連載開始にあたって
(1)米帝国主義の一極支配は、ソ連社会主義崩壊後、5大覇権(軍事、ドル・金融、政治、ハイテク、メディア・文化)を総動員して維持されてきた。中でも、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアをはじめ、2000年代に入って、20年以上もの間、直接軍事力で反米政権を打倒するか、打倒を画策してきた。しかし、これら途上諸国の小国に対してさえ、米国の巨大な軍事力は敗北を繰り返した。例えば、イラク戦争では3兆ドル費やしてもイラクを占領支配することはできなかった。米兵の犠牲者も5千名にのぼった。
そこで「小額投資で大きな成果」を得ようと米政府が軍事外交政策の柱として戦略化し始めたのが「カラー革命」という名の政権転覆やクーデター策動だ。同様の手法は第二次世界大戦後からCIAによって進められてきたが、今日ほど包括的かつ戦略的なものではなかった。CIAではなく全米民主主義基金(NED)に繰られたNGOや市民団体が前に出るケースが多い。2000年頃から、中・東欧や中央アジアの旧ソ連圏で、偽善的な「民主化運動」で政権転覆・クーデターを起こし有名になった。それは、核大国ロシアを包囲し、打倒・解体し、その石油・ガス資源を略奪するための戦略だった。グルジアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命とマイダン革命、キルギスのチューリップ革命など。これが「カラー革命」「花革命」の語源となった。現在のウクライナ戦争の直接の起源となった2014年の「マイダン革命」も大衆デモとファシスト武装組織の武力暴動を組み合わせたクーデターであった。
(2)「カラー革命」の特徴は以下の通りだ。第1に、その階級的性格である。まずは、社会主義諸国や社会主義指向諸国、次いで、反米諸国や対米従属を拒否し主権や自決を求める国々を標的にしている。直近では、社会主義中国に対して2019年に香港で米英と親米英勢力が結託して暴力的に香港特別行政区打倒を画策した。
第2に、現地の階級矛盾や大衆の不満を逆手にとって大衆動員の手法を多用する。「革命」と呼ばれる所以だ。途上諸国は経済的に弱く、絶対的貧困が広範に存在し、大衆の不満が強く紛争が起こりやすい。米帝国主義が介入しやすい脆弱な状況にある。社会主義や反米を指向する国々はなおさらだ。多くは「不正選挙反対」や「民主選挙」などを暴力的な争乱の場に変えて、一気に反米政権打倒を目論む。直近の7月には、ベネズエラ大統領選挙で「不正選挙」をでっち上げ、マドゥロ政権転覆クーデターを画策した。
第3に、現地の米大使館が司令塔となって、米国の政府機関全体が関与する。中央情報局(CIA)や軍の諜報・謀略機関、USAID(米国国際開発庁)、全米民主主義基金(NED)、さらには国際共和研究所(IRI)をはじめとするシンクタンクなど。
第4に、5大覇権が総動員されることだ。G7の政治覇権で西側の総意として襲い掛かる。米金融資本やIMF・世銀などドル・金融覇権を通じた経済制裁や経済封鎖で標的国の経済を予め破綻させ、また借金漬けにして大衆の不満を惹起し、あるいは西側のメディアに洗脳された民衆を煽動する。
第5に、「カラー革命」の司令塔が現地米大使館とするなら、手足となるのがCIAの別動隊で偽装組織である全米民主主義基金(NED)だ。親米政権樹立のために現地の親米勢力と大衆を煽動するあらゆる手段を活用する。親米人権機関を使った人権状況の誤報流布と不安定化工作、米系多国籍企業と現地ブルジョアジーの癒着、親米政党の育成、選挙操作・干渉、国内分裂・対立の煽動と政情不安化、SNSでのデマ情報の流布と煽動、親米学術機関・専門家の利用、親米メディアや親米ジャーナリストの活用など多岐にわたる。
最近中国のメディアに、NEDから資金提供を受けたとされる全世界の1600を超えるNGOのリストが発表された。リストはNEDの公式資金データベースから抽出され、地域ごとにグループ化されている。NEDの活動が全世界に及ぶこと、とりわけ反米傾向の強い国のNGOに対して、強い働きかけが今も行われていることを窺わせる。
*注:「米国NEDが資金提供している1600以上のNGOのリスト」
https://user.guancha.cn/main/content?id=1300274
(3)「カラー革命」の階級的本質は、米帝の新植民地主義支配である。旧植民地主義が帝国主義による植民地国家権力の直接支配だとすれば、新植民地主義は間接支配である。あらゆる手段を使って反米政権の転覆を図り、親米傀儡政権をつくるのだ。
ところが、先進諸国のリベラル派や左翼や共産主義者の一部は、米帝国主義のこの「カラー革命」の危険を無視し、その新植民地主義的本質を見ない。まるで米国は謀略も陰謀も企てない、内政干渉や政権転覆などしない、お行儀のいい「自由と民主主義」と「人権」の国であるかのように。また、ある者は、米国の軍事的侵略は否定するが、「カラー革命」など考えもしない。例えば、中国が昨年7月、改正反スパイ法を施行したのは、米帝の「カラー革命」から社会主義祖国を防衛するための当然の措置なのに、「自由と民主主義」「人権」「普遍的価値観」に反する「習近平独裁」の所業だと断じる。米帝を批判するのではなく、社会主義中国を批判するのだ。
武力による軍事的侵略も、非軍事的な「カラー革命」による政権転覆も、本質において同じ新植民地主義である。これは、国際法の「不介入の原則」に対する公然たる蹂躙であり、世界平和に対する最大の脅威である。本来なら、戦後から今日に至る米帝の政権転覆やクーデター策動を、国連において調査し、白日の下にさらすべきだ。
今号から、米NEDと「カラー革命」暴露・批判シリーズを開始する。この米帝の策動は、「三正面戦争」の補完物として、ロシアを包囲する中東欧や中央アジア、中東や北アフリカ、中国を包囲するアジア太平洋や東アジア、また米帝の歴史的な「裏庭」であるラ米カリブ地域で、つまり全世界で推進されている。今回は、対中戦争準備、対中軍事包囲網の一環としての、インドネシアとバングラデシュの政権転覆を取り上げる。
米帝国主義は現在、崩れ始めた米帝一極支配維持のために国力を大きく超える「三正面戦争」をエスカレートさせている。財政負担ももはや限界だ。安上がりの「カラー革命」の階級的衝動は今後ますます強まるだろう。批判を強めよう。
*注:中国外交部は今年8月9日、「全米民主主義基金の活動と素顔」と題する報告書を発表した。
全文:https://www.fmprc.gov.cn/eng/xw/wjbxw/202408/t20240809_11468618.html
(MK)
インドネシア 大統領選挙への介入 非同盟・自決のジョコ後継者の敗北を画策
今年2月、インドネシアで大統領、副大統領、および両立法院の選挙があり、大統領には、ジョコ・ウィドドの路線を継承するとするプラボウォ国防相が選出された。しかし、バイデン政権は選挙に露骨に介入した。プラボウォ勝利に備え、反政府抗議行動を引き起こすべく、様々なNGO、市民社会団体、政党、候補者にカネをばらまいた。
なぜか? ウィドド元大統領が米の傀儡になることを拒否したからだ。彼は、「インドネシアの主権を守る」ことを優先し、独立した外交政策を追求し、米国に逆らってきた。イスラム教国家の指導者たちに和解を奨励し、パレスチナの独立を推進してきた。ウィドド政権の外務大臣はパレスチナを訪問したが、イスラエルとの外交関係樹立は拒否した。ウィドドはまた、海外の抑圧されたイスラム教徒にかなりの援助を行った。彼はインドネシア初代大統領スカルノの政治理念を受け継ぎ、国内的にも国際的にも主権と独立の政策を堅持してきた。国内では、西欧諸国が自国の莫大な資源を搾取するのを防ぎながら、中国・BRICSと西側の双方との友好関係を維持し、非同盟運動を擁護した。
昨年9月にNEDから漏洩したファイル(昨年6~8月に国際共和研究所IRIのインドネシア事務所からワシントンの本部に送り返されたブリーフィング)によって、IRIが現地の人々に政治訓練を施し、政党リーダーを育て、メディアと関わらせ、ジャーナルを発行し、若者を政治参加させたことが明らかになった。
ことに、昨年6月のブリーフィングノートには、IRIの代表者がジャカルタの米大使館の政治担当官と交した謀議内容が記されている。①選挙がどのように展開しようと、インドネシアでの米権益を守るため、全政党と友好関係を維持する、②大使館が現地の労働党と労働組合に働きかけ、ウィドド大統領が最近署名した雇用創出に関する法律への反対活動を米政府が断固支持する、③労働党の党首たちに、8月のインドネシア独立記念日に雇用創出法と閾値法に対する抗議行動の開始を提案、④ジャカルタのBIN(国家情報局)が2024年の選挙に干渉せぬよう米大使館に警告したことに反発し、大使館がIRIの活動を通じて米国の介入を強化する、などだ。
7月のブリーフィングでは、IRIは、労働党の指導者や多くの労働組織に接触し、雇用創出法と閾値法に反対する抗議行動を組織する計画について話し合ったとされる。これら全てが公然たる内政干渉だ。昨年8月9日、これらの抗議行動が実際にジャカルタの憲法裁判所と州宮殿で行われた。この出来事に関する地元メディアの報道は、IRIのブリーフィングに正式に記録され、IRIはパンデグラン労働党執行委員長に100万ルピアの3回目の助成金を提供したとも述べられる。その一週間後、IRIスタッフは再び労働党パンデグラン支部に支援を提供し、2つの法律に対する抗議を行った。執行委員長はさらに500万ルピアの個人助成金を受け取った。その他、インドネシアのいくつかの組織や個人がIRIから直接支払いを受けたことが示されている。ただ、インドネシアにおける基金の支出は比較的控えめで、年間200万ドル未満だ。2014年のウクライナ「マイダン革命」に先立つ12カ月間で、NEDがウクライナに注ぎ込んだ2000万ドルとは桁が違う。
しかし、米国が対中戦争準備と対中軍事包囲網づくりに全力を挙げる中、フィリピンのマルコスのような米国に従順な大統領をインドネシアで誕生させるために動いたことは明らかだ。しかし、選挙クーデターは失敗に終わった。
バングラデシュのクーデター 背後で米国介入の影
もう一つ、米国が対中軍事包囲網で焦点に浮上したのがバングラデシュだ。米政府はインドのモディをアジア太平洋戦略で抱き込んだ。フィリピンはマルコスが繰り人形となって南シナ海問題で繰り返し中国を挑発している。これに続いて、インドネシア、バングラデシュを対米従属国家にすれば、対中包囲が完成するというわけだ。
バイデン政権は、今年1月の選挙で「民主選挙」を要求し、このバングラデシュにも露骨に介入したが、アワミ連盟のハシナが再選され、選挙クーデターは失敗した。だが諦めなかった。米は、7月に勃発した政府の雇用割り当ての特権に抗議する学生運動を千載一遇のチャンスと見た。かねてから親米関係を維持してきた野党バングラデシュ民族党(BNP)とテロ組織ジャマーアテ・イスラーミーが抗議行動に加わったことで、ハシナ政権打倒の暴力的暴動へエスカレートした。シェイク・ハシナ首相は8月5日に辞任し、インドに逃亡し、クーデターが成功する。もちろん、われわれは、弾圧と数百人の死傷者を出したハシナ政権の蛮行を許すことはできない。しかし、事態は複雑だ。
その後、暫定政府主席顧問となったのは、ムハンマド・ユヌス。女性たちに小口融資を行ったグラミン銀行の発案者で一躍有名になった人物だ。しかし、ノーベル賞を受賞し、西側メディアで礼賛されたが、実際には貧しい女性を食い物にして借金漬けにし、国際金融エリートの寵児となり、銀行資本に多額の利益をもたらした。
(彼の高利貸しと汚職の正体は、調査報道ジャーナリスト、トム・ハイネマンのドキュメンタリー『The Micro Debt』で暴露された)
彼は財務省をバングラデシュ銀行の元総裁に任せ、官僚、学術界、NGOから新自由主義者たちをかき集めて新自由主義政権を組織した。もちろん、米政府はこれを歓迎している。
しかし、このクーデターには伏線があった。米国が執拗に対中軍事包囲の手下になるよう圧力を加えたのだ。今年5月、ドナルド・ルー米国務次官補(南・中央アジア担当)をダッカに送り込み、アジア太平洋戦略(クアッド)への参加と、その要衝となるバングラデシュのセント・マーチン島に米軍基地建設を受諾するよう要求した。この島はベンガル湾北東部のわずか3平方キロの土地であるが、軍事基地を設けると、マラッカ海峡に対する戦略的要衝となる。マラッカ海峡は中国の主な輸送路であり、中国のみならず、ミャンマー、インドに対する監視活動に有効な地である。実際、辞任後のハシナはこう訴える。「もし私がセント・マーチン島の主権を放棄し、アメリカがベンガル湾を支配するのを許していたら、私は権力の座にとどまることができたでしょう。私の国の人々にお願いします、『過激派に操られないでください』」と。
ハシナの告発に信憑性があるのは、彼女が退陣の1カ月前の7月に北京を訪問し、中国と「包括的戦略協力パートナーシップ」を締結し、対中関係強化に動いたことがある。バイデンは危機感を募らせる。さらにバングラデシュは2022年以来、米国が要求してきた2つの軍事協定への署名を拒んできた。その協定を押し付けたのは、ウクライナの「マイダン革命」を指揮した元国務次官で、ネオコン強硬派のビクトリア・ヌーランドだ。協定草案の一つ、軍事情報一般安全保障協定(GSOMIA)は、バングラデシュをワシントンとのより緊密な軍対軍協力に結びつけるものだ。彼女は、まさに今年9月、NEDの役員会メンバーに就任した。
実は、ルー米国務次官補は、2カ月前の今年3月、駐米パキスタン大使と会談し、当時のパキスタンのカーン首相がロシアとウクライナに関する「攻撃的に中立的な立場をとっている」「米・パキスタン関係を脅かしている」と脅迫し、後にパキスタン議会に不信任決議を出させ、カーン首相を辞職に追い込んだ張本人である。カーン首相は「米の陰謀で排除された」と非難した。それだけではない。ルーは、アルバニア、グルジア、アゼルバイジャン、キルギスタンでクーデターを繰り返してきた、「カラー革命」を専門とする血塗られた人物なのだ。
米国は日常的に他国に介入し、米国に逆らう政府を次々と倒し、米国への忠誠と従属を強要しているのである。これがアメリカ帝国主義なのである。
(次号に続く)