記録的猛暑、終わらない夏、能登の地震被災地での洪水、11月に相次ぐ台風発生、サンゴの大規模白化、日本でも実感される気候危機。単年で平均気温がプラス1・5度を超えるのが確実ともいわれる。世界各地で干ばつと大洪水、巨大ハリケーンの襲来、極地で失われる氷床、猛烈な森林火災、海面上昇による浸水被害…。100年に一度の異常気象が毎年のように発生している。対策に猶予は許されない状況だ。
COP29(国連気候変動枠組条約第29回締結国会議)が11月11~24日にアゼルバイジャンのバクーで開かれた。帝国主義と社会主義の体制間の違いがますます鮮明になった。米国の次期大統領トランプのパリ協定からの再離脱が避けられない中、帝国主義側は責任逃れに終始した。これまで積極的に振舞っていたEUも逃げ回った。戦争にあけくれ、気候資金を途上国収奪の道具としかみない帝国主義に今日の気候危機・環境危機に対応する能力はない。COP29だけをみると絶望的だ。
しかし、社会主義の側に目を転ずると状況は一変する。社会主義中国が主導して、一方で、COPの場で先進国に責任ある行動をとるよう突き上げ、他方で、COPの議場の外で積極的に気候危機対策を進めているのだ。中国は炭素排出のピークを6年前倒しで実現する成果をあげ、排出ゼロも射程に入れるまでになった。しかもこれを「一帯一路」「南南協力」によりアジアやアフリカなど世界各地に拡大すると同時に途上国が帝国主義の債務奴隷から逃れるのを助けているのだ。気候危機をめぐる体制間闘争、国際階級闘争は新たな段階に入った。最新の局面を報告する。
気候資金の「新たな数値目標 先進国は途上国の要求を拒んだ
COP29の主な議題は「気候変動対策資金(気候資金)」に関する「新たな数値目標」の設定であった。
気候資金は、枠組条約にある、先進国は途上国による気候変動への取組みを支援するための資金を「提供しなければならない」との規定に基づくもので、COP15(2009年コペンハーゲン)において、先進国は2020年までに年間1千億ドルを拠出することを約束した。これを2年遅れで達成した。約束は2025年まで継続となっていたので、その後の「新たな数値目標」をCOP29で決めなければならなかった。
気候資金には2つの柱がある。排出量の削減支援(緩和)と気候変動に適応するための支援(適応)だ。途上国グループ(G77&中国:中国及びBRICS諸国を含む途上国135ヵ国)は、第3の柱として被害への補償(損失と被害)を含めるよう再三求めてきた。気候危機の被害が途上国に顕著に表れるからだ。先進国は拒み続けてきたが、2023年のCOP28において「損失と被害基金」が設立され、一定の勝利を収めた。しかし損害額が2030年までに年間4470~8940億ドルと見積もられるのに対し、基金に積立てられた額は1年で7・9億ドルに過ぎず、事実上反故にした。
「新たな数値目標」について、途上国グループは、途上国における気候変動対策に2030年までに5~6・9兆ドルが必要となることから、気候資金として年間1・3兆ドル以上を要求した。先進国側(OECD23か国&EU)は、自らの責任を棚に上げて中国など新興諸国や中東諸国が資金を提供する側に加わるよう要求した。途上国BRICS側は、それでは「共通だが差異ある責任」の基本原則に反するとして拒否した。会期を2日間延長して議論した末、年間3千億ドル以上と決まった。途上国側は、要求の4分の1以下であり、これでは全然足りないと批判している。気候資金の不足は対策の遅れを意味し、気候危機のさらなる進行と被害の拡大を意味するからだ。
途上国や反帝国主義勢力はその資金額だけではなく、質も問題にしている。気候危機を悪化させる事業に使われ、さらに、途上国に対する支配の道具になっているというのだ。
気候資金が化石燃料事業や環境破壊事業にも使われている
環境メディアによると、これまでに気候資金のうち少なくとも65億ドルが化石燃料事業に投入された。また、日本は気候変動対策と称して化石燃料への融資を行っていると頻繁に指摘されているという。日本がODA(政府開発援助)によりインドネシアで進めている石炭火力新規事業が一部継続しているが、石炭の代わりにアンモニアを混ぜて燃やす、CO2を回収して貯留・再利用するなどと言って気候変動対策にでっちあげている。
EUの金融資本などがボルネオ島などで手掛けるパームヤシの植林事業もひどいものだ。生物多様性の宝庫であり炭素の巨大な貯蔵庫である天然林を伐採する環境破壊行為だ。パーム油やヤシ殻が油製品やバイオマス発電の燃料となり日本にも輸出される。天然林伐採により大量の炭素が放出されるのにCO2吸収の植林事業とみなすというのだ。
気候資金を使って途上国を債務奴隷に陥れる
2016年以降、公的な気候資金の約70%は無償ではなく融資の形で提供された。日本、フランス、ドイツ、世界銀行やアジア開発銀行等による拠出のほとんどがこの方法による。国連の統計によると、報告された融資の少なくとも5分の1は返済利率が市場レベル以上の高利貸しであり、その結果、融資の返済と利子として巨額の富が資金提供国に還流している。2022年に最貧国で気候変動の影響を最も受けやすい58ヵ国が気候資金として受取ったのが280億ドルであるのに対し、債務返済は590億ドルであった。受取った倍以上の額の返済が迫られ、債務奴隷と化しているのだ。加えて融資した事業を融資元の国の企業が請負うことによる還流がある。日本の気候資金による融資の3分の1は日本企業に発注する条件が付いていたとのデータもある。
結局のところ気候資金は、途上国に帝国主義への依存を続けさせて利益をむさぼる現代の新植民地主義的収奪を気候危機対策の名目で行うにすぎない。気候資金について、先進国側は民間の投資も含むよう要求した。民間の投資は公的資金よりもたちが悪い。確実に利益をあげる事業にしか資金を流さない。富裕層向けのリゾート開発などに行きつくのがおちだ。途上国グループ(G77&中国)は繰り返し、民間ではなく公的資金に限ること、融資ではなく無償提供の割合を増やすこと、高利貸しや気候危機対策ではない事業への融資を気候資金から外すことを要求した。
COP29において先進国は、国際炭素取引市場についてルールの完成を急がせた。もしこれが始動すれば、CO2の貯留・再利用やパームヤシ植林事業も温室効果ガスの「除去」とみなされ、取引により価値が生まれ、他の排出事業が許容されることにもつながる。これに対しBRICSは10月のBRICSサミットでまとめたカザン宣言で明確に反対の意思を示し、そのうえでCOPに臨み、ルールの完成を阻止することに成功した。
植民地代表による告発「気候危機の元凶は植民地主義にある」
COP29では「植民地・新植民地主義時代の搾取の環境遺産」と題されたフォーラムにおいて、南米ベネズエラ沖に浮かぶオランダ領ボネール島の代表者が、植民地主義は過去のものではない、気候危機・環境危機の元凶は植民地主義にあると鋭く本質を突くスピーチを行った。「植民地主義による違法な侵入と天然資源の略奪は私たちの自然と生活様式を破壊し、今日の気候危機・環境危機をもたらした。いま同じ植民者たちが戻ってきた。なぜいまになって戻ってくるのか。ボネール島にとっての気候正義は植民地支配からの解放でなければならない。それは、自治権、資源保護権、環境管理権を認めることを意味する。気候危機への取組みは、植民地主義的な支配と搾取のシステムを解体することと切り離すことはできないことを世界は理解すべきだ」
原発3倍宣言で気候資金を乗っ取る動き
COP29で議論を呼んだのが、昨年のCOP28で米国が率いる国々が行った、2050年までに世界の原子力エネルギーを3倍にする宣言に関するものだった。宣言には25ヵ国が署名したが、さらに6ヵ国が追加で署名した。署名した国には、日本など原発を持つ先進国に加えて、東欧や中東諸国、さらにアフリカのコンゴ民主共和国やカリブ海のジャマイカなども含まれる。リスクの高い原発建設を途上国でも進め、債務をすべて途上国に負わせようというのか。
COP29の場で、世界原子力協会とIAEA(国際原子力機関)の代表は、「原子炉1000基の拡張には少なくとも5兆ドルの費用がかかり、その資金調達には政府によるリスク軽減が必要になる」と述べた。気候資金を原発への投資に使えというのだ。5兆ドルは1基50億ドルの計算だが、それでは済まない。実際には原発は1基あたり100~200億ドルはかかることから、10兆ドル以上の気候資金が奪われることになる。気候資金口座はすぐに枯渇するだろう。反帝国主義勢力は、これは気候資金の乗っ取りだと批判している。
社会主義中国がグローバル・サウスを束ねて攻勢に出る
先進国が動かない中で、社会主義中国、BRICS及びグローバル・サウスの側は手をこまねいているわけではない。むしろ攻勢に出ている。2024年1月途上国グループ(G77&中国)のサウスサミットの成果文書、9月G77外相会議の閣僚宣言、10月BRICSサミットのカザン宣言、11月G20の共同声明などにおいて意思統一を図りながら、気候危機対策、生物多様性と生態系保護、砂漠化防止や水資源保護などの取組みを、国連の枠組みを活用して進めること、これを、平和と公正な世界を多国間主義で構築する中で、持続可能な開発、貧困削減の取組みと連携させながら実現しようとしている。また、「途上国における持続不可能な債務負担は、社会的セーフティネットを圧迫し、社会経済的苦境を引き起こし、持続可能な開発の達成を制約している」(G77閣僚宣言)といった表現で、途上国を債務奴隷にする帝国主義を批判している。
習近平主席はG20において中国の立場を以下のように説明した。「持続可能な地球をつくるために、経済計画に生態系保護を統合し、生態系保護の取組みを活用して経済発展を推進すべきである。途上国は開発を通じて環境にやさしい経済の構築と災害に対する回復力の強化に重点をおくべきである。エネルギー源を段階的にクリーンなものに置き換えることが重要であり、中国はその支援に尽力している。気候変動、生物多様性の喪失、その他の環境問題に協力して取り組むべきである。一部の国の逸脱は気候対策を好ましくない方向に導く傾向を示している。途上国は、貧困削減の取組みを地球規模の気候危機対策と連携させることで、エネルギー転換とグリーン開発を並行して追求することができる」
中国は予定前倒しでピークを達成・排出ゼロに向け前進
中国はこの間、脱炭素を劇的に進め、成果をあげている。脱炭素の主役は再エネ(太陽光・風力・蓄電池)と電気自動車(新エネルギー車)だ。特に世界最高品質を誇る太陽光と電気自動車が飛躍的に伸びている。2023年に太陽光の増加は中国一国だけで前年の全世界のそれを超えた。2024年7月末までに風力と太陽光の総設備容量は12億600万キロワットに達し、2020年末の2・25倍となり、2030年の設置目標を6年以上前倒しで達成した。電気自動車は2022年3月に化石燃料車の生産を廃止したBYDがトップに立った。搭載の蓄電池が発電機代わりになる。新エネルギー車と称するのはそのためだ。この技術を活かした据置型の大型蓄電池の設備も劇的に増加している。これと再エネとを組合わせることにより、供給の変動という弱点を克服できる。これで火力に頼らなくてもよくなるのである。
中国は、こうした奮闘と努力により、2030年を待たずに、2024年ないしは2025年には炭素排出のピークを達成する見込みとなった。2024年であれば6年前倒しになる。炭素排出ゼロについても予定の2060年ではなく、2050年には実現する展望が開けてきた。一方で完工までに時間がかかる原発はほとんど伸びていない。環境破壊要因である原発はやめ、それ以外の方法での目標達成を期待する。
また中国は、気候変動に関する南南協力の枠組みを通じて、島嶼国やアフリカ諸国など、途上国の気候対策への取組みを支援してきた。気候資金として自主的に2016年以降240億ドルを拠出してきた。太陽光、電気自動車などで技術の優位を活かし、物資援助、技術支援、共同研究などを通じて南南協力を強化し続けている。帝国主義の新植民地主義的な従属モデルとは全く異なり、債務保証を求めず、技術供与により途上国の自立的な発展を促す「一帯一路」Win―Winモデルでこれを進め、途上国が債務奴隷から脱するのを助けている。石炭・天然ガス火力の更新に際して、太陽光に置き換える取り組みを東南アジアやその他地域で進め、途上国の開発・貧困脱却と気候危機対策の両立を図ろうとしている。
気候正義運動と反戦平和運動が結びつく
COP29の期間中、ロンドンで、気候正義を訴え、同時にイスラエルによるジェノサイドを糾弾する大規模なデモ行進が行われた。戦争は最大の環境破壊であり、気候危機を悪化させる。米帝国主義が仕掛けるウクライナやパレスチナでの戦争により失われる戦費は年間で2兆ドルを下らないといわれる。これを気候危機対策に回せばどれだけのことができるか。気候正義運動と反戦平和運動を結び付ける意義がますます重要になる。
戦争と途上国収奪に明け暮れる帝国主義に今日の気候危機を解決することはできない。社会主義中国とBRICS、グローバル・サウスの力強い前進により展望が開けてくる。私たちは帝国主義の内部にあって、こうした動きに応えたいと思う。そのためにも原発再稼働・新増設に反対し、脱原発を実現すること、石炭火力など化石燃料による発電に反対すること、これを気候危機対策と詐称して輸出することに反対し、新植民地主義的なやり方を批判すること、日本の軍拡と対中戦争準備に反対し、戦争をとめることに尽力し、気候正義運動に合流したい。来年のCOP30はブラジルで開かれる。BRICS、グローバル・サウスのCOPに期待したい。