毎年春恒例の「中国軍事費脅威論」
毎年春、中国は全国人民代表大会を開く。日本のメディアにとって、全人代は主に「軍事費脅威論」をあおり立てる道具でしかない。今年も3月6日に、各紙は「成長鈍化も軍拡拡大」(日経)、「台湾侵攻能力確立狙い」(読売)、「国防費7・2%増 軍拡鮮明」(産経)、「伸びが加速、国防費は日本の4・5倍」(朝日)、「これまでにない最大の戦略的挑戦、中国の国防費増に松野官房長官」(毎日)など、中国の国防費拡大を脅威と描いた。読売は「軍拡優先で経済成長は可能か」と社説で論じた。明らかに中国は軍拡を加速していると印象付けるための宣伝だ。口をそろえて世論を中国脅威論に誘導し、日本の軍拡・戦争準備、軍事費2倍化を正当化しようという目論みだ。これに対して中国の環球時報は、「中国の2023年の国防予算は7・2ポイント増加し、8年間も1桁にとどまる」と1ケタ台を強調した。
典型的なだましの手法
「中国軍事費脅威論」の詐欺的手法の典型の一つが、米セントルイス連銀がツィッターで発信した各国軍事費のグラフ(図1の左)である。一見、米国の軍事費を中国の軍事費の急激な伸びが追い越しているように見える。そう見えるように、米国と中国で目盛りの刻みを細工しているのだ。典型的なだましのテクニックだ。同一の目盛りで描いたグラフ(図1の右)で比べれば、中国の軍事費が伸びているとはいえ、米軍事費の水準が中国と比較にならず、米軍事費の絶対額が圧倒的に多いことがわかる。比べて見れば一目瞭然、セントルイス連銀の悪意に満ちたプロパガンダが丸わかりだ。
米国、G7の軍事費は絶対額で圧倒的
さらに軍事費の伸びではなく絶対額で比べてみても、メディアが作る印象とは全く違う像が浮かび上がる。次のグラフ(図2)は米国の軍事費と軍事費上位10位までの国の軍事費の合計を比べたものだ。米の軍事費は残りの上位9か国の軍事費の合計を上回る。世界の軍事費で考えても、米の軍事費は世界中の軍事費の38・5%と4割近くを占める。G7を合わせれば世界の軍事費の52・7%にもなる。ちなみに中国は14・1%、ロシアは3・2%である(SIPRI世界の軍事費2022)。
軍事費を問題にするなら、米国こそ世界最大唯一の大戦争国家であることを抜きに論じることはできない。112兆円にのぼる米国の軍事費は日本の国家予算全体(114兆円)に匹敵している。米国はこの異常に巨大な軍事費を世界中への介入と戦争に投入している。大半のメディアは、米国が世界中で侵略を繰り返し、いつでも戦争している戦争国家であることには触れずに、あたかも「正義の味方」であるかのように描く。国際法を平気で踏みにじり侵略を繰り返す戦争犯罪であるにもかかわらずだ。
日本の来年度軍事費は伸び率で中国の10倍以上!
確かに、今年の全人代で報告された中国の国防費は7・2%増(経済成長率は5%増)、GDP比(2021年)は1・74%(図3)、その額は日本の4・5倍(正確には来年度防衛関係費の4・2倍)だ。
対する日本の来年度軍事費(防衛関係費)は何と26%増だ。更に来年度政府予算には24年度以降の軍事費が「防衛力強化資金」の名目で組み込まれている。それを加えると10兆円を超え、増加率は89%増という破格の異常な増え方になる。日本は軍事費伸び率で中国の10倍以上なのだ。この比較をしたメディアはない。
対GDP比でも、1年で防衛関係費だけで1・26%にはね上がり、「防衛力強化資金」を加えれば1・9%になり、GDP比でも中国を越える。この事実にほおかむりしたまま、中国の軍事費増の日本よりもはるかに緩慢な増加を、あたかも急テンポで脅威であるかのように描き出しているのだ。悪意あるデマ宣伝という他ない。
西側諸国の軍事費は軒並み2桁増
さらに各国はどうか。今年1月30日の日経は「防衛費日米欧2桁増」と報じ、その理由を「中国の脅威に備えた」ものと報じた。まるで中国に原因があるかのようだ。しかし、増加は米国10%、日本26%、ドイツ17%、英国12%、台湾14%、仏7%、韓国5%という軒並み2桁の大幅増のなかで、中国は7・2%なのである(図4)。中国が脅威と宣伝しながら、実際にはNATOと米の同盟国が大幅な軍拡に踏み切っており、軍拡競争の原動力になっていることが分かる。
対GDP比で見ても、中国の軍事費のGDP比は2002年以降明確に低下している。経済規模の拡大に比して徐々に軍事費の負担を引き下げているのが現状であり、決して脅威を作り出すものでないことが分かる。
米軍事費は112兆円 対GDP比で中国の2倍
米国の24年度軍事費は112兆円で、対GDP比は3・5%になる。1・74%の中国の2倍だ。メディアはこれを全く批判しない。軍事費だけではない。米国では戦争によって軍需産業と関連する企業が巨額の利益を得ている。例えばウクライナに対する軍事支援は2021年以来4・3兆円、2014年以来では5・65兆円にも達するが、武器供与の代金の大半は米軍需産業へ
の支払いだ。ウクライナへの武器供与だけでなく、欧州諸国の武器供与の補充としても米国は米国製兵器の大量販売に成功している。さらに、ウクライナ戦争と対ロ制裁によってエネルギー価格、食料価格の高騰を引き起こし、エネルギー産業などが巨額の利益を上げている。米国は他に例がない戦争国家であり、それが対ロシア代理戦争であるウクライナ戦争の推進力になっている。
この米国が今、戦略的な敵として、「台湾有事」をテコに軍事的包囲(統合抑止)を同盟国に呼びかけている対象が社会主義中国だ。西側メディアは、今やこの米帝主導の西側帝国主義の対中戦争準備の広報・宣伝機関と化している。もはや真実も客観性もあったものではない。
軍事力の性格が中国と西側とは根本的に違う
そもそも軍事費を問題にするには、中国社会主義と西側帝国主義諸国の軍事力の階級的性格の根本的違いを明らかにする必要がある。
――まず、米国やその同盟国のようにここ20年間をとっても侵略戦争に明け暮れる西側諸国と、ここ40年間、戦争をしたことはない中国とは全く違う。中国の軍事力を、米国のように他国に次々と侵略と干渉を行い、ウクライナでは代理戦争をする米国の軍事力の侵略性と比べることはできない。
――次に、2012年のオバマの「アジアピボット戦略」や2018年のトランプの関税戦争以来、対中軍事包囲網を強化したのは米帝が主導する西側帝国主義の側だ。米日だけではなく、オーストラリア、イギリス・ドイツ・フランスなどNATO諸国、フィリピンや韓国を巻き込み、世界中の同盟国に対中軍事包囲を呼びかけているのだ。これに対抗するために、この軍事包囲から社会主義の国家と主権を防衛するために、広大な国土と周辺海域の防衛に中国は必要以上の兵力と軍事費を投入せざるをえない。中国の軍事力はこうした帝国主義軍隊による侵略、干渉、威嚇に対する防衛的なものなのである。
――そして、軍隊の地理的配置が全く違う。相手の領土・国境の目と鼻の先である南シナ海、台湾海峡、東シナ海、黄海などにギリギリまで軍事力を展開し、日常的に軍事挑発をしかけているのは米軍とその同盟国軍である。中国軍は米本土近くに軍事力を展開し活動などしていない。中国軍が米軍と同じことをすれば米政府のみならず、西側政府・メディアは天地がひっくり返るような大騒ぎをするだろう。自分たちがやるのは当然だが、中国はやってはいけないという、まさに植民地主義的な傲慢だ。
中国脅威論イデオロギーとの闘いがますます重要に
西側の「台湾有事」策動阻止、対中国戦争阻止は日本と世界の反戦平和運動の最大の課題だ。この対中戦争を阻止するには、人民大衆の心理を対中戦争に導くイデオロギー、反中・嫌中宣伝と闘うことが必要である。「中国軍事費脅威論」だけではない。「中国権威主義・独裁論」「習近平一強支配論」「中国経済崩壊論」「新疆ウイグル・ジェノサイド論」「台湾有事論」「一帯一路債務の罠論」の他、最近では、「コロナ研究所流出説」「偵察気球脅威論」「クレーン脅威論」「TikTok脅威論」等々、米国発の異常な脅威論イデオロギーが次々とでっち上げられ、日本のメディアが朝から晩までそれを垂れ流している。
反中プロパガンダ、中国脅威論と闘うことは、反戦平和運動の最重要の課題になっている。
(Y)