に手を焼き、爆撃で市民を殺すことしかできない。それ以上不利な状況がレバノン戦争で発生する。イランとの戦争になればもっと大規模なミサイル攻撃、空爆などの応酬となる。大規模な被害は避けがたいし、米軍が全面参戦しない限りイスラエルが勝てる見込みはない。レバノン侵攻に限っても、長期的にはイスラエルの軍事的消耗と経済衰退による凋落は避けがたい。
米帝国主義、すでにイスラエル中東戦争に参戦
バイデン政権は、イスラエルが連続的暗殺攻撃の直後に、中東の米軍部隊の増援を宣言し、空母打撃部隊の交代派遣、戦闘機部隊や対空ミサイル部隊の増派など、イスラエルの戦争拡大に参戦する体制をとった。米国防省は、「米軍部隊を保護し、イスラエル防衛の支援を強化する」とイランを脅迫した。
それ以前から、米政府は、大量の武器・弾薬・ミサイルをイスラエルのガザ大虐殺に供与し、国連での停戦決議やイスラエル非難決議に全て拒否権を行使し、イスラエルを防衛した。それだけではない。米軍はすでに中東全域でイスラエルの侵略戦争に参戦している。前回のイスラエルのシリア大使館攻撃に対するイランからの「報復攻撃」を迎撃したのは米英軍だ。紅海ではイエメンのフーシ派を攻撃し、イスラエル向けミサイル、船舶攻撃ドローンを迎撃しているのも米軍だ。イラクやシリアでは親イラン民兵を攻撃している。ガザなどでは電子情報や偵察を請け負い、イスラエル軍に爆撃目標を教えている。現状でも米国はイスラエルと共謀・共犯関係にある。なぜここまで米国はイスラエルを支えるのか。それは、中東の石油覇権・軍事覇権の維持には、その侵略的先兵であるイスラエルが必要不可欠だからだ。
イスラエルの政治的・経済的危機
今やイスラエルという「入植者植民地国家」は、一時的和平や外交すら欠如させた、ただ侵略と大量虐殺と暗殺を繰り返すだけの異常なテロ国家に成り下がっている。このような怪物を作ったのは米英仏独の帝国主義大国である。
しかし、いよいよ、その血に飢えた侵略国家が歴史的な限界に来ている。ネタニヤフは、国内で刑事訴追され、首相を辞めれば直ちに逮捕される。侵略と虐殺をやめ、恒久停戦をしたとたん、ネタニヤフ内閣は崩壊する。自らの保身のために戦争を次々と拡大しているだけなのだ。もちろん、総選挙をやっても、ベングビールやスモトリッチなどの宗教極右が権力を握る可能性もある。それでも諸矛盾は爆発寸前にある。国内で拡大する人質交換優先の声、ネタニヤフ内閣打倒の運動、軍からの目途のない戦争継続への批判、宗教極右の一時停戦協議禁止要求、超正当派ユダヤ教徒の徴兵をめぐる対立、等々。
貿易・投資が急減し、経済危機が深刻化している。莫大な軍事費の重圧が財政破綻を引き起こしている。兵力不足が徴兵制を根底から揺さぶっている。戦争を継続できるのは、武器・弾薬と財政を丸ごと支える米帝国主義の支援があるからだ。
しかし、レバノン戦争や中東戦争に手を出せば、この弱体化したイスラエルの政治・経済・軍事構造の脆弱な均衡が崩れかねない。表向きは強靱に見えるイスラエルの実態はボロボロなのだ。世界的力関係と運動の力でこの弱点を顕在化させよう。
米=イスラエルを孤立させよ
中東和平の流れを定着させよう
米・西側政府・メディアは、「報復は24時間以内、48時間以内」など、イランの報復だけに関心を逸らせ、イランの報復を逆手にとって、米=イスラエル共同でイラン攻撃に打って出ようと虎視眈々と備えている。
しかし、時代は変わりつつある。帝国主義の挑発に乗るのではなく、社会主義中国とロシアやBRICS・SCOなどグローバル・サウスと連携して、昨春のイラン・サウジアラビアの歴史的和解、「北京宣言」に結実したパレスチナ諸派、ハマスとファタハの歴史的和解と暫定政府合意という、中東における歴史的な平和共存の流れの中で、今回の事態を解決する方向が模索されている。イランは8月7日に開かれるイスラム協力機構OICの外相会議でイスラエル非難と制裁実施を呼びかける。反撃の権利を主張しつつ、軍事だけでなく政治的経済的に孤立させ、イスラエルの戦争拡大を押さえ込むつもりだ。
7月31日、国連安保理緊急会合で、イランはイスラエルの暗殺攻撃をテロ行為と非難した。アルジェリア、中国、ロシアが同調して非難した。一方、イスラエルは開き直ってテロ組織を支援しているのはイランだと反論し、米英仏が同調した。日本政府はイスラエルを非難せず、危惧を表明し、事実上米英仏に追随した。
前回イランによるイスラエルへのミサイル迎撃に協力したヨルダン、エジプト、サウジなどは、今回は非協力の方向に動いている。ヨルダンは20年ぶりにイランに外相を送り、関係改善と地域の安定化を働きかけた。
脱植民地化の新しい時代と国際反戦運動の任務
ガザ戦争を阻止し、ガザ戦争の中東戦争へのエスカレーションを阻止すること。これが世界の反戦平和運動、パレスチナ連帯運動の喫緊の課題である。
中東は、20世紀初頭以来、第一次世界大戦、第二次世界大戦、その後の米ソ冷戦時代、ソ連崩壊後の米帝一極支配の時代、そして今日に至るまで、帝国主義列強のやりたい放題の石油略奪と植民地支配、新植民地主義支配に翻弄されてきた。それが100年を経てようやく、昨春のイラン・サウジ和解と10月のパレスチナ人民のアルアクサ洪水作戦をきっかけに、米英仏帝国主義とイスラエルの侵略と石油略奪の暗黒の時代から抜け出す動きを見せ始めている。
今回の暗殺をめぐるイランと「抵抗枢軸」による報復の権利をわれわれは支持する。
しかし、反米・反帝の国際反戦運動の任務は、大衆的な圧力を背景に、米=イスラエルの中東戦争への拡大に反対し、帝国主義の中東石油覇権を糾弾することであり、パレスチナ抵抗勢力と「抵抗枢軸」の民族解放戦争を支持し、世界中のパレスチナ連帯運動と協力してガザ恒久停戦、パレスチナ独立国家樹立を勝ち取ることである。さらには、岸田政権と日本帝国主義のイスラエル支持、米=イスラエルの中東戦争の黙認と容認を厳しく非難することである。
2024年8月7日
『コミュニスト・デモクラット』編集局