イタリアで、9月22日、10月3日、そして11月28日と、3波連続の歴史的なゼネストが決行された。ゼネストはパレスチナ連帯、反ネオファシスト・メローニ政権の政治闘争として闘われた。
特筆すべきゼネストのスローガンと規模、主導者
一連のゼネストを主導したのは草の根労働組合(USBなどは後述)である。第1波は100万人であった。第2波はイタリア最大の労働組合CGILも下からの圧力によって加わり、200万人に膨れあがった。だがCGILは第3波のゼネストには参加せず、12月12日にずらしたゼネストを計画した。
ゼネストの一貫した目的は、ガザ・ジェノサイド阻止であった。「すべてを阻止しよう!」という断固としたスローガンが掲げられた。港湾、道路、職場を封鎖し、イスラエルへの武器・物資輸送を阻止し、政府にイスラエルとの外交関係断絶を要求した。
第1波・第2波のゼネストは、スムード船団支援、イスラエルへの完全な武器禁輸を直接の目標とした。イタリアは米独に次ぐ世界第3位の対イスラエル武器輸出国である。ジェノヴァの自治港湾労働者集団(CALP)の港湾労働者、リッカルド・ルディーノ氏は、グローバル・スムード船団を見送るために行進した4万人の群衆に向かってこう宣言した。「船団の仲間と20分でも連絡が取れなくなったら、ヨーロッパ全土を封鎖する。ジェノヴァの港湾からは釘一本も出さない。これは世界規模のストライキだ」
第3波のゼネストは、真正面から、ネオファシスト・メローニ政権とその2026年度予算案に向けられた。「戦争予算とメローニ政権に反対。イスラエルと断絶し、パレスチナを解放せよ」がメインスローガンとなった。イタリア全土40以上の都市で大規模なデモ、集会も行われた。翌29日は「国際パレスチナ連帯デー」でもあり、ローマで10万人のデモが組織された。デモにはスムード船団に加わったグレタ・トゥーンベリ氏、国連特別報道官でイスラエルのジェノサイド加担企業を鋭く告発したフランチェスカ・アルバネーゼ氏も参加した。

労働者たちが「パレスチナを解放せよ」と叫んでいる
https://www.struggle-la-lucha.org/
戦闘的労働運動がイタリアの政治闘争の主導者となった
先進国で戦闘的労働運動が政治闘争の主導権を握るのは数十年ぶりのことである。
51年前の1974年のポルトガル革命(カーネーション革命)では、労働運動が軍隊運動と並んで重要な役割を果たした。1968年のフランスにおける5月革命(危機)では学生運動を支援する大規模なゼネストがドゴール大統領を退陣に追い込む上で極めて重要な役割を担った。これらは、資本主義が1970年代の体制的危機に向かう時期の闘いであった。
現在、米帝国主義の一極支配構造が崩れ始め、中国社会主義主導のグローバル・サウスが台頭して、世界は大きな転換点にある。そしてその中で、先進国労働運動の政治的意識の立ち後れが重大な問題となっている。今回のイタリアの政治的ゼネストは、先進国労働運動の覚醒に向けてどのような意義を持っているのであろうか?
今回のイタリアのゼネストは賃金や年金など労働者の差し迫った経済的要求をめぐるものではなく、帝国主義による被抑圧民族への攻撃に向けられたものであった。イタリア労働運動のこの政治的覚醒はまさに時代の転換点を切り開く最先端の役割を担っているように見える。
イタリアの労働運動はどのようにしてパレスチナ連帯をゼネストにまで高めることができたのか?
第1に、長年にわたる草の根レベルの組織化と戦略的な労働組合活動の成果だ。イタリアのパレスチナ系青年(GPI)、イタリア・パレスチナ協会(API)、アラブ・パレスチナ民主連合(UDAP)といったパレスチナ人連帯組織は、学生団体、社会運動団体、そしてイタリアのアラブ系・ムスリム系コミュニティと協力し、2年以上にわたり、戦闘的な労働組合主義と密接に結びついた強力な全国ネットワークを構築してきた。
第2に、偶然にも世界的なサプライチェーンの戦略的拠点に戦闘的で組織化された港湾労働者がいた。世界貿易の90%以上が海上輸送であるため、港湾は決定的に重要な結節点であり、武器を含む物資の流れを阻止しうる検問所であった。そしてジェノバの港湾労働者は、1973年のベトナム支援から、ピノチェト政権下のチリやアパルトヘイト時代の南アフリカへの武器輸送阻止まで、数十年にわたり、反ファシスト運動と民族解放運動を国際連帯運動として結び付けてきた。
第3に、なにより指導者の政治的姿勢である。彼らは、「パレスチナ連帯を通じて、労働組合はその政治的目的を取り戻すことができる」と考えている。ガザは未来を映す鏡である。ジェノサイドに断固として反対する立場を取ることは、組織を強化し、政治的正義の感情を深める。また軍国主義と抑圧が激化すれば無為の代償は壊滅的となるということを、広範な労働者に考えてもらうのである。
運動は、全国的にメローニに対する反ファシズム闘争の様相を帯びた。第二次世界大戦中の反ファシズムのパルチザンソング「さらば恋人よ(ベラ・チャオ)」が全土で歌われた。
草の根労働組合とは何か?その特異性と歴史的意義
まず、イタリアには伝統的な主流の労働組合と別に草の根労働組合(sindacato di base、シンダカート・ディ・バーゼ、基層労働組合とも言う)がある。その一つで最大の労組がUSB(unione sindacale di base、シンダカーレ・ディ・バーゼ)である。他にCUB、COBAS、SGBなどがある。USBは2010年結成という新しい労働組合である。イタリアの主要な労働組合連合はCGIL:515万人、CISL:442万人、UI:229万人だが、USBは25万人にすぎない。
第2に、草の根労働組合の歴史的ルーツは、工場評議会にある。工場評議会は1969年から1970年にかけての「暑い秋」の時期に発展した工場・職場単位の労働者による民主的な代表組織である。CGILなど産業別労働組合連合の支部を含めた職場の労働者全体を代表する機関であり、ディ・バーゼ(草の根、基層)の語源となっている。
第3に、USBは、1990年代に正式な交渉組織から排除されていた不安定雇用、物流、公共部門の労働者(多くの場合移民)の間で発展した。これによってUSBは、ネオリベラリズムとグローバリゼーションの攻勢の中で、反撃のための無視しえない位置を占めてきた。
第4に、USBは非労働者をも組織した。①USB賃借人・居住者協会、USB住宅権協会、②USB年金受給者協会、③USB新世代自営業者組合などである。この③は、すべての自営業者、独立労働者、臨時労働者、サービス提供労働者、失業者、学生を代表する新しい組織である。日本でもフリーランスや「雇用によらない働き方」学生アルバイトが重大な問題となっており、このような組織化は極めて参考になる。
第5に、USBは労働組合とさまざまな社会運動を結合させている。学生、市民ネットワーク、そしてパレスチナ社会連合(CUSP)といった活動家グループによる幅広い連合が、ストライキの影響力を拡大させた。労働運動と社会運動のこの融合は、イタリアの揺るぎない多元主義を反映している。
第6に、USBは世界労連(FSM―WFTU、130カ国1億500万人)に加盟し、活発に国際主義的活動を展開している。コロナ・パンデミックの時期には、イタリアでも活躍したキューバ人医師団「ヘンリー・リーブ旅団」にノーベル賞を授与するキャンペーンを支援した。現在は米のベネズエラに対する侵略の危険に対する闘争をも行っている。USBはまた11月10日の第15回世界社会主義フォーラム(北京)でスピーチを行って、米と西側諸国の覇権を批判し、ウクライナ戦争をその線で捉え、共産主義運動と現実社会主義の中での中国とその中国を含む多極化を評価している。
第7に、USBは急進的左派政党「人民に力を!」(ポテレ・アル・ポポロ)、およびそれを含む「共産主義者ネットワーク」(Rete dei Comunisti RdC)と密接な関係がある。このネットワークはハマスとその「アルアクサ洪水作戦」、ベネズエラのマドゥーロ政権、そしてグローバル・サウスを断固と支持している。USBは共産主義者との連携を隠さない。むしろ誇示している。
高市政権の対中戦争政策に反対し、日中友好、パレスチナ連帯闘争を一段と強化しよう
日本では労働組合運動の中に、政治スローガンを直接に持ち込める条件がほとんどない。しかしイタリアのUSBの現在も長年にわたる地道な活動の積み重ねの結果だ。そしてその努力の軸になった思想は、被抑圧民族との連帯こそが自分たちの意識と力を強化することができるという信念だ。
私たちも、「対中戦争ではなく日中の平和友好を!」「ガザ虐殺反対!不屈のパレスチナ人民連帯!」を粘り強く、労働運動の中に浸透させていく努力をあらためて強めていきたい。
(石河)
