ここ数年、労働法の時代錯誤的な反動的改悪が全世界で急激に進行している。日本だけではなかったのだ。だがその中で、ほとんど注目されていなかったポルトガルの労働者が画期的な勝利を収めた。この勝利には、いくつもの重要な教訓がある。
ポルトガルの労働法改悪案(「労働パッケージ」)は次のような内容であった。
――正規雇用の破壊と不安定雇用の拡大
――有期雇用の適用範囲の拡大、下請けやアウトソーシングの奨励
――偽装自営業の拡大(雇用契約推定の厳格化)
――解雇の容易化、不当解雇であっても復職阻止を可能に
――労働時間の規制緩和、年間150時間の無給残業を可能に(個人タイムバンク、グループタイムバンク)
なぜ世界はポルトガルの攻防に注目してこなかったのか?
ポルトガルが注目を集めてこなかったのはある意味「当然」でもあった。表1を見てほしい。230議席のうち、改悪賛成が100議席、反対は中道左派の社会党を中心に70議席、そのうち共産党はたったの3議席である。そしてキャスティングボートを握っていた極右・ファシストのシェーガは60議席で、一貫して反労働者的で改悪支持であった。

①労働者の持続的で大規模な闘争
だがポルトガル共産党(PCP)と、同党が指導するポルトガル労働総同盟(CGTP―IN)は決して諦めなかった。労働者は11ヶ月にも及ぶ激しい闘争を闘い抜いた。
闘争のヤマ場は、12月11日と6月3日のそれぞれ300万人に及ぶゼネストであった。ポルトガルの人口が日本の10分の1にも満たないことを考えると、その規模の巨大さが目に浮かぶであろう。だが闘争はそれだけではなかった。9月20日の全国行動、11月8日の全国行進、19万人を超える署名の首相への提出(2026年1月13日)、2月28日と4月17日の全国デモ、あらゆる部門で開かれた数千回の職場総会、民間・公共両部門での数千のストライキ。全労働者が必死で闘ったのだ。採決前日の6月18日時点でも、CGTP―INは阻止への決意を漲らせ、本会議開催中の議会前で大規模な集会を開催した。

②劇的な転換
労働者のすさまじい怒りと行動は奇跡を生んだ。極右でファシストのシェーガが土壇場で180度態度を変えたのだ。「労働パッケージ」は劇的に否決された。中道右派政権は深刻な政治的敗北を喫した。ポルトガルの政局は新たな局面に入った。
常識を覆したPCPの革命的伝統と議会外闘争重視への転換
「労働パッケージ」を阻止した牽引車はPCPとCGTP―INである。PCPは過酷この上ない反ファシズム闘争を闘い抜いた党であり、1974年4月革命を推進した党である。そしてそれらを一貫して指導した理論的・実践的指導者アルヴァロ・クニャールの革命的精神を受け継いでいる(参照記事:本紙109号ポルトガル革命50周年~500年の植民地支配と半世紀のファシズム支配に終止符(前)、本紙110号ポルトガル革命50周年~500年の植民地支配と半世紀のファシズム支配に終止符(中)、本紙111号ポルトガル革命50周年~500年の植民地支配と半世紀のファシズム支配に終止符(後))。
――PCPは48年間にも及ぶファシスト政権下で非合法闘争を闘い抜いた。4月革命後の党中央委員36名の投獄経験年数合計は実に300年以上であった。
――4月革命は、軍隊運動(MFA)と労働組合運動(インテルシンディカル、CGTP―INの前身)、PCPによって推進された。首相ヴァスコ・ゴンサルベスは、PCPと緊密に連携して革命的に行動した。
――1980年代以降、PCPは議会での議席が減少し続けながらも(表2)、CGTP―INとともに現実的な闘争力を維持し続けた。
――PCPは2020年代に入り、議会での多数獲得から、職場を拠点とする議外の大衆運動強化で政治的力関係を覆す組織路線への転換を進めてきた。今回の勝利は、職場細胞と要求闘争、労働組合活動を党の全影響力の基礎とする「職場重視再編」路線が、二度のゼネストと11カ月の闘争に結実した成果である。
――PCPは議会主義に染まらないために、パリ・コミューン以来の革命的民主主義的原則を実践した。「例外なくすべての公務員が完全に選挙され、いつでも解任できること、彼らの俸給を『労働者賃金』へ引き下げること」である。PCPの規約には「党員は、公職につくことによって、金銭的な利益を得たり、不利益を被ったりしてはならない」とある。また2019年総選挙の候補者との取り決めには「共産党議員は、自らの職業を続けていた場合に得たであろう給与のみを受け取り、超過分は党中央の金庫に帰属する」とある。
われわれは、この勝利が、PCPの正しい世界情勢認識と戦略、議会主義と一線を画し労働現場に根ざす地道な活動、議会で圧倒的少数派でも最後まで闘い抜く戦闘的姿勢、マルクス・レーニン主義に根ざす規律と献身の下で獲得されたことを、心の底から歓迎する。
全世界的な労働法改悪攻撃
労働法改悪攻勢はヨーロッパと日本だけではない。米トランプ政権は、世界侵略戦争、移民・関税執行局(ICE)の移民弾圧と同時に、政府効率化省(DOGE)による大量解雇、ギグワーカーの「独立請負業者」化等々を推進した。おぞましいのは児童労働の復活である。ヘリテージ財団が策定し、トランプ政権の事実上の施政方針となった「プロジェクト2025」は未成年者の危険業務就労を求め、州レベルでは2021年以降13州が規制を緩和した。またアルゼンチンのミレイ政権は、「労働現代化法」を3月に公布し、1日12時間労働、解雇保証金制度の廃止、試用期間の延長、スト権の剥奪等々を決定した。
①労働法改悪の特徴
労働法改悪攻勢は全世界で、①労働時間の延長(1日8時間・週40時間という労働者保護法の根幹への攻撃)、②非正規雇用の拡大、③ギグ・ワーカーの無権利化、④解雇の自由化、⑤ストライキ権の制限、という驚くほど共通した特徴を持っている。ここではヨーロッパの動向を特筆する。
②時短最先進国ドイツにおける8時間労働制廃止攻撃
労働組合運動が最も強力な国の一つであるドイツで、連立政権(キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD))が公然と「8時間労働制の廃止」を打ち出した。5月6日、労働社会問題大臣のバーベル・バス(SPD)が、労働時間に関する法案を6月に提出すると発表したのだ。これは「時代を画する転換点」であり、「歴史的なクーデター」である。このようなクーデターを可能にしたのはSPDだ。そしてドイツ労働組合連盟(DGB)はSPDと歴史的に極めて親密な関係にある。しかし今のところ、DGBは断固拒否である。
7月2日に発表された連立政権の「経済回復と雇用のためのプログラム」では、「8時間労働制の廃止」は除かれた。大規模で全面的な攻撃は控えられ、「段階的な攻撃」が開始された。
――パン屋、菓子店、図書館の日曜営業の拡大、有期雇用契約の大幅拡大、病気になった初日から診断書の義務付け。
もちろん連立政権は「8時間労働制の廃止」を諦めてはいない。メルツ首相は「今夏後半に議論される」と言明している。
ドイツでは、とくに金属労働組合IGメタルが強力である。IGメタルは1984年、7週間に及ぶストライキで週40時間の壁を破り、週35時間への段階的短縮を勝ち取った(実現は1995年)。だがメルセデス・ベンツの経営者は、6月下旬、「週40時間労働」への移行を言明した。しかし労働者は、週35時間労働制を守る決意を固めている。7月3日、3万3000人以上の従業員がドイツ全土の工場の門前まで行進し、怒りを表明した。
③すでにギリシャで歴史的な反労働者法=「立法上の怪物」が成立している
同じヨーロッパのギリシャで、信じがたいような法が2023年9月に可決され、24年7月から施行されている。「週6日・48時間」という時代錯誤の法だ。複数の使用者の下で働く上限は「1日13時間」とされた。だが2025年10月、単一の使用者の下でも年37日まで1日13時間労働を認める法が可決された。
ギリシャには、強力なギリシャ共産党(KKE)と戦闘的で組織力のある全労働者戦線(PAME)が存在している。だがPAMEの総括は、政府と経営者に対する批判、そしてすべての労働組合や2大ナショナルセンターに闘争を呼びかけたという事実確認にとどまっている。KKEとPAMEが強大な勢力であるにもかかわらず、なぜ敗北したのかを解明する必要がある。
日本の課題
日本では、高市政権が「成長戦略」をいっそうの労働強化で実現しようとしている。「働いて×5」は労働者にとっては「働かせて×5」である。
第1に、「定額働かせ放題」=「裁量労働制」の拡大(参照:本紙120号 「定額働かせ放題」=裁量労働法制拡大反対)、第2に、「変形労働制」の拡充=残業代不払いでの長時間労働、第3に、首切り自由=「解雇の金銭解決制度」、第4はプラットフォーム労働者を「個人事業主」と位置づけ、労働者性を認めないことである。
全世界の労働者と連帯し、労働者と労働組合の下からの運動で高市政権の労働法改悪を阻止しよう!
(T)
