青森県むつ市に建設中の原発の使用済み燃料の中間貯蔵施設(リサイクル燃料備蓄センター)について、事業者及び東電は、柏崎刈羽原発から使用済み燃料を搬入する3年間の実施計画を提示した。最初の搬入は今年7~9月と迫っている。現在、地元の合意が問題となっており、青森県、むつ市と事業者が結ぶ安全協定案について、5~6月にかけて議会等への説明・質疑が行われ、7月には県民説明会が予定されている。6月5日には市民団体と資源エネルギー庁・原子力規制庁との政府交渉が全国各地をオンラインで結んで開催された。
中間貯蔵というが、核燃料サイクル・再処理政策は事実上破綻しており、50年後の搬出先はなく、むつ中間貯蔵が核のゴミ捨て場と化すのは必至だ。搬出先とされていた「第二再処理工場」の計画は消えてなくなり、六ヶ所再処理工場も動かない。それでも搬入を急ぐのは、燃料プールが使用済み燃料で、満杯の柏崎刈羽原発の稼働を継続することができないからだ。
いま全国の原発で燃料プールが使用済み燃料で溢れている。そしていま山口県上関町、福井の関電原発、伊方原発、玄海原発や女川原発の敷地内など全国の原発敷地内で、中間貯蔵・乾式貯蔵という名の核のゴミ捨て場探し、核のゴミ捨て場づくりが始まっている。いずれも搬出のあてはなく、置いたその場が永久的な核のゴミ捨て場となる。原発の再稼働を進め、老朽炉を延命させ、事故と被ばくの危険を飛躍的に高め、行き場のない核のゴミをさらに増やすだけだ。
中間貯蔵・乾式貯蔵と六ヶ所再処理の稼働に反対しよう。ここが、いま脱原発をめざす運動の集中点である。先駆けとなるむつ中間貯蔵に反対しよう。全国から反対の声を届けよう。核のゴミを押し付けるな。これ以上核のゴミを増やすな。
搬出先の「第二再処理工場」は計画が消えてなくなった
「中間貯蔵」施設は、そもそも全国の原発から出る使用済み燃料のうち、六ヶ所再処理では処理しきれない分を一旦貯蔵しておく目的でつくられたものだ。そのため、むつ中間貯蔵の搬出先は六ヶ所再処理の次に建設される「第二再処理工場」であり、貯蔵期間は「50年以内」とされた。しかし「第二再処理工場」は、「2010年頃運転開始」(第7次長計)が「2010年に方針を決定」(第8次長計)、「2010年頃検討を開始」(第9次長計)と後退し、いまでは「第二再処理工場」の文言は公文書から消え、検討すら行われていない。
搬出先はどこか。5月27日に青森県議会、28日にむつ市議会で行われた安全協定案の「説明」の場で配られたエネ庁の資料に問答があり、「むつ中間貯蔵施設の使用済燃料はどの再処理施設に搬出することが想定されているのか?」との問いに「搬出時に稼働している再処理施設において再処理が行われるものと想定している」と答えている。6月5日の政府交渉でも「搬出時に稼働している再処理施設」との発言を繰り返していた。しかしこれでは自ら立てた「どの再処理施設に?」の答えになっていない。6月4日むつ市議会の「質疑」の場で問われたエネ庁は、「六ヶ所再処理施設に搬出される可能性がある」と答えざるをえなかった。しかし以下に示すように、50年後に六ヶ所再処理に搬出される可能性はないに等しい。
決して動かしてはならない六ヶ所再処理
六ヶ所再処理は今年9月に完工予定だ。エネ庁も説明の場で今年9月完工を前提に核燃料サイクル事業は順調に進んでいると述べた。しかしこれまで26回も延期を繰返しており、27回目の「延期は不可避」(デーリー東北5/12)な状況だ。トラブルと設計変更を繰り返す中、規制委による許可が下りないのだ。この1年は地盤モデルの見直しに時間を費やした。ようやくモデルが決まり耐震評価に入るが、規制庁も「ようやく本来の審査に入れる段階」との認識だ。審査にパスしても、検査などでさらに半年近く費やす。9月完工などとても不可能だ。
六ヶ所再処理工場の「稼働想定は40年」(デーリー東北3/28)である。仮に稼働した場合でも50年後には既に操業を終えており、むつ中間貯蔵から搬出することはできない。6月5日の政府交渉でエネ庁は、40年は設計上の目安であり、実際には40年を超える運転もありうると述べた。運転期間の法的な制限はないともいう。
再処理は、使用済み燃料を硝酸で溶かし、猛毒の「死の灰」を取出す化学プラントで、日常汚染もすさまじい。福島第一原発で海洋放出される全量の10倍以上のトリチウムを1年間で放出し、放出濃度はアクティブ試験の実績で6万倍にもなる。アクティブ試験の際、「死の灰」をガラス固化する工程で事故が発生し、構造的な欠陥が露呈した。稼働してもガラス固化はできず危険な「高レベル廃液」が溜まり続けることになる。決して動かしてはならない施設だ。そのような危険きわまりない施設に運転期間の制限がないこと自体が問題だ。
六ヶ所再処理は着工から既に30年が経過している。50年後には80才となる。2006年には実際の使用済み燃料を使って再処理を実施するアクティブ試験を実施したため、汚染して交換できない機器もあるだろう。50年後に稼働を続けているとはとても考えにくい。それとも稼働している間に随時搬出するというのだろうか。であればわざわざ中間貯蔵しておく意味はない。原発から直接運べば済む話だ。
再処理の実施は「プルトニウム保有量削減」の約束に反する
使用済燃料再処理機構は、六ヶ所再処理の2024年度の竣工を前提に3年間の「中期計画」をまとめたが、プルサーマルの実施を見込んでもプルトニウム保有量は3年間で1・3トン増えることになる。これは、「(プルトニウムの)保有量を減少させる」「プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行う」との2018年原子力委員会決定に反する。今年2月27日に原子力委員会が発表した「電気事業者等から公表されたプルトニウム利用について(見解)」は「現時点で…『利用計画』の内容を検証し、妥当性を評価することは、不確定要素が多く困難である」とした。原子力委員会ですら妥当と評価できなかった。米国に言われて結んだ決定だけに、原子力ムラとて破るわけにはいかないのだ。
プルサーマルが進まないのは、MOX燃料の製造に困難をきたしているからだ。日本が所有するプルトニウムのうち、約8割は英仏にある。英と仏でほぼ半々である。MOX燃料に加工しないと日本に運ぶことができないが、英国では既に加工工場が閉鎖している。フランスでも加工できるのはメロックス工場だけだが、ここ数年で不良品が多発し、生産量が半分以下に落ち込んでいる。六ヶ所村ではMOX燃料の加工工場が建設中だが、六ヶ所再処理が稼働できない状況で動くことはない。まともに稼働できるかどうかも不明だ。プルサーマルを実施する原子炉も限られている。電力会社にしてもウラン燃料の10倍以上といわれる高価で危険なMOX燃料を積極的に使う理由はない。六ヶ所再処理の完工にこぎ着けたとしても、プルトニウムを増やすばかりの再処理の実施はできないのだ。
六ヶ所再処理は動かない。動いてもガラス固化はできない。MOX燃料がつくれずプルサーマルも進まないので動かせない。核燃料サイクルは事実上破綻しており、むつ中間貯蔵への搬入を急ぐ理由は何もないはずだ。
搬入を急ぐのはプールが満杯の原発の稼働継続のため
これまでむつ中間貯蔵は、せめて六ヶ所再処理が動いてからということで、辻褄の合わない説明で操業を遅らせてきた。しかし今回は、六ヶ所再処理の延期が確実な状況での搬入の動きだ。搬入元の柏崎刈羽原発の燃料プールが満杯に近く、稼働の継続に支障をきたすからだ。特に再稼働に向けて燃料装荷を強行した7号機の燃料プールの貯蔵率は97%に達している。中間貯蔵の目的は原発の稼働継続にある。全国の原発でも同様だ。だからこそ、全国各地で中間貯蔵・乾式貯蔵という名の核のゴミ捨て場探しが始まっているのである。
燃料プールでの保管よりも丈夫な容器(キャスク)に入れた中間貯蔵・乾式貯蔵の方が安全だとの論がある。しかしこれが原発の再稼働を進め、老朽炉の延命を担保することにより、事故や被ばくの危険を飛躍的に高めることを忘れてはならない。キャスクにしても耐用年数の60年を超えた健全性を誰も保証しない。むつ中間貯蔵では施設内で蓋をあけて点検することすらできない。また、再処理を止めるために中間貯蔵・乾式貯蔵を容認すべきだというのは論外だ。核のゴミをせっせと生み出しながらゴミ捨て場を押し付けることを止めなければいけない。逆に、中間貯蔵・乾式貯蔵に反対しこれを阻止することによって再処理政策の破綻を明らかにし、原発の稼働を止めることができるのである。
地元で検討されている安全協定案には、搬出先が明記されておらず、「再処理工場」とも書かれていない。自治体が取りうる措置は、これ以上の搬入を止めることがせいぜいで、どんな事故があっても、あるいは再処理はやめるとの政策変更があっても、搬入された使用済み燃料の搬出や施設の廃止を要求することはできない。事故時には自治体に知らせるとあるだけで、搬出を含めた具体的な対応が何も書かれていないなど、さまざま問題がある。このような協定を認めることはできない。
中間貯蔵・乾式貯蔵に反対しよう。先駆けとなるむつ中間貯蔵に反対しよう。地元は厳しい状況で闘っている。全国に署名をよびかけている。さまざまな形で反対の声を届けよう。
(S)