まえがき
日本社会は今、戦後民主主義の基盤が急速に掘り崩され全面的な軍国主義化が急速に進む極めて深刻な局面に直面している。以下に掲載する3本の記事は、高市政権の下、今国会で進められる武器輸出の全面解禁、国家情報機関の巨大化、国家象徴の刑罰的保護という一連の政策の意味を暴露し批判するものだ。これらは、国家を戦時体制へと再編する包括的で構造的な主要な柱のひとつである。
第1の記事は、「防衛装備移転(武器輸出)」三原則の運用指針の見直しにより、日本製の殺傷兵器が世界の戦場に流れ込む未来を告発する。軍需産業と国家が一体化し、利益のために紛争を助長する構造は、憲法が掲げる平和主義と根本から矛盾する。
第2の記事は、国家情報局創設による治安監視体制の強化が、戦争遂行と国民監視を一体化させる危険を指摘する。スパイ防止法と結びつけば、市民運動や報道が「国益に反する」として弾圧対象となり、戦前の治安維持法と同質の思想統制が復活する。
第3の記事は、「国旗等損壊罪」が国家を個人より上位に置く価値転倒をもたらす点を明らかにする。これは国民を戦時動員へ心理的に組み込む装置であり、立憲主義の根幹を揺るがすものだ。
これら3つの動きは、互いに補強しながら「戦争準備・治安弾圧・国家主義」の体制を構築しようとしている。いま必要なのは、平和、人権、民主主義を守るための広範な闘いの連帯である。
だが、本紙にも掲載の通り、この危機に対する歴史的な反撃のうねりが起き始めている。イラン戦争への実質加担や対中軍拡と軍国主義の暴走に反対する若者や女性たちが、SNSを駆使して自発的に立ち上がり、新たな運動の主体として前面に躍り出た。国会前のみならず、全国の街頭で「戦争反対」「高市辞めろ」の声が響き、「日中友好」を掲げる新しい波が主要メディアの黙殺を突き破って拡散しはじめた。戦争への切迫感と物価高騰による生活破壊への怒りが直結し、パレスチナ連帯や排外主義反対の運動と合流している。平和、人権、民主主義を守るために、多様な主体と手段で語り合い、行動を組織しよう。
(編集局)
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武器輸出の全面的解禁
高市政権は、自民党・維新の与党安全保障プロジェクトチームの提言を受けて、「防衛装備移転三原則」の「運用指針」の見直しを4月下旬にも閣議決定しようとしている。現在武器輸出に課せられている防衛装備5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)の限定を撤廃し、「自衛隊法上の武器」(火器、火薬類等)の輸出を全面解禁するものだ。武器輸出禁止は長年最重要の基本政策であった。安倍政権が「5類型」での輸出を可能にした後もほとんど実績がなく、武器そのものの輸出も共同開発などに限られている。それを国会での議論もなく閣議決定だけで、武器を含め輸出し放題にするものだ。武器輸出を認めるかどうかは国家安全保障会議NSCにはかり、国会に事後報告するというが、そもそも政府自身が武器輸出推進、軍需産業立国を目指しており、何の歯止めにもならない。
殺傷兵器を含む国産武器の輸出を歯止めなく拡大し、日本の軍事産業が国家と一体となって「死の商人」として本格的に世界の武器市場に突き進むことに、断固反対する。
戦闘地域への武器輸出も可能に
今回の見直しでのもう一つの危険は、戦闘地域や紛争当事国への殺傷兵器輸出だ。与党安全保障プロジェクトチームの提言では、「現に戦闘が行われていると判断される国」への殺傷兵器輸出を「原則不可」としつつ、「我が国の安全保障上の必要性を考慮して特段の事情がある場合」は可能とした。「特段の事情」はNSCの4大臣会合で「審議」し決定される。現在すでにウクライナへは防弾チョッキを皮切りに軍用車両100輌、偵察ドローン、地雷除去装備などが供与されており、今後はさらに殺傷兵器輸出の可能性さえあるのだ。さらに、輸出時点で戦闘地域でなくても、いつ戦闘地域になるかわからない。国際法に違反する戦闘で使用される危険性や、承認なく第三国へ移転される可能性もある。
武器輸出全面解禁に至るまでの経過
日本の武器輸出は、長らく憲法の理念にもとづいて「武器輸出三原則」により、事実上全面的に禁止されてきた。安倍自公政権下の2014年に、武器を「防衛装備」、輸出を「移転」と言い換えて「防衛装備移転三原則」が策定されたことが、武器輸出の突破口となった。輸出の対象に技術や設備も加えられ、「平和貢献や日本の安全保障に資する場合」にはNSCの「審議」を経て輸出を認める方針に転換された。このとき運用指針が策定され、完成品として移転可能な装備は5類型に限定され、殺傷能力のある武器の輸出は除外された。
その後、殺傷力のある武器の輸出に例外が設けられるようになった。23年12月、「防衛装備移転三原則」が改訂され、「防衛装備移転」が「我が国の安全保障上の重要な政策的手段」とされ、同盟国・同志国との連携強化、防衛生産・技術基盤の維持強化などを目的とすることが明示された。このとき、殺傷能力のある兵器であっても、ライセンス生産品をライセンス元の国へ移転することが可能となった。これにより、三菱重工がライセンス生産している迎撃ミサイルPAC-3ミサイルが米国へ輸出された。ウクライナ支援で不足した米国在庫を補充することが目的であった。
24年3月には、殺傷能力のある完成兵器である日英伊の共同開発の次期戦闘機について、運用ルールの特例として共同開発国以外の第三国に直接輸出する道を開いた。殺傷能力のある兵器の最たるものである戦闘機の輸出が可能なら、あらゆる殺人兵器の輸出が可能になる。当時連立与党であった公明党もこれに同意した。
政府主導で進む武器輸出
殺傷能力のある武器の輸出は既に進んでいる。25年8月、ドイツとの競合に勝ち、三菱重工が製造する海上自衛隊の最新鋭護衛艦「もがみ型」(改良型)フリゲート艦のオーストラリア向け輸出が、共同開発・共同生産として決定した。受注額は11隻で総額1兆円規模となる見込みだ。これは殺傷能力を有する武器の初めての輸出案件だ。日本の武器輸出として過去最大の規模である。ニュージーランドとの輸出交渉も昨年から始まっている。
今回の運用指針見直しを受け、早速5月に小泉防衛大臣がフィリピンとインドネシアを訪問し、殺傷能力のある武器の輸出に関する協議を行う予定だ。フィリピンとは、退役する中古のあぶくま型護衛艦と最新の03式中距離地対空誘導弾の輸出協議が進められている。両国間で、自由に訓練・駐留・装備持ち込みができる協定=RAA(日比相互アクセス協定)が締結され、4月から5月にかけて自衛隊の部隊が本格的参加する日米比合同軍事演習が立て続けに実施される。フィリピンへの巡視船供与や警戒監視レーダーの輸出から殺傷能力のある攻撃兵器の輸出拡大は、台湾有事や領有権争いへの介入の手段を提供し、南中国海での中国との緊張を高める。インドネシアへは中古潜水艦の輸出(無償供与)で対中包囲網に引き込もうとしている。
日本は現在、武器輸出を前提とした防衛装備品・技術移転協定を16カ国と締結している。NATO主要国に加え、中東のアラブ首長国連邦(UAE)とも締結している。日本製武器がアジアだけでなくグローバルに輸出される道筋が整えられている。
武器輸出の狙い―軍需産業に巨額の利益
武器輸出全面解禁は、軍事生産の安定化による継戦能力の維持確保のため、軍事産業の基盤を強化することが最大の目的だ。不足する米軍の武器生産能力の補完も重要な目的だ。さらに、日本製武器の輸入国を武器の維持管理、演習などを通じて準軍事同盟として軍事関係を強化していくことも目的の一つだ。
武器輸出の全面解禁は、韓国の軍需産業の成長を羨望のまなざしで見ていた日本の軍需産業にとって大きなビジネスチャンスとなっている。戦後温存されてきた日本の軍需産業を、成長産業として大きく復活させようとしている。安保3文書改訂を提言する「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」の座長には経団連の元会長が就任し、部会メンバーには三菱重工の名誉顧問で元会長・社長の宮永俊一が参加している。軍事費の増額や武器輸出の解禁により、直接的に莫大な利益を得る企業のトップが、その方針を策定する側に回っている。現行安保3文書での5年間で43兆円の軍事予算投入は、日本の軍需産業に巨額の利益をもたらしている。三菱重工業、川崎重工業、IHIの重工業3社は、25年3月期連結決算でそろって最高益を記録した。三菱重工業の「防衛・宇宙」セグメントの受注高は、2年連続で1.8兆円規模に達し、2022年度までの過去5年間の平均(約5200億円)の3倍に達した。
しかし、これまで戦闘実績がなく専ら自衛隊専用のニーズ、独占価格で開発・生産されてきた日本製の武器が、先行企業がひしめく世界の武器市場で「成功」することは困難だ。軍需産業は高額で重厚長大な兵器に固執しており、ドローンなど「新しい戦闘」兵器には大きく後れをとっている。
武器輸出で恩恵を受けるのは軍需産業だけだ。巨額の軍事費、武器輸出を念頭においた大学・研究機関を巻き込む軍事研究や軍事生産に貴重な人材や税金を投入することは、財政を圧迫するだけでなく民生部門の発展を阻害し日本の産業をかえって衰退させることにつながる。
憲法の平和主義に反し紛争を助長する武器輸出に反対
世論調査によれば、国民の半数以上が殺傷能力のある武器の輸出には反対だ。日弁連は3月18日、「日本製武器が国際紛争や市民の殺傷を助長するリスクが大幅に高まる」「憲法前文・9条に基づく恒久平和主義と相容れず、平和国家としての在り方を根本から掘り崩す」として、殺傷兵器の輸出拡大に強く反対する声明を発表した。
日本製の武器が世界中の戦場で人を殺傷し、紛争を激化させることにつながる「防衛装備移転三原則の運用指針」の見直し(5類型撤廃)=武器輸出の全面解禁に反対する。
(NOW)
