社会主義中国を戦略的主敵に据える
バイデン政権は10月12日に、就任以来初めての「国家安全保障戦略」(NSS2022)を公表した。このNSS戦略の第1の特徴は、改めて中国を戦略的主敵に据えたことだ。最大のライバル、唯一の競争相手、国の総力を挙げて蹴落とすべき敵として中国を挙げている。ロシアについては、「直接的な脅威」としながらも、中国に次ぐ脅威としている。
NSS報告は、中国を「国際秩序を再構築する意図と、その目的を前進させるための経済的、外交的、軍事的、技術的な力の両方を持つ唯一の競争相手である」と規定している。中国を、米帝主導の現在の帝国主義的世界秩序、米帝一極支配を掘り崩し、崩壊させる力がある唯一の国と捉え、恐怖に駆り立てられ、敵意をむき出しにしているのである。
トランプ政権のNSS2017が戦略敵は中国とロシアの2国だとしていたものを、中国が第1の、「唯一の競争相手」(戦略敵)と規定したのだ。この段階でバイデンはトランプ以上に対中強硬姿勢で行くことを宣言したのだ。驚くべきは、ロシアと戦争しているのに、米国の戦略敵の順序が変わらなかったことだ。
「決定的な10年」ー長期戦争挑発を宣言
第2の特徴は、冒頭で「決定的な10年」を明記し、今後10年にわたって中国に対して経済的、外交的、軍事的、技術的なあらゆる面で対中挑発を続けると宣言したことである。本文でも、「投資」と「連携」は「技術、経済、政治、軍事、情報、グローバル・ガバナンスの領域で中国に打ち勝つために不可欠なものである」とある。ハイテク技術や経済的な「デカップリング」を推し進め、これを日本やヨーロッパの先進帝国主義全体に強制し、インド太平洋地域だけでなく、世界中で中国を封じ込めるという宣言だ。
バイデン政権は今後10年の間に中国が米国に追いつき追い越すと恐れている。だからNSS報告の見出しでは「ロシアを抑制しながら中国を出し抜く」と書き、本文でも「依然として非常に危険なロシアを抑制しながら、中国に対する永続的な競争力を維持することを優先する」としたのである。
10年もの間、戦争挑発と国家分裂策動を続け、西側諸国全体に中国との貿易・投資関係の切断を強要し続ければ、必ず不測の事態が起こる。常軌を逸した超危険な戦略だ。
背景には、社会主義中国の急速な発展がある。中国は2035年と中国建国100周年の今世紀半ばの2段階にわたり、社会主義建設の現代化・高度化に向けて邁進している。経済力だけではない。貧困撲滅や医療・社会保障や教育でも途上国からの脱却を成功裏に進め、ハイテク・情報技術でも、科学技術でも、宇宙開発でも、防衛力でも着実に成果を積み上げている。世界覇権を握り、世界を支配しなければ我慢できない米国が、全資源を動員して、この発展を阻止しようとしているのだ。
中国の「平和的台頭」「多極化外交」に恐怖
ウクライナ戦争でロシアは通常戦力と兵器をかなり損耗し、制裁で経済力にも打撃を受けていると米国は考えている。「ロシアは戦略的限界を露呈した」と評している。だから対等の力を持つ戦略核を除いて、通常戦力や経済力では(2021年で14分の1)競争相手にはなりえないと見ている。
だが、中国はそうはいかない。米政府は、中国が平和な国際環境を前提に自国社会主義建設に全力を挙げていること、米国の挑発に簡単に乗る相手ではないことをよく知っている。現に中国はこの40年以上、他国と戦争していないし、米国のような軍事同盟を作っていない。習近平指導部は「多極化外交」で、平和共存、ウィン・ウィンを展開し、「一帯一路」戦略で新興・途上諸国との平等互恵の協力関係を構築している。
米帝国主義は、この中国の「平和的台頭」が怖いのである。だから、NSS報告には、中国との友好、相互協力、経済的互恵や協力して成長する発想が全くない。米国は第二次世界大戦後、切れ目なしに世界中に侵略戦争と内政干渉をしてきた。戦後一貫して、戦争の仕掛け人、緊張激化の源泉、世界平和の敵であった。軍産複合体や石油メジャーをはじめ、米国の産業構造は戦争経済で回ってきた。平和な時代の到来は米国経済の死を意味する。米帝国主義が世界を脅迫し、世界覇権を握り続ける最大の梃子こそが戦争であり、平和な時代は世界覇権を掘り崩すのである。
西側同盟の総力を結集した「統合抑止」戦略
米国は自国の資源を総動員するだけではない。西側帝国主義同盟全体を巻き込もうとしている。その意味で、トランプより危険だ。
米国一国の力ではもはや中国を封じ込めたり、屈服させたりすることはできない。バイデンが強調しているのは西側同盟の総力を結集した「統合抑止」だ。米をリーダーとする対中包囲網の結成であり、あらゆる分野でこれらの国を協力させることなのだ。ロシアに対する戦争での米とNATOの同盟と経済制裁に、すでに一つの例を見ることができる。アジア太平洋では、オーストラリアに原潜を保有させる対中軍事同盟AUKUS、対中包囲にインドを巻き込むためのQUAD、中国抜きの経済圏を目指すインド太平洋経済枠組みIPEF等々を利用するつもりだ。アジア諸国だけでなく、英仏独オランダなどの各国が、アジアに軍艦や空軍、陸軍を派遣し対中包囲の演習などを繰り広げるのもそのためだ。世界中の同盟国を動員して中国を包囲し屈服させようとしているのだ。その最前線で闘うことを期待され要求されているのが日本である。
米戦略の柱は「台湾有事」 台湾独立=国家分裂策動
米国の対中挑発の中心が「台湾有事」戦略である。NSSの言い方では「台湾海峡の平和と安定の維持」だ。NSS報告は、口先では「台湾の独立を支持しない」「我々は台湾関係法、3つの共同声明及び6つの保証を指針とする『一つの中国』政策に引き続きコミットする」と書いている。
だが、実際の行動はこれとは全く正反対だ。バイデン大統領は「一つの中国」政策を行動で示すべきだ。第1に、バイデン大統領は「米国は台湾を防衛する義務がある」と何度も発言している。バイデンだけではない。ペロシ下院議長の訪台、政府高官や議員の訪台、下院で審議中の台湾政策法などは、台湾をあたかも独立国家(非NATOの同盟国並み:つまり日本と同等)であるかのように扱い、国家分裂の既成事実を作ろうというものだ。そして何よりも「独立志向」の祭英文らを唆し独立に向かって暴走させようという思惑があからさまだ。
第2に、米軍は台湾海峡、南シナ海、東シナ海などで日常的に軍事的挑発活動を繰り返し行い、威嚇している。それどころか台湾に秘密裏に米兵を送り込み、訓練の指導を行っている。これらの活動は軍事的緊張を高め、中国軍が対抗措置などの対応を取らざるをえなくしている。
第3に、こうした米国の挑発を正当化するために「5年以内に台湾侵攻」「中国は武力統一をめざしている」と、大手メディアを使ってプロパガンダ宣伝を繰り返している。しかしこれはウソ・デタラメだ。実際には、共産党20回大会でも、中国の党・政府は、台湾問題への姿勢は一貫して平和的統一をめざすというものだ。米国が強引に軍事力やその他の手段で介入し、台湾を独立させた時には許さない、その場合には武力行使の権利を留保する、というのが公式の政策である。だが、中国が平和的統一政策をとる限り、戦争を引き起こせない。中国は挑発に乗ってこない。だから執拗に「中国の台湾侵攻」のデマを垂れ流し、チキンゲームのように戦争挑発と国家分裂を煽り続けているのだ。
日本が「台湾有事」の最前線に「ウクライナ方式」の危険を暴こう
米国にとって、「台湾有事」こそが対中軍事挑発の道具、西側同盟国結束のための最大の武器である。
米軍は日本の南西諸島を軍事要塞化・ミサイル要塞化し、海兵隊ミサイル部隊の配備を目指している。日本に中国を先制攻撃する能力(敵基地攻撃能力)を持たせようとしている。日本や台湾を対中軍事対決の矢面に立たせて、対中挑発をしているのだ。台湾独立=中国分裂を唆して中国の我慢の「レッドライン」をもてあそび、軍事的政治的緊張を高めようというのだ。米はウクライナを使ってロシアを戦争に引きずり込んだ。これに味をしめ、この方式を「台湾有事」でも使おうとしている。
度を過ぎた挑発は現実の軍事的紛争や衝突になる危険を高める。「独立志向」の蔡英文政権を唆して独立姿勢を強めさせ、両者の間に軍事紛争を引き起こす、あるいは日本政府を煽って「尖閣有事」を作り出し日中の間で軍事紛争を起こす、そうすれば「代理戦争」で中国に軍事的経済的打撃を与えられると米国は考えている。しかも、米国は公式には「あいまい戦略」で、米軍が台湾防衛をするとは言わない。自分は挑発し台湾や日本と中国を戦わせる「ウクライナ方式」だ。もちろんアジアでは米中も直接対峙しているから、米軍が直接中国と軍事紛争に入る場合もありうる。これらの戦略は、インド太平洋、日本や中国周辺で不断に戦争の危険を作り出す。ウクライナでの「代理戦争」を見れば分かるように、米政府は台湾や日本(沖縄・本土)でどれだけの犠牲者が出ようと、国土が破壊されようと関心がない。
米の戦争計画(NSS2022)の目論見を徹底的に暴露しよう。日本政府をこのNSS戦略から離脱させ、平和外交、平和共存外交に転換させよう。
(Y)