バイデン政権を揺るがす全米大学生のパレスチナ連帯行動
大学にイスラエルとの協力中止を要求

コロンビア大への弾圧をきっかけに全米から世界に拡大
 4月以降、イスラエルによるガザ・ジェノサイドに抗議し、パレスチナに連帯する米大学での運動が大きく広がった。
 米国学生の闘いは昨年の10月のイスラエルのガザ攻撃開始直後から始まっていた。それに対し「反ユダヤ」との攻撃が加えられた。12月には、連邦下院教育委員会がハーバード大やペンシルベニア大などの学長を召喚し、「反ユダヤ的な活動を容認している」と非難し、両大学の学長を辞任に追い込んだ。
 キャンパス内広場にテントを張り、寝泊まりしながら集会を開く活動が一気に広がったのは、4月17日以降だ。きっかけはこの日、コロンビア大学(ニューヨーク州)のシャフィク学長が連邦議会の公聴会で証言したことだ。学長は共和党の親イスラエル議員に屈服し、「学生たちの動きはキャンパス内での反ユダヤ主義だ」などと証言したのである。
 コロンビア大生たちはその日の夜、大学構内にテントを張り、抗議の占拠を開始した。これに対し、学長は翌日、警察に排除を要請し、警察は108人を逮捕した。
 この弾圧は運動に火をつけ全米に拡大する導火線となった。連帯を示すため、全米各地の大学に次々と構内占拠の動きが広がったのだ。闘いは、ニューヨーク大、ハーバード大、マサチューセッツ工科大、イェール大、スタンフォード大、カリフォルニア大、ロサンゼルス校(UCLA)など全米の100校を超えた。学生がこれほど大規模に行動に立ち上がったのはベトナム反戦以来のことであり、大きな衝撃を与えた。
 闘いは世界に広がった。英国では、オックスフォード大、ケンブリッジ大など少なくとも34校で野営が行われた。フランス、スペイン、アイルランドなどの欧州、カナダ、メキシコなど北中米、アルゼンチン、ベネズエラなど南米、チュニジアなどアフリカ、韓国、オーストラリアなどアジア・太平洋諸国にも広がり、少なくとも170校以上で闘われた。日本でも、東京大、京都大で野営が設けられ、早稲田大、上智大、青山学院大などで取り組みが行われた。
 コロンビア大の学生は30日未明、1968年にベトナム戦争反対の抗議活動が行われた象徴的な場所「ハミルトン・ホール」を占拠。ガザで殺害された6歳のハインド・ラジャブにちなみ、「ハインズ・ホール」と名付けたが、30日夜にはニューヨーク市警の警官隊がホールに突入し、占拠していた参加者を強制排除した。最終的に5月5日、コロンビア大学中庭のテントを強制撤去し、座り込みは解散させられた。
 しかし、闘いは続いている。5月に行われた各大学の卒業式では、卒業証書を受け取る際にパレスチナ旗を振ったり、「クフィーヤ」と呼ばれるスカーフをまとったり、スローガンを叫んだり、あるいは退席するなど、抗議の意を示す学生が続出している。ハーバード大では、運動に参加した13人に学位を授与しないという大学の決定に抗議し、数百人が卒業式をボイコットした。
 バーモント大学、イグザビア大学などでは、国連安保理決議案に拒否権を行使した米国連大使のスピーチを中止させた。バイデン大統領がスピーチした大学も学生の抗議にさらされた。

大学に矛先を向けた要求
 学生たちは、イスラエルにジェノサイドの即時中止、即時停戦を求め、米政府にイスラエル支持をやめるよう要求している。各大学当局にガザでのジェノサイドを認め、非難し、停戦を要求するよう迫った。
 学生たちはさらに大学とイスラエルとの具体的なつながりを断つよう求めている。イスラエル企業、あるいはパレスチナ占領から利益を得ている企業への大学基金からの投資引き上げ(DIVEST)、イスラエルへの留学廃止、イスラエルの大学との協力中止、などである。また、つながりの実態を明らかにさせるために、大学の投資・予算・保有資産の開示、投資責任に関する学生・教職員を含む倫理諮問委員会の設置などを求めている。
 こうした学生の要求は想像以上の重みを持っている。米国の名門私立大学は巨額の資金を受け入れ、投資収益を元に運営されているからだ。コロンビア大の総資産は187億ドル(約2兆9000億円、2023年度)に及ぶ。大学基金は巨額の寄付を受け入れ、2014~21年に100万ドル(約1億5700万円)以上の大口寄付者が115件もあった。この巨額の基金投資先から、イスラエル企業やイスラエル加担企業を外すよう要求しているのだ。
 逆に、イスラエルを支持する卒業生からは寄付中止の恫喝や、運動参加学生の就職排除などの攻撃がかけられている。また、学生たちにとっても、停学・退学・卒業延期などのリスクを負う抗議行動に参加することには大きな決意が必要だ。それでも、学生たちは自らが学ぶ大学が、イスラエルやイスラエル関係企業から利益を得、ガザでのジェノサイドに加担していることを、絶対に許せないとの思いに突き動かされている。

弾圧の武器は「反ユダヤ」のレッテル
 学生のやむにやまれぬ行動に、米政府と大学当局は力ずくの弾圧で応えた。目立つのが、運動に「反ユダヤ」というレッテルを貼り、社会から孤立させようという企みだ。5月7日、バイデン大統領はホロコーストの犠牲者を追悼する式典での演説で「反ユダヤ主義や暴力の脅しの場は、米国のいかなるキャンパスにも、いかなる場所にも存在しない」と述べた。
 運動はあくまでも「反イスラエル」であり、「反ユダヤ」など全く不当なレッテルである。ユダヤ人学生も多数参加している。それでも「反ユダヤ」攻撃は大きな力を持ち、運動を弾圧しなかった大学の学長を辞任に追い込む上でも、決定的な意味を持った。
 むき出しの暴力による弾圧も行われた。コロンビア大などで、学生を守るべき大学当局が警察を導入し、非暴力での抗議行動を重武装の警官に鎮圧させた。学生を停学処分にし、学内に入る資格がないと逮捕させた。騎馬警官を突入させて学生を蹴散らし、校舎の屋上に狙撃警官を配備した大学まである。60超の大学で2800人以上が逮捕・拘留された(5月13日現在、NYタイムズ)。
 イスラエル批判の発言すら封じ込める動きも進んでいる。5月1日には、「反ユダヤ主義啓発法案」が米下院を通過した。規制される反ユダヤ主義の定義を拡大し、「イスラエル政府批判」=「反ユダヤ」とするものだ。

勝ち取った成果
 こうした弾圧にもめげず、いくつかの大学で学生たちは具体的成果を勝ち取った。
 まず、運動が広く報道され、ガザの人々への大きな励ましとなっている。ガザの人々は、各大学の名前とともに「連帯に感謝」とのプラカードを掲げた。
 コロンビア大学の提携校・ユニオン神学校は、イスラエルへの投資からの完全撤退を決めた。これが全米初だった。ポートランド州立大は、イスラエルとつながるボーイング社との関係を停止した。エバーグリーン大は、ガザでの停戦を公に呼びかけ、パレスチナの占領から利益を得ている企業への投資から撤退すると発表した。ハーバード大は、投資の停止についてイスラエルと協議することに同意した。ブラウン大学は、イスラエル企業への投資の見直しを検討すると回答した。
 こうした大学側の対応には、「検討」「協議」も多く、十分な成果とは言えないとの指摘もある。しかし、イスラエルによるジェノサイドが続く限り、学生の運動が雲散霧消するとは思えない。9月からの新学期に再び立ち上がるであろう。
 学生の運動は、秋に大統領選挙を控えるバイデン政権を大きく揺るがしている。若者の票が離れることは致命傷になりかねない。学生のベトナム反戦運動に州兵を動員して弾圧し、支持率急落で大統領選出馬を断念せざるを得なかった1968年のジョンソン大統領の二の舞になるのを恐れている。

6月8日ホワイトハウス包囲行動を呼びかけ
 昨年から全米のパレスチナ連帯運動を牽引してきた組織の一つが「パレスチナ青年運動」であり、学生の運動においても主導的役割を果たした。5月24~26日、他の反戦団体とともに開催した「パレスチナ人民会議」には北米全域から3500人以上が参加、オンラインで実に数万人が参加した。同会議は「閉会声明」で、イスラエルのラファ攻撃に抗議し、即時停戦とガザ封鎖の即時終結、全パレスチナ囚人の解放、パレスチナ占領終結を要求して、6月8日ホワイトハウス包囲行動を呼びかけた。同時に、イスラエルに大量の武器と武器部品を輸送する世界最大級の物流会社マークス社を標的とする武器禁輸キャンペーンを開始すると宣言した。学生の運動は、大学外でのこれら連帯運動に合流し大きな力となり、今後さらにバイデン政権を揺さぶるだろう。
 米国の学生に触発された世界の学生・若者の闘いは、各国政府と企業を突き上げ、イスラエルをラファ攻撃中止と恒久停戦・撤退に応じさせるための、大きな力となるだろう。  

(小木)
「パレスチナ人民会議の閉会声明」の翻訳全文を本紙ウェブサイトに掲載しています。)

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