軍事費GDP比5%を阻止しよう
対中国戦争阻止と生活闘争を結合して闘おう

 NATOは6月の首脳会議で2035年までに軍事費の目標をGDP比5%(純軍事費3.5%、安保関連費1.5%)に引き上げることを決定した。対ロシア戦争態勢を構築するためのもので、これまでの2%から一気に急拡大するものだ。

 米国はアジア・太平洋に対しても同じ水準で軍事費増を要求している。日本政府にも5%を突きつけてくることは必至だ。24年の日本のGDPは617兆円だから、3.5%で21.6兆円、5%で30.9兆円になる。25年度の軍事費は既に9.9兆円であり、もし5%を受け入れれば10年後までに20兆円規模の増額が必要となる。日本はこれまでと次元を異にする戦争国家に変貌する。日本は今決定的な転換点にたっている。5%目標は軍事費以外の予算、とりわけ社会保障、福祉、医療、教育などに深刻極まりない打撃をあたえ、労働者・人民の生活に重大な打撃を与える。対中国の戦争準備の本気の加速を止めることと人民生活の破壊と闘うことを結び付けて戦うことが決定的に重要になる。

米国の同盟国に対する軍事費拡大要求

 2025年6月25日にオランダで開催されたNATO首脳会議は、米国の要求に応えて軍事支出の新たな目標として現行のGDP2%を2035年までに5%へ引き上げることで合意した。その内訳は軍事費(兵器、兵力、訓練、作戦行動など「中核的軍事支出」)にGDP比3.5%、安保関連の支出(基地・兵站等インフラ整備、軍需工場への設備投資、サイバーセキュリティー、AI・情報通信技術等)にGDP比1.5%としている。この目標をドイツは2029年までに、フランスは30年までに前倒しで実施すると早々に決めた。ウクライナ代理戦争に米国の関与をつなぎとめておくとともに、自らの軍事力の強化でロシアと直接戦争の準備を行うことを目的とするものだ。

 NATOは、戦争のための共同基金を設立し、加盟国は国家予算のなかで軍事予算を最優先にする、そのために福祉・教育・環境予算を削減する方向に舵を切った。NATOは新しい戦争態勢の時代に入った。

米国の日本に対する軍事費GDP比5%要求

 対中強硬派として知られるコルビー国防次官は3月4日の米上院軍事委員会の指名承認公聴会で「GDP2%は明らかに不十分だ。トランプ大統領は台湾に(GDP比)10%、北大西洋条約機構(NATO)に5%を求めている。中国や北朝鮮から直接的な脅威を受けている日本が2%しか支出しないのは道理がない」と発言した。ヘグセス米国防長官は5月31日、アジア安全保障会議「シャングリラ対話」で日本などアジアの同盟国に対し、軍事費をGDPの5%に引き上げるよう強く求め、「中国による台湾侵攻の可能性に備えるため、より強い危機感を持つ必要がある」と警告した。日本側は参院選前に米国の要求に応えることを避け、2+2安保協議を中止し、石破首相はNATO首脳会議も欠席した。

 米国トランプ政権は、バイデン政権以上に中国を帝国主義覇権の維持にとって最大の脅威とみなしている。ガザ・中東での戦争を続け、ウクライナでの対ロシア代理戦争の負担を欧州に押し付けながら、中国との戦争準備に最大の重点を置こうとしている。米国は日米同盟を基軸として韓国、フィリピン、オーストラリア対中国軍事包囲の形成を推し進めている。米国は日本に中国本土を射程におさめるミサイルなど攻撃的兵器を装備させ、最前線で闘うことを要求している。これが米国の日本に対する軍事費拡大要求の背景だ。日本は、NATO諸国同様これに積極的に応えようとしている。日本政府が米国の要求を受け入れることは確実だ。

軍事費GDP比5%のインパクト

 仮に米国の要求どおり日本の軍事費がGDP5%になったらどうなるのか? GDP比3.5%で純軍事費21. 6兆円、5%で安保関連費を含めて約31兆円だ。現在の軍事費の3倍もの水準になる。GDP2%の下でさえ抑制されている社会保障関係費等人民生活関連の予算をさらに圧迫し、増税や国債発行がせまられることは必至だ。

 軍事費の急増をまかなう道は二つだ。経済の成長、税収の自然急増など期待できない。だから、①他の歳出を削減するか、②軍事費のために大幅増税するかしかない。仮に予算規模と国債費・地方交付税が変わらないとみなしてシミュレーションすれば、2035年には軍事費が一般歳出の4分の1以上(26.5%)を占め、軍事費以外の予算は3分の2に圧縮される!社会保障、福祉、医療、教育、防災、農業関連予算も大きく削減され人民の生活と命が破壊されるだろう。

 もしも軍事費増加分を増税で埋めるならば年間22兆円の増税が必要となる。所得税(税収22.7兆円)で賄うなら所得税率を2倍に引き上げることが必要だ。消費税(税収25兆円)で賄うなら消費税率を19%程度に引き上げることが必要だ。それを国債で賄おうとしても無理で、国家財政が破綻し、ツケは人民に転嫁される。これだけの急増税を押し付けることは困難であり、まずは人民関連予算から徹底的にむしり取ることになる。文字通り戦争最優先、人民からは最後の1円まで吸い上げる体制だ。

 天皇制軍国主義が柳条湖事件(満州事変)を引き起こした1931年に軍事費は国家予算の30%に及び、その後14年にも及ぶ侵略戦争に突き進んでいった。国家総動員法ができる38年には70%にも達した。軍事費の国家予算に占める割合は戦争国家化の指標だ。軍事費GDP5%への進行を押しとどめることは、日本の平和運動にとっての最大の課題だ。軍事費の拡大がこれまでと違うレベルで人民生活への重圧となる時代を迎える。人民生活を守る闘いの最大の焦点は軍事費削減の闘いとなる。

中国と対等の軍事費を目指す異常さ

 他国との比較で見ると軍事費5%の異常さがよくわかる。中国の名目GDPは日本の4.6倍(24年)だ。中国の軍事費の対GDP比は1.26%だ。GDP比は長期的傾向で一貫して減少している。日本の軍事費のGDP比を5%にすれば、それは中国の軍事費の9割もの規模になる。巨大な経済規模に成長した中国と同レベルの軍事費をつぎ込もうというのは異常極まりない。

 さらに米国の軍事費は現状で日本の5%時の5倍(名目1兆ドル=150兆円)から7倍(実態での軍事費)あるから、日米だけで中国の6倍以上の軍事費を投入して対中国戦争、対中軍事恫喝を行おうとしている。
 これだけで誰が戦争を仕掛けているのか、誰が脅威を与えているのか明白だ。恥ずかしげもなく中国の脅威を煽り立てる政府・政党とメディアを徹底批判する必要がある。

 もう一つの問題は30兆円も軍需産業につぎ込めば軍需産業が肥大化し、国家を支配するようになり、文字通り戦争国家に変身する危険が大きいことだ。日本の主力産業である自動車産業の売り上げ規模は60兆円台である。30兆円はその半分に迫る。すでに軍需産業の売り上げはここ2年間で実質2倍になる恐ろしい高成長をしているが、今後の成長はこれまで以上に加速される。

 政府は今年中に「国家防衛産業戦略」を策定するとしているが、武器輸出の大幅増と並んで軍需産業を日本資本主義の成長戦略の柱に据えようとしている。そうなれば、米国のように経済・政治を軍需産業が支配し、利潤の源泉としての戦争を求める衝動力が強まり、極めて危険な戦争国家になる。

「武器よりご飯」「ミサイルよりコメ」

 政府は日米関税交渉の中で米国製武器の購入を現在の年1~1.5兆円規模に1兆円程度の上乗せを約束したと言われる。今後、日米首脳会談や2+2で米国が正式にGDP比5%要求を突きつけてくるだろう。2026年度の軍事予算の概算要求も始まる。軍事費に対する闘争がますます重要になる。

 軍事費急増のとんでもない実態を広く知らせていくことが必要だ。「武器よりご飯」「ミサイルよりコメ」だ。心に響くスローガンで、平和のための闘争と生活のための闘争を結びつけて闘うことが重要だ。沖縄・西日本ネットワークなど全国の反核平和運動と連帯しながら私たちの周りの人たちに軍事費削減を止めることの重要性を訴えていこう。

 

2025年8月9日
『コミュニスト・デモクラット』編集局

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