【解説】「安保3文書」に対する3つの批判ポイント

昨年12月16日、岸田首相は「安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)」を閣議決定した。以下、3つの批判ポイントを解説する。

【1】中国は「敵」か?――「中国脅威論」、反中・嫌中イデオロギーに反撃を

(1)戦争計画の一部。中国を「敵」とすることで一致
 「安保3文書」は日本の単独の軍事外交方針文書ではない。バイデン政権が2022年10月に出した米国の「国家安全保障戦略」(NSS2022)に一体化させたものである。
 その最大の特徴が、まさに中国を「戦略敵」に据えたことだ。「安保3文書」の一つ「国家安全保障戦略」は、中国を「我が国と国際社会の深刻な懸念事項」「これまでにない最大の戦略的挑戦」「我が国の総合的な国力と同盟国・同志国との連携により対応すべきものだ」と規定した。これはまさに「敵」ということだ。米国の「国家安全保障戦略」は、中国を「唯一の競争相手」と規定した。直接「敵」と書いていないという人がいる。しかし、これは詭弁だ。軍事戦略用語で「戦略的挑戦」「唯一の競争相手」とは「戦略敵」を指す。
 日本の軍事・外交に関する最高文書に、事実上、中国を「仮想敵」「戦略敵」と明記したことは、まさに中国と戦争すること、その準備に全資源を投入することを意味する。それほど危険なことなのだ。
 これまでも日本政府は、日米安保=日米軍事同盟最優先の立場から、自らを米国の軍事外交政策に連動させてきた。米軍と自衛隊が共同演習・共同訓練で一体化してきた。だが、今回のように、公式の戦略文書での実質的な「丸写し」は初めてのことだ。自発的・主体的に米国の対中戦争計画に自らを組み込む、超危険な道を選ぶという宣言である。

(2)タイムラインも日米で一致
「安保3文書」の一つ「国家防衛戦略」には「5年後の2027年までに、我が国への侵攻が生起する場合には、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できる防衛力を強化する」「10年後までには・・・より早期かつ遠方で侵略を阻止・排除できるように」すると書いてある。米国の「国家安全保障戦略」は、「決定的な10年」と称して、今後10年にわたって軍事、外交、経済、技術などで全面的に中国を締め上げ、封じ込め、中国に勝利する計画だ。対中戦争の時期やそれまでの準備過程までもが日米の戦略文書で一致している。

(3)なぜ米国や日本が「台湾有事」のスケジュールを決めるのか?
 そもそも「台湾有事」の年をなぜ米政府や米軍が決めるのか?米国の政府・メディアの宣伝では「中国の台湾攻撃」が開戦の口火を切るはずなのに、なぜ米国が開戦時期を決めるのか。世界中のメディアは、それを絶対に問わない。
 米軍は戦争の切迫を一方的に繰り返してきた。2021年にはデービッドソン元インド太平洋軍司令官が「6年以内に中国は台湾に侵攻する可能性がある」と言い、今年1月の米国際戦略研究所CSISの机上演習報告「次の戦争の最初の闘い」は2026年に中国が「台湾侵攻」するシナリオである。最近ではマイク・ミニハン空軍大将が「台湾侵攻」は2025年かもしれないとまで言い始めた。理由は「直感だ」という。
 ここから言えるのは、戦争を計画しているのは米政府・軍の側であるということである。デマやでっち上げで侵略するのは米国の専売特許である。1964年8月のトンキン湾事件がある。北ベトナム軍が米軍艦に魚雷を発射したとでっち上げ、ベトナム戦争に本格突入した。2003年のイラク戦争では「大量破壊兵器」疑惑をでっち上げ侵略した。旧ソ連圏やラ米カリブでの反米政権を転覆するためのCIAや米系NGOによる大衆煽動は数限りない。「台湾有事」でも、中国への戦争挑発や台湾独立勢力を焚きつけて国家分裂策動を画策していることは間違いない。だから自分たちがスケジュールを決められるのだ。

(4)台湾問題は中国の内政問題。なぜ介入するのか
そもそも台湾問題は中国の内政問題である。なぜ米日をはじめ西側諸国は、いつまでも中国の内政問題に介入するのか。1840年のアヘン戦争以来の帝国主義列強の介入の延長ではないのか。「台湾有事」は、新疆ウイグル問題、チベット問題、内モンゴル問題、香港問題などと同様に、全て、社会主義中国が急速に発展し、西側帝国主義の新興・途上諸国収奪の権益を脅かし始めたからである。似非「人権問題」を次々でっち上げ、自らが支配する帝国主義メディアを通じて、人々に中国嫌いを刷り込み、「中国脅威論」を煽っているのだ。
 昨秋の中国共産党第20回大会でも、習近平指導部は、「台湾の平和的統一」が基本戦略であることを明言している。唯一の例外は、西側が台湾独立勢力を煽動し、武力を背景に介入した時に「武力統一の権利を留保する」と言っているのだ。

(5)社会主義か帝国主義か
ーーどちらが戦争を求めているのか
中国は今世紀半ばまでに社会主義現代化、貧困撲滅と共同富裕を実現することに全力を挙げている。そのためには長期にわたる安定した発展が前提条件なのである。だから平和共存と多極化外交を推し進め、平和的環境づくりに邁進している。
 逆に、長期にわたる中国社会主義の発展を恐れているのは米国を初めとする西側帝国主義の側である。しかもこれら西側諸国の経済は軍拡と軍産複合体への傾斜を強めている。社会主義中国の側か、西側帝国主義の側か――どちらが平和を求め、どちらが戦争を求めているのか。もはや明らかである。

(6)中国は敵ではない。過去の中国侵略と植民地支配の反省を
 かつて天皇制日本軍国主義は、明治初期の台湾の植民地化を手始めに、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦から、満州侵略、日中全面戦争、太平洋戦争に至るまで、中国への侵略戦争と植民地支配を続けた。1945年の敗戦時に多くの日本国民は米英だけに敗北したと考えたが、実際にはこの長期にわたる中国との戦争に、中国人民の膨大な数千万人の犠牲者を出した上に、中国人民の抗日抵抗戦争に敗北したのだ。日中平和条約の文言には、この反省が反映されている。これを守るのは日本政府と国民の義務なのだ。
 そもそも中国は敵なのだろうか。中国は日本と平和友好条約を結んでいる唯一の国だ。この条約で両国は「平和友好関係発展」を約束し「紛争の平和的解決、武力又は武力による威嚇不行使」を宣言している。一方、中国は、日本を「仮想敵」にしていないし、そんな軍事外交政策を策定もしていない。そうしているのは米国と日本の方だ。
 今こそ、われわれは、岸田政権に、「安保3文書」撤回、軍事費倍増・軍事費増税反対、対中平和共存外交を要求しなければならない。

【2】軍事外交戦略の侵略的大転換 日本が対中戦争の最前線、先兵に

(1)先制攻撃力で対中軍事優位の追求
ーー日本は先兵になり、戦場になる
 「安保3文書」の最大の特徴の一つは、敵基地攻撃能力保有を正当化し、大量の長距離攻撃兵器導入に踏み出したことだ。これは、日本と自衛隊が対中戦争の最前線、先兵になることを意味する。それは同時に、中国からの反撃を集中的に受けること、沖縄を含む日本全土が戦場になることを意味する。
 すでに発注済のJSM巡航ミサイル(射程500キロ)に加えて、射程1600キロのトマホークミサイル500発、さらに12式地対艦誘導弾の射程延伸改造(射程1000キロ)、地上発射型量産開始と空中発射型、艦載型開発配備、F35やF2に搭載するJASSM巡航ミサイル(射程900キロ)など1000から1500発に及ぶミサイル導入。そして次世代のミサイルといわれる極超音速ミサイル、滑空型誘導弾の開発配備だけではなく部隊編成にまで踏み込んでいる。これらは日本が従来持っていなかった中距離攻撃兵器であり、中国を攻撃するための兵器である。

(2)対中国戦争の実際の準備を加速
 岸田政権と自衛隊は、「安保3文書」と米軍の対中戦争計画に合わせて、実際に戦争できる態勢(指揮権、武器、弾薬、演習など)を作っている。この中で最も危険なのは、日本政府・自衛隊が、沖縄・本土を含む日本全土を戦場にする前提で、対中戦争の最前線、先兵になって戦う計画を策定し、その具体化を始めたことである。安倍軍拡と比べても格段に危険だ。安倍時代、可能だったのは米軍艦船を米軍と一緒に防御する、あるいは米軍機を護衛するというものであった。中国本土を攻撃をする能力も装備もなかった。

(3)自動参戦体制の危険。憲法9条破壊、「専守防衛」の最後的破棄
 政府与党は、敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えているが、全くのウソだ。政府は、「相手の発射前に察知して攻撃する」と言うが、ミサイルの発射前の探知など不可能だし、国会審議などできないし、日本政府さえ分からないのだ。結局は、日本と自衛隊が米国政府・米軍の指示で動くことになる。実際に起こるのは米軍が中国を攻撃したいときに、適当な口実をでっ

ち上げ、一方的に「探知した」と宣言し、その合図で米軍と一緒に自衛隊も一斉先制攻撃することになる。
 巡航ミサイルは音速以下のスピードでしかない。探知されれば撃墜される。従って、巡航ミサイルは、相手が気がつく前に一斉先制攻撃を行うのが効果が高い兵器なのだ。今回の日本の計画は、この先制攻撃のための兵器を大量に装備する計画である。他国に対する武力行使を前提とする大量の攻撃兵器の装備そのものが憲法9条を真っ向から踏みにじる行為である。先制攻撃による戦争の開始が交戦権放棄にも違反するのは言うまでもない。もはや憲法破壊だ。

(4)「相手に脅威を与える攻撃力」を保有することが国民を守るのか?
 実は、戦後日本が憲法9条の制約と平和運動、護憲運動の圧力でかろうじて維持されてきた「専守防衛」政策を公然と投げ捨てる記述が盛り込まれた。それがほとんど議論されていない。「国家防衛戦略」は従来の、かろうじて維持されてきた従来政府が主張してきたミサイル防衛を含む「防衛力」では相手を抑え込めない、「相手に脅威を与える攻撃力を追加することが必要だ」というのだ。米国の軍事力と合わせて中国に対する軍事的優位を追求し、攻撃力における優位を作り出し押さえ込もうというものだ。
 しかし、この「脅威対抗型攻撃力」戦略は、まず中国に対する先制攻撃で緊張を激化させる戦争挑発でしかない。次に、際限ない軍拡競争に突き進む危険極まりない戦略である。国民を守るどころか、逆に戦争へエスカレートさせるものでしかない。「脅威対抗型攻撃力」で対中軍事優位を追求する軍事戦略への転換に断固反対する。

【3】「戦争国家」化――軍事だけではなく、財政も経済も科学技術も全て軍事優先

(1)対中「安保」の名の下に、財政、経済、科学技術、武器輸出、宇宙、電波から対外援助まで全てを軍事優先
 今回の「国家安全保障戦略」のもう一つの特徴は、軍事優先の全般的・包括的な国家政策だということだ。同戦略は自らを「外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力を含む総合的な国力を最大限活用して、国家の対応を高次のレベルで統合させる戦略」であり「我が国の安全保障に関する最上位の政策文書」と規定している。つまり軍事・外交・経済安保・軍需産業・技術・サイバー・海洋・宇宙・情報・政府開発援助ODA、エネルギー等の諸政策全体に戦略的指針を与えるものなのである。
 今後日本はあらゆる分野で中国に対抗し、中国の弱体化を目指し、米と同盟国による対中軍事優位を追求し、そのために国を挙げて戦争国家を作っていくという。現に、この下で軍事費の超特別扱いでの急増と軍備大拡張だけでなく、科学技術の軍事利用優先、海上保安庁の自衛隊との連携と軍事活動への従事、さらに軍事活動や戦争準備に重要な港湾、飛行場、民間施設の建設を各省庁の予算で優先する仕組み、これらの施設を自衛隊と米軍が自由に使える仕組みを作り上げようとしている。自衛隊による情報統制と世論操作にまで踏み出し、ODA等の運用も中国包囲の政策に従属させる。あらゆる面で戦争に協力する態勢、国家改造を行おうとしているのだ。まさに「戦争国家」化である。

(2)財政の軍事化。軍事費倍増ありきの予算編成
 そしてこの「戦争国家」化の最大の焦点が、財政の軍事化、軍事費急膨張だ。「財政の軍事化」とは、予算編成の時に、まず最初に軍事費を決めて、民政関連は軍事費を使ったあとの残りの予算で賄うということだ。もし足らなければ民生を切り、さらに足らなければ増税する。今回、岸田政権はこのやり方を実行に移している。このような予算編成は戦後初めてのことで、まるで戦争中のような予算編成だ。
 これから5年間で軍事費を2倍にする、GDP比も2倍にして2%にする。コロナ禍で人民生活が窮しているときに軍事費だけは特別扱いで5年間に43兆円もの額を投入して、武器購入に大盤振る舞いをする。まったくとんでもない軍拡予算だ。今年当初予算で5兆4千億円の軍事費は、来年度一挙に6兆8千万円に増やされ、最終的に関連費を含めて11兆円まで増額される。
 岸田政権は、騙しと増税の先延ばしで大軍拡予算を組むことにした。剰余金、埋蔵金をかき集めて軍事費の増加分に充当している。しかし、これらの予算は本来国民に還元すべきものである。それを何の断りもなく軍事費に盗用するのはとんでもないことだ。来年度予算では3兆4千億円を次年度以降の軍事費(「防衛力強化資金」)として先取りしている。来年度、実際の軍事費は10兆円を超えているのだ。
 こんななりふり構わないやり方でごまかせるのは一時だけだ。5年計画の5年目は6兆円の資金不足になる。今年春の統一地方選まで国民を騙し、それを乗り切れば次は増税の始まりだ。5年目以降の当ては全くないので、増税と収奪強化と、人民関連予算の切り捨てしか道はない。しかし、対中戦争に備え軍備増強をするために湯水のごとく予算を使い、そのために増税と収奪をし、人民生活を窮乏化させることなど誰も合意していない。私たちは、財政の軍事化、戦争軍拡予算、「戦争国家」化予算に反対する。


(Y)

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