本紙前号の連載その1(米帝「三正面戦争」と戦争構造を暴く(その1) 超巨額な軍事費:米軍産複合体の異常な膨張の源泉)では、軍産複合体、軍事産業の売り上げと利益の最大の源泉である米国の超巨額の軍事費を明らかにした。今回は、軍産複合体そのものを取り上げ、その全体像を暴露する。
軍産複合体の中核をなす軍需独占体は「独占資本」であり、それらを所有するのが「金融資本」である。マルクスが『資本論』で解明したように、「資本」は利潤(剰余価値)を獲得するために無制限の市場拡大を追求する。巨大兵器メーカーである「軍需独占資本」はレーニンが『帝国主義論』で解明したように、銀行・金融機関と融合・癒着して「金融資本」となり、「独占利潤」を追求し無制限の市場拡大を要求する。
では、軍産複合体の市場拡大とは何か? それは「戦争」であり「軍拡」だ。戦争は、自然現象でも、個々の為政者の特異な性格によるものでも、「人間の欲望」のなせる業でもない。米の軍産複合体は、社会主義中国と新興・途上諸国の台頭で危機に陥った米帝一極支配を維持しようと躍起となり、「三正面戦争」を仕掛けている。それは、いわば米帝国主義の金融資本と軍産複合体の独占的資本蓄積活動なのである。米帝のこの経済的衝動を、社会主義中国と反米・反帝勢力を糾合して抑制し、米帝国主義を制限し打倒するまでその脅威は続く。しかし、抑制することは可能だ。それが国際反戦運動の使命である。
本稿でわれわれは、以下を暴露していく。「鉄の三角形」、5大軍需企業、それらを所有する金融資本、軍産複合体が核産業複合体と共にハイテク企業を巻き込み裾野を広げていること、社会主義中国を戦略敵とすることによる新たな巨大市場の創出の目論見、それら全体が次々と「新たな戦争を製造」する経済的衝動力となる危険。米の軍産複合体は、世界平和と地球環境を破壊し、人類の脅威の根本的源泉であること。
本論をまとめるには、複数の進歩的研究者の記事や論説を参考にさせて頂いた。その出所を各節に*注で示した。感謝したい。
(編集局)
米国の政治経済を支配する米軍産複合体の全体像
米国の軍産複合体の支配と影響力は、今や、米国防総省・軍と軍需企業の結合だけにとどまらない。大統領と議会、各州の知事と議会という国家権力、金融独占資本、巨大ハイテク独占体、シンクタンク、大学・研究機関、巨大メディアネットワークなどにも及ぶ。
「軍産複合体」(MIC)は、第二次世界大戦後、1950年代に、米ソ冷戦が激化する中で、国防総省、軍隊、情報機関など「巨大な軍事組織」と「大規模な兵器産業」、議会の結合によって誕生した。アイゼンハワーが1961年の大統領退任演説で、初めてこの言葉を発し、米国人に警告したのは有名な話だ。なぜ政府ではなく、議会か? 米国では日本と違い、議会自らが予算法案を作成し、 決定するからだ。
MICを告発する研究者デビッド・ヴァイン氏は、図を示し、基本的な構造をこう説明する。第一に、議会は納税者から毎年法外な額の税金を取り、国防総省に渡す。第二に、国防総省は議会の指示により、その巨額の資金を兵器メーカーやその他の企業に、あまりにも有利な契約を通じて渡し、何百億ドルもの利益を与える。第三に、これらの兵器メーカーは利益の一部を使って、さらに国防総省との契約を増やすよう議会に働きかける。
しかし、このMIC三角構造には、幾つもの寄生虫が群がる。ロビイストやシンクタンクや大学だ。兵器メーカーは、ワシントンを拠点とする900人以上のロビイストの助けを借りて軍事予算をぶんどる。彼らの多くは、米軍制服組トップ、国防総省の元高官、元国会議員や議会スタッフであり、国防総省元同僚へのロビー活動ができることを利用した「回転ドア」によって雇われている。2018年6月から2023年7月の間に退役した4つ星の将軍と提督32人のうち26人が、「取締役、顧問、幹部、コンサルタント、ロビイスト、または防衛部門に投資する金融機関のメンバーとして、兵器産業で働くようになった」
軍需企業は、国防総省の支出増加や兵器調達計画、超軍国主義的な外交政策を支持するシンクタンクや大学センターにも寄付をしている。広告は、選挙で選ばれた議員に兵器調達計画を押し付けるもうひとつの方法だ。中国やロシアを軍事戦略の2本柱に押し上げ、中露と戦争するにはどんな兵器が必要かも、この「回転ドア」とシンクタンクが決める。
兵器メーカーはまた、できるだけ多くの連邦議会選挙区に製造工場を広げ、上院議員や下院議員が雇用創出の手柄を主張できるようにしている。MICの雇用は、他の雇用先がない低所得者層に依存の連鎖を生み出し、地元の人々の支持を効果的に買うことになる。米国の戦争推進構造の裾野は極めて広い。
*注:「米4つ星退役将校の多くが次に向かうのは?軍需産業幹部」Common Dreams
https://www.commondreams.org/news/four-star-generals-revolving-door
*注:「軍産複合体が私たちすべてを殺す」(デビッド・ヴァイン、テレサ・アリオラ)TomDispatch
https://tomdispatch.com/the-military-industrial-complex-is-killing-us-all/
米軍国主義研究者のジェイムズ・M・サイファー氏も、「鉄の三角形」を、(1)軍需企業、(2)軍隊、情報機関、遠征可能な州兵部隊、傭兵民間警備会社、退役軍人組織、(3)文民の国家安全保障国家(最高責任者、国務長官、国家安全保障会議、主要な軍備・安全保障委員会の議会議員、NASA、軍や下請け企業に資金提供されているが一見独立したワシントンDCのシンクタンク)からなると言う。
*注:「体系的なアメリカ軍国主義の政治経済学」(ジェイムズ・M・サイファー)
Monthly Review
https://monthlyreview.org/2022/04/01/the-political-economy-of-systemic-u-s-militarism-2/
軍産複合体を所有しているのは金融資本
前記の「鉄の三角形」は完全なものではない。なぜなら、軍需企業の支配的な株主はウォール街の巨大金融資本=資産運用会社だからである。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの銀行も軍需企業のファイナンシャル・アドバイザーを務めている。シラー研究所は表のような株主構成を明らかにした。ロッキード・マーチンの筆頭株主はステート・ストリート・コーポレーションである。同社はロッキード・マーチンの株式の15%を所有している。2位はブラックロックだ。オースティン国防長官はブラックロックの取締役を務めており、軍産複合体の「回転ドア」の最新事例である。3位のバンガードを入れれば、3社合計でロッキード・マーチンの全株式の38%を所有している。
レイセオン社の筆頭株主は、資産運用会社としては2位のバンガード社と4位のキャピタル・グループである。ノースロップ・グラマン社は、ステート・ストリート社とキャピタル・グループ。ボーイング社は、バンガードとステート・ストリート。ジェネラル・ダイナミクス社は、ロングビュー・アセット・マネジメントとバンガード。L3ハリス・テクノロジーズは、ブラックロックとバンガード。ごく少数の金融資本が5大軍需企業を所有しているのだ。
*注:「戦争で得た流血マネーで肥大化する軍事・金融複合体」(EIR研究チーム)
SCHILLER INSTITUTE
https://schillerinstitute.com/blog/2023/12/23/the-military-financial-complex-is-bloated-on-blood-money-from-wars/
銀行や資産運用会社だけではない。より投機的な巨大金融資本(投資ファンド)であるベンチャーキャピタルやプライベートエクイティがペンタゴンに群がり、巨額利潤を得ようとしている。これら投機ファンドは、非上場企業の株式を取得し、その株式の価値が高まったタイミングで売却することで利益を得ることを目的とする。彼らこそ、投機的な兵器で一山当てようとする山師なのだ。例えば、ベリタス・キャピタル、シビタス・グループ、パラディン・キャピタルなどが資本を技術新興企業であるAI兵器やロボット兵器開発企業に振り向け、ペンタゴン、兵器メーカーとシリコンバレーの間の同盟を強固にし、軍産複合体を超巨大化し、前例のない影響力をもたらしているのである。
*注:「銀行家と爆弾:ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティが軍産複合体を養う方法」(クインシー研究所)
https://quincyinst.org/events/bankers-bombs-how-venture-capital-and-private-equity-are-feeding-the-military-industrial-complex/