教科書運動:2024年中学校教科書採択
育鵬社・自由社・令和書籍を不採択に

今年4月から2025年度使用中学校教科書採択が始まった。教科書運動は、8月の教育委員会議での採択まで、教科書の内容批判と教科書アンケートの呼びかけ、教科書採択制度の民主化・透明化と政治介入の阻止を求めて運動を強めている。
 2020年の教科書採択では育鵬社の全国採択率は歴史で約1%、公民で約0.5%(自由社公民は公立学校で0%)となり、全国の教科書運動が歴史的勝利を勝ち取った。今年の採択では、前回の勝利を打ち固め、わずかに採択されている育鵬社教科書を完全にゼロに追い込むことである。

ネトウヨ教科書・令和書籍を合格させた文科省

 3月22日には、文部科学省が中学校教科書の検定結果を公表した。今年の教科書検定の最大の特徴は、歴史的分野で、これまで不合格だった竹田恒泰の「国史教科書」(令和書籍)と「新しい歴史教科書」(自由社)が新たに合格したことである。これで右派教科書は歴史で育鵬社、自由社、令和書籍、公民で育鵬社、自由社となった。
 竹田恒泰が代表をつとめる令和書籍は、2018年度から検定申請し4度不合格となっていたが、突如検定合格した。令和書籍は、全編にわたって皇国史観に貫かれたネトウヨ教科書である。日本の古代史は「古事記」「日本書紀」をもとに書かれている。「国生み神話」「天孫降臨の神勅」「国譲り神話」「神武天皇の東征」を大々的に取り上げている。実在しなかった仁徳天皇を「『聖帝』として歴代天皇が規範とした」と1ページを使って持ち上げた。「歴代天皇の皇位継承図」や「男系で継承されてきた皇統」のコラムを掲載し、まるで日本の歴史が万世一系の男系天皇の歴史であったかのように強調している。教育勅語は、「修身道徳の根本規範」として、文言を一つ一つ詳しく取り上げた。まさに露骨な皇国史観そのものである。
 近現代史も戦前の大日本帝国の歴史観そのままである。韓国併合は韓国の皇帝から依頼されたとして、日本が道路やダムの建設など「社会基盤を整備」し、「朝鮮半島の近代化」を成し遂げたかのように展開している。植民地支配の実態には全く触れていない。「満州侵略」についても独立国として「満州国」を建国したとして美化した。また、日本軍「慰安婦」に関するコラムを載せ、「日本軍が朝鮮の女性を強制連行した事実はなく、また彼女らは報酬をもらっていた」「戦場を連れ回した事実はありません」など、これまでの歴史的な事実の積み上げを完全に無視する卑劣な歴史歪曲をおこなった。太平洋戦争を「大東亜戦争」と書きこんだ。これで「大東亜戦争」と記述しているのは、令和書籍と育鵬社、自由社の3社となった。
 沖縄戦については、特攻隊員の戦死を「散華」とし、若者に死を強いた軍の責任を問わず殉国美談にした。また、「中学生から高校生の男女2300人以上が、志願というかたちで学徒隊に編入」と記載し、軍の強制的な動員ではなく「志願」であったとねじ曲げた。「集団自決」(強制集団死)については、「逃げ場を失って自決した民間人もいました」と、日本軍の強制性を無視した。沖縄からは一斉に「沖縄戦の本質見えず」と批判の声が上がった。
 文科省による令和書籍の検定合格は、これまでの文科省の教科書検定からしても極めて異例であり、歴史的にも一段階を画する教科書改悪である。長年の家永裁判で闘いとった侵略と植民地支配に関する記述をないがしろにし、侵略したアジア諸国との国際公約である「近隣諸国条項」と河野談話を無視し、これまでの被害者の証言と地道な研究によって積み上げられてきた日本軍「慰安婦」・「強制連行」の事実を否定する暴挙である。教科書改悪の新段階は、岸田政権の対中戦争準備の一環であり、政府のために戦争を遂行する「兵士」を作り上げようとしているのである。文科省の令和書籍の検定合格を許すわけにはいかない。批判の声を強めていきたい。

育鵬社・自由社の危険性

 令和書籍の異様さに目を奪われて、育鵬社、自由社の危険性を過小評価することはできない。すでに、自由社からは「保守色が残る教科書(令和書籍)との比較ですから、実際には中道です」と、令和書籍より「まし」キャンペーンが張られている。育鵬社も同様の動きをとる可能性が高い。しかし、育鵬社や自由社も本質的には令和書籍と同じで、皇国史観と歴史歪曲に貫かれ戦争をあおる教科書だ。
 改めて育鵬社・自由社の危険性を強調しておきたい。現実的には、全国の公立中学校で育鵬社との闘いが全面に出る。令和書籍の登場が、育鵬社の危険性を過小評価することになってはならない。育鵬社歴史は、日本の歴史を天皇の統治の歴史として記述している。神話を強調し、神話上の神武天皇が天皇家の始まりであるかのように記述している。外国人に日本を褒めさせるコラムを作り、「日本はすごい」とすり込もうとしている。日本の侵略戦争と植民地支配を正当化するのも相変わらずである。韓国併合については、米の生産が増え、学校も増え、生活がよくなったかのようにイメージさせている。南京虐殺については、日本軍が与えた被害の実態を書かず、犠牲者数についても「様々な見解がある」と曖昧化した。朝鮮の人たちの徴用や徴兵についても、強制であったことを書かない。
 育鵬社公民は、日本国憲法の三原則を歪曲し、大日本帝国憲法を強調している。国民主権よりも天皇の役割を強調し、基本的人権よりも「国民の義務」を強調し、平和主義よりも自衛隊の活動や「国防の義務」を強調している。そして、日本が他国に比べて憲法改正回数が少ないことを強調し、憲法改正へと露骨に誘導している。
 自由社歴史は、前回405カ所の検定意見がつき不合格となったが、今回大きく内容が変わっていないにもかかわらず合格となった。令和書籍を検定合格させたことが、自由社の合格へとつながったと思われる。自由社歴史は、育鵬社よりも右派の主張をストレートに書き込んでいる。注視したいのは、「地域の歴史を調べる」項目で4ページにわたって堺市を取り上げていることである。堺市での採択を狙った記述である。自由社公民も、憲法の三大原則や自衛隊、「国防の重要性」などにおいて、育鵬社よりも極端な記述が目立つ。自由社公民も育鵬社公民が言いたいことをストレートに表現している。
 
右派教科書が乱立する教科書採択

 右派教科書が歴史・公民とも3分の1となった。これまでにない事態である。とりわけ歴史で右派教科書が3社となったことで、右派の活動が活発になっている。参政党は、自由社支持である。2・3月議会で全国の地方議員に教科書問題で議会質問をさせている。特に東京では、「新しい歴史教科書をつくる会」(自由社系)の藤岡信勝や土屋たかゆきと関係を強め、2月に教科書問題で記者会見を行い、議会質問を繰り返した。大阪でも吹田市議会や八尾市議会、柏原市議会などで参政党議員が質問を行っている。旧統一教会もLGBT理解増進法に反対する中で参政党や日本保守党に接近している。教科書は自由社に肩入れしている。
 日本保守党は、百田尚樹と河村たかしを共同党首としてLGBT理解増進法への反発から結党した。ジェンダー平等やLGBTを軽視する教科書に親近感を持つ。保守陣営の中でも議論が割れている天皇制の継承についてあくまで男系を主張している。令和書籍も「男系皇統図」を強調している。竹田恒泰は女性天皇を強く批判しており、日本保守党は令和書籍支持である。令和書籍には百田尚樹が2回登場している。これらのことから両者の緊密度はかなり強いと考えられる。河村たかし名古屋市長が日本保守党の共同代表であることも注視する必要がある。
 他方で、右派教科書で最も実績のある育鵬社を支持していた自民党安倍派は瓦解し、日本教育再生機構は未だに機能不全状態が続いている。大阪で育鵬社躍進(2015年)の原動力となった「維新」の影響力も万博批判の中で低下気味である。しかし、大阪では「維新」が地方議会に大きな足場を持っており、首長も21市町村(大阪全体の49%)を握っている。油断することはできない。
 右派教科書の乱立が教科書採択にどのような影響を与えるのだろうか。右派票を3社に分断し、結果的に右派教科書の採択を抑え込むことができるのか、右派を活気づけ右派票の底上げにつながり採択を許してしまうのか、今後の教科書運動にかかっている。
 今年の教科書運動の最大の課題は、右派の動きを押さえ込みながら、育鵬社をゼロ採択に追い込むことである。6月1日、大阪の教科書運動は「戦争をあおる教科書はいらない」と全国集会を行った。3社の教科書の批判を行い、教科書展示会への参加を呼びかけた。大阪で唯一育鵬社を採択している泉佐野市の市民運動との連帯も確認された。7月から8月には、教科書採択の教育委員会会議が行われる。それぞれの地元教育委員会への要望書の提出や教育委員会会議の傍聴等を呼びかけた。育鵬社・自由社・令和書籍の不採択にむけて運動を強化していこう。


(教員G)

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