連載にあたって~米帝の「思想の植民地化」と闘おう
今年初め、日本のメディアはトランプのベネズエラ侵略とイラン情勢報道で埋め尽くされた。とりわけイラン情勢はデマに満ちたものだった。「大勢の市民がハメネイ神権独裁体制打倒に起ち上がった」「イラン政府は住民を大量虐殺した」というものだ。これに呼応してトランプは中東に大規模な空母機動部隊を送り込み、イランへの再攻撃を脅迫した。軍事覇権とメディア覇権とCIA・モサドなど謀略機関の合作による米帝の典型的な政権転覆(カラー革命)策動だ。しかし、武装反乱は突如終息し、米帝の思惑は失敗した。一体何が起こったのか? 以下、イラン情勢に即して論点毎に「思想の植民地化」の実情を暴露する。
侵略と軍事覇権、あるいは資源や領土の略奪は分かりやすい。しかし、日々朝から晩までテレビ・新聞、インターネットやSNSが垂れ流すデマゴギーは、人々の意識を洗脳し支配するために、一度騙されるとなかなかその洗脳から逃れることは難しい。
昨年9月、中国の新華網は、冊子『思想の植民地化――米国の認知戦の手法、根源及び国際的危害』を発表した。「思想の植民地化」とはなにか? 一言でいえば「米国がすることを全世界の人々に信じ込ませる〝洗脳〟つまり「全世界の人々を米国の精神的奴隷に変えること」だ。
米帝と西側の思想的奴隷になっているのはリベラル・保守を問わず西側政府やメディアだけではない。悪質なのはマルクス主義や左翼・共産主義を語りながら、この「思想の植民地化」を人々に垂れ流す者達である。イラン情勢の場合は、米=イスラエルのハメネイ体制打倒と一緒になって独裁体制打倒を世界中に伝染させている。この者達は、米帝の望み通りイラン政権が崩壊し、四分五裂し、米=イスラエルが石油資源を強奪することを後押ししているのだ。イラクやシリアやリビアのように。その責任はどう取るのであろうか。
われわれは、今号から「思想の植民地化」シリーズを開始する。今回は今まさに眼前で展開されているイランをめぐるデマゴギーとの思想戦についてである。新華網の冊子は次号で紹介する。
※原文『思想の植民地化——米国の認知戦の手法、根源及び国際的危害』http://www.news.cn/world/20250907/e8bfe4558e15435988acbd9310436da3/c.html
(参考資料)
*ジェフリー・サックス:米国の対イラン戦争――「攻撃が差し迫っている」
https://youtu.be/sYAW_XvvreU?si=lCWkkghvSgLcxVi5
*イラン反乱
https://orinocotribune.com/the-iran-insurgency/
*反イラン人権バザール
https://english.almayadeen.net/news/politics/the-anti-iran-human-rights-bazaar
*ワシントンのイラン戦争:情報空間の防衛の重要性
https://orinocotribune.com/washingtons-war-on-iran-the-importance-of-defending-information-space/
*イランにおけるハイブリッド戦争:モサドとNEDがイスラム革命に対抗して展開される仕組み
https://www.telesurtv.net/guerra-hibrida-iran-mossad-ned-revolucion/
*暴露:CIA支援のNGOがイランの抗議活動を煽る
https://www.mintpressnews.com/revealed-the-cia-backed-think-tanks-fueling-the-iran-protests/290638/
(編集局)
[1]第1の論点:CIA・モサドの武装暴動と正当な抗議行動を区別すべき
(1) まず最初の論点は、西側メディアがCIA・モサドの武装暴動をまるで正当な抗議行動のように粉飾していることである。イラン政府や独立系メディアがその真相を報道し始めている。
始まりは昨年12月28日。テヘラン中央部の電気街の商店主らによる、物価上昇と自国通貨リアルの切り下げに対しての抗議行動だった。最初の数日間は、事件や弾圧もなく、ペゼシュキアン・イラン大統領は、提案した政策の一部(補助金の削減や為替レート制度の統一など)を変更し、経済問題のよりよい解決策を模索すると表明した。これで抗議行動は終息した。
ところが翌年1月1日から、抗議行動は謎の黒覆面集団によって突如ハイジャックされる。プロのテロ集団に煽動された武装集団が街頭に現れ、警察や他の抗議者に向けて無差別に発砲し始めた。武装反乱は全国に拡大し、少なくとも国内20州、50都市で展開された。ウクライナの「マイダン・クーデター」や香港暴動でも見られた「カラー革命」の手法と全く同じだ。
イラン最高指導者アヤトラ・アリー・ハメネイ師は、公に抗議活動の正当性を認めている。ただし国家に対する正当な経済的不満を持つ者と、政権交代やイラン体制の崩壊を目的とする者との間には明確な区別が必要だと指摘している。このイランの姿勢そのものを西側のメディアは報道しない。西側メディアは謀略機関による武装反乱を、わざと正当な抗議行動のように見せて垂れ流すのだ。だが、テロ集団が住民を銃撃すれば、当然政府当局や革命防衛隊は応戦し、銃撃戦になる。CIA・モサドにとって買収した暴徒や住民が大勢死ねば死ぬほど大事になり、世界中が注目する。そうして膨れ上がったのが犠牲者数である。
(2) 以下のSNSで投げ込まれたメッセージの数々が米CIA・モサドの指令を物語っている。
――イスラエルのスパイ・暗殺機関モサド:「一緒に街頭に出よう。その時が来た。私たちはあなたと共にいる。遠くからでも言葉だけでもない。現場で私たちはあなたと共にいる」(2025年12月29日)
――トランプ大統領:「もしイランが平和的な抗議者を射殺し、暴力的に殺害するなら、それが彼らの慣習であるが、アメリカ合衆国は彼らを救うだろう。われわれは準備万端だ。出発準備完了」(1月2日)
――元米国務長官・元CIA長官のマイク・ポンペオ:「街頭にいるすべてのイラン人に新年おめでとう。そして、彼らのそばを歩くすべてのモサド工作員にも」(1月3日)
――ネタニヤフ首相:「イスラエルの人々、そして世界中が、イラン市民の並外れた勇気に畏敬の念を抱いている」「イスラエルは彼らの自由闘争を支持し、無実の市民の大量虐殺を強く非難する」(1月11日)
――トランプ大統領:「抗議を続け、できるなら自らの機関を掌握しろ。支援は向かっている」(1月12日)
――イスラエルの元国防相ガラント:「本当のエネルギーは空爆ではなく、何百万もの行動にある」「今この瞬間、現場での大規模な行動が最も重要である以上、私たちは背景にとどまり、見えない手で物事を操る必要がある」(1月13日)
この仕組まれた国家転覆攻撃は定石通り、公共インフラ、医療、治安、宗教施設を標的にした。マチェーテ(刀)やショットガンなど扱いの訓練を受け、常に黒い服を着てマスクを着用した武装集団は、消防士を生きたまま焼き殺し、多数の治安要員や民間人を殺傷した。4つの病院を襲撃、305台の救急車とバス、750の銀行支店とATM、24のガソリンスタンド、7000のコンビニ、749の警察署、200の学校・地下鉄駅を破壊、15の図書館、120のバシジセンター(イスラム革命防衛隊民兵組織)、歴史的建造物である250ヶ所のモスクを焼き払い、クルアーン(日本語ではコーラン)の写本を焼却するなど、暴虐の限りを尽くした。死者数は3117人、そのうち2427人は民間人と治安部隊、690人は「テロリスト」であると、アラグチ外相は公表した(1月21日)。これが真相だ。
[2]第2の論点:仕組まれた通貨暴落とインフレ急騰、残酷な「飢餓制裁」
(1) 第2の論点は、仕組まれた通貨暴落とインフレ急騰である。米帝のドル・金融覇権は弱体化したとはいえ、未だに投機マネーで為替相場を繰る力を持っている。昨年12月28日に始まった抗議行動の直接のきっかけは、イランの通貨リアルの暴落だ。2025年12月28日のレートが1ドル=142万リアルだったが、第1次トランプ政権が経済制裁を開始する2018年の1ドル=4万7730リアルと比較すれば、30分の1への大暴落だ。これがすでに深刻なインフレに苦しんでいたイラン国民を直撃した。
2025年12月のインフレ率は前年同月比で42.2%に達した。中でも特に深刻なのは食料品価格の高騰で72%の上昇(パン・穀類は82%、水道・電気・ガスも56%上昇、食用油は2倍以上、鶏卵は3倍)。保健医薬関連品も50%も上昇。大量失業、急騰する家賃など、生活そのものが成り立たなくなったのだ。抗議活動を起こした電気街の商店主らは外国製のスマートフォンなどを扱っており、通貨暴落によってこれらの商品を輸入できない状態に陥っていた。
極めつけの裏付けがある。今年1月のダボス会議での米国のベッセント財務長官の発言だ。インタビュアーに「イラン制裁について何か言いたいことは?」と尋ねられてこう答えた。「いいでしょう。財務省の制裁があります。昨年3月に私がニューヨーク経済クラブで行ったスピーチを見てもらえばわかりますが、私は『イラン通貨は崩壊寸前だ』と述べました。『もし私がイラン国民なら、資金を持ち出すだろう』とも。トランプ大統領は財務省とOFAC(外国資産管理室)に対し、イランに『最大限の圧力』をかけるよう命じました。そしてそれは成功しました。12月に彼らの経済は崩壊したからです。大手銀行が破綻するのを見ました。中央銀行は紙幣を刷り始め、ドル不足に陥り、輸入ができなくなっています。これが人々が街頭に繰り出した理由です。つまり、これは『経済的ステートクラフト(国政術)』なのです。一発も発砲することなく、事態は非常に肯定的な方向に進んでいます」と。
(2) 前記の通貨暴落を可能にしたのは、西側帝国主義の「飢餓制裁」だ。すでに様々な形で20年にも及ぶ。米国はほぼ全面的な経済制裁を行っている。石油を含む全製品の禁輸、イランの金融機関に対する制裁、イランとの商取引を行う会社への二次制裁も含まれる。米国にあるイランの中央銀行、他の金融機関及びイラン政府の資産も凍結した。EUも貿易、金融サービス、エネルギー関連のイランとの商取引を制裁し、イラン中央銀行の資産も凍結した。日本もこれに追随し、原油輸入を減少させ始めた。
結果は上で触れたように甚大だ。インフレ・物価高、失業率上昇、貧困者の急増等々、まさに「飢餓制裁」である。社会主義中国やロシアとの貿易・投資関係を強化拡大しているが、まだまだ追い着いていない。
米元国務長官ポンペオも、「米国の経済制裁の目的は、イラン政府に変化を迫ることではなく、国民に政府を変えさせる圧力なのだ」と、政権打倒の目的を隠さない。西側帝国主義の目的は、イラン国家そのものの崩壊、分裂と小国家化なのである。
そもそも、米帝とイスラエルがなぜこれほどまでにイランを打倒しようとするのだろうか?二つ理由がある。一つは石油資源の略奪だ。もう一つは、イランがパレスチナの解放闘争に強力な軍事支援をおこなっている唯一の政府だからである。ハマスや、パレスチナ・イスラム聖戦(PIJ)だけでなく、パレスチナ民族解放戦線(PFLP)などにも武器の供給や抵抗組織の訓練やガザのトンネルインフラ整備等々に協力している。ガザの抵抗闘争を支援するイエメンのフーシ派、レバノンのヒズボラも支援している。すでにイラク・シリア・リビアは崩壊させた。イランを崩壊させれば、米=イスラエル帝国主義の思い通りの中東支配が完成するというのだ。
[3]第3の論点:帝国主義「人権団体」によるイラン政府の「悪魔化」
西側メディアでのデマゴギーは、第3の論点「人権団体」の登場で完結する。「平和的な抗議者vs血に飢えた独裁政権」を世界中に刷り込む役割である。一言すればイラン政府の「悪魔化」だ。イラン政府を悪魔化する際の「犠牲者数」の発表源は、イラン国外に拠点を置く3つの「人権団体」に依拠している。①HRANA(米国バージニア州に拠点を置く「イラン人権活動家」)、②CHRI(ニューヨーク州に拠点を置く「イラン人権センター」)、③ABCHRI(米国ワシントンDCに拠点を置く「イラン人権センター」)である。全てCIAの政権転覆機関であるNED(国立民主主義基金)から資金提供を受けている。HRANAは2024年だけでNEDから90万ドル以上を受け取っている。ABCHRIは、NEDが「パートナー組織」と呼ぶ団体であり、CHRIも人的繋がりが深い。米政府・CIA―「人権団体」―メディア、この3つが要するに「グル」なのだ。米国在住のイラン活動家などに現地検証できるはずもなく、情報の出所は米政府・CIAなのである。この「グル」によるデマゴギーこそが、米国の言う「認知戦」なのである。
そもそもこれら「人権団体」を支援するNEDは公然とイラン政府転覆プロジェクトを掲げている。それが、「最前線および亡命活動家のネットワークを強化すること」「独立系ジャーナリズムの推進、および一般に影響を与えるメディアプラットフォームの確立」であり、「人権の監視と促進」「インターネットの自由の促進」「イラン国内で学生リーダーを育成」「イランの市民社会と政治活動家の民主的ビジョンに向けた協力を促進し、法曹界内で市民権の意識を高めることで、権威主義から民主主義への移行モデルに関する議論を促進」などである。
[4]最後に注目すべき事実を~中ロの支援によるスターリンクの無力化
イランと中国・ロシアは手をこまねいているわけではない。それは「スターリンクの無力化」である。今回のイランの武装反乱は現代サイバー戦争の最前線となった。1月8日に、イラン政府はインターネット網、スターリンクを通じたネットも遮断した。これが国外のCIA・モサドからの指令系統を裁ち切った。これが「カラー革命」を食い止める技術的決定打となった。通信手段を失った武装集団は崩壊したのだ。自然発生的ならそうはならない。国外から管理・指令されていた証拠だ。
「スターリンク」とは、イーロン・マスクの米国を拠点とした衛星インターネットシステムのこと。低軌道に1万基以上の衛星を配置し、イランの抗議者やスパイに「遮断不能」とされる通信チャンネルを配備しようとした米帝の戦略の根幹の一つだ。西側では、スターリンクは無敵とされていたが、中国の科学者が開発した戦術的方法論マニュアルと、ロシアのウクライナ代理戦争で完成した軍用電子戦ハードウェアをイランに供給することによって、このスターリンクの無力化に成功したのである。
それだけではない。逆に、イラン治安部隊はスターリンクにアクセスし、テロリストを追跡するツールとして利用することによって、数百人を逮捕したのだ。
これらの事実は、国家の領空、国境、海岸と同様に、国家情報空間の確保が国家安全保障の重要な領域となっていることを浮き彫りにした。米国は「情報空間の兵器化」を、米国拠点をおくソーシャルメディアプラットフォームを通じて独占し武器化してきた。これを見事に覆したのだ。まさに米帝の攻撃を受けるグローバル・サウスの命運を社会主義中国とロシア主導のハイテク技術が防衛することになったのだ。
(続く)
