ベネズエラ侵略と国際法
トランプの国際法破壊と国際的階級闘争

 トランプ政権は、独立主権国家ベネズエラに軍事侵攻し、現職の大統領ニコラス・マドゥーロとその妻シリア・フローレスを拉致・誘拐した。当然、幾重もの公然たる国際法違反だ。国連憲章第2条第1項「主権平等の原則」違反、第4項「武力による威嚇又は武力の行使」の原則禁止違反、第7項「内政不干渉の原則」違反である。また確立された国際慣習法としての国家元首の「個人的免責特権」侵害だ。マドゥーロ大統領は米国の法廷で「無実」の主張とともに、「私は今もベネズエラ大統領であり、戦争捕虜だ」と述べ、「国家元首の免責特権」を要求した。ベネズエラのサーブ検事総長も「米国では訴追できない」と主張した。
 トランプ大統領は公然と「国際法は必要ない」と言い放っている。米司法省は起訴状で意図的にマドゥーロの肩書き「大統領」を省略し、米国内法に基づいて「麻薬テロ陰謀罪、コカイン密輸陰謀罪、機関銃および破壊装置所持罪」で起訴した。もちろんでっち上げだ。拉致の根拠となった「太陽のカルテル」そのものが実在しないのだ。
 米国内法を恣意的に使い対外侵略や植民地戦争を正当化すること、国内法を国際法の上に置いて世界中を蹂躙することは断じて許されない。  

(石河)

[1]米帝による常習的な国際法破壊の歴史

(1) 米帝国主義による直近の鮮烈な国際法破壊は、2023年10月以降の米=イスラエルのガザ大虐殺戦争とジェノサイドで極まった。米帝と西側帝国主義は、それまで偉そうに「ルールある国際秩序」を振りかざしてきたが、米国が武器・弾薬を送り、国連で拒否権を乱発しジェノサイドの共犯者となった。西側諸国も同罪だ。米=イスラエルを支持し、武器を送り、国内のパレスチナ連帯運動を弾圧した。

(2) 戦後米ソ冷戦の長い過程の中で、米帝国主義は一貫して国際法を踏みにじってきた。ベトナム戦争では、無差別爆撃や民間人無差別殺戮など国際人道法違反、枯れ葉剤など非人道的兵器の使用などやりたい放題だった。
 とりわけソ連と社会主義世界体制崩壊後の米一極支配体制の中で切れ目ない国際法破壊を行った。1989年にはパナマに軍事侵攻し、元首ノリエガ将軍を拉致・誘拐し、米国の裁判にかけた。今回と同様だ。国連総会は国際法違反と非難決議した。2001年の米同時多発テロ事件を契機とする「対テロ戦争」以降、中東は国際法破壊の実験場となった。イラクの元首サダム・フセイン大統領に対するイラク特別法廷(後にイラク高等法廷)は米軍管理区域(グリーンゾーン)内にあり、イラク国内法に基づく国内裁判所というのは形式だけであった。リビアのカダフィも斬首された。
 それでは今回の国際法違反の新しい特徴は何か?それはマドゥーロ大統領が国家権力全体を強固に掌握している下で蹂躙された点にある。主権国家として正常に機能していたベネズエラの大統領が、突如、米軍に拉致・誘拐されたのである。かつてのパナマもイラクも、元首が「逮捕」された時点では、すでに軍事的に敗北し政権が崩壊していた。

[2]社会主義中国が主導する国連・国連憲章に基づく多国間主義秩序

(1) 国家主権は現代国際関係の基本中の基本である。現在、米帝の侵略的国家主権を制限し得るものは国際法のみである。もちろん国際法をめぐる階級闘争と力関係が押付ける限りでだ。
 社会主義中国はBRICS・SCOなどグローバル・サウスを結集して米帝一極支配に公然と挑戦し始めた。米帝主導の「5大覇権」(軍事覇権、ドル・金融覇権、政治覇権、ハイテク覇権、文化・メディア覇権)を武器にした新植民地主義支配を掘り崩すことで、これらグローバル・サウスの国家主権・独立を前面に押し出し、途上国収奪と低開発の押しつけに真っ向から闘いを挑み始めた。その核心が、国連と国連憲章を武器にした多国間主義秩序の構築だ。彼らはこれを「グローバルガバナンスの改革」と呼んでいる。

(2) 社会主義中国が世界反ファシズム戦争の勝利を特別に強調するのには理由がある。それは、ナチス・ドイツとの壮絶な戦いでのソ連赤軍および人民の死者数だけで2700万人もの途方もない犠牲と共に、天皇制日本ファシズムとの激戦での中国共産党および人民の抗日戦争の3500万人もの筆舌に尽くし難い犠牲の上に戦いとった勝利だからである。
 そしてこの最大の成果が国連と国連憲章であり、「主権国家」が世界的な現象となったことなのである。社会主義中国が主導するグローバル・サウスは、2010年代以降、国際法と国連、連憲章という戦後の出発点への原点回帰を目指すことで、米帝主導の剥き出しの国際秩序破壊を押さえ込み、阻止しようとしているのである。その意味で、国連と国連憲章、国際法は国際的規模の階級闘争の主要な舞台なのである。

[3]国際法破壊容認イデオロギーを批判・暴露しよう―恣意的「普遍的価値」で国家主権を破壊

(1) 日本を含む帝国主義政府・メディアは、今回の侵略と拉致・誘拐に対する批判が決定的に弱い。ほとんどは、無条件の国際法遵守を主張していない。「マドゥーロ独裁政権であっても」「中国・ロシアが真似をするから」という条件付き批判である。いつでもトランプを支持できる逃げ道を作っている。
 トランプ政権は、さっそく理論武装を行った。今回の正当性を「法的正当性」ではなく「道徳的・価値観的正当性」、つまり「普遍的価値」(正義、自由と民主主義)で法定戦を展開しようとしているのだ。マドゥーロ大統領を「正当性のない独裁者」「2024年の大統領選挙は不正だ」という屁理屈だ。条件付き国際法違反はいつでもひっくり返る。

(2) 帝国主義政府・メディアだけではない。西側のリベラルは、トランプと同じ「普遍的価値」を盾にベネズエラやイラン、社会主義中国やロシアを「権威主義(独裁)国家」だと批判してきた。「普遍的価値」(人権、自由・民主主義)イデオロギーは、米帝の侵略や政権転覆や制裁の武器である。
 ところが左翼や共産主義者の中にも、このイデオロギーを振りまく部分が存在する。「国家主権」の上に「人道」「人権」を置き、侵略や内政干渉を正当化するのだ。例えば、日本共産党議長志位和夫氏は、「イラン政府による反体制デモに対する武力弾圧は、国際人権法に違反する暴挙であり、即時中止を強く要求する」と表明した(1月16日赤旗)。「国際人権法」を盾にトランプの侵略に同調するものだ。
 また、国際共産主義運動内部でも「極左」の立場から国際法破壊を容認し、正当化する部分が存在する。「共産主義の擁護」(In Defense of Communism)の編集長ニコス・モッタス氏だ。氏は論説「帝国主義の下では『国際法』は存在しない」で、トランプの今回の侵略と拉致・誘拐に対して、矛先をトランプに向けるのではなく国際法違反と闘う世界中の反戦運動に向け、「幻想だ」「無駄だ」と批判し嘲笑する。国家をめぐる階級闘争も、国際法をめぐる階級闘争も理解しようとしない。氏は代わりに「帝国主義の廃止」を対置する。こんな馬鹿げた議論は氏が帝国主義を打倒してから言うべきだ。氏はベネズエラのフィゲラ派共産党によるマドゥーロ政権打倒を支持する。そもそもトランプの侵略と本気で闘うつもりがないのだ。

[4]日本の反戦運動も国際的なトランプ包囲網に合流しよう

(1) トランプが年初来続ける全世界に向けた異常な侵略欲と植民地化、脅迫と国際法破壊は、米帝国主義の強さの現れではない。米帝の一時的な成功、軍事力とメディア・情報戦の非対称的優位に圧倒されて、彼らの強さだけを見てはならない。むしろ逆である。
今回のトランプのベネズエラ侵略を挫折させ、目下異常な緊迫状況にあるイラン攻撃を阻止することができれば、反米・反帝への有利な力関係の転換はさらに前進するだろう。
米帝国主義が国際法破壊を好き放題し始めたからといって、国際法はどうでもいいというのではない。全く逆だ。今こそ、米帝の世界侵略戦争反対、国際法破壊反対の声を結集し、トランプを追い詰めよう。

(2) トランプと米帝の世界侵略戦争を阻止する最大の原動力は、米国内の階級闘争である。トランプ包囲網が急速に形成されている。対外侵略戦争が国内にはね返り、ICE(移民・関税執行局)による市民殺害とこれに対する抗議運動がネオファシスト・トランプの本性を暴き出している。世界関税戦争は失敗し、秋の中間選挙前にトランプ支持が低下している。背景にあるのは、米資本主義体制の危機だ。金融経済の肥大化と株価バブル、AIバブルで見えにくくなっているが、極端な貧富の格差が拡大し、労働者・人民の生活破壊と貧困化が進み、路上にはホームレスが目立っている。人民の不満は確実に高まっている。
 ベネズエラ人民はロドリゲス大統領代行の周りに団結し抵抗を続けている。ニコラス・マドゥーロとシリア・フローレスは法廷闘争で毅然と闘っている。
 国際的な反トランプ包囲網も形成されている。先頭に立つのは社会主義中国だ。米に対して、「主権平等、内政不干渉、国際紛争の平和的解決、国際関係における武力行使の禁止」を掲げて闘っている。CELAC・ALBAとグローバル・サウスがその周りに結集している。
 米国内のトランプ包囲問と国際的なトランプ包囲問が結合すれば、トランプの野望を打ち砕くことは可能だ。われわれ日本の反戦運動、ベネズエラ連帯運動も、このトランプ包囲網に合流しよう。

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