「中国経済崩壊論」「中国崩壊論」「習近平独裁崩壊論」が吹き荒れている。これが目下の反中プロパガンダの中心だ。経済専門であるはずの英エコノミスト、フィナンシャル・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルやブルームバーグが、帝国主義支配層の願望を表すだけのデタラメな報道を連発している。日本の日経紙や一般紙、テレビやネット・ニュースはこれらの受け売りである。「中国崩壊のカウントダウン」、「日本と同じ不動産バブル崩壊だ」(「日本化」論)、「いよいよデフレに突入」、「街には若者の失業者があふれている」、「景気悪化で台湾侵攻する」、「もう米国を追い越せない」等々。
全ての「中国経済崩壊論」に共通しているのは、当然だが、中国経済が社会主義計画経済であることを理解していないことだ。中国経済は、短期的な利潤追求と株価と決算で動くわけではない。現在、中国は2035年を目標に社会主義経済を新しい段階に引き上げようとしている。今はその生みの苦しみと見ているのだ。西側のような歯止めなき量的緩和や財政支出拡大には依拠していない。この点を見なければ、今の中国経済は理解できない。そもそも彼らは、資本主義は発展するが社会主義は発展しない、いずれ崩壊するという根拠のない階級的信念がある。しかし、中国は改革開放以降40年以上にわたり成長してきた。何回も「中国経済崩壊論」が現れるが、繰り返し破綻してきた。
(西)
中国の経済成長率は米欧の数倍 西側は自分たちを心配すべき
「中国経済崩壊論」の狙いは何か?それは、第1に、米帝主導で新冷戦政策とデカップリングを強行する帝国主義支配層が自国と西側諸国の中国依存に警鐘を鳴らすためである。第2に、米を含め西側資本主義経済が新しい構造的衰退の危機と景気後退に陥る中で、労働者・人民の目を国内矛盾から逸らすためである。中国の社会主義経済が米国経済に追いつき追い越す段階に到達しつつあることが根底にある。
そもそも「中国経済崩壊論」が成り立たないことは、成長率を比較すれば一目瞭然だ。図1は、2019年第2四半期から2023年第2四半期までのG7帝国主義主要国の成長率を比較している。過去4年間で 、中国のGDPは19・2%増、これに対して図の上から以下、米国7・6%増、カナダ4・4%増、イタリア1・5%増、日本0・8%増、フランス1・4%増、ドイツ0・5%増である。言い換えれば、中国の経済成長率はアメリカの2・5倍、日本の24倍、ドイツの38倍だ(ジョン・ロス「中国経済は悪すぎる?」(2023-08-31 Observer)。中国の成長率をとやかく言える筋合いではない。
米国経済は、連邦政府機関閉鎖は10月1日は土壇場で回避されたが、先送りされただけだ。財政危機爆発の条件は蓄積されている。しぶといインフレ・物価高、金利引き上げ、石油価格引き上げ、貯蓄率減少による消費減など、「軟着陸」予想が、最近一転して景気後退見通しに変わり始めた。何よりも、戦争と軍産複合体へ傾斜する米国経済は長期衰退の道を転がり落ちている。
図2を見てみよう(同前ジョン・ロス論文)。米国GDPの年平均成長率(20年間の移動平均)は50年間低下傾向にあり、1969年の4・4%から2023年第2四半期には2・0%へと半分以上低下している。実は、この長期衰退こそが、国内政治の機能麻痺や分裂、貧富の異常な格差や中間層の崩壊を引き起こし、勢いを増す中国経済の発展を阻止しようとする階級的衝動の根底にある。しかし、中国をいくら中傷しても、自分はよくならない。
中国経済は8月を転換点に回復・成長軌道へ
「中国経済崩壊論」には、2つのパターンがある。一つは、全くの捏造やデマや全体の一部を切り取る統計操作。もう一つは、不動産不況や若者の失業という実際の危機を針小棒大に膨らませ中国崩壊論にまで飛躍させるものだ。
今年末にかけて、中国経済の回復・成長の現実を前に、「崩壊論」は早晩、崩壊するだろう。中国経済が7月に底を打ち、回復・成長軌道に入ったからだ。これは、7月24日の中国共産党中央委員会政治局会議が満を持して打ち出した対策がある。同会議は、「経済回復は波のようなジグザグの前進である」との厳しい現状認識を示し、経済運営が新たな困難と課題に直面していることを真正面から認めている。内需の不十分さ、民間投資低迷、一部企業の経営難、不動産企業のリスク、国際環境の緊張、等々。その上で、「短期的な安定成長」と「長期的な質の高い発展」とのバランスを重視した経済政策を提起した。
環球時報は「中国経済は回復過程における最悪の局面を脱し、転換点に達した」(9/15)と報じた。新華社は「第2四半期に入ってから、中国の経済指標の伸び率は一進一退を繰り返したが、8月以降、国民経済は回復を加速した」(9/15)と報道した。中国外務部報道官は、9月半ばに、崩壊したのは中国経済ではなく、「中国経済崩壊論」の方だと、辛らつに批判した。全くその通りだ。
――直近では、製造業購買担当者景気指数は、6月から4ヶ月連続で上昇し、9月には50・2と景気拡大の分かれ目の50を超えた。
――生産面では、8月の工業生産高は前年同月比4・5%増と、7月の3・7%増を上回った。
――投資面では、1~8月の固定資産投資は前年同期比3・2%増、インフラ投資は同6・4%、製造業投資も同5・9%と、主要分野への投資が高い伸びを示した。
――新規銀行融資は8月に7月からほぼ4倍になり、過去最高の1兆3600億元に達した。
――消費面では、8月の消費財小売売上高は前年同月比4・6%増、1~8月合計では前年同期比で7%増加した。1~8月のサービス小売売上高も前年同期比19・4%増加した。
――消費者物価指数は8月に下落から上昇に転じ、生産者物価指数も低下幅が縮小するなど、物価水準全体は安定と回復を示している。
中国は中秋節・国慶節の大型連休に入り、旅行・サービス・消費が大幅に増えた。製造業と国内消費が着実に改善している。7月、8月に打ち出された対策が効果を発揮するのはこれからだ。中国政府は今年度のGDP成長率5%は十分可能だと見ている。
最近、さすがに修正記事が出始めた。「中国経済は日本型デフレ回避か、最悪期脱した可能性」(ブルームバーグ9/26)。「中国経済の頭打ちを論じるのは時期尚早」(フィナンシャル・タイムズ9/19)など。IMFも9月28日、中国経済の安定化の兆しと今年の5%の経済成長の見通しを示した。
捏造やデマや統計操作
しかし、こうした修正報道はまだごく一部だ。「中国経済崩壊論」は今なお花盛りである。いくつか紹介しよう。一つはトリックを使った捏造や統計操作だ。四半期ベースで最も悪い統計を年換算し、GDP成長率を異常に低く算出し、中国経済が急落していると主張する。比較的に現状を正確に反映する国際収支の代わりに変動が大きい貿易輸出入を取り上げ、対外貿易が破綻しているかのように描き出す。7月の消費者物価指数(CPI)の2年5カ月ぶりの低下と生産者物価指数(PPI)の続落だけを取り出して「同時下落はデフレ突入」と騒ぎ立てる。等々。
デマの最たるものはニューズウィークだ。客が一人もいないスターバックスの店舗と一台も車が走っていない高速道路の写真を掲載して「上海はゴーストタウンに?」と報じた(日本版9・8号)。これは、早朝の一瞬をとらえた捏造記事であることがすぐに暴露された。人口2千6百万人の上海がゴーストタウンになるはずがない。同誌は懲りずに特集「日本化する中国経済が世界を憂鬱にする」を組んだ(同10・3号)。写真や統計操作で中国バッシングに利用することは、「ウイグル・ジェノサイド」や「債務の罠」などで絶えず繰り返されてきた常套手段だ。ちなみにスターバックスは、25年までに現在の1・5倍の約9000件の店舗を出店する計画だ。中国、上海からの撤退も考えていない。
「家は住むためのもので投機のためではない」「新たな不動産開発モデル」への転換目指す
不動産不況、若者の失業はどうか?まず、中国の不動産不況だが、確かに深刻だ。恒大集団に続いて不動産最大手の碧桂園の債務不履行危機が起こっている。2021年以降の不動産市場の急激な減少、新型コロナの影響を受けた企業の債務不履行の増加、未完成のプロジェクトの出現等が指摘されている。
注目すべきは、これに対する中国政府の政策だ。習近平総書記は2016年に「家は住むためのもので投機のためではない」との方針を提起した。2022年12月、中央経済工作会議は、「新たな不動産開発モデル」への移行を打ち出した。今回政府が打ち出した政策は、低価格住宅の建設と供給、条件付きで頭金の割合と金利の優遇、税制優遇措置などの複合的な政策である。政府はこれによって、居住用の住宅の供給と価格をコントロールしようとしている。
日本のバブル崩壊のように、転売目的の地上げや土地ころがしなどで不動産価格が暴騰から一転暴落し、銀行からの巨額の融資が不良債権化したたものでも、米国のサブプライム危機のように、返済の当てがない低所得者層に無理やりマイホームを購入させて破綻させたものでもない。
「日本化」(不動産バブル崩壊後の停滞)については、中国は、強力な国有企業や国有銀行、通貨の国家管理、財政余力、イノベーション化と投資力、高貯蓄率と国内消費力、輸出力などで、日本にない強靱性・弾力性をを持っている。一部不動産会社の危機や倒産は避けられないが、それが連鎖的な銀行破綻や金融危機に転化する可能性はない。
膨大な若者失業者――「質の高い発展」=産業構造の転換で吸収目指す
まず最初に、中国の都市失業率は2022年の5・7%から、2023年の4月以降、ほぼ5・2%で安定的に推移していることを指摘しておきたい。メディアも「崩壊論」も、若者失業率しか言わない。
都市部における16~24歳の若年失業率は2023年5月に20・8%となった。確かにこの数字は衝撃的だ。しかし、これは中国の急速な発展と共同富裕政策の結果でもある。複数の要因がある。①高学歴化の急速な進展と大卒の急増。大卒のホワイトカラー志向と産業構造が合わなくなった雇用のミスマッチ。②政府の教育格差・教育熱緩和政策で、就職先の学習塾など教育産業が倒産・廃業したこと。③低学歴の出稼ぎ青年労働者の主な就職先である製造、卸売・小売り、宿泊・飲食などでコロナ後の回復が遅れていること、等々。
政府は、高学歴者に対して、不動産・IT・金融・教育だけではなく、変化した社会産業構造に合わせた進路と就職先を見つけるるよう呼びかけている。一方、国家と人民が最も必要としているところで働く「上山下郷」、農業、教育、医学、貧困緩和の支援活動への参加を奨励する「三支一扶」の実例などを紹介し、社会貢献事業への就業を促している。また、交通・旅行、生活サービス、知識・技能等の、中国では新しい産業分野での起業や就業を奨励している。いずれにしても、政府が覚悟して進める計画的な社会産業構造転換のプロセスで生じているものだ。
社会主義経済を新段階=「質の高い発展」へ
2021年3月の全国人民代表大会(全人代)は、「第一の百年」の奮闘目標(中国共産党創立100年までの小康社会完成)の実現を踏まえて、「第二の百年」(建国百年、2049年)に向けて、「国民経済・社会発展第14次五ヵ年計画」(2021~25年)と2035年までの長期目標「社会主義現代化国家建設」を決めた。そこでは、2025年までの5年間を決定的時期と位置づけ、「イノベーション」(発展の原動力)、「協調」(発展の不均衡の是正)、グリーン(人と自然の調和)、開放(発展の内外連動)、共有(共同富裕)からなる「新しい発展理念」に基づく「質の高い発展」を打ち出した。この壮大な大戦略は昨年10月の中国共産党第20回大会で大会決定となった。
党は、西側帝国主義による軍事的包囲とデカップリング攻撃と真っ向から対決しながら、同時に、社会主義を新しい段階へ移行させる決意を固めたのである。特筆すべき幾つかの柱は、第1に、「双循環戦略」だ。一方で、対外開放を堅持しながらも、国際循環への依存を減らし、他方で、生産・分配・流通・消費全般にわたる国内循環を強化し、国内と国際の2つの循環を相互に促進する。この中に、消費を中心とする内需拡大と、イノベーションを通じた生産性の向上と産業の高度化を目指す供給側改革が入る。
第2は、虚偽経済(金融経済)ではなく、イノベーション主導での産業構造の高度化、デジタル経済化、科学技術・研究の自力開発だ。最近世界を驚愕させたのが、EVを軸とする新エネルギー車の世界市場への参入、ファーウェイの新型スマホMate60Proの性能(回路線幅7ナノの先端半導体、5G対応)だ。
第3は、「安全保障」への対応能力の強化だ。帝国主義の軍事的挑発を阻止する防衛力強化と国防建設であり、技術制裁・封鎖に対する自主技術開発・科学技術の自立的発展であり、通貨・金融の国家独占の強化であり、エネルギーや食料の安全保障である。
中国は市場を活用する社会主義計画経済なのである。ここを外すと中国経済は理解できない。