[1]戦争遂行の本格準備」に入った岸田政権
(1)終盤国会 重要法案が対決点とならない異常事態
通常国会終盤、日本を戦争国家へと改造する危険な法律が次々と成立している。秘密保護法の機密対象を広げ、対象者を一般の民間企業とその従業員にまで拡大するセキュリティクリアランス(SC)制度法が5月10日成立した。与党と維新、国民に加え立憲までが賛成に回った。改悪農業基本法も維新の賛成のもと29日成立し、「有事」を想定して作物栽培の強制や違反した場合の罰則を盛り込む一連の食糧安保法の成立も確実となっている。同じく「有事」には大臣が地方自治権を制約し超法規的指示をできるとする地方自治法改悪も衆院を通過し、参院で可決成立する危険が高まっている。
一方で、「与野党の最大の対決点」であったはずの政治とカネの問題、「政治資金規正法」改定は、「パーティ券購入者公開20万円→5万円」「10年後公開」等だけで公明党も維新も裏金自民の救済に走った。企業団体献金の禁止や政策活動費の禁止など野党が強く要求していた項目は全く入れられないまま、強行成立させられようとしている。カネにどっぷりつかった自民党の自浄余地のない腐敗体質、早々に幕引きを図ろうとする政府・自民党と日本経団連、金融資本との癒着の根深さを改めて示した。歴史的な低支持率の岸田政権の下で、最大の対決法案や国の在り方を根本的に変える憲法違反の法律が、一部野党の賛成・容認で次々と成立していくという異常事態が生じている。
(2)人民生活のあらゆる分野におよぶ軍国主義化の進行
われわれは前号で、日米首脳会談での日米軍事一体化、指揮系統の統一、米の戦略に従属する形での日本軍国主義の新段階を問題にした。しかし、新段階はそれにとどまらない。今起こっているのは、戦争に向けた国家総動員体制の構築、安倍政権下で本格的に始まった「戦争する国づくり」の総仕上げの段階だ。「27年台湾有事」に向け、軍事にとどまらず、ありとあらゆる分野にわたる軍国主義の新しい段階が始まろうとしている。政治、軍事、財政、経済、産業、貿易、地方自治、教育、医療・福祉・防疫研究、メディア、秘密保護・治安監視と弾圧、外国人差別と排除等々、国のあり方を根本から変えるような強制力を伴った「改編」が次々と具体化されている。これらのかなりの部分がすでに整備され、いくつかは今まさに進行中だ。
――安倍「戦争法」から岸田「安保3文書」。日米指揮系統の一体化、南西諸島の対中自衛隊ミサイル要塞化等々。
――GDP2%突破の5年間43兆円の異常な大軍拡。軍事費を最優先する予算構造。民政予算徹底切り捨て。
――政財官が一体化して急膨張させる軍需生産と軍需産業。秘密保護法、一般の民間企業に及ぶ刑事罰を伴うSC法。
――教育基本法の改悪。「日の丸・君が代」強制と教職員統制。教科書改悪、愛国心・道徳教育の強制と教育勅語の「復活」。
――大学・研究機関支配。軍事研究への予算の重点配分と「デュアル(軍民両用)研究」の奨励。学術会議の政治統制。
――メディアへの露骨な介入、政府批判の封じ込め。産経、読売、日経など右翼、金融資本を代弁する新聞の増長。
――「有事」に向けた農業(畜産、漁業)への統制強化。輸入先、栽培作物、肥料、農薬にいたるまで国家による指示。
――交付金等を通じた地方自治体への国策への誘導と強制。国の「指示権」で強制できる地方自治法改悪。
――新型コロナ特別措置法による緊急事態宣言。「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の全面改定で情報統制。
――「能動的サイバー防御」と情報監視のための法整備(秋の臨時国会)。「サイバー警察」の独立。重要土地規正法による住民・運動監視。
――全国民統制・プロファイル化のためのマイナンバーカード強制。改悪入管法の6月10日施行強行と永住権取り消しの法改悪。外国人差別・排除のエスカレーション。
目下焦点になっているのが地方自治法改悪、「食料・農業・農村基本法」改悪と食料安保関連法だ。法改正や政府解釈の変更で、明文改憲を待たずに、憲法を蹂躙し、改憲を先取りしていこうとしている。
(3)中国脅威論との闘争が決定的に重要
戦前の「大政翼賛会」「国家総動員体制」をも想起させる与野党一体化と軍事、政治、経済、社会生活にかかる全般的な戦争準備が、足元が揺らぐ岸田政権のもとでなぜ粛々と進んでいくのか。それは、政府とメディアが一体となって「中国の脅威」「中国が台湾有事を引き起こす」等のデマゴギーを垂れ流し、日本共産党も含めたあらゆる野党が基本的に同調しているからだ。政治とカネ、少子化対策等々のいくつかの問題で与野党対決軸ができたとしても、中国への軍事的対抗や「有事」への備えが必要という考えにとらわれている限り、根本的な批判と闘争はできない。対中戦争のための国家改造に対して一つ一つの容認を繰り返しているうちに、いつのまにか人民生活の全体が、戦争準備にひきずりこまれていくことになりかねない。中国の脅威はうそだ、戦争を挑発し台湾有事を引き起こそうとしているのは米国と日本の側だ、と確信をもって主張し、あらゆる戦争準備に対抗しなければならない。中国脅威論と闘おう。
[2]「緊急事態条項」改憲を先取りする地方自治法改悪
(1)地方自治権を剥奪し、対中戦争への協力を強制
憲法の地方自治の本旨に基づく「地方分権一括法」は2000年に成立した。政府と地方自治体は主従ではなく対等であること、法律による根拠規定がない限り国が自治体に口出しできないことが明示された。今国会で、岸田政権が強行しようとしている地方自治法の改悪は、この原則を根底から覆すものだ。
今回の法改悪は、「自然災害」「感染症」「武力攻撃」等を想定して、「有事」における「事態対処法」適用に至らない「非平時」という新たな概念をつくりだした。主務大臣が生命等の危険につながる「おそれがある」と判断すれば、自治体の首長や議会を飛び越えて、国の政策を地方に強制することができる法案だ。国会の関与は「指示権行使」後の国会への「報告」義務だけが採決前の修正案で付け加えられた。「自治体の意見を聞く」とあるが「努力義務」に過ぎない。
すなわち、地方自治法改悪案は、「有事」における地方自治の権利・権限を大臣が「非平時」と判断すれば、「平時」のうちから全面的に国に「白紙委任」できることになる。明らかな違憲立法だ。
(2)「台湾有事」を想定した諸課題を「大臣の指示権」で一括解決
なぜこのような法律が成立させられようとしているのか。それは、本気で中国と戦争をしようと思えば、都道府県や市町村、国民全体を強制的に動員しなければできないからだ。アフガン派兵やイラク派兵は、自衛隊部隊と隊員を派遣するだけで終わる。しかし、日本列島を戦場とし、日本列島を出撃基地として使用するためには、自衛隊と自衛隊員の作戦行動だけではできない。あらゆるものを協力させなければならない。
災害対策法や感染症予防法では国による自治体への包括的な指示権が認められている。今回の改悪は、明らかに武力紛争、「台湾有事」を想定した改定だ。すでに武力攻撃事態にかかわる国民保護法等では、地方自治体や電気・ガス・医療等の地方指定公共機関への協力義務が定められている。しかしそれは、「北朝鮮からのミサイル発射」「テロ事件発生」などを想定した住民避難などの国民保護であり、自衛隊の作戦行動への協力義務ではない。
日本戦略研究フォーラムは、岸田首相が安保三文書の策定を指示したのと同時期の2021年3月からほぼ月に一回「台湾有事研究会(政策シミュレーション)」を開き、「27年台湾有事勃発」を想定して、必要な課題をあぶりだしている。「出動した海上自衛隊の負傷者の治療は病院船がないため、陸上の病院、医師や医薬品を確保する」「自衛隊の円滑な移動、米軍による公共施設の利用」「陸上自衛隊の沖縄への移動」「中台交戦が長期化した場合、台湾軍の武器弾薬のプラットフォームを日本の中に作る必要」「中国のサイバー攻撃で西日本一体が停電したときの対処」「台湾からの避難民の受け入れ先」「フェイクニュースによる世論攪乱への対処」「収容については、体育館など公共施設に加え、ホテルや旅館など民間の宿泊施設の使用を含め全省庁で対応」「輸送手段(船舶)については、防衛省、国交省、水産庁、文科省など、すべての政府機関が保有している船舶を利用」等々。その多くが、自治体や公共施設、民間公共機関がかかわる事案だ。
戦車や装甲車が道路を通過する場合、国道は国に、県道は県に、市町村道は市町村に、それぞれ通過する日時や車両数を申請しなければならない。地方自治体が自衛隊の道路通過や避難民の受け入れを拒否したり、病院が自衛隊員の負傷者の治療を拒否したり、学校やホテルが渋ったりしたらどうするのか。ひとつひとつ、それらを可能にする法律をつくるのではなく強大な「大臣の指示権」を認めることで、政府が戦争をするためのあらゆる権限を手にしようとしているのである。そうすれば、自治体や地方議会、住民の意見も聞かずに、現行の有事法制さえ認めていない広範な指示をすることが可能になる。そうなれば、自治体や地方公務員、民間施設を戦争遂行に根こそぎ動員することも可能だ。
(3)平時にも拡大解釈され、基地建設などが強行される危険
地方自治法改悪に対して、少なくとも18の地方議会で反対・懸念を表明する意見書が可決されている。最大の懸念が、平時にまで拡大解釈され、地方自治、住民自治が奪われてしまうという国家権力への不信だ。有事=戦時において、超法規的な措置をとることができるならば、平時から戦時に備えて、訓練や緊急措置の予行演習が行われることになるのは間違いない。危険が現実化していない「おそれ」の段階での指示も可能であるから、「台湾有事のおそれのもとで基地建設に協力する措置」すら指示できることになりかねない。沖縄辺野古新基地建設をはじめ、南西諸島へのミサイル配備と攻撃基地化、大分の長距離ミサイル弾薬庫建設、祝園武器弾薬庫増設等々地元で戦争準備に反対する住民運動が粘り強く闘われている。地方自治法改悪は、地方自治権のはく奪であるとともに、住民自治のはく奪、住民運動の封じ込めであり、絶対に許されない。
[3]今の食料危機を放置し、戦時の食料供給を優先する食料安保法
(1)戦時における生産・出荷を統制する法律
地方自治法改悪と並んで、戦時体制を構築するための目下の目玉となっているのが、「食料・農業・農村基本法」改悪と、「食料供給困難事態対策法」「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律」の3本の法律で、食料安全保障法と言えるものだ。戦時における食糧確保・供給は戦争遂行の生命線という考えだ。日本の農業者の多くが、兼業農家、小規模家族農家だ。食料安保法は、これら農家を強制的に戦争に動員するために、一軒一軒の農家に生産や出荷を強制できるという異常な法律だ。農業者に対して出荷や生産の計画の届け出を求めたり、生産の拡大や転作を指示したりできる。計画を届け出なかった者は罰金を科し、政府の指示通りに生産しない事業者は名前を公表してさらし者にする。有事においては、花や牧草からイモへ転作を強制するなどが可能となるのだ。
(2)平時から、中国との対決、農業独占との関係を推進
問題は「戦時」だけではない。平時から「食料安全保障」の名のもとに戦略的に輸入先の選定や作物の選定を行うようにしようとする。基本法では、「輸入先の多様性」なる項目が新たに立てられている。何をどの国から輸入するかを国が決める。明らかに、米国に次ぎ第二位となっている中国からの農産物の輸入依存を減らし、輸入の心配なく中国との戦争準備に入る目論見に他ならない。国が新品種や、農薬・肥料などを確保する項目などが追加された。米国の牛肉の消費の強制、モンサントなど農業独占の農薬・肥料の推進、コオロギの食用化、人口肉の導入、遺伝子組み換え作物の奨励など、農業者からの懸念の声が上がっている。「消費者の義務」が設けられ、「よりよい消費の選択」をすることが、消費者の義務とされている。農業者は、政府が求めるものを生産・販売し、消費者もまた政府が求めるものを消費しなければならない。そして農業団体は、農業基本法の理念の普及に努力しなければならない。政府の政策に反対することは許されない。農業者や消費者、農業団体が法的義務を負うことになる。
(3)農業の実態、農業者の要求と著しい乖離。農業者の怒り。
政府は、現在の日本の食糧危機の懸念が、ウクライナ戦争や中国との対立関係などで突然出てきたように描いているが、それは事実を捻じ曲げている。1980年代から90年代、米国からの要請を受け入れ、農業自由化を推し進めた結果、2000年代はじめには食料自給率は4割を切り、高い輸入依存度とともに農畜産業の衰退が加速した。国の当初予算に占める農林予算の割合も、2000年度4.0%が23年度には2.0%に半減している。重労働と低収入、後継者不足等で廃業の危機に瀕している農業者に対する対策は切り捨てられている。改悪基本法では、「食糧自給率の向上」が最大目標から外され、政府の指針ではなく、国民の努力目標となった。そこには、日本の農業の衰退を食い止めようとか、食料自給率を高めようとか、持続可能な農業をつくろうとか、農業を安心して生産、生活できる産業にしようというような発想は全くない。それだけでなく、「農地確保法」には、耕作困難な農地の遊休農地化を促進し、「法人経営体」すなわち株式会社に農地・農業を独占・集中させていく条項さえ加えられている。農業者は、農業の崩壊過程を放置したまま、戦時における安全保障を優先しようとしてい
ると厳しく批判している。今必要なのは食糧安保=戦時の食料供給ではなく、直接所得補償や価格保障で、小規模、家族農業を維持すべきと要求している。
農業者が危機感を持っているのは、戦時ではなくむしろ平時から容易に「食料供給困難事態」が認定され、作付けが強制されてしまうのではないかということだ。数年、10数年かけて土を改良し品種を選定してキウイや柚子などの栽培・出荷にこぎつけた農業者や、有機肥料や無農薬で高品質の野菜や果物を作ってきた農家が、いきなりその努力を台無しにされてイモや麦を作れと強制されたり、農薬や肥料の使用を強制されたりするのではないかと恐れている。それを拒否したら罰金を取られ、さらし者にされてしまう。ただでさえ離農者が増えているのに、農業の崩壊を加速してしまうという危機感だ。また政府は「イザという時の食生活」として、「朝昼晩3食イモ、卵は3か月に2個、肉は一か月に一皿」などという非常食を紹介しているが、消費者の食生活も規制の対象だ。
(農水省資料「食料自給力指標の各パターンにおける食事メニュー例」。https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/pdf/26menu.pdf
まさに「ほしがりません勝つまでは」の発想である。これこそ、生産・消費に関わる「食料主権」の人民からのはく奪だ。
[4]危機にある岸田政権との闘いを強めよう(1)新たな戦争準備、改憲策動を阻止しよう
岸田政権は、さらなる戦争準備に踏み出そうとしている。「能動的サイバー防御」導入の新法を秋の臨時国会に提出するために有識者会議を立ち上げた。それは、国が平時から通信を監視し、サイバー攻撃などの動きを探り、「兆候」の段階で相手のシステムに入り無害化する仕組みを指す。すなわち、「防御」とは名ばかりのサイバー空間への先制攻撃に他ならない。現実のミサイル先制攻撃を可能とする敵基地攻撃能力を、サイバー空間において一足先に手に入れようというのだ。この危険は計り知れない。狙いの第1は間違いなく中国である。政府機関の通信網や軍事システムの破壊が目的となり、そのために中国のサイバー空間を日常的に監視することが任務となる。第2に、国民の通信や情報の大量収集とたえざる監視だ。反政府運動や活動の全般、とりわけ反戦平和や日中友好の団体・個人が監視の対象となり、スパイとしてでっち上げられかねない。絶対に許してはならない法整備だ。
改憲の先取りだけではない。与党と維新など改憲5党は改憲起草作業を今国会中に開始する姿勢だ。自民党は5月30日の衆議院憲法審査会で、「全政党合意で改憲案を出す」との前提を覆し、「賛成する党だけで議論を進めることも排除しない」と発言し、緊急事態条項を盛り込む「改憲条文案」の起草を進める考えを示した。岸田首相は就任以来「任期中改憲」を常に表明しており、9月総裁選での再選戦略とも絡めて、明文改憲が政治的対立点として急浮上する危険もある。中でも維新、国民は緊急事態条項を中心とする改憲を積極的に主導しようとしており、強い警戒が必要だ。
(2)岸田自公政権を追い込み打倒しよう
長期に及ぶ政権支配で隠蔽されもみ消されてきた金権腐敗まみれ、無責任極まりない自公政治の本質が、一気に露呈している。岸田政権は支持率低下に歯止めがかからず、開き直りと責任逃れに終始し、政権を維持することに汲々としている。公明党は支持母体からの批判に右往左往しながら政権にしがみつき、維新、国民もまた競い合うように与党にすり寄り、岸田政権の救済に躍起になっている。人民大衆の目に入るのは、腐りきったブルジョア議会政治の異様な姿ばかりである。
日本の金融寡頭制支配層は、この深刻極まりない政権危機と国会翼賛化の現状をむしろ好機として、米政権と手を結んで対中戦争遂行のための日本の経済・社会の軍事化、「戦争する国」作りを大胆かつ着実に進めている。これを許してはならない。対中戦争準備と軍国主義化、反中・戦争イデオロギーに対する暴露・批判を強めよう。あらゆる現場で世論に働きかけ、大衆運動を強化しよう。
闘いの条件は、紆余曲折はあるが着実に成熟しつつある。今回の地方自治法改悪、農業基本法改悪、そして一連の「戦争する国づくり」の具体化と負担増が、広範な日本人民の怒りをいっそう高めるだろう。その怒りは、まだ地元や関係者の一部に留まっているが、それを全国的に押し広げていくことは可能だ。すでに各地の基地・弾薬庫周辺、原発立地自治体などで、怒りの声を全国に広げ運動を強化しようという取り組みが始まっている。連日のように行われているパレスチナ連帯行動には、若者・学生など新しい世代、新しい人々が参加し、広がり始めている。闘いの矛先を日本政府に集中しよう。
岸田政権を徹底的に批判し追いつめ、世論と運動の力で自民党政治そのものに終止符を打とう。
2024年6月8日
『コミュニスト・デモクラット』編集局