拡大BRICS最初のサミット
BRICSがG7の対抗勢力に拡大・発展
グローバル・サウス共通の要求「リオ宣言」を採択

 第17回BRICSサミットが7月6~7日にリオデジャネイロで行われた。昨年、加盟国が5ヵ国から11ヵ国に拡大し、さらに10ヵ国が準加盟国となった。今回はその拡大BRICSの最初のサミットである。加盟国・準加盟国の21ヵ国の代表団の結集は壮観だ。5ヵ国ではなく21ヵ国なのである。加えて、国連事務総長、国連世界保健機関事務局長、世界貿易機関事務局長、BRICS新開発銀行総裁など10人が特別ゲストとして招待された。以下、今回のBRICSサミットと「リオ宣言」の主要な内容について報告する。           

(小津)

大きな歴史的転換点

 この1年で急拡大したBRICSの今回のサミットは、大きな歴史的転換点となった。西側政府・メディアは密かに、加盟国・パートナー国が増えれば増えるほど収拾が付かなくなり空中分解すると期待した。

 ところが21カ国が結集し、126項目もの「リオデジャネイロ宣言」が採択されたのである。その副題は「包括的で持続可能なガバナンスのためグローバル・サウスの協力を強化する」だ。つまり、グローバル・サウスを代弁する拡大BRICSが、国際政治・世界経済を牛耳るG7帝国主義に対峙し、「待たない、行動する」という明確なメッセージを発し、新たな世界秩序のための「グローバル・ガバナンス」を根本的に改革していく包括的なビジョンを突き付けたのである。国連の諸決議・諸行動を妨害し続けるG7帝国主義に対する挑戦状だ。

 西側メディアは、今回の拡大BRICSを酷評する報道に終始した。それは、米国をはじめとする西側諸国がBRICSの拡大・発展を恐れていることの裏返しに他ならない。トランプは、BRICS諸国とそれを支持する諸国を懲罰関税で制裁すると脅した。特にドルからの脱却を強く主張するルーラ大統領のブラジルに対して50%の懲罰関税をかけると脅迫した。またトランプの盟友である同じネオファシストのボルソナロをブラジル当局が裁判にかけていることに腹を立て、裁判の中止を要求した。公然たる内政干渉だ。これに対して、ルーラは内政干渉を許さないとしてそれに強く反発し、同等の関税で応じるとした。また、労働者・人民が8月1日にブラジリアやサンパウロなど各地で「ブラジルから手を引け!」と、反トランプデモを敢行した。

米・G7主導から中国とグローバル・サウス主導の世界体制へ

 BRICSは2009年にブラジル、ロシア、インド、中国によって開始され、2011年に南アフリカが加わり、昨年から急速に拡大した。新加盟国はエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア(ただし正式加盟手続き未完了)、インドネシア。昨年新設された準加盟「パートナー国」はベラルーシ、ボリビア、キューバ、カザフスタン、マレーシア、タイ、ウガンダ、ウズベキスタン、ナイジェリア、ベトナムである。これら諸国で世界人口の約50%、財とサービスの年間生産量の約40%を占める。

 今回のサミットでは、米ドル覇権の下での先進諸国による植民地・新植民地主義的支配の世界体制を掘り崩し、中国とグローバル・サウス主導の多国間主義的グローバル体制へ転換していくことが前面に推し出された。
 西側メディアは、習近平国家主席やプーチン大統領の不参加を理由に、BRICSはもはや限界に達した、トランプやイスラエルを名指しで非難できない、と揶揄・批判に終始した。だが、プーチン大統領はオンライン参加し、習近平国家主席は、「抗日戦争勝利80年」の関連行事を重視したに過ぎない。事前に十全な首脳外交を積み重ねてそれを補い、「リオ宣言」採択と会議成功に導いたのである。

米ドル覇権からの脱却

 米ドルの支配からの脱却を推進することは今回のサミットの最重要課題のひとつであった。BRICS諸国の貿易では、上海に本部を置くBRICS新開発銀行(NDB)を軸にドル基軸の世界銀行ネットワークSWIFTを経由しない国際取引が拡大している。二国間決済システムによって各国通貨のシェアが拡大し、そのことによって米ドル覇権が掘り崩されつつある。トランプは「BRICSの脱ドル化の取り組みを見るたびに腹を立てて」いて、米ドルの覇権を掘り崩すBRICS諸国とそれに同調する諸国に新たな関税を課すと脅した。だがBRICSは米の「関税戦争」を世界貿易の妨害として非難し、社会主義中国と連携し、正面から対峙しようとしている。

 また、IMFや世界銀行の改革を要求し、従来の先進諸国主導の植民地主義的な論理での活動から、多国間ガバナンス体制の確立へ移行することを求めている。特に、新興国・発展途上国向けの出資枠の拡大を要求している。

国際紛争を解決できない国連の改革を要求――平和を達成できる国連に

 BRICSは、新たな世界秩序のための政治プロジェクトとして自らを位置づけ、国際紛争を解決できない現在の国連の改革を要求している。

 イスラエルによるガザでの大虐殺、さらにイスラエルと米国によるイラン攻撃を、国際法と国連憲章の違反として厳しく糾弾し、国際紛争での国連の解決力のなさを批判している。特に安全保障理事会で「戦争を助長し奨励する国」が議席を保持していることを批判し、戦争とテロに打ち勝つ持続可能な世界の平和を追求することのできる国連に改革することを要求している。他国の領土に軍事基地を保有していないBRICS諸国が果たす役割が強調され、平和の擁護と軍備拡張競争の終結を求めている。その下でグローバル・サウスの経済発展を実現していくことを目指しているのである。それは、欧米諸国の軍の撤退を求めているアフリカ諸国をはじめとして途上国全体を引き付けている。このBRICSサミットの直前の6月末にNATO諸国が国防費をGDPの5%に増額するというトランプの要求を受け入れたが、BRICSの方針はそれと好対照をなしている。

 イランに対するイスラエルと米国による攻撃では、BRICS加盟国への攻撃はBRICS全体への攻撃と同じであるとして、BRICS諸国の強い結束力と連帯が示された。

気候変動対策でリード 先進国に気候資金の大幅増額を要求

 11月のCOP30でも議長国を務めるブラジルは、気候変動対策でも議論をリードした。そこでは「気候変動資金に関する枠組み宣言」が採択され、発展途上国での持続可能なプロジェクトへの資金アクセスの促進を目的として、先進諸国の気候変動資金の大幅増額が要求された。トランプがパリ協定から離脱し、気候対策に公然と敵対し、さらにEU諸国も気候対策から次々と後退する中で、社会主義中国をはじめBRICS諸国が世界の気候対策をリードする局面に入った。

 AIに関するグローバル・サウスのビジョンを反映した「グローバル・ガバナンス原則」が承認された。西側諸国が独占する排他的な技術に警鐘を鳴らし、国家主権を尊重してグローバル・サウス諸国がAIに公平にアクセスできるように、またすべての国のニーズを満たすものにするために、国連主導のグローバルな枠組みが求められた。

キューバ大統領の感動的演説 キューバ代表団の巨大な存在感

 キューバ代表団のリオへの参加は、様々な感動と驚きをもたらした。ディアス・カネル大統領は、演説の冒頭で「今日、BRICSは希望と同義である」と述べた。国連が「少数の傲慢さによって混乱と無力状態に陥っている」ことを指摘し、国際法と国連憲章を無視して行動している米国を厳しく批判して、国連の抜本的な改革が緊急に必要であると指摘した。

 イスラエルが米国の恒久的な政治的・軍事的・財政的支援を得て行なっているパレスチナの人々に対する継続的なジェノサイドについても、改めて強く糾弾した。また、米国政府がシオニスト政権の不処罰を保証し、拒否権によって国連安全保障理事会の行動を妨害していることを批判した。

 そのような状況の中でBRICSが台頭しつつあり、平和、対話、相互尊重、協力、連帯という共通の理想を推進しながら前進していることを指摘し、その取り組みを「非常に感動的である」と述べた。平和共存を保証し、すべての人々にとって持続可能で公平かつ包括的な発展を促進するためには、多国間主義への確固とした新たな取り組みが緊急に求められていることを指摘し、BRICS諸国を育成し強化することは急務であるとした。

BRICS指導者と人民運動との初の対話

 特筆すべきことは、今回、BRICSの指導者たちと人民運動との対話の場が初めて設けられたことだ。BRICS人民評議会」「BRICS女性企業経営同盟」「BRICS企業経営評議会」などが参加し、ブラジルの「土地なし農村労働者運動(MST)」が代表発言して交流した。

 グローバル・サウス台頭を象徴するBRICSの動きに注目していこう。

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