米帝「三正面戦争」の戦争構造を暴く(連載その1)
超巨額の軍事費米軍産複合体の異常な膨張の源泉

連載にあたって
 米帝国主義は異常なまでに戦争欲を高めている。ガザ大虐殺から中東全面戦争、ウクライナ戦争、対中戦争挑発と文字通り全世界で火をつけて回っている。「三正面戦争」での暴走だ。ガザ・ジェノサイドで国際的孤立を深め弱体化するイスラエルを全面支援し続ける。対ロシアでは、軍事的・経済的に苦境に陥るウクライナに最後まで戦えと武器・財政援助を継続し、ロシア領内への攻撃をそそのかす。対中国でも日本、フィリピン、オーストラリア、韓国から中国を軍事包囲している。「三正面戦争」が軍事力、国力を超える「過剰展開」状態に陥り、困難を強いられているにもかかわらず、次々と火に油を注ぎ、全世界で戦争を拡大しているのだ。根底にはあくまでも軍事覇権を振りかざし、世界覇権体制を維持しようという強い衝動がある。この衝動は一体どこから生み出されるのか?なぜ米国は、これほどまで侵略性・好戦性・凶暴性を高めているのか。なぜ米軍国主義が暴走するのか?
 米帝一極支配の崩壊と並んで、これらの最大の要因、決定的な原動力となっているのが米国の軍産複合体とその異常な肥大化である。軍産複合体こそが世界最大の戦争国家、戦争マシンの根幹を成している。それは米国の経済、政治・外交、そして社会の隅々にまで及ぶ軍国主義を作り出している。
 今日、米帝の侵略性・凶暴性の根本原因である軍産複合体を解明して、その実態を暴き出すことは特別に重要である。なぜなら、米帝国主義こそが人類と世界平和にとって最大の戦略敵であり、米帝に矛先を向けて戦うことは、全世界の反戦平和運動、左翼・共産主義者にとって最重要の任務だからである。
 本連載では、超巨額の軍事予算、軍産複合体の異常な膨張、金融・ハイテク資本との結合、これらと国家権力機構、シンクタンク、大学・研究機関の癒着・融合構造、無制限の軍事費増を支えるドル・金融覇権、日独英などを含む帝国主義の従属構造、等々、米社会全体と帝国主義諸国に浸透する米軍産複合体の実態と構造を暴露していく予定である。今回は総額1・5兆ドルに達する巨額軍事予算について取り上げる。          

(編集局)

[図表1]

8860億ドル 米国史上最高水準の軍事費
 軍産複合体、軍事産業の利益の最大の源泉は米国の軍事費にある。2024年度の米国の公式の軍事費(国防総省とエネルギー省の核兵器関連費)は8860億ドル(127兆円)に上る。GDP比は3・45%だ。米国軍事費は朝鮮戦争、ベトナム戦争、米ソ冷戦のピークさえ大きく上回り、9・11後の水準に匹敵する高い水準だ(図表1)。しかし、これでも軍事費の水準は大きく過小評価されている。

実際の軍事費は1・5兆ドル
 実際の米軍事費はそれどころではない。退役軍人手当、退役軍人生命保険、退役軍人のその他の費用、軍医療保険、宇宙支出の軍事部分、他国政府への軍事援助・助成金等が含まれる。その総額はジェフリー・サックスらによれば1・5兆ドルに達する。GDP比で実に6%だ。(1ドル150円換算では225兆円)。2024年度の日本の政府予算は112兆円だから、米国の軍事費はその倍以上の規模だ。日本のGDPは591兆円(2023年)だから、何とその4割に相当する。

[図表1]https://www.nationalpriorities.org/blog/2023/03/15/one-highest-military-budgets-history/

[図表2]

米国だけで世界の53% 同盟国を合わせ74%
ストックホルム国際平和研究所の世界の軍事費に関するデータで、米国の軍事費を1・5兆ドルとして計算すれば、米国の軍事費は世界中の軍事費総額の半分以上、実に53・6%を占める。さらに20・8%がNATOおよび米国の同盟国の軍事費だ。つまり世界の軍事費の74・4%が米国とその同盟国の軍事費なのだ。米帝と同盟国こそが軍事力によって世界覇権を維持しようとしているのである(図表2)。
 メディアが「脅威だ」と大騒ぎをしている中国やロシアの軍事費は比較にもならない。中国は10・2%。米国の軍事費の5分の1の規模だ。ロシアに至っては3・0%に過ぎない。世界の軍事費の上位十カ国のうち2位から10位の軍事費を合計しても1位の米国に遠く及ばない。米軍事費はこの9カ国合計の1・5倍にもなる。帝国主義の中でもいかに米軍事費が突出しているかが分かる。

[図表3]


 図表3は、米国の突出を可視化し、世界の軍事予算の上位16カ国のうち、2位中国、3位ロシア、4位インド、5位サウジアラビアを除く12カ国を帝国主義国が占めていることを示している。

[図表4]


 図表4は、米国とその同盟諸国による一人当たりの軍事費が最も高い16カ国と、新興・途上諸国の中で軍事費が最も高い3カ国(棒グラフの下の3つ、上からロシア、中国、インド)を示している。米国は中国の21倍の軍事費を一人当たり支出している。


(図表3,4)トリコンチネンタル研究所「ハイパー帝国主義 危険な退廃的新段階」
https://thetricontinental.org/studies-on-contemporary-dilemmas-4-hyper-imperialism/

裁量的経費の7割が軍事費 他を圧迫
 米国の政府予算で25年度の歳出総額は7兆2660億ドルになる(約1090兆円)。政府予算の中で1・5兆ドルの軍事費の占める割合は実に20%で極めて大きく、日本の軍事費の歳出総額比7%の3倍を占めている。
 米国は世界で最も突出して進んだ特異な軍事国家なのである。政府予算のうち国債費、年金・社会医療等の社会保障費、国家公務員の給与や退職年金等のような義務的経費は5・3兆ドル。一方、軍事費や他国への軍事・経済援助など裁量的経費は2・13兆ドルである。予算の中で公式の軍事費は9000億ドル、軍事費以外は1兆2900億ドルである。2・13兆ドルの裁量的経費の中で実際の軍事費が1・5兆ドル(全てが裁量的経費に含まれるわけではないが)であれば、米政府予算の裁量的経費の7割を軍事費が占めることになる。当然、人民関連やその他の経費に回せる余裕がない。
 ウクライナ・イスラエルへの軍事支援もこの中に含まれる。政府が使い道を決めることができる裁量的予算の中で軍事費と関係費用が極めて大きな部分を占めている。当然、それは他の裁量的経費ばかりでなく、その他の予算も大幅に圧迫することになる。

ウクライナ、イスラエル援助の急増
 ウクライナとイスラエルに送られた軍事援助・財政支援は巨大だ。22年~24年3月までにウクライナには兵器と弾薬だけで195億ドル(3兆円)が提供され、さらに4月に240億ドル(3・6兆円)の軍事援助予算が可決された。対ウクライナ支援の総額は1000億ドルに達する。
 米国から在庫の兵器・弾薬が送られるが、米国は代わりに最新の装備を備蓄分として購入して補充する。このカネはすべて米国の軍事産業の懐に転がり込む。兵器を受け取るのはウクライナだが、儲けを受け取るのは米国の軍需産業だ。だからウクライナ戦争は米軍需産業に最高レベルの戦争景気をもたらしている。さらに米国以外の日本やNATO諸国も対ロ、対中の大軍拡を本格的に強化しているから、米軍需産業の新規の兵器・弾薬の発注も大幅に増えている。そのために軍需産業は兵器製造のラインを増設している。

戦争経済と「死の商人」の暴走をストップせよ
 戦争は武器・弾薬・ミサイルの大量消費を促す。戦争が拡大し、長期化すればするほど、軍需産業の売り上げと利益はスパイラル式に増える。軍需産業が「死の商人」と呼ばれる所以だ。
 冷戦終了後、対ソ軍拡で肥え太ってきた軍産複合体は、売り上げと利益を失い、危機に陥った。彼らは、民主・共和両党に送り込んだ大統領権力の閣僚や議員、シンクタンクを総動員して、ソ連に代わる「米国の敵」「自由と民主主義の敵」を人為的につくり出した。そこにちょうど、9・11同時多発テロが起こり、「対テロ戦争」が戦争と大軍拡の大義名分となった。まずはアフガニスタンが血祭りに上げられた。軍産複合体の周りに結集した国家権力や議会権力、シンクタンク、マス・メディア、大学・研究機関が新たな戦争に向かって突進し始めた。
 同時並行で、「大量破壊兵器の保有」をでっち上げ、イラク、イラン、シリア等々、中東の反米諸国を次々と侵略し、政権を転覆し、その元首を殺害するという暴挙をやりたい放題にした。これら諸国の人民は10万人、100万人単位で虐殺され、国土が破壊され、数百万人が避難民・難民として放り出された。それが終われば、米・NATO帝国主義は、今度はプーチン打倒とロシア解体に乗り出した。ウクライナをそそのかした「代理戦争」だ。これにイスラエル・ガザ戦争、対中戦争が加わり、現在「三正面戦争」にまでエスカレートしている。
 このまま米帝国主義の血に飢えた戦争マシーンの暴走を放置すれば、人類はその軍産複合体の帝国主義的軍国主義的利潤追求によって食い尽くされ、焼き尽くされるだろう。

持続不可能な国家債務34兆ドル

[図表5]
[図表6]

ドル覇権の危機と軍事費増強の限界
 米政府が野放図に国債を増発できるのは、その国債を外国政府が購入しているからだ。そしてドル覇権の維持には米国債が順調に消化される必要がある。ところが、中国は米中関税戦争、経済戦争の中で、購入を持続的に減らし続けている。さらに、ドル覇権経済制裁を暴力的に乱用し、自国本位の金融政策で新興・途上諸国の経済を翻弄している米国に反発して、BRICSや上海協力機構(SCO)が昨春来「脱ドル化」に動き始めている。ドル・金融覇権が揺らぎ、米国債購入が細っていけば、米の国家債務危機が爆発するだろう。そうなれば、これまでのような超巨額軍事費の浪費は不可能になる。中国・BRICSの「脱ドル化」は、米帝の軍事的暴走を止める役割も果たすのである。


(図表5,6)USAspending.govより
https://fiscaldata.treasury.gov/americas-finance-guide/national-debt/

 こうした異常な軍事費の膨張は、米国の国家財政の面から限界にきている。米国は毎年巨額の財政赤字を垂れ流している。20年度、21年度は新型コロナ対策で赤字は3兆ドルまで膨れ上がった。22年、23年度も1・5兆ドル以上の財政赤字が増え続けている。これは米国が軍事費をまるまる国債で補填していることを意味する。
 今年6月、保守系経済紙ウォールストリート・ジャーナルは「借金はアメリカ帝国を沈没させるか?」という衝撃的な記事を出した。記事は冒頭、歴史学者ニール・ファーガソンの指摘から入っている。「国防費よりも債務償還費(国債利払い費)の方が多い大国は長くは続かないだろう」。実際、今年の軍事費8860億ドルに対して国債利払い費が8920億ドルに上る。
 米国の2023年度の累積国家債務は33・17兆ドル(図表5)、今年度はすでに34兆ドルを超えている。1980年代初頭のレーガンの超核軍拡から急増し、さらにアフガニスタン戦争、イラク戦争からさらに急角度で一本調子で増え続けている。10年もの米国債金利が4%とすると利払い費は毎年1・4兆ドルずつ増える。また2023年の国家債務総額はGDPの123%を超えている(図表6)。これは第二次世界大戦時の記録を超えるとてつもない規模だ。


(NY)
(次号に続く)

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