この3月、日本のメディアは特集記事を組んだ。「シリア内戦10年 40万人死亡、避難民1000万人超 アサド政権 続く恐怖支配」(産経3・16)、「アサド氏強権 国民困窮 政権批判し拷問・食料高騰33倍」(読売3・17)、「シリア 終わらぬ人道危機 犠牲38万人 故郷帰れぬ難民」(朝日3・22)等々。いずれもアサド独裁批判に終始し、誰がこの悲惨をもたらしたかには全く触れない。米軍も、米の経済制裁も一切出てこない。現在も米軍がシリア全土の3分の1を占領し、蛮行を続けている事実は不問に付されている。
シリア戦争の真実とは何か? 一言すれば、米欧帝国主義による侵略戦争であり、「内戦」ではない。シリア人民にとっては、反米・反帝の民族解放戦争なのである(本紙第59号、2016年4月「シリアの青年コミュニスト、われわれは決して諦めない」参照 https://communist-democrat.org/?p=2710)。西側帝国主義は現在、「中国覇権」「南シナ海」「ウイグル・ジェノサイド」なるデマを吹聴し、「人権」を盾に対中包囲網を強化している。しかし、彼らに「中国脅威論」や「人権」を語る資格はない。彼らがシリアや中東でいったい何をしてきたのか。帝国主義とはいったい何なのか。以下で明らかにしたい。
(佐竹)
シリア戦争は「内戦」ではない シリアを破壊したのは誰か?
確かに、シリア戦争10年は多大な犠牲を生み出した。死者数十万人、国内外避難民1千万人以上、経済損失1兆2千億ドル(130兆円)と計り知れない損害をシリア人民に及ぼしている。イラク戦争やアフガニスタン戦争と共に、その焦土作戦の犠牲と破壊の大きさは計り知れない。
単なる「内戦」なら、ここまでの犠牲は出ない。なぜ、そこまで巨大な犠牲が出たのか? それは、米帝国主義が介入し、殺戮と破壊を10年にわたり繰り返したからだ。それはベトナム戦争やイラク戦争のように、単純に米国・NATO諸国が自国軍を大量に派兵する形ではない。すでにイラク戦争やアフガニスタン戦争で疲弊した米・NATO諸国が、新方式を編み出したのだ。①米・NATO軍、米欧諜報機関が介入で示し合わせ、軍事援助を行い、数千人規模の自国軍・諜報機関を動員し、それを司令塔にする。自国軍は主に空爆で参戦する。さらに地上兵力は、②イスラエル、サウジ等の反動王制諸国、トルコを介入させる。③さらに数万人規模のイスラム原理主義武装勢力を手足として使う。こういう新しい形態の軍事介入であった。戦争の目的はただ一つ、反米・反帝姿勢を崩さないアサド政権の打倒である。
米欧帝国主義による介入形態はこの10年変化してきた。
――侵略を開始した2011年当初は、「シリア国民連合」に政治的・軍事的支援を行った。ところがこの組織の指導者は海外に居住し、「ホテル革命の家」と揶揄されるぜいたくな暮らしぶりで、結局シリア人民からソッポを向かれた。
――次に米はアラブ王制諸国やトルコと一緒になって、イスラム・スンニ派武装勢力(ヌスラ戦線、イスラム国など、無数の有象無象のテロ組織)に軍事的・政治的・経済的援助を行い、占領地域で恐怖支配、住民の虐殺やテロ行為を好き放題させた。当然、民衆は離反した。その残虐性で有名になったのがあのイスラム国だ。
――とりわけトルコの侵略は突出したものだ。国境沿いにトルコ軍の支配地域を確保し、親トルコ武装勢力を出撃させ続けている。
――この10年間、米国の軍事要員・諜報機関はシリア国内に基地を置き、これら武装テロ集団を指揮してきた。また、中東の米軍基地から空爆を繰り返してきた。
2015年に転換点が来る。米の空爆と四方八方からの軍事介入で劣勢に陥ったアサド軍にロシアが軍事支援を行い、戦局を好転させたのだ。シリア軍は反転攻勢に打って出る。もし、ロシア軍の支援がなければアサド政権は崩壊していた。そうなれば米帝国主義、トルコやアラブ反動王政とイスラム武装勢力によってシリア領土は分割され、犠牲者はさらに増えたはずだ。
米政府は反撃に出る。イスラム国掃討を口実にして、これまでの軍事要員にとどまらず、シリアに米軍陸上部隊を直接侵略させ、軍事基地を建設し、現在に至るまで進駐を続けている。つまり、米はこの10年様々に手を変えながら、シリアへの侵略を継続してきたのだ。これが米帝国主義の本質である
今なお空爆を続ける米国 全世界で広がる空爆糾弾の声

バイデンの大統領就任からわずか約1カ月後の2月25日、米政府はシリアへの大規模空爆を強行した。バイデン政権は、イラク北部にある米軍基地へのロケット弾攻撃への報復だというが、そもそもイラクに米軍基地を建設・常駐させることが、主権国家イラクに対する侵略行為そのものであり、実際イラク国会では米軍基地即時撤廃が決議されている。今回の空爆は、イラン支援民兵を直接標的とすることで、バイデンがイラン核合意を本気でやるつもりがないことを暴露した。バイデン政権の中東政策がトランプと何ら変わりないことを明らかにした。米軍の空爆に合わせ、イスラエルがシリアへのミサイル攻撃を3月1日に実行している。米軍が中東に駐留する限り、和平に進むことはあり得ないことがはっきりした。断じて許すことはできない。即時撤退すべきだ。
このバイデン政権の空爆に対し、すぐさま全世界の平和反戦運動は抗議行動を開始した。コードピンク、ANSWER連合、イギリスのストップ戦争連合等の諸団体は即刻バイデン政権への抗議声明を発した。3月1日にはANSWER連合、地域の緑の党、ピッツバーグ反帝国主義連盟等が組織した空爆に対する緊急の抗議集会が米ピッツバーグで開催された。「バイデンは中東で空爆を行った6番目の大統領だ」と抗議の声を上げた。また、コードピンクは、40以上の組織と連名で大統領への手紙と題して、抗議の声を上げた。その手紙では、空爆を火遊びとし、大統領選挙戦での公約とは違っていること、国際法違反でありシリアへの明らかな侵略行為だと非難し、中東からの米軍の即時撤退を強く要求している。
シリア国土の3分の1を米軍が支配!石油盗掘が目的
米軍のシリア駐留の目的は、表向きはイスラム国の壊滅だ。ところがイスラム国がほぼ壊滅した現在も約1千人が常駐し続け、居座り続けている。軍事的任務はほぼ果たしており、米の元駐シリア大使(2011~2014年赴任)さえ米軍撤退を要求している。それだけではない。逆に米軍は地上部隊を増派し、イラク国境に近いマリキアの町に新たな米軍基地の建設さえ行っている。これらの結果、なんとシリア国土の約3分の1の面積を米軍が実効支配しているのだ。
シリアが国家として1つになれない最大の元凶が米軍の駐留だ。なぜ居座り続けるのか。中東の軍事覇権が最大の目的である。しかし、もう一つある。それはシリアでの石油の盗掘と闇ルートでの販売だ。2020年11月を例にとると、米軍が実効支配しているシリア北東部油田地帯にある石油掘削井戸から石油を盗掘し、それを120両ものタンクローリーに積み、米軍車両がそのタンクローリーの前後に位置し厳重な警護を行い、国境を越えてイラクに移送し販売する。この時得た1カ月の「収入」が3千万ドル(日本円で33億円)にものぼる。この露骨な泥棒・略奪行為こそが、米軍の中東での真実の実態であり、「世界の警察」を自認する軍隊の真実の姿なのだ。
結局、シリアの化学兵器使用は何だったのか?
米軍、英・仏軍がシリアを侵略する際、必ず使われる「口実」が2つある。そのひとつが、アサド政権が化学兵器を使用したというデマの流布だ。しかし実際は、米軍とイスラム武装勢力の自作自演だった。元々、軍事的に優勢であったシリア軍が解放する地域でわざわざ化学兵器を使う理由はなかった。だが、西側メディアは「アサド政権の蛮行」を世界中に垂れ流したのである。今に続く「アサド独裁」の印象は、こうして意図的に帝国主義によって作られた。
しかし、この化学兵器使用の謀略が、今ようやく暴露され始めた。直近OPCW(化学兵器禁止機関)を舞台に米・英がシリアの化学兵器使用をでっち上げゴリ押しした事実が、OPCWの調査員の内部リークで明るみになったのだ。
2018年4月、首都ダマスカス近郊のドゥーマ市を支配している「イスラム過激派」に対し、シリア軍が攻撃を加え、市を奪還した。攻撃を受けた「イスラム過激派」はシリア軍が化学兵器使用=塩素ガスを充てんしたキャニスターを投下したと発表し、それを受けこの2週間後に米・英・仏軍が「人道上の問題が生じた」としてドゥーマ市のシリア軍に猛烈な爆撃を加えたのだ。爆撃後、市を調査したOPCWの調査団は、①シリア軍攻撃の被害者に塩素ガスの症状がない、②塩素ガスの濃度が非常に微量しか検出されないなど、シリア軍が塩素ガス=化学兵器を使用した根拠がないとの中間報告を2018年7月にまとめる。ところが、なんと2019年3月の最終報告に際しては、まず上記調査団員をすべて報告書作成チームから除外したうえ、調査事実を捻じ曲げ、シリア軍の化学兵器使用もありうるとの報告書を最終版として発表する。でっち上げそのものだ。更に、このでっち上げの事実をリークした調査員2名をOPCWから罷免する。そしてこの罷免の不当性を国連安保理で訴えようとした調査員イアン・ヘンダーソン氏とブラジルの外交官でOPCW初代事務局長のブスタニ氏2名の安保理への出席を拒否した。何重にも渡るゴリ押しで「化学兵器使用」をでっち上げたのだ。
このような米の横暴に抗議するため、3月、ブスタニ氏を中心にノーム・チョムスキー、ダニエル・エルズバーグ(ペンタゴン・ペーパーズと言われるベトナム戦争に対する数十年に渡る膨大な国務省の内部文書をリークした元職員)、オリバー・ストーン(映画監督)等著名人が署名した「声明」を発表した。その「声明」では、このでっち上げをOPCWという科学団体の評判と信頼を著しく傷つけるものであること、およびそこで働く科学者の信用を落とすものであることとして糾弾し、OPCW現事務局長が正式の報告を行うよう要求している。この声明には、なんとOPCWの元検査官であり、科学者でもある5名が名を連ねている。
OPCWを舞台にした謀略は今回が初めてはない。2002年に、イラク・フセイン政権が「大量破壊兵器」を保有しているというデマ宣伝に躍起となっていた米ブッシュ政権は、時のOPCW事務局長ブスタニ氏がそのデマでっち上げに難色を示したため、解任を迫った。辞任を拒否したブスタニ氏のオランダ・ハーグにある事務所に直接乗り込んで来たのが、あのボルトンだ。ボルトンはブスタニ氏を前にして、「私が来たのはチェイニー副大統領の指示であり、あなたの辞任を待っている。あなたの子どもが今どこにいるか私は知っている」と殺害を匂わせた。まさにマフィアそのものだ。
人道危機のデマを演出・作成するホワイトヘルメット
米を中心とした帝国主義がシリアを爆撃するときのもう一つの「口実」が、アサド政権の攻撃が「人道危機」を引き起こしているというデマだ。このデマ宣伝はいつも「ホワイトヘルメット」という団体から流される。彼らは、中立と非武装の医師団を装い、戦場で傷ついた人々を救うという触れ込みだ。しかし実態は、イスラム武装組織と行動を共にする米・英の諜報機関であり、軍の宣伝部隊だ。「ホワイトヘルメット」の創始者ルムジュリアーは、英陸軍諜報部隊の退役軍人で、設立に当たって100万ドルの資金を英政府から供与された。その後の活動に当たっても、米から2000万ドル、英から2000万ドル、その他のEU諸国から6000万ドル、合計すると1億ドル(約105億円)の巨額の資金提供を受けた。そのデマ作成はこうだ。まず彼らが、シリア軍の「非道さ」を訴えるために最も頻繁に使用する「爆撃を受けた少女アヤ」の写真を使い回しする。更にロシア軍の空爆支援の下シリア軍が解放した東アレッポに対して、「アレッポを救え」の住民デモ行進の映像をホワイトヘルメット提供で西側メディアに流し続けた。ところがこの映像は、金で雇った役者たちの全身に泥と血(のペンキ)を塗りたくり「戦争犠牲者」の扮装をさせ、シリアとは全く違ったヨーロッパの通りで撮影された、完全に作られたフェイクニュース映像をあたかもシリア現地で起こったかのように流し続けたのだ。
米の経済制裁でシリアは飢餓の危機に
米は爆撃・侵略と同時に、一切の輸出入・貿易を圧殺する経済制裁を遂行している。全世界の貿易決済が少数の帝国主義巨大銀行だけに牛耳られている金融覇権を最大限利用し、「シーザー法」を始めとする膨大な経済制裁で、シリア・アサド政権及びそれを支援するロシア・イランが、これらの銀行を利用できないようにしているのだ。直近では、英も経済制裁拡大を決定した。
その結果、シリア人民は輸出入がストップしているため復興計画に支障が出ており、日常生活さえできない状態に追い込まれている。戦争で破壊された病院、学校、住居等を再建しようとしても、戦争復興に不可欠の建設資材が輸入できない。病院が建設できず、やむを得ず医療は個人の住居や洞窟等で行わなければならない。多くの国民は住む家さえままならない。食料品、医薬品などの欠乏が常態化している。シリア通貨は大暴落し、インフレが急進行し、食料品価格は、10年前に比べ約33倍に暴騰している。雇用も奪われている。人口の60%に当たる1240万人が常時食料不足に苦しんでいる。コロナ禍にありながら、検査キットの輸入が大幅に制限され、シリア全土で1日当たり100回の検査しかできない等、治療がままならない。子どもの平均寿命は13年も縮まった。かつては中東の豊かな穀倉地帯とうたわれ、最も進んだ医療先進国であったアラブ社会主義シリアは、いまや見る影もない。その責任は、米をはじめとする帝国主義にある。
このような異常な困難にもかかわらず、シリア政府は現在、ロシアの支援のもとで数百万人に及ぶ難民の帰還を実現している。全世界の平和運動の力で米のシリア・イランに対する経済制裁を撤廃させ、シリア・中東から米軍を全面撤退に追い込もう。