過去最大の軍事費概算要求 しかし実際はもっと増大する
8月30日、防衛省は、歳出ベースで8兆5389億円の来年度防衛費の概算要求を決定した。過去最大の要求額で、11年連続の増額、2024年度を8140億円上回る(10・5%増)。しかし、実際にはもっと増大する。辺野古新基地建設を含む「米軍再編・SACO合意の関係費」と「可動数向上(装備の部品、修理)や弾薬確保」については、金額を明示しない「事項要求」として要求されている。要求額を低く印象づける姑息なやり口だ。この概算請求のシステムそのものを否定する特権的なやり方はここ2年、軍事費の聖域化とともに押しつけられている。昨年の金額を見れば2250億円が本予算では上乗せされる。これらを含めれば、増額幅は1兆円を超える。GDPに占める割合は1.5%に達する。22年度に対して25年度は軍事費を1・7倍にする計画で、5年で43兆円、最終年の27年にGDP2%の大軍拡計画を着実に突き進めている。27年度には、関連予算を含め11兆円で世界第3位となる見通しだ。
来年度も軍事費の中心は対中攻撃兵器の導入・開発と戦争体制準備にある。米国から購入する兵器の額は9108億円にも上る。人件・糧食費がほとんど横ばいのもとで、それ以外の予算は急増し、22年比2倍を超える。装備や施設に使用される物件費は6兆2661億円で17%の増加だ。物件費の70%は前年度以前の契約に関わる後年度負担の歳出化分で、ほとんどが兵器や装備の支払いだ。
防衛省以外の「防衛関連予算」の増大
国家安全保障局(NSS)を中心に省庁横断で防衛関連予算を確保する取り組みがすすめられている。研究開発、公共インフラ整備、サイバー、国際協力の防衛関連4経費は「防衛省予算」とは別枠だ。
海上保安庁の概算要求は、過去最大の総額2935億円。NATO基準では海上保安庁の予算は軍事費と扱われる。また民間施設の軍事利用を目的とする特定利用港湾・空港の指定による整備費用に370億円が計上されている。これらは国土交通省の予算だ。
外務省は、偽情報の拡散対策など「情報戦時代への取り組みの強化」に662億円、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化」に1370億円を盛り込んだ。これにはアジアや太平洋の「同志国」に防衛装備品を無償供与する枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の拡充として51億円の計上が含まれ、金額を示さない「事項要求」としてさらに上積みが図られている。
文部科学省は科学予算のうちサイバーセキュリティ、先端技術研究、情報戦対策という名目で軍事研究に300億円を要求している。
対中攻撃力を増強する長射程ミサイルの配備・開発・生産を推進
これまでに契約し25年に配備を前倒ししたトマホークミサイル400発、12式地対艦ミサイル能力向上型(地上発射・25年配備)に加えて、来年度要求でも「スタンドオフ防衛力能力」の強化、長射程のミサイルの開発と取得に総額9700億円を計上する。艦載型の12式地対艦誘導弾能力向上型や潜水艦発射型誘導弾の量産に着手する。極超音速(音速の5倍以上)の速度で飛行し、迎撃を困難にする島嶼防衛用高速滑空弾や極超音速誘導弾の開発、製造態勢を拡充する。中国を威嚇するために多種多様な対中攻撃用長距離ミサイルの調達、沖縄と九州、海上への分散配置を急いでいる。
敵基地攻撃力と表裏一体なのが「統合防空ミサイル防衛能力」(ⅠAMD)強化だ。米国の指揮の下で情報を共有し、攻撃作戦と一体として運用される。来年から、米国と共同で極超音速滑空兵器(HGV)を迎撃するためのGPI(滑空段階迎撃誘導弾)を開発する。従来の手段では探知・迎撃できない変速軌道を取る滑空弾探知と迎撃のために大量のレーダー衛星を打ち上げる「衛星コンステレーション」の構築に3232億円が計上された。海上では攻撃・防衛両方に使えるSM-6ミサイルの装備が進む。米軍指揮下で攻守一体の戦争体制が進む。
宇宙や情報戦でも戦争体制が進む。宇宙作戦群の新編と宇宙作戦団の設立。海上自衛隊に「情報作戦集団」新編。陸海空の自衛隊で集めた情報を集約して一元的な指揮統制を可能にする情報省クラウド。自動警戒管制システム「JADGE」改修。サイバー領域における能力強化には2814億円が計上された。指揮統制・情報関連機能には4071億円が計上され、すでに3年で、5年間の総額1兆円の枠を上回る金額となっている。
南西諸島の軍事要塞化 沖縄関連の軍事予算は前年度比2・3倍
沖縄の軍事要塞化、攻撃拠点化にもさらに予算が投入される。沖縄関連の軍事予算は都道府県別で最大の約1108億円(24年度予算の2・3倍)に上る。石垣駐屯地への電子戦部隊配備で、県内でミサイルが配置されている全ての島に電子戦部隊が置かれる。那覇駐屯地では新たな「対空電子戦部隊」を新編する計画だ。従来の「空白を埋める」取り組みを終え、これまで整備してきた自衛隊施設を足場として海峡封鎖から中国本土を対象とする攻撃能力の増強を進める段階に入っている。
戦争継続能力の強化 司令部の地下化と弾薬庫の整備
防衛省は日本の国土が戦場になることを想定し、基地が攻撃されても戦闘を継続する能力を高めようとしている。そのために不可欠の持続性・強靱性(弾薬・維持整備・施設の強靱化)では総額3兆円が要求されている。全国の自衛隊基地や防衛省施設で、司令部の地下化や、戦闘機の駐機場の分散などを進める(強靱化)。司令部地下化では、新たに2施設を含む計13施設の関連経費932億円を要求している。(前年度比約5・3倍)
弾薬庫の全国130棟の建設計画の下、新たに全国6施設で36棟の弾薬庫建設を計画し、建設・調査の費用に385億円が計上された。長距離ミサイル用大型弾薬庫をつくる祝園分屯地では、昨年の102億円に加えて8棟本格工事の経費として新たに192億円が計上された。
自衛隊戦力を全国から南西諸島、九州へ機動展開するために、民間輸送力の活用に6隻509億円、軍事演習での民間船の活用に16億円、米国ボーイング社の空中給油・輸送機(KC-46)4機に2068億円、陸海空の共同部隊として自衛隊海上輸送群を呉海上自衛隊基地に新編する輸送用艦船を増強するために202億円の予算等も計上された。
装備品等の維持整備に2兆2110億円が投入される。この分野は23年度から倍増している。
無人兵器の強化 イスラエル製ドローンの納入
攻撃機能を含む無人機の開発・導入に1032億円が計上された。爆弾を内蔵し、標的に突撃して破壊する「自爆型」の無人機を310セット取得する計画だ。イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区攻撃の主力兵器としてガザ市民を殺しているドローンが有力な選択肢となっている。無人機の導入は戦争の敷居を低くする。防衛省は、国産ドローンの研究・開発も含めてこれを将来の防衛力の中核となる分野の一つと位置付けている。
米国政府と共同研究する無人機に搭載する人工知能(AI)に関する予算も計上する。人間の介入なしに標的を識別し、選択し、攻撃することができる兵器=自律型AI殺傷兵器(LAWS)に道を開くものだ。
その他、第3国への輸出が解禁になった日英伊の次期戦闘機の開発を開始する。次期戦闘機に搭載する中距離空対空誘導弾の開発も進める。ステルス性の向上とより高い攻撃力をもつ省人化された新型FFM(多目的護衛艦)の建造(3隻3140億円)も進める。防衛生産基盤の強化のために約1067億円を計上し軍事産業を補助金で支える。防衛装備移転のための取り組みとして武器輸出のための補助金に400億円投入する。AIなど先端技術を使った軍事技術の研究開発には6596億円を計上する。
軍事費を削減し人民生活関連予算の拡大を
1月には、通達に反して陸上自衛隊の幹部自警官が靖国神社に集団参拝した。4月には海上自衛隊の哨戒ヘリコプター同士の衝突による墜落事故が発生し8名の自衛官が犠牲になった。絶え間ない演習は、自衛隊員を死に追いやっている。23年度予算のうち1300億円が未消化になり、ずさんな予算要求と管理も明らかになった。自衛隊では不祥事が後を絶たず、セクハラ・パワハラも横行している。川崎重工による潜水艦隊員への裏金接待問題についての処分は未だなされていない。これらの問題を不問にしたままでの、軍事費の拡大は言語道断だ。
政府は、軍需産業を基幹産業、成長産業として位置づけ、血税を投入している。軍事費の増大は、三菱重工等の軍需産業に莫大な利益を保証して、これらの企業の株価を押し上げている。
増大する軍事費の財源は復興増税の一部が転用され、国有地等の売却や歳出改革で他の予算の削減で手当てされることが決まっている。財源の一部を賄う増税の開始時期の決定は先送りされている。日銀の利上げにより国債の利払いが増加し財政は厳しさを増している。今後、インフレや円安により5年で43兆円の枠を超えることは必至だ。先送りされている増税の規模は1兆円では済まなくなる。軍事費の増大は、教育、社会保障など人民生活の必要な予算を圧迫している。概算要求での高齢化に伴う年金や医療などの社会保障費は1・4%増の34兆2763億円に抑制された。物価高で生活が悪化する中で戦争のための軍事費を削減し、人民関連予算にまわせとの声を上げていこう。
(NOW)