世界をグローバル・サウスが動かし始めた。今年の夏から秋にかけて開催されたサミットは南の台頭を強く印象付けるものとなった。中でも、10月22~24日にロシアのガザンで開催されたBRICS第16回サミットは、新興・途上諸国(以下、グローバル・サウス)の劇的な台頭の原動力がBRICSにあること、それによって米帝一極支配の歴史的没落が加速していることを明らかにした。BRICS最新会議の意義について報告する。
(渉)
[1] BRICSはグローバル・サウス台頭の原動力
(1)北京、カザン、リマ、リオを一連のものと見る
北京、カザン、リマ、リオのサミットを一連の連続的な動きとして見る必要がある。バラバラに見たのでは歴史的激動は理解できない。
カザン・サミットの議長はロシアのプーチンが務め、中国の習近平総書記をはじめ主な途上国首脳が結集した。このサミットの勢いと高揚感は、その一カ月前の9月の北京での「中国・アフリカ協力フォーラムサミット」の成功を引継いだものだ(CD111号記事参照 中国・アフリカ協力フォーラム北京サミットを開催 )。
次いで、11月15~16日のペルーでのAPECサミットは米国に挑戦し、保護主義反対を宣言した。習近平総書記は、サミットに合わせて、中国国有企業が出資するチャンカイ港開港イベントに参加した。この巨大港湾施設は、一帯一路とアジア・南米貿易ルートの拠点に位置づけられ、将来は中国によるペルー、ボリビア、ブラジルをつなぐ南米大陸横断鉄道と連結される計画だ。西側政府・メディアは、「チャンカイ港は軍港だ」と騒ぐしかなかった。中国は、アフリカに続き、ラテンアメリカでもインフラ開発で主導権を握ったのだ。
続く11月18~19日のG20リオ・サミットは、今日の国際的力関係の集中的表現となった。米国とG7は、最重要議題を「ウクライナ」と「ロシア非難」一色にしようとしたが、議長ルーラ大統領はこれを許さなかった。米帝主導のG20で、グローバル・サウスが主導権を握った瞬間であった。「G20がG7の課題を打ち負かした」のだ。最初の集合写真にバイデンと西側首脳の姿はなく、習近平とルーラ、その周りを途上諸国が占めるという象徴的写真が世界中に配信された。中国・ブラジルは首脳会談を行い、両国でグローバル・サウスを牽引していく決意表明を行い、共同声明「公正な世界と持続可能な地球を構築する運命共同体」に署名し、「一帯一路」とブラジルの発展戦略を連携させると発表した。
西側メディアは、G20サミットを「混乱」「無秩序な世界」(ブルームバーグ)と吐き捨てた。世界を支配するのはG7であり、グローバル・サウスが取り仕切る世界は許せないと言わんばかりに。
これら一連のサミットの中で、最も重要なのはグローバル・サウスの原動力であるBRICSのカザン・サミットだ。以下、これを詳細に検討する。
(2)BRICSの拡大そのものが力の源泉
本サミットには35カ国もの多くの新興国及び途上国の首脳が結集し、6つの国際機関の代表団や国連事務総長が参加した。BRICSの5カ国に、イラン、エジプト、UAE、エチオピアの4カ国が正式加盟した。さらに準加盟国として「パートナー国」制度が創設され、13のパートナー国(キューバ、ボリビア、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、カザフスタン、ウズベキスタン、ベラルーシ、トルコ、アルジェリア、ナイジェリア、ウガンダ)が新たに加わった。ベネズエラも参加申請したが、ブラジルの保留で先送りされた。様々な矛盾や軋轢を含むが、BRICSの拡大そのものが一つの力だ。
(3)習近平演説の意義
本サミットの意義と内容を簡潔に語ったのが習近平総書記である。
――時代認識と歴史的意義:「世界が激動と変革によって定義される新しい時代に入り、私たちは未来を形作る極めて重要な選択に直面している。私たちは、世界が無秩序と混沌の深淵に落ち込むのを許すべきか、それとも平和と発展の道に世界を戻すために努力すべきか」
――地球規模の諸課題への挑戦:「BRICSの勢いを維持し、地球規模で影響力を持つ課題に対する戦略を考え、考案し、将来の方向性を決定し、戦略的な意義を持たさなければならない」
――戦略目標を実現する推進力としてのBRICS:習近平は、「国際的なパワーダイナミクスは大きな変化を遂げているが、グローバル・ガバナンスの改革は長い間遅れをとっている」と、現在の世界の現実をグローバル・サウスの要求を反映した国際関係の構造に作り変えることを要求する。
[2] 画期的な「カザン宣言」~中国主導のBRICSの3つの戦略目標
(1)カザン宣言:戦略目標実現の武器こそ多極世界の構築
プーチンは最終日にBRICSの戦略目標を盛り込んだ「カザン宣言」を発表した。習近平演説は、いわばこの宣言の要約だ。宣言の表題は「公正なグローバル開発と安全保障のための多国間主義の強化」。宣言の目標は3つ。「多国間主義強化」に基づいて、「公正なグローバル開発」と「戦争のない平和な世界」を実現するというものだ。本文は、4章、134項目からなる。第4章は相互交流なので、3章までが米帝一極支配に対抗する戦略目標に当たる。以下、順に検討しよう。
第1章は、「より公正で民主的な世界秩序のための多国間主義の強化」。「より公平で公正、民主的でバランスのとれた多極的な世界秩序への道を開くことができる、新たな権力、政策決定、経済成長の中心の出現に注目する」という多極世界の構築から始まる。これを宣言は「グローバルガバナンスの改革」と呼ぶ。具体的には、国連、WTO、IMF、G20などの内部からの改革を指す。さらには、この多極間主義を通じて、「持続可能な開発」や気候変動対策、一方的制裁反対などを実現しようとしている。この多極間主義こそが、第2章、第3章で提起する政治・軍事面と経済面での戦略目標を実現する闘いの武器である。今夏から今秋にかけての一連のサミットでの習近平とルーラの奮闘は、まさにこの宣言に沿ったものだ。
BRICSは、米帝一極支配に対抗する中国と新興諸国の結集機関だが、政治・経済・軍事同盟ではない。別の国際機関を作ろうとしているのではない。そんなことは一朝一夕でできるはずもない。米帝主導の西側国際機関の中で、中国とグローバル・サウスの意思決定権を拡大しようとしているのである。その意味で「改良」だ。しかし、西側にとって侵略・内政干渉・制裁などやりたい放題ができないこと自体、許し難いことなのだ。彼らの暴虐・横暴に制限を加えるだけで、彼らは逆上する。500年来の大航海時代以来、侵略と植民地化を武器に資本主義世界を生み出し、2つの帝国主義戦争で惨禍をもたらし、暴虐の限りを尽くしてきた。中国の社会主義発展と中国が援助するグローバル・サウスが国際機関の主導権を握ることなど我慢できないのだ。
(2)米帝主導の帝国主義戦争に平和と平和共存を対置
宣言は、第2章「世界と地域の安定と安全のための協力強化」で、BRICSを平和の擁護者、創造者としていくことを大目標に掲げる。戦争と武力紛争に反対し、平和的解決と平和共存を原則とし、国際人道法を尊重するよう主張する。続いて、米・イスラエル帝国主義によるガザとヨルダン川西岸への侵略と破壊と殺戮、レバノン、シリア、イラン、イエメンへの拡大を非難し、即時・恒久停戦、大規模な人道援助を求める。さらに「東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家」の要求を支持する。
豊富な鉱物資源があるアフリカは欧米帝国主義の草刈り場だ。宣言はアフリカを特別に取り上げ、アフリカ連合などの「アフリカ的な和平努力」を支持する。
ウクライナについては、対話と外交を通じた平和的解決を呼びかける。
(3)米帝のドル・金融覇権をどのように掘り崩し、無力化するか
第3章「公正なグローバル開発のための経済・金融協力の促進」は、宣言全体の半分弱を占める最も力の入った章である。とりわけ重要な2点について紹介する。
①ドルからの脱却を目指す代替的国際決済システムの開発
米帝のドル・金融覇権を無力化することは、制裁の乱用や債務奴隷化政策に対抗するグローバル・サウスにとって死活問題だ。宣言は幾つかの対策を提起する。低・中所得国の債務処理のためのG20共通枠組みの協調的実施、NDB(新開発銀行)の役割強化、BRICS内のコルレス銀行ネットワークを強化し、BRICSクロスボーダー決済イニシアティブ(BCBPI)に沿った自国通貨による決済を奨励する。金融取引における現地通貨の使用、各国通貨を使った新しい決済システム(BRICSPay)の利用を求める、等々。
ドル・金融覇権を掘り崩すには、中国と言えども簡単ではない。ドル決済を回避しSWIFTを打破する全く新しい代替システムや共通通貨の創出は難しい。だが、BRICSはあえてこの困難に挑戦しようとしている。その研究とテストはすでに始まっている。BRICS諸国の金融市場インフラをつなぐ、独立した決済及び預託のインフラであるBRICS Clear 設立がそれだ。さらにBRICSの偶発準備制度(CRA)は、短期的な国際収支の逼迫を回避し、金融の安定を強化する重要なメカニズムである。
早速、次期大統領トランプはBRICSに「脱ドル推進なら100%関税を課す」と怒りを露わにした。まさに米帝の急所を突いたのだ。
②食糧安保、デジタル・人工知能化、持続可能なグリーン開発
BRICSは、小規模の低所得農家や食糧輸入国の側に立つ農業貿易を支持し、BRICS穀物取引所の開設を支持する。産業やハイテク技術で立ち後れている途上諸国に新産業革命パートナーシップ(PartNIR)を設置し、途上国のデジタル経済発展を後押ししようとしている。また、BRICSは、気候変動対策、持続可能なグリーン開発の推進者として行動している。その技術的テコが中国の電気自動車、リチウム電池、太陽光発電製品だ。中国は社会主義建設の中心課題を「生態文明建設」に据え、これをBRICSの最重要の戦略目標と位置づけている。
[3] BRICSに対する階級的立場
(1)BRICSとは何か? 帝国主義支配層の狙い
確かに、BRICSは社会主義国から資本主義国まで、王政国家からイスラム国家まで様々な階級的性格を持つ国々が参加する。しかし、社会主義中国が牽引する限り、ベトナムやキューバ、ベネズエラやニカラグアなどの社会主義や社会主義指向国が加われば加わるほど、また米帝の執拗な攻撃対象となっているロシアやイランが参加するほど、それだけ反米・反帝的性格が強まる。
BRICSとは何か? ――それは、ソ連崩壊後に米帝一極支配の暴虐・横暴に苦しんできた新興・途上諸国が集団で対抗する機関である。すなわち政治的・軍事的には、米帝主導のG7による国際政治の一方的・専横的支配に従属を強いられ、侵略戦争や内政干渉や政権転覆(カラー革命)に苦しめられてきた国々の平和と平和共存を希求する機関である。経済的には、米帝の勝手な金融政策に経済を破壊・翻弄され、ドル・金融覇権による制裁や封鎖に経済破綻を強いられ、新植民地主義収奪により富を奪い取られてきた国々が抵抗する機関である。
当然、帝国主義ブルジョアジーは、自らに逆らうBRICSに逆上し、これを撹乱・分裂させ、叩き潰そうとする。彼らは、BRICSの中心は社会主義中国であること、中国さえいなければBRICSが空中分解することを知っている。だから、中国を戦略敵として包囲し、「台湾有事」=対中戦争を仕掛けているのだ。
(2)一部の左翼の没階級的なBRICS批判。世界革命の観点の欠如
ところが、左翼の一部は、批判の矛先を米帝や西側帝国主義に向けずに、BRICSに向ける。南アの学者パトリック・ボンドは、BRICSによるIMF・世銀改革を「帝国主義との『同化』『融合』だ」と糾弾し、米国の学者ウィリアム・ロビンソンは、「どちらもグローバル資本主義だ」と帝国主義とBRICSを同列視する。トロツキスト・グループや共産党の一部は、中国を帝国主義と決めつけ、中国もBRICSも「社会主義じゃない」と非難し、G7帝国主義へのBRICSの対抗を「資源、市場、ルートをめぐる帝国主義間矛盾」と弾劾する。
これら一部の左翼に共通するのは、中国を含む途上国革命と途上国社会主義建設の困難の根本原因が先進国革命の歴史的な立ち後れにあるという自己批判がないことだ。中国がアヘン戦争以来の西側の侵略と植民地支配にどれほど苦しんできたか、新興・途上諸国が米帝・西側帝国主義の軍事覇権やドル・金融覇権にどれほど苦しめられているかの認識が全くない。日本について言えば、戦前・戦中の天皇制軍国主義による侵略と植民地支配が中国人民の解放闘争にどれほど甚大な被害を与えたのか、その痛恨の自己批判がないことだ。
自らは先進国革命を起こさず、起こせず、帝国主義包囲下のグローバル・サウスがBRICSという形で単独で帝国主義支配の地獄に対抗し、抜け出そうとする奮闘をあざ笑う。そこには途上国人民連帯のかけらすらない。反米・反帝、反植民地主義の観点が欠如した者は、マルクス主義者でも共産主義者でもない。
マルクス主義は、世界革命の観点を片時も忘れない。中国主導のBRICSが米帝・西側帝国主義の侵略・内政干渉・制裁を無力化し、ドル・金融覇権と新植民地支配を無力化すれば、途上国革命の社会変革は間違いなく前進する。BRICSを批判する左翼は、これが国際的次元の階級闘争であることを理解できない。
われわれは、米帝一極支配との闘争の結集軸としての社会主義中国主導のBRICSを断固支持する。自国帝国主義に闘いを挑むことによってBRICSの挑戦に応えたい。