今回の(下)は、『ハイパー帝国主義:危険な退廃的新段階』の最後の3つの部分、第Ⅳ部:衰退する西側、第Ⅴ部:世界秩序の変化、エピローグ:信頼できる経済的・政治的代替世界秩序」の概要である。
*原文『Hyper-Imperialism:A Dangerous Decadent New Stage』
https://thetricontinental.org/studies-on-contemporary-dilemmas-4-hyper-imperialism/
(編集局)

[5]第Ⅳ部:衰退する西側
(1) 第Ⅳ部は、「衰退する西側」と称して、西側帝国主義の歴史的衰退を、まずは「米国の経済的・政治的覇権の侵食」で米帝国主義について分析し、次いで「敗北し服従するヨーロッパと日本」でヨーロッパと日本の帝国主義の対米従属・統合を分析し、帝国主義の衰退過程の中で「米国主導の軍事ブロック」が形成されてきたことを論じる。
米国の衰退(図34)では、1980年代以降の経常収支赤字の急増、新自由主義の下での国家の金融独占資本への完全な従属、支配階級の政治的利害への個別資本の個別利害の従属(例えば、対中対決、対ロ対決)、「スポンジから血を抜き取るような金融独占資本の金融的蓄積と寄生的発展、米支配階級による対途上国と、対自国労働者階級への「同時攻撃」、軍事費増とインフレによる搾取・収奪、長期的な経済成長率の低下、等々を列挙する。

こうして筆者らは、米帝が「軍事力と政治力を背景にした金融帝国主義の高度な形態であるグローバル独占金融資本の仕組み」を新自由主義的グローバル化時代に創出したと言う。米国企業によるGSからのグローバル・アービトラージ(世界的裁定取引)を通じて膨大な量の剰余価値収奪、米軍基地やその他の手段を通じた米ドルの押し付け、米国債を強制購入させ経常収支赤字と国内投資に資金を供給するしかないドル・金融覇権システムを作り出したのである。
ところが、中国を中心とする製造業の飛躍的発展が、この米帝のドル・金融覇権を突き崩し始めている。これが本研究が指し示す米帝主導の西側帝国主義の歴史的没落の展望である。
(2) 筆者らは第Ⅳ部の次節「ブルジョア自由主義の没落」で、帝国主義陣営の支配階級が1991年のソ連崩壊後の陶酔状態から、2006~09年に「新しい現実」(new realities)――「第三次世界恐慌、ロシア打倒の失敗、中国の躍進など――に直面し、一転して危機感を持つに至る。前述したハイパー帝国主義段階への「移行期」に当たる。
第Ⅳ部の最後の節「敗北し服従するヨーロッパと日本」では、2022~23年に米帝に服従する形で、「第二次世界大戦の2大ファシズム大国の再軍備」を加速している危険を暴露する。

[6]第Ⅴ部:世界秩序の変化
(1) 第Ⅴ部は3つの節からなる。最初の節「経済基盤の南方シフト」で、過去30年間のGNの長期にわたる経済成長率の低下と、GSの高い経済成長軌道を対比する。図39のように、1993年の冷戦終結時には、グローバル・ノースが世界のGDP(PPP)に占める割合は57.2%であったのに対し、グローバル・サウスはわずか42.8%に過ぎなかった。30年後、この割合は決定的に逆転し、グローバル・サウスのシェアは59・4%に達し、グローバル・ノースは40.6%にとどまっている(図39)。
とりわけ、米中の対比を強調する。「GNの絶対的リーダーである米国は、世界経済に占める割合が購買力平価(PPP)で1993年の19.7%から2022年の15.5%へと低下し、一方、GSの代表である中国は、1993年には5%でしかなかったが、2016年には、米国を上回り、2022年には、世界経済における中国のシェアは18.4%に達した(図42)。
著者らは、ここで途上国マルクス主義者ならではの特徴づけをする。「これは、非白人が支配する国が白人帝国主義国の覇権を経済的に突破した600年以上ぶりの出来事である。この経済的現実を受け、アメリカは中国の台頭を緊急に抑えようとし始めた」と。
また、中国だけではないと言う。「中国を抜きにしても、2022年までにGSの経済はGNを上回り、世界経済に占めるそれぞれのシェアは41%と40・6%に達した」。そして、この経済的力関係のGSに有利な変化が、「GNの帝国主義ブロックの意向に反し、より公正な国際秩序を求める能力を持つようになった」と誇示する。
(2) この経済的基盤の成長と衰退の同時進行が、「米国主導の軍事ブロック」の異常な侵略性と暴力性が増す衝動力になった。これが、次の2つの節「中国の経済成長と影響力を抑制するアメリカの戦略」と「世界を戦争に向かわせるグローバル・ノース」だ。
筆者らは、2007年の象徴的な出来事を2つ挙げる。1つは、ウラジーミル・プーチンの有名なミュンヘン演説。これはアフガニスタン戦争、イラク戦争以来の米帝の無制限の軍事力行使を非難したもので、プーチンが最終的にG7との連携を断念したことを意味した。もう一つは、「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)の設立だ。これは共和党のネオコンと民主党のネオコンが合体した新しいシンクタンクで、これ以降、現在に至る米帝の基本戦略を前面に押し出した。とりわけ、習近平総書記の登場で「中国のゴルバチョフの登場」という「西側の夢」が打ち砕かれ、オバマ政権の対中シフト「アジア・ピボット戦略」につながった。
最後の「世界を戦争に向かわせるグローバル・ノース」は、「ハイパー帝国主義段階」における「米国主導の軍事ブロック」の異常な侵略性を活写する。「米国は帝国主義陣営の内部統合を強化し、第二次世界大戦で敗れた日本とドイツの2つのファシスト国家に再軍備を要求し、中国を核心的戦略敵国として封じ込め、打ち負かすことが不可欠だと考え、新冷戦を始めた」。その上で、われわれが強調する「米帝主導の三正面戦争」(対ロシア戦争、対パレスチナ・イラン戦争、対中戦争)を展開する。「米国の地政学的目標は、中国とロシアの政権を転覆させ、非核化し、可能であれば両国を解体し、いくつかの小国に分割し、二度とアメリカの軍事的・経済的覇権に挑戦できないようにすることだ」
筆者らは、CNASがズビグニュー・ブレジンスキー元米国国家安全保障顧問の戦略を受け継いでいると言う。彼は1998年にこう警告した、「最も危険なシナリオは、中国、ロシア、イランによる大連合であろう」(『グランド・チェスボード』)と。この戦略は「三正面戦争」と直近の米=イスラエル帝国主義によるイラン侵略で見事に証明された。
そして帝国主義的衝動をかき立てたのが、「アジア、とりわけ中国に代表されるグローバル・サウス諸国の平和的台頭」であり、「帝国主義の世界支配に対する包括的な経済的挑戦」であり、「この600年間で初めて、大西洋帝国主義列強が、彼らに対抗しうる非白人の経済力に直面したこと」であると主張する。

[7]エピローグ:信頼できる経済的・政治的代替世界秩序
(1) 本研究の最後は、「米国主導の軍事ブロック」の異常な侵略と暴力に対するGSの自己防衛措置で締め括る。第Ⅴ部の最後はこうだ。「この前例のない巨大な帝国主義の圧力は、『世界の他の地域』(帝国主義陣営の外側にいる人々)の多くに、自己保存のための代替的な構造や自己統一性(alternative structures and identities for self-preservation)を特定することを余儀なくさせている」(図53)
ここで再び、ズビグニュー・ブレジンスキーの打倒・解体戦略の標的である3カ国――中国、ロシア、イラン――が登場する。まさしく、米帝主導の帝国主義による「覇権主義的圧力」に対抗する防衛機構であるBRICS10、上海協力機構、国連憲章擁護友好グループの全てに参加しているのは、この3カ国だけなのだ(図51)。
これらGSの国際機関の目的は、帝国主義陣営のそれとは真逆だ。「主権と開発、平和の達成」(sovereignty and development, and to achieve peace)である。筆者らは具体的には、多国間主義、新たな現代化、脱ドル化、グローバル・サウス主導のイノベーション、賠償と債務解決、食料主権、デジタル主権、環境正義の8つの共通の課題を挙げる。
(2) 「人類は危険で冷酷な軍事大国に直面している。米国は、第二次世界大戦の二つの主要なファシズム大国を再武装させるために進軍中であり、米国自身は極右政治とネオ・ファシズムへと向かっている」
これをどう押し返していくのか?筆者らは、こう展望する。「社会主義陣営以外の左翼勢力が実に弱く、ほとんどの国の革命の主体的側面が革命を行う準備ができていないことは、悲しいことに事実である」として、侵略と暴力的略奪の側に立つ先進帝国主義の「主体的条件の未成熟」を嘆く。「しかし、私たちは、完全な階級意識ではないにせよ、重大な変化と意識の断絶を目撃している」として、「アラブやイスラム世界では、この残虐行為と屈辱の誇示を決して忘れることも許すこともない、未来の若者の世代が生まれることになるだろう」と「新しい若者世代の形成」に期待する。
本研究は、途上国のマルクス主義者、共産主義者の悲痛な叫びである。「ハイパー帝国主義段階」の異常な侵略と収奪に苦しむ新興・途上諸国が、これに立ち向かうために苦心の末、紆余曲折を経て、BRICSなどの国際機関を創設し、防衛しているのである。これに対して、先進諸国のマルクス主義者、共産主義者が、この異常な侵略を阻止すらできないのに、「社会主義機関ではない」「バラバラで矛盾だらけだ」とこの防衛措置をあざ笑うことは、決して許されることではない。
(3) エピローグの最後は、こう締め括られている。「600年以上に及ぶグローバル・ノースによる屈辱、人種差別的暴力、経済的搾取の結果、私たちはハイパー帝国主義の段階に到達した。しかし、矛盾を抱えつつも台頭するグローバル・サウスは、人間が歴史の被害者として留まる必要はないことを私たちに思い出させる。主体的要因の文脈が異なるにもかかわらず、『共産党宣言』(1848年)の結語は今日でも力強い呼びかけとして響き続ける…われわれには勝ち取るべき世界がある(We have a world to win)」と。
われわれは、「ハイパー帝国主義段階」を、「移行期」を含めて2008年から始まり、2022年のウクライナ戦争と2023年の米=イスラエルのガザ大虐殺戦争以降、ピークに達し、現在も進行中だと理解した。しかし、われわれは、筆者らが、この「ハイパー帝国主義段階」にもう一つ別の意味付与をしているのではないかと考える。まず、レーニンの『帝国主義論』第8章「資本主義の寄生性と腐朽」を意識し、副題「危険な退廃的新段階」の「退廃的」(Decadent)段階を重ね合わせ、『帝国主義論』最終章第10章「帝国主義の歴史的地位」の「過渡的で、死滅しつつある資本主義」を意識し、第Ⅱ部「帝国主義の進化」で論じた「移行期」(transition)に「社会主義社会への『過渡期』(transition)」を重ね合わせるという風に。その証拠に、エピローグの最後は、共産主義革命で終わり、引用された詩「黒人女性」(Black Woman)も、「シエラから降りてきた」というキューバ革命で終わる。
『共産党宣言』の結末で締め括っているのも、同じ意味合いではないか。「支配階級をして共産主義革命のまえに戦慄せしめよ!プロレタリアはこの革命によって鉄鎖のほかにうしなうものはなにもない。彼らの得るものは全世界である。万国のプロレタリア団結せよ!」(国民文庫)。いかなる困難があろうとも、最後は共産主義革命は勝利する、と。
(完)
現代帝国主義研究 (連載その1)『ハイパー帝国主義:危険な退廃的新段階』(上)―途上国人民からの視点を貫く― | コミュニスト・デモクラット
現代帝国主義研究 (連載その2)『ハイパー帝国主義:危険な退廃的新段階』(中)―途上国人民からの視点を貫く― | コミュニスト・デモクラット
