【特集】高市軍国主義と闘おう
「国旗等損壊罪」に見る戦時回帰の思想構造
忍び寄る「国家尊厳」の法益化による
憲法破壊を許さないために

 立憲主義の根幹を揺るがす重大な立法が進められようとしている。自民・維新の与党連合が今国会での提出を目指す「国旗等損壊罪」の創設である。与党は、現行刑法に「外国国章損壊罪」が存在するが、自国の「国旗」については規定がないことを理由に、日本の「日の丸」や「君が代」「菊花紋章」等国家の「象徴」を法律によって特別に保護しようとしている。しかし、この法案の核心は、「国家の尊厳」という極めて曖昧かつ強力な概念を刑法上の保護法益として導入し、「個人の尊厳」よりも「国家の価値」を優先させるという法の価値体系の転換にある

「国家の尊厳」という概念の毒性

 近代立憲主義において、憲法が守るべき究極の価値は「個人の尊厳(憲法13条)」である。ところが、「国旗等損壊罪」が依って立つ「国家の尊厳」という論理は、この主客を完全に逆転させるものである。
 第一に、この概念は国家に疑似的な「人格」を付与する。国家を「傷つく主体」として扱うことで、実在する国民の自由が、実体のない〝国家の感情〟のために制限されることになる。
 第二に、「国家の尊厳」は客観的な定義が不可能である。何をもって「尊厳を傷つけた」と見なすかは、その時の権力が恣意的に決定できる。この拡張性は、権力批判や異論の表出を「国家への不敬」として封じ込める強力な武器へと変貌する。

治安維持法との歴史的連続性

 この「国家の本質を守るために異論を排除する」という構造は、かつての治安維持法が掲げた「国体(國體)」概念と驚くほど似ている。
 治安維持法は、「国体の変革」を目的とする結社や思想を弾圧した。「国体」とは、天皇を中心とした国家のあり方という「国家の本質的価値」を指す。今回の「国旗等損壊罪」もまた、国家の象徴を損なう行為を処罰することで、国家が定義する「正しい敬意」=「正義」を国民に強制しようとする。
両者に共通するのは、「国家の価値は国民が等しく共有すべきものである」という強権的な前提であり、その価値に合致しない思想や表現を「犯罪」として切り捨てる論理である。国家の尊厳を法的に保護する装置が一度作動すれば、必然的に表現・思想・学問の自由を窒息させる結果を招く。

軍事体制と教育統制の連動性
 
 この法案は、日米共同作戦の深化や集団的自衛権の行使、自衛隊明記の改憲、「国防義務(徴兵制)」を視野に入れた議論の加速と連動している。「国旗等損壊罪」は象徴レベルで国家主義を法制化する役割を果たす。この動きは教育現場にも波及する。教育を「個人の人格完成」のための権利から「国家のための義務」へと変質させる。「国旗・国歌」の尊重や国防意識の強調が、国民を戦時体制へと心理的に動員するための基盤づくりとなる。

「理念法」へのすり替え
 
 批判が高まる中、与党内で出ているのが、法案を刑法と切り離して罰則のない新法(理念法)として「国旗等損壊罪」の名称、あるいは尊重規定を設けるという妥協案である。しかし、この「罰則なし」という変更が法案の危険性を減ずるわけではない。「罪」という概念が法的に新設されれば、それは将来的に罰則を導入するための足がかりとなる。また、法的利益(保護法益)として「国旗の尊重」が定義されること自体が、行政や教育現場における事実上の強制を加速させ、思想・良心の自由を間接的に制約する。
 そもそも、1999年の「国旗・国歌法」制定時、当時の小渕恵三首相は、憲法の制約上「尊重規定や侮辱罪の創設は考えていない」と断言していた。その意味でも、この法律が違憲法案であることは明らかである。

立憲主義の基本原則を守り抜こう

 「国旗等損壊罪」は、たとえ当初は理念法という形をとったとしても、その根底にあるのは国家主義的な価値の強制である。それは、国家の尊厳が個人の尊厳を圧殺した、かつての暗黒時代への回帰を予感させる。国家が守るべきは自らの「尊厳」ではなく、そこに生きる人々の「自由」である。この主客転倒を許せば、日本は再び、国家という偶像のために個人が犠牲となる道へ踏み出すことになる。治安維持法の歴史的教訓を今こそ想起し、この「国家の尊厳」を盾とした思想・言論統制の試みを断固として拒絶しなければならない。
 連立政権が3月末に第1回PTを開始し、参政党が4月2日に単独で法案を提出した。だがすでに、3月20日、「日の丸・君が代」強制反対、不起立処分撤回を掲げて闘い続けてきた元職・現職教職員を中心に、「『国旗等損壊罪』反対連絡会」が結成された。「『国旗等損壊罪』に反対する4・11集会」(文京区民センター)をはじめ、4月8日17時、4月23日18時の衆院議員会館前行動や議員要請行動等が呼びかけられている。共に闘おう。

(IM)

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