
敗戦80年を迎え、日本は、加害責任と向き合い日中友好と平和共存に向かうのか、歴史の事実を否定し再び対中侵略戦争に向かうのか、歴史の転換点に立っている。
抗日戦争勝利80周年を機に、中国は戦争被害の調査・発掘を進め、記念館・博物館の整備や学校教育で、歴史の真実の掘り起こしと被害の実相継承を強化している。
一方、日本では侵略的過去を忘却・否定する動きがエスカレートしている。自民党総裁に極右の高市氏が就任し、先の参院選挙では参政党が躍進するなど、日本政治の右傾化が進んだ。中国・韓国などから靖国参拝や改憲など日本軍国主義への警戒が高まっている。
歴史の真実を記憶に刻む中国と、ひねり潰そうとする日本――この逆行のもとで、反戦運動、加害責任追及運動、歴史修正主義反対運動、教科書運動、「日の丸・君が代」強制反対運動は、どのように反撃していくのかが問われている。
[1]侵略と加害の歴史の抹殺に新たな反撃を開始しよう
(1)「反日」言説による威嚇・言論封殺に反対しよう
第1に、侵略や加害の事実を語ることそれ自体に「反日」言説を浴びせ、威嚇し、歴史の真実をタブー化する攻撃と闘うことである。
世界中で米帝主導の帝国主義戦争が荒れ狂っている。その最大の焦点は米日が前面に立つ対中戦争である。中国は9月3日、中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年を記念して、北京で盛大な大会を開催した。これはアヘン戦争以来、帝国主義列強に四方八方から攻め込まれた「屈辱の世紀」を二度と繰り返さない、屈辱的な過去を忘れないという決意表明である。今再び襲いかかろうとする米日帝国主義に対する警告である。被害国、被害人民として当然のことだ。
これに日本政府は噛みついた。北京大会を「反日行事」と決めつけ、外交ルートで欧州やアジア各国に不参加を働きかけた。中国滞在の日本人に向けて「反日感情が高まる」「警戒せよ」と「反中感情」を煽った。メディアは、日本人小学生刺殺事件や日本人女性襲撃事件をことさらに煽り立て、「中国の反日教育」の結果だと宣伝し、映画「南京写真館」「731」を「反日映画」と中傷している。
ある在中国日本人の真っ当な投稿がある。「〝百年国辱〟は反日教育ではない。アヘン戦争以降、約100年間も列強に支配され続けた弱さに学び、『支配されない国』を目指す教育だ。日本の侵略や抗日戦争も学ぶが、それは過去に学び、同じ失敗を繰り返さないため。〝日本を憎め〟とは教えられていない」。中国で「抗日」とは「反日本軍国主義」である。「反日」ではない。
(2)侵略と加害の責任を認めさせよう。被害者意識ナショナリズムを克服しよう
第2に、自国の侵略・加害責任を認めさせることだ。原爆や空襲、「満州」引き揚げやシベリア抑留、特攻、軍隊内の暴力なども語り継ぐべきだが、侵略国家として中国・朝鮮・アジア太平洋に甚大な人的・物的被害をもたらした加害の事実を抹殺することは許し難い。
敗戦80年の今夏、日本国内では侵略と加害の歴史は全く語られなかった。加害国日本があたかも被害者であるかのような被害者意識一色となった。中国や韓国から「被害者意識ナショナリズム」(Victimhood Nationalism)との批判が出ているほどだ。
天皇制日本が米国だけではなく、中国人民の抗日戦争に決定的に敗北したことを学ぶこと、そのためにも、中国抗日戦争・反ファシズム戦争の歴史を学ぶことが重要である。
われわれは、いまだ自国政府に侵略の反省をさせていない。侵略・加害の反省とは、(a)加害の事実の調査・確認、廃棄・隠匿された証拠の発掘と犠牲者の特定、(b)加害行為の犯罪性の解明、(c)犠牲者への謝罪と補償、(d)記録と教育による未来世代への教訓の継承、これら全部である。これなくして天皇制日本が侵略し植民地支配した国の犠牲者の尊厳の回復はない。だが日本政府は、これら全てに応えていない。
[2]歴史修正主義との闘いの今日的意義
(1)歴史修正主義との闘いを改めて強化しよう
反戦運動の第3の戦略課題は歴史修正主義との闘いである。これが米日帝国主義の対中戦争を阻止し、対中平和共存の実現にとっての最重要課題に浮上している。
歴史修正主義とは、天皇制日本軍国主義の侵略と植民地支配の歴史を塗り替え、天皇・軍部・財閥の加害責任を否定し、自らを「被害者」だとデマで染め上げる極右勢力の反動的・復古主義的運動である。教科書検定や教科書書き換え、学校現場での教員と教育内容の強制が集中点であった。保守・極右勢力は教育反動化を梃子に、全般的な反動化と軍国主義化を推進してきた。歴史修正主義の台頭は、日本政治の右傾化・反動化と軍国主義化の決定的な原動力の一つである。
(2)被害者の告発と闘い、歴史修正主義との闘いの歴史を振り返る
われわれは極右勢力の攻撃を前にして、歴史修正主義の台頭とこれに対する被害者と反戦運動の闘いの歴史を振り返り、今後の闘いの可能性について考えたい。
戦後日本は、米ソ冷戦の下で、米帝国主義の「目下の同盟者」として振る舞うことによって、侵略と加害の責任を回避し続けた。しかし、冷戦構造が崩れ始めた1980年代末から90年代、抑え込まれてきた被害者が次々と名乗り出て起ち上がった。2000年までに、日本軍「慰安婦」問題と戦時性暴力、強制連行、強制労働と未払い賃金、朝鮮人元軍人・軍属への補償、シベリヤ抑留、朝鮮人・台湾人元BC級戦犯、731部隊の人体実験、毒ガス・遺棄化学兵器被害、重慶無差別爆撃、サハリン残留朝鮮人、在外被爆者補償、沖縄住民虐殺等々、多くの裁判が起こされた。日本の裁判所は、被害の事実を認めざるを得なかったが、「国家無答責」「請求権の時効」等を根拠に、ことごとく被害者の請求を退けた。しかし、闇に押し込められてきた加害責任・戦後責任が一挙に暴かれ始めたのである。
被害者と内外の人民の闘いは、世論を揺るがし、不十分ながらも河野談話(93年)、村山談話(95年)、「慰安婦」問題の全教科書への記述、強制連行・強制労働、南京虐殺問題など加害事実の公教育の中での扱いを勝ち取った。この闘いは、日本の人民が自らの戦争・加害責任と「被害者の尊厳の回復」を問い直し、事実に学び若い世代に伝え、政府に謝罪と賠償を要求する闘いでもあった。(参照戦後の教科書運動と加害責任)
(3)第2次安倍政権と一体の極右勢力の「歴史戦」
第2次安倍政権で巻き返しが本格的した。敗戦70年(2015年)安倍談話は、「先の世代に謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と村山談話を打ち消した。極右勢力は「新しい歴史教育をつくる会」を結成し、これまでの成果を「自虐史観」だと攻撃し、反動的巻き返しを開始した。文科省は「つくる会」教科書を検定合格させ、2006年には中学教科書に「慰安婦」問題を書かせない検定を強行した。
しかし、彼らを最も慌てさせたのは、2007年に米下院など各国で、日本政府に「慰安婦」問題の解決を促す決議が可決され、第2次安倍政権下で、13年に米国や韓国での「慰安婦」像設置、その動きが欧米諸国にも一気に広がったことである。
雑誌『正論』は、2013年2月から「歴史戦争」シリーズを開始し、産経新聞は2014年4月1日の「河野談話の罪」を皮切りに、2019年までに400本を超えるシリーズ「歴史戦」を掲載した。攻撃は、「南京虐殺」否定、「強制労働」否定、さらには「科研費(文科省科学研究費事業)」で日本の加害研究者を名指しで「反日研究だ」と攻撃した。
2015年、安保法案強行の見返りに米国の後ろ盾を得た安倍政権は、韓国の朴槿恵大統領に、「賠償ではない」と明言した「元軍慰安婦の名誉と尊厳回復のための基金」(10億円)を押しつけた。「軍慰安婦問題」が「最終的不可逆的に解決されたことを確認」させ、「今後、国連等国際社会でこの問題についての非難・批判を控える」と約束させ、「平和の少女像」の撤去まで要求した。2021年4月、菅内閣は、「従軍慰安婦」を記載している教科書から「従軍」を削除させ、軍と「慰安婦」の関係切り離しを強制した。
[3]天皇制ファシズムの異常に凶暴・残虐な戦争犯罪を暴こう
(1)天皇制日本はファシズム国家であった
天皇制日本はドイツ、イタリアと並ぶ、ファシズム国家であった。しかし、早くも1970年代に、極右勢力と政府・文部省と一部の保守論客が結託して、教科書検定で「日本ファシズム」記述を削除し、学校教育から一掃し、次第に学界からもメディアからも排除していった。今では日本が天皇制ファシズムであったと語られることはほとんどない。
一方、中国では抗日戦争の歴史教育の中で、日本が天皇制ファシズムであったことを教えている。だからこそ、今年の抗日戦争勝利は世界反ファシズム戦争勝利80周年なのである。侵略国・加害国が天皇制ファシズムを抹殺し、被侵略国・被害国が天皇制ファシズムを忘れず、記憶しているのである。
(2)天皇制ファシズムの異常な凶暴性・残虐性
日本は、明治維新による絶対主義天皇制の確立以降、帝国主義的発展と共に、対外侵略と植民地主義的拡張を一貫して追求した侵略国家であった。1874年台湾出兵、1894年日清戦争、1904年日露戦争、1910年韓国併合、第一次大戦下での中国山東・南洋群島占領(1914~)と、途切れることなく続いた。「15年戦争」どころか、1870年代から連続した「70年戦争」であった。
しかし、9・18事変(1931年)以降、絶対主義天皇制は絶対主義的・ファシズム的天皇制に転化し、日中全面戦争(1937年~)、アジア・太平洋戦争(1941年~)へと領土的拡張に歯止めがなくなり、中国大陸におけるその侵略欲、残虐性、凶暴性は異常なまでにエスカレートした。
中国における3500万人の死傷者という第二次世界大戦でも突出した犠牲は、天皇制ファシズムによる9・18事変以降である。そして、中国共産党が率いた紅軍と人民の抗日戦争の激烈な抵抗もこの時期に集中している。これがさらに日本軍の無差別殺戮を生み出した。
南京大虐殺、731部隊による人体実験と細菌戦、強制連行と中国大陸での強制労働、日本軍「慰安婦」、三光作戦など掃討戦虐殺等々。中国人死傷者3500万人のうち死者は2100万人である。他方、日本の民間企業が中国大陸で強制労働させた中国人は実に4000万人、うち約1000万人が死に追いやられた。中国人強制労働と「万人坑」を調査・研究する青木茂氏は、最初から「以人換煤(人命と引き換えに石炭を出す)」の言葉に象徴される企業主導の「使い殺し」が、天皇制強化と侵略戦争のエスカレートとともに、さらに残虐化していった事実を、「万人坑」の遺骨配置から明らかにしている。また、今年、ハルビンの「731部隊罪証陳列観」から新たな3010ページの文書、194分の映像、312枚の写真、書簡8通等が公開され、南京の「中支那防疫給水部(1644部隊)」、広州の「南支那防疫給水部(8609部隊)」での人体実験・細菌戦の事態解明への道が拓かれた。
天皇制ファシズムの対外侵略と苛烈な国内でのテロル弾圧体制は一体であった。治安維持法(1925年)による共産主義・人民運動の弾圧体制、5・15事件(1932年)と2・26事件(1936年)など政党政治の否定と軍部独裁の確立、等々。極右政党がスパイ防止法制定を画策する今日、天皇制ファシズムの国内暴力を想起する必要がある(参照戦争国家化への人民監視・治安弾圧推進法 「スパイ防止法」を許すな)。
[4]対中戦争阻止=対中平和共存と加害責任追及の闘いを結合しよう
(1)対中戦争は阻止できる 日中平和友好活動を強めよう
日本帝国主義は、米帝一極支配の下での対米従属的侵略国家として復活を遂げようとしている。米国と一体となって対中軍備増強と戦争挑発を強めている。しかし、侵略相手国である社会主義中国はかつての列強にズタズタにされた中国とは様変わりである。堅固な社会主義防衛力は米軍でさえ簡単に手を出せない。今や中国のGDPは日本の4倍だ。日本は中国に深く貿易依存している。米帝は対中戦争では自らはグアムに引き揚げ、日本に先制攻撃させ日本を戦場にさせようとしている。しかも、社会主義中国主導のBRICSやSCOなどグローバル・サウスは集団的に台頭し、米帝主導の西側帝国主義は歴史的没落の道を歩んでいる。
今日の政治的力関係は、米日帝国主義の対中戦争は阻止できること、困難だが日中平和共存の可能性があることを示している。対中戦争阻止と地道な日中平和友好活動を結び付けよう。
(2)同じ過ちを繰り返すな 加害の歴史的真実を広げよう
日本は被害者ではなく加害者である。歴史を直視し反省しなければ同じ過ちを繰り返す。そのためにも、侵略国家=加害国家の歴史を学び、語り、広げていこう。それは日本の反戦運動、人民の責務である。
しかし、対中戦争阻止、対中平和友好の前に立ちはだかるのが、加害責任を抹殺する歴史修正主義の台頭、極右・ネオファシスト政党の急伸と、「日本でないもの」への蔑視・差別、排外主義イデオロギーの拡大である。
今号の特集は、天皇制ファシズムを打倒した原動力である中国人民の抗日戦争と世界反ファシズム統一戦線の闘いに学び、日本の戦争責任と加害責任の事実を掘り起こし、証拠を集め、犠牲者の声に寄り添いながら闘う人々に学ぶことをめざした。次号にも特集を継続し、さらに議論を深めたい。
2025年10月7日
『コミュニスト・デモクラット』編集局