トランプはベネズエラへの戦争挑発をやめよ
○ 米軍は強襲上陸部隊を撤退させろ。空母部隊派遣を中止せよ
○ マドゥーロ政権・ボリバル革命断固支持

 カリブ海情勢が緊迫度を増している。米軍のベネズエラ攻撃の危険が高まっている。マドゥーロ政権は厳戒態勢に入った。トランプ政権がベネズエラへの直接攻撃に向かって米軍の大部隊を集中しているのだ。カリブ海と東太平洋での「麻薬密輸ボート」攻撃をエスカレートさせ、CIAと特殊作戦部隊をベネズエラ付近に投入し、米軍侵攻の口実つくりの「偽旗作戦」(自作自演)を策動している。ヘグセス戦争大臣は原子力空母ジェラルド・R・フォードをカリブ海に向かわせ、トランプ大統領は、帰国し次第ベネズエラに対する方針を決めると言っている。トランプは海上での作戦から地上での行動に移ると何度も脅している。狙いが「麻薬対策」でないことは明らかだ。西側メディアでさえ信じる者はいない。直接の目的はただ一つ、マドゥーロ政権の打倒だ。
 しかし、もう一つのもっと大きな狙いが浮上している。それはカリブ海に米軍の大部隊を集結させ、軍事的脅迫を背景にラ米カリブ地域全体の覇権を再確立することである。これは、社会主義中国とBRICS・グローバルサウスの集団的台頭がこの地域をも席巻し始めていることに対する焦りであり、歴史の流れを逆転させようとする絶望的な反動的巻き返しだ。ベネズエラに次いでコロンビアに対する攻撃を強めている。キューバに対しては経済封鎖を強化し始めた。
 われわれは、傍若無人な米帝国主義の軍事的冒険主義に断固反対する。世界の反戦運動、社会主義中国やグローバル・サウスも相次いで反対と抗議の声を挙げている。「ベネズエラから手を引け!」「ベネズエラに手を出すな!」を掲げて合流しよう。



(1)空母フォード部隊派遣で本格攻撃態勢に入る

 最大の問題は、米原子力空母フォードのカリブ海の軍事行動への投入だ。ヘグセス戦争大臣は、10月24日にフォードとその艦隊にヨーロッパからカリブ海に移動するように命じた。これは伝えられているよりも大きな意義を持っている。
 第1に、大西洋と地中海、つまり、NATO海域に配備された唯一の米空母であるフォードを引き抜く判断をしたことだ。引き抜いた後には1隻の空母も強襲揚陸艦も残っていない。ウクライナやガザに備えた、あるいはイエメンやイランを睨んだ、それに対応する空母艦隊を不在にする決断をしたことだ。ヨーロッパ戦線配備以上の意義を持つとすればカリブ海での戦争参加しか考えられない。
 第2に、75機以上の航空機を搭載し、1隻で5000人の乗組員を持ち、イージス艦数隻を伴うフォード艦隊のカリブ海投入は、これまでのカリブ海に配備されたイージス艦4隻、強襲揚陸艦3隻、原子力潜水艦等10隻の攻撃力を格段に強めるものだ。強襲揚陸艦イオージマが持つハリアー10機、プエルトリコから出撃する10機のF35、そしてB1やB52などの長距離爆撃機と比べても海上からの攻撃力は格段に強力だ。本格的なベネズエラ攻撃に備えたものだ。

(2)米国とトリニダード・トバゴの合同軍事演習

 ベネズエラ政府は10月26日、米国とトリニダード・トバゴが合同軍事演習を実施したことを糾弾した。デルシー・ロドリゲス副大統領は、合同軍事演習が「カリブ海を暴力の場とすることを目的としたもの」だと非難した。この軍事演習は、米南方軍がコーディネートした「敵対的な挑発」であり、「カリブ海の平和に対する重大な脅威」である。軍事演習は、いつでも実際の戦争に転化できる危険なものである。
 ベネズエラ外務省は、トリニダード・トバゴの親米政権が自国の主権を放棄して米国の軍事行動に全面的に協力し、米国の「軍事植民地」化したと断じ、自国領土をベネズエラやコロンビアなどに対する戦争のための拠点にしたと非難した。ベネズエラ政府は、トリニダード・トバゴとのエネルギー協力協定を停止した。当然の報復措置だ。

(1)超法規的処刑のエスカレート。公然たる国際法違反

 米軍は、10月28日に東太平洋で「麻薬密輸」ボート4隻を攻撃し、14人を殺した。生存者1人の救助さえ行わず、救助にメキシコ海軍が向かった。米軍は「麻薬密輸テロ組織」攻撃という名目を強調し、軍事行動がそのためだと思わせるために、9月から海上での攻撃をどんどんとエスカレートさせ、カリブ海とさらに太平洋で14隻を攻撃、撃沈し、57人を殺した。ヘグセス戦争大臣は、麻薬テロリストは多くの米国人を麻薬で殺しており、殺されても当然だと開き直り、超法規的な即決処刑を正当化している。しかし、米軍は攻撃対象が麻薬密輸に関係している証拠を全く示していない。ドローンなどでミサイル攻撃し、虐殺しているだけだ。捜査も、逮捕も、取り調べもない。麻薬運搬の刑罰は死刑に該当しない。米国はベネズエラが麻薬国家で、その首謀者がマドゥーロ大統領だと一方的に決めつけ、ベネズエラの国家元首の暗殺を正当化しようとしている。明かに国際法にも国内法にも違反する犯罪行為、「ならず者国家」の所業だ。

(2)不安定化と開戦策する米軍特殊部隊は撤退せよ

 トランプ大統領はCIAにベネズエラでの特殊作戦の実行を許可した。不安定化作戦の実施を命令したと自らが暴露した。10月中頃以降、ベネズエラ沖で米軍特殊作戦部隊のヘリコプターが活動している。10月30日には、特殊部隊の母艦であるオーシャン・トレーダーが中東から秘密裏にベネズエラ沖に移動したことが明らかになった。明かに特殊作戦部隊がベネズエラ国内の反政府暴力分子と連携して、米軍の戦争と政権転覆の準備を開始している。
 ベネズエラ外相は10月27日に、米軍による「自作自演の攻撃」=偽旗作戦の計画があったことを公表した。CIA得意の「偽旗作戦」で、トリニダード・トバゴに寄港し、同国軍と共同演習をしている米イージス艦に攻撃を仕掛け、それをベネズエラの仕業に見せかけようとしたのだ。ベネズエラ反政府分子によるその陰謀がベネズエラ政府によって事前に摘発された。ベネズエラ政府はその証拠をトリニダード・トバゴ政府に知らせ、警告した。かつて米国は「米国の駆逐艦が北ベトナム軍の攻撃を受けた」という、事実無根の「トンキン湾事件」をでっちあげベトナム戦争拡大=北爆の口実とした。イラク戦争でもありもしない「大量破壊兵器の脅威」をでっち上げた。デマと偽旗作戦は米国が他国を侵略するときの常套手段だ。
 この件の他にもカラカスの「プラザ・ベネズエラ」や米国大使館での爆破計画準備が摘発されている。ベネズエラ治安部隊がこれらCIA支援の傭兵集団を拘束し、その陰謀を阻止したことで米国の侵略の口実づくりを封じているのだ。米国が傭兵を利用しているのは、失敗したときに「ならず者集団」の責任にして自らの説明責任を回避できるからだ。

(3)マチャドのノーベル「戦争賞」の犯罪性

 誰が計画したのか。軍事侵攻の絶妙のタイミングで、野党政治家マリア・コリーナ・マチャドがノーベル「平和賞」を受賞した。マチャドは即刻、この賞をトランプ大統領に捧げると発言した。トランプがマドゥーロ政権を倒せば、次に大統領の座に据えるのはこのマチャドである。独立主権国家を倒し、その元首を殺害し、ノーベル委員会が後釜にお墨付きを与える。グロテスクなブラックジョークそのものだ。
 マチャドの率いる党はこの9月に国連総会の場で、マドゥーロ政権打倒キャンペーンを西側メディアと一緒になって活動した。彼女はマドゥーロ大統領を麻薬組織の首領、ベネズエラ政府を麻薬テロリストとして非難して、カリブ海の米国の軍事作戦を称賛した。「平和賞」とは「戦争賞だ」と非難されるのも当然だ。
 米軍のカリブ海への大集結、国連と西側メディアの大騒ぎとこのノーベル賞は不可分一体のものだ。案の定、日本を含む西側メディアは、「民主主義の闘士」「独裁者と闘う女性」として礼賛した。
 今回の受賞はまた「CIAの受賞」とも揶揄されている。彼女は旧支配層(オリガーキー)出身で、クーデターや武装暴動を繰り返し、自分が大統領になれば、ベネズエラの石油資源と富を米帝国主義に捧げると公言してきた。マチャドは、CIAとそのフロントであるUSAID(米国国際開発庁)、NED(全米民主主義基金)の指示で暴力活動を進めてきた。ノーベル平和賞は、ワシントンへの忠誠に対する報酬でもある。
 米制裁支持や、ベネズエラ石油会社CITGOなどの海外資産で巨額の損失をもたらしたことの責任や、グアイドが主導した大規模汚職への関与などで、ベネズエラ最高裁は、マチャドに対して15年間の公職就任禁止を命じた。マチャドは米CIAの支援でベネズエラ国内に潜伏している。


(1)海から陸への軍事作戦拡大の野望

 トランプ政権は、海上でのボート攻撃以外の軍事作戦の拡大、海から陸への拡大の準備を進めている。トランプは「海上支配が完了した」と述べ、地上侵攻の可能性に何度も言及するなど、軍事行動を一段と具体化している。トランプ大統領の側近は、大統領がアジア歴訪から帰国後、ベネズエラとコロンビアにおける作戦の可能性について議会に報告する予定だと述べた。そこでは、海から陸への作戦拡大の可能性についても説明が行われるという。それはカリブ海を巡る緊張を一段と高めるものとなる。
 トランプがどのような政策をとるのか。2つ考えられる。まず、このまま「麻薬密輸船」の処刑を繰返すのか。それにしては大規模な軍隊を集中している。しかし、ベネズエラは15万の正規軍と総数800万と言われる登録された民兵を持つ。現在カリブに配備された2200人の海兵隊をはるかに上回る規模の地上兵力で侵攻するのでなければ、ベネズエラに侵攻し占領するのは極めて難しい。マチャドやゴンサレス、あるいはロペスなど極右暴力政治家が米軍侵攻に合わせてクーデターに立ち上がれと国民に呼びかけているが、もはや野党はベネズエラ国内で大規模なクーデターを引き起こす力をもっていない。国内での大規模なクーデターなしに米軍が上陸をしてもベネズエラを制圧することはできない。
 次に考えられるのは地上に対する爆撃と攻撃である。100機前後の航空機とイージス艦に搭載される数百発のトマホークミサイルで地上攻撃することだ。政府の施設、発電所、石油、コンビナート等を攻撃することで政府と経済に打撃を与えることだ。一番あり得るのは、CIAの送り込んだ特殊部隊の攻撃に合わせて、マドゥーロ政権中枢部に対する暗殺攻撃の実行だ。政治指導部に対する首切り攻撃は米軍の常套手段である。イラクのフセイン、リビアのカダフィが殺された。米国式の自由と民主主義、人権とはそういうことだ。いずれにしても大規模な空爆が行われれば、ベネズエラの国土破壊と人民の犠牲は甚大なものになる。絶対に許せない。

(2)コロンビア、キューバも標的に

 ベネズエラだけではない。コロンビアやキューバも米国の攻撃、侵攻の対象にされている。コロンビアは、ペトロ大統領が「ガザでのジェノサイド」に反対し、「ラ米での米国の侵略」の終結を求めたことで、トランプ政権の標的となった。キューバも繰り返し、イスラエルの蛮行を糾弾している。米国とベネズエラの軍事的緊張は、コロンビアやキューバへの攻撃も加わって、南米およびカリブ海域全体の平和と安全を揺るがす事態となっている。
 トランプ政権は、昨年から、米国の植民地プエルトリコを軍事拠点化していた。それは、今回の軍事作戦の下準備であった。植民地では、国防総省が議会や地元の同意なしに自由に活動できるのである。かつての海軍基地や滑走路が再活性化された。

(1)ベネズエラの政府・人民は厳戒態勢に。広がる国際的非難

 ベネズエラでは、マドゥーロ大統領が全人民の結束と民兵強化を呼びかけ、民兵や予備軍を総動員して厳戒態勢に入っている。新たな民兵450万人がすぐに結集し、防衛訓練に参加している。また、ロシア製地対空ミサイル約5000発を要所に配備し、防衛態勢を急速に強化している。
 ベネズエラ人民は、今回の事態を冷静に捉え、ボリバル革命の26年間で見たこともない結束を固めている。米帝の脅威に対し、かつてなく団結が深まっている。その証拠にチャビスタだけではなく、チャビスタでない人民も含めて民兵に参加している。
 ベネズエラとその同盟諸国は、国際的な連帯を呼びかけ、「シモン・ボリバル国際旅団」を結成した。ベネズエラ自身がこの旅団を発足させ、それに加えて、ブラジルの「土地なし農村労働者運動」(MST)が主導して各国で活動家旅団を組織した。そして、10月24日にベネズエラのカラカスで開催された「世界反帝国主義プラットフォーム会議」(65カ国から代表団)の閉会式で、ベネズエラを支援するための「シモン・ボリバル国際旅団」の結成が発表された。
 ALBA(米州ボリバル同盟)は、米国の軍事演習を地域全体の人民の自決権への脅威であると強く非難する共同声明を発した。CELAC(ラ米カリブ諸国共同体)もラ米カリブを「平和地帯」として維持するという原則で、米国の軍事行動に反対している。カリブ海諸国では、米軍の撤退と、「カリブ共同体(CARICOM)」による断固たる姿勢を求める声が高まっている。
 カリブ海への米国の大規模な軍事展開と対ベネズエラ軍事行動への批判は、中国とロシアを含め、全世界に広がっている。非同盟運動(NAM)の第19回中期閣僚会議が10月15~16日にウガンダで開催されて各国外相が結集し、カリブ海での状況に「深刻な懸念を表明」する特別宣言を発した。宣言は、「域外からの軍事部隊」、「敵対行動」、「威嚇的脅威」などを批判し、「地域外諸国に対し無謀な行動を控えるよう」求めた。「武力による威嚇又は武力の行使の禁止という原則を堅持する確固たる決意を再確認」し、ベネズエラの国民と政府への連帯を表明した。

(2)高市政権はトランプのベネズエラ侵略に反対せよ

 米国は地上侵攻でマドゥーロ政権を打倒し、傀儡にとって変えることは困難だ。しかしこれまで何度もやってきたように、一方的に爆撃や攻撃を繰返し、国土と人民を痛めつけることは可能だ。だからこそ、米国・トランプ政権のやりたい放題の攻撃を広範な国際世論の力で阻止することが重要だ。

 われわれは、ベネズエラ人民と連帯し、ベネズエラ防衛、米国の侵攻阻止の闘いを支持する。トランプにベネズエラ侵攻を中止し、カリブ海から撤退するよう要求する。トランプべったりの高市政権に対してトランプのベネズエラ侵略に反対するよう要求する。米軍の軍事介入の不法と非道を暴露し、反対の世論を構築していく。同時に、マドゥーロ政権・ボリバル革命支持のキャンペーンを強化していく。そして米国内とG7諸国の反戦運動と連帯し、国際法違反の米国の侵攻反対運動に合流していく。それがパレスチナ連帯運動と並ぶ新たな反戦平和運動の緊急の任務である。

2025年10月31日 
『コミュニスト・デモクラット』編集局

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