USAIDの犯罪を暴く(その1)
USAIDの「人権」「人道」援助のデマゴギーを暴く
階級的目的は親米勢力の育成と反米国家転覆

 はじめに……USAIDを被抑圧国、被抑圧民族の側から見ること

 トランプ大統領が1月24日に米国際開発庁(USAID)の業務凍結を命じて以降、ほぼ全ての西側メディアやリベラルを自認する政治家や学者たちが騒ぎ立てている。「USAID解体の実態 最も貧しい人々が命を落とす」(朝日コラム3/2)、「USAID閉鎖 速やかに援助再開せよ」(東京社説2/25)、「米国の信頼揺るがすトランプ流の1カ月」(日経社説2/20)等々。
 二つのすり替えがある。一つ目は、同庁が「人権」「人道」「開発」を目的とする無私の慈善機関と錯誤させるものだ。栄養治療食が底をついた、子どもたちが飢え死、途上国に命の危機、HIV新規感染が1日で2000人に、エボラ出血熱が拡大、等々。暴力と金融・ドル覇権にモノを言わせて一極覇権を維持してきた米帝国主義が、邪悪な目的なしに無私の慈善活動をするわけがない。途上国への侵略と虐殺を繰り返し、収奪と債務奴隷で苦しめ、膨大な難民を生み出し、貧困と低開発を強いてきた米帝国主義の悪行・蛮行をやめさせることの方が大勢の途上国の民を救えるのだ。この事実を真剣に考えるべきだ。米国のこの悪行をわずかな「施し物」を理由に覆い隠すことは犯罪的である。二つ目は、USAIDは解体されたというものだ。しかし、同庁はマルコ・ルビオの国務省に再編統合されるだけだ。帝国主義的介入はトランプ風に再編強化され、引き継がれる。
 民族の独立と主権を求める途上国とその民衆はUSAIDに猛反発している。(記事参照“7つの変革”からコムーナ国家建設へ~イシカワ駐日ベネズエラ大使講演会
 カギとなるのは同局を、抑圧国、抑圧民族の側から見るのか、被抑圧国、被抑圧民族の側から見るのかだ。シリーズで、USAIDの階級的本質を暴く。


(MK)

USAIDの「人権」「人道」援助とは何か?……中国反体制勢力支援

 USAIDは、表向きは「人権」「人道」「開発」を掲げながら、実際には米帝国主義が社会主義や反米国家の打倒を狙い、政治・イデオロギー工作をするための団体や事業に資金配分する機関である。「援助機関」ではなく「戦略機関」だ。同庁は、それ単独で存在するのではない。謀略機関CIAや「第2のCIA」=全米民主主義基金(NED)、国務省や国防総省、さらにはIMFや世銀などと一体となって米国の軍事外交戦略に奉仕する。
 反中・反社会主義NGO支援を例に「人権」「人道」活動を見てみよう。USAIDの業務凍結によって何が起こったのかを見るのが一番だ。ロイター(2/18)は、資金凍結で打撃を受けたNGOを明らかにした。「フリーダムハウス」を通じて台湾の「中国反体制モニター」プロジェクトが全面的な調査停止に追い込まれた。同じく反中の急先鋒ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国の「人権NGO」数十団体が影響を受けたと非難した。中国で労働運動を口実に介入してきたNGO「チャイナ・レイバー・ウォッチ」も職員が一時帰休扱いとなった。この団体の拠点はニューヨークだ。全て、反中宣伝、対中政権転覆活動NGOである。USAIDとは、援助を口実にした内政干渉の道具なのだ。
 また、インドに拠点を持つダライ・ラマのチベット亡命政府の資金援助も停止された。USAID援助は亡命政府の財政的支柱で、昨年は2300万ドル(約34億円)だった(朝日3/27)。香港やウイグルなどの「在外民主活動家」も大騒ぎしている。
参照情報
*ロイター「中国の人権NGO業務継続できず、米の対外援助凍結で」
https://jp.reuters.com/economy/industry/3KWQUP3YSJIILHIMCNF7NDBTEY-2025-02-17/
*「中国を利するマスク改革」(坂東賢治、毎日新聞2/22)
https://mainichi.jp/articles/20250222/ddm/012/070/124000c
*「米の不在 問われる対中戦略」(朝日新聞3/27)
https://www.asahi.com/articles/DA3S16180071.html
 発足からして最大の階級目的はソ連社会主義打倒であった。ケネディ政権時代の1961年、対ソ対決政策の一環として国務省内に「国際開発庁」を設立したのだ。「人権」「人道」は、あくまでも口実に過ぎなかった。米国の「人権」「人道」の何たるかは、イスラエルのジェノサイドに共謀することで虚飾が剥がれたではないか。ある学者は、戦後マーシャル・プラン以降の「米国的価値」「法の支配」の「貢献度は大きい」と礼賛し、同庁の元副所長の主張を引用し、「中国など地政学的競争国」を利する、「米国の国際的リーダーシップを大きく損なう」と嘆く(東京新聞2/9)。ある新聞は、「誤情報の拡散を懸念する」として、イーロン・マスクの「既存メディアはすべてUSAIDに買収されている」を「陰謀論」とかみつく(毎日新聞社説3/2)。しかし、USAIDが米国の戦争賛美や中国やロシアに対する多くの謀略メディアに多額の資金を流してきたことは一切批判も報道もしない。

参照情報
*「加速する「米帝国」の衰退 目加田説子・中央大学教授」(東京新聞2/9・時代を読む)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/384785
*「米援助機関巡る陰謀論 誤情報の拡散を懸念する」(毎日新聞社説3/2)
https://mainichi.jp/articles/20250302/ddm/005/070/086000c

年間6兆円もの膨大な予算、詳細は秘匿
   
 USAID予算を調べたが分かりにくい。2025年会計年度予算を見ると、「国務省及びUSAID」として一括588億ドルが計上され、詳細分析をできなくしている。USAID予算はたった22億ドル、つまり一部の事務経費だけが計上され、国務省の膨大な事業項目に細分化されれている。真の目的が帝国主義的介入なので、秘匿されているのだ。
 メディアでは約400億ドル(約6兆円)と報道されている。米国の対外援助予算は総額680億ドル(2023年)だが、その約6割に当たる。国内職員は1600人、海外職員は1万数千人と言われている。実数はもっと多いようだ。世界130カ国で活動し、米帝国主義に逆らう国や地域に目を光らせている。世界中に張り巡らされたこのネットワークこそが、「ハードパワー」(侵略戦争)と一体化する、米帝国主義の「ソフトパワー」なのだ。米帝国主義の全体像を見ずに、後者を前者から切り離すことは、リベラル派や一部左翼の誤りの源泉の一つである。
 「米国際開発庁:概要」なる米議会文書がある。この中の2024年義務経費354億ドルの分野別分類は、「人道支援」99億ドル、「健康」95億ドル、「ガバナンス」69億ドル、「行政」37億ドルなどとなっている。前記の反中工作事例を見れば、これら分類が何を意味するかは容易に想像できる。地域別には天然資源略奪目的の「サブサハラ・アフリカ」123億ドル、ウクライナ戦争支援の「ヨーロッパ・ユーラシア」68億ドルなどとなっている。別の資料で見ると「監査官室」の「USAIDによるウクライナへの直接予算支援」報告(2023年1月)によれば、2022年4月から同年11月までの8ヶ月、毎月のように、世界銀行のマルチドナー信託基金(MDTF)を通じて5億ドルから45億ドル、計113億ドルの支援をしている。バイデン前政権は対ロシア打倒戦争=ウクライナ戦争を永続化するために武器・弾薬だけではなく、ゼレンスキー政権の財政や行政、世界中にデマ情報を流すウクライナメディアの創設・運営を支えてきた。この戦争が米国の「代理戦争」と呼ばれる所以だ。

参照情報
*「米国国際開発庁:概要」U.S. Agency for International Development: An Overview
https://crsreports.congress.gov/product/pdf/IF/IF10261
*OFFICE OF INSPECTOR GENERAL 「U.S. Agency for International Development USAID’s Direct
Budget Support to Ukraine」
https://oig.usaid.gov/sites/default/files/2024-03/D-121-23-002-A-rev.pdf

(単位:10億ドル)
*米国国際開発庁(ウィキペディア)
https://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Agency_for_International_Development

 左のグラフはUSAIDの予算変化である。2023年はウクライナへの160億ドルもの追加支援が行われたため、額が突出している。
予算の殆どはワシントンの「援助産業複合体」に消える
  
 ある調査機関によると、USAIDが2022年度に費やした10ドルのうち9ドル近くが、ワシントンDCに拠点を置き、同局に群がる請負業者・コンサルティング会社・企業など「援助産業複合体」に消えている。給与や諸経費、管理費として中抜きし、これを「幻の援助」(phantom aid)と呼ぶ。例えば、保健分野の助成金の場合、通常15~30%が契約団体の間接費に、約25%が本部スタッフの人件費に、約25%が援助受給国に滞在するスタッフの人件費に充てられる。残りの資金も、少額の助成金をめぐって奪い合う形になる。


参照情報
*「お金の流れを追う 米国の国際開発支出」(Unlock Aid)
https://www.unlockaid.org/follow-the-money#:~:text=According%20to%20a%20June%202023,maybe%20even%20less%20than%20that.

なぜトランプはUSAID解体を声高に叫ぶのか?
  
 ではなぜ、トランプはUSAID解体を声高に叫ぶのか? 2つの狙いがある。第1は、民主党やリベラル派の弱体化だ。民主党や共和党保守派の党員・支持者が支配してきた権力機構をトランプのファッショ思想に合わせて解体再編しようとしているのだ。USAIDが資金提供の看板に掲げる男女平等、LGBTQ、DEI(多様性・公平性・包摂性)などは、ネオファシストであるトランプ自身が最も嫌い、攻撃するところだ。また、トランプがプーチンと停戦交渉している時に、逆らうゼレンスキーに大規模な資金投入をしたくないのだ。トランプは、対露和解によるウクライナ停戦で、中露間を分断し、全資源を来るイラン戦争と、最大の戦略敵である社会主義中国に対する戦争準備に集中しようとしている。
 そして第2が、対外介入をUSAIDなど介さず、トランプの命令を忠実に守る国務省の直轄下でよりスリムに、より直接的に干渉する体制を強化したいのだ。すでに契約の83%を打ち切り、7月1日までに管轄下に置くと発表した。米国の未曾有の財政危機が背景にある。現在、3ヶ月に1兆ドルずつ国家債務が膨れ上がっている。米財政危機の直近最大の原因はバイデンが国力を超えて無制限に進めた「三正面戦争」――ウクライナ「代理戦争」、ガザ大虐殺戦争、対中戦争準備――だ。社会主義中国が主導するBRICS・グローバルサウスの脱ドル化が進めば、いつドル危機が起こるか分からない。しかも、米国だけではなく、西側帝国主義全体で金融バブルが膨らみ、これも金利動向如何で、いつ破裂するか分からない。ドル・金融覇権は、米帝国主義の生命線である。イーロン・マスクが政府効率化省(DOGE)で大なたを振るい始めた一因もそこにある。もちろんトランプがやることだ。教育省解体や医療・社会保障という民生予算大幅削減という新自由主義的解体攻撃によって、階級的な財政支出削減を強行している。

参考情報
*米国務長官 USAID再編 一部機能を国務省管轄下に 議会に通知(NHK3/29)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250329/k10014764421000.html
*「USAIDの契約を83%打ち切り、残りは国務省の管理に-ルビオ長官」(ブルームバーグ)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-03-10/SSWP6TT0AFB400


(次号に続く)

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