南シナ海でフィリピンに対中挑発を煽る日米
日米豪比の対中国軍事包囲網に反対する                  

「東アジアの安全保障環境は厳しさを増している」「中国の海洋進出――力による一方的な現状変更」など政府・マスコミの常套句を使った「中国の脅威」が報道されない日はない。
 今、日米比の政府とマスコミは南シナ海での領有権問題を巡り、中国への中傷とバッシングの激しさを増大させている。フィリピンのマルコス大統領はアジア安全保障会議で、中国が「武力や威嚇、根拠のない主張で南シナ海の平和と安定を損ねている」と声高に批判した。日本のマスコミは、フィリピンの主張をそのまま垂れ流し、日本政府もこれに同調している。
 しかし、領有権問題をめぐって南シナ海で対立と緊張を作り出し激化させているのは誰か、日米とフィリピンの側か、それとも中国の側か、事実に即して明らかにしなければならない。

セカンドトーマス礁を巡る問題の真相

 フィリピンをけしかけて領有権問題で南シナ海での緊張を煽り、対中軍事包囲網にフィリピンを参加させる――これは米国がマルコス政権成立以前から狙ってきたことだ。米国はマルコス新政権を抱きこみ、日本、台湾、韓国と並んで「アジアのウクライナ」としてフィリピンを中国との対決の方向に舵を切らせることに成功した。マルコス政権の中国に対する言動は、米国と日本を後ろ盾にし、その威を借りて挑発を繰り返すものだ。米国の意図を直接反映して行動しているのだ。
 フィリピンのドゥテルテ前政権は、セカンドトーマス礁(アユギン礁中国名:仁愛礁)の領有権をめぐる主張の相違を棚上げにして、これ以上の対立をさせないこと、経済協力を強めることを中国政府との間で合意していた。フィリピンが1999年に国際法に反して意図的に座礁させた老朽艦船を撤去すること、船体の補強や恒久的な施設建設をしないこと、補給物資の搬送を事前通知し検証すること――要するに現状変更しないことなどが「紳士協定」として合意された。中国は座礁船の将来の撤去を前提に人道的配慮から一時的な措置として座礁船への生活物資の補給を認めてきた。領有権にこだわれば戦争になりかねない、セカンドトーマス礁は中比だけでなく台湾、ベトナムも領有権を主張している。主張の違いを互いに認めた上で、現状凍結と話合いを続けるしかないのだ。
 ところが、マルコス政権は昨年8月以降、中国との沿岸警備隊のホットラインの仕組みを一方的に廃棄した上で、中国との合意を破って恒久的施設の建設に向けて座礁船を修理する動きを始めた。中国は合意に反すると何度も警告した。中国が海警の船舶からフィリピンの補給船に放水したのは、この挑発的行為を阻止するためである。フィリピン側はその後も物資の投下など挑発行為を執拗に繰り返し、中国の対抗措置を招いている。マルコスは、中国との合意の存在を知りながらそれを破棄して中国を非難し挑発行為を続けているのだ。
 中国がフィリピンの漁船の操業を容認してきたスカボロー礁(黄岩島)でも、フィリピンは漁民の保護や漁業支援を口実に政府船を派遣し、漁民を煽動して南シナ海の紛争の挑発者になることを奨励している。
 中国とASEAN諸国の共同の努力により南シナ海の情勢は概ね安定してきた。「航行の自由」や漁業に何の問題もなかった。それを壊したのはフィリピン側である。中国報道官は、フィリピンに「海洋侵害活動と挑発行為を停止しできるだけ早く対話と協議を通じて紛争や意見の相違を適切に処理する正しい軌道に戻る必要がある」と呼びかけている。

フィリピンを背後から唆しているのは日米

 南シナ海での緊張激化と戦争の危険の原因は、報道とは逆にフィリピンの挑発的行動であり、その後ろ盾となって煽動している米国と日本である。根底には米国が追求する対中軍事包囲網の形成がある。とりわけ領有権問題をめぐる対立では日本の役割が大きい。争いの最前面で使われる巡視船については、フィリピンが持つ3隻の大型巡視船の内、2隻は日本のODA供与、1隻はフランス供与だ。日本は200トン級小型巡視船10隻も供与してきた。さらに日本は今年5月に大型巡視船5隻の大量供与を決めた。要するに中国に立ち向かえとどんどん大型巡視船を与えて煽っているのは日本なのだ。
 米も負けていない。去年の6月には米日比で沿岸警備隊合同演習を初めて行った。軍レベルでも日米はフィリピンの引き込みに全力をあげている。昨年8月には、日米豪比の海軍合同演習を初めて行ったが、この際には、初め中国との対立激化を危惧して不参加を

表明したフィリピンを強引に参加させた。今年4月の日米比3国首脳会談でも4カ国合同軍事演習の定例化を確認した。これらの動きを背景に、米日の加勢を笠に着て、力ずくで現状を変更し、緊張と対立が激化しても領有権で自国の利害を押し通そうという野心を露わにしているのがフィリピンだ。この「力による現状変更」を支えるのが日本と米国だ。
 インド太平洋司令官は、南シナ海での中国の「好戦的攻撃的行動」に対して、兵士が殺された場合は1951年の米比相互防衛条約が発動できると述べた。「台湾有事」と並んで、南シナ海の中比紛争が対中戦争開戦の口実にされようとしている。

日米比3カ国首脳会談で一段と加速

 岸田が訪米し「日米グローパルパートナー」を宣言した4月の日米首脳会談の直後に、米日比は初の3国首脳会談を行った。共同声明は、事実上3国の対中軍事同盟化に向けた動きを強めた。自衛隊とフィリピン軍の相互往来を促進する円滑化協定(RAA)交渉の早期妥結、海上自衛隊との多国籍共同軍事訓練の推進、2025年に日本周辺での海上訓練の実施、ODA(政府開発援助)で新たに5隻の大型巡視船の供与と訓練要員派遣、さらには今後1年以内に3カ国の沿岸警備隊がインド太平洋地域で共同訓練を実施することを決めた。すでに日本側は、安保3文書に基づき軍事戦略に基づく援助OSA(政府安全保障能力強化支援)を通じてフィリピンに海上監視レーダーを供与している。フィリピンを対中軍事包囲体制に組み込むために軍事・経済援助を含めてありとあらゆる手段を行おうとしている。日本は、米国と連携してフィリピンをモデルケースにし、他のASEAN諸国を中国から離反させ日米の側に取り込もうとしている。

米軍…フィリピンに地上発射型中距離ミサイルシステムの展開

 米国にとってフィリピンは極めて重要な位置を占める。対中包囲網の要所「第1列島線」上で、対中軍事力の空白であったフィリピンの基地と軍事力を取り込むことは、インド太平洋戦略の最重要の柱だ。米は、マルコス政権成立後急速に対中軍事同盟の強化を図ってきた。①フィリピンの領有権主張の後押しと沿岸警備隊と海軍への支援による増強、②バシー海峡と南シナ海に睨みをきかせる新たな軍事基地4カ所の獲得(従来とあわせ9カ所)、③空母打撃群の南シナ海での断続的派遣と米比、日米豪比の共同軍事演習の恒常的実施、等を追求し、④本命である対中攻撃力の配備にも動きだした。4月には、米比両軍は定例の軍事演習「バリカタン」を最大規模で行った。初めてフィリピン領海を超えて南シナ海で行われ、タンカーを標的とする実弾訓練と「沈没訓練」も実施した。この演習で米軍は、中国本土を射程に収める「SM6」、巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できる移動式の地上発射装置(タイフォンシステム)を初めてフィリピンに持ち込んだ。中距離核全廃条約INF破棄(2019年)以来、初めての地上発射型ミサイルの配備の動きだ。米軍は中国を包囲する「第1列島線」上に中距離ミサイル配備を軍事戦略の中心においている。日本のトマホークと開発中の長射程巡航ミサイルと並んで、米軍は日比への上記SM6、トマホーク、そして新中距離ミサイルの配備を狙っている。大量のミサイルで中国に「飽和攻撃」体制を取るために、フィリピンを対中攻撃基地、出撃基地、南シナ海への制圧拠点にする計画だ。これらを通じて米軍は中国に対する軍事優位を狙っている。

対中戦争準備のための対中軍事包囲網形成に反対する

 米日の対中戦争準備は以上にとどまらない。米国は、同盟国に軍事力強化を促し、自国の軍事力に組み込む「統合抑止」戦略を進め、米国を中心とした2国間の軍事同盟(「ハブ・アンド・スポーク」)から多国籍で重層的な「格子状のネットワーク」(QUAD、AUKUS、日米韓、日米比等)で中国包囲網を構築する戦略への転換を鮮明にしている。欧州諸国をも巻き込んだアジア版NATOにつながる構想だ。
 日本は、米軍を最高指揮官とする多国籍の対中戦争同盟軍のいわば副官としての役割を進んで引き受けることで自らの地位を高めようとしている。4月の指揮権統合確認に基づき、在日米軍司令官に大将級配備を決めた。対中戦争準備を着々と進めている。憲法はもちろん専守防衛から大きく逸脱する行為だ。
 以上に明らかなように、南シナ海、インド太平洋で軍事力を強化し、軍事同盟を強化し、軍事挑発を繰り返すことで緊張と対立を高めているのは米日比の側である。両国と同盟国、同士国は戦争の危険性を意図的に高めているのだ。
 対中戦争準備をあらゆる面で真剣に推し進めている日本政府、支配層をストップさせ、軍拡と緊張激化をやめさせなければならない。アジアに必要なのは戦争ではなく平和だ。日中平和条約など日中間で交わされてきた合意に基づく中国との平和外交へ転換すべき時だ。


(N/Y)

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