2024年中国全人代

「新たな質の生産力」で社会主義現代化の道を示す

3月5~11日、中国全国人民代表大会(全人代)の2024年次総会が開催された。日本のメディアは、無内容な悪罵一色だった。各紙の紙面の中心は「首相会見なし」。政府活動報告には「習近平」が16箇所あるから「習一強」。国務院組織法改正には「独裁体制への回帰」。日本の対中戦争準備=軍事費倍増は棚に上げ、「中国国防費7・2%増、軍拡路線貫く」。果ては「しらけた」「くさいものにフタ」「本音が分からない」など嫌悪感丸出し。まともに取材したものはなかった。腐敗したのは岸田自民党だけではない。大手メディアの劣化・退廃も甚だしい。
 以下、李強首相が発表した政府活動報告(以下、報告)から2点に絞って紹介したい。第1に、2023年の成果を確認し、2024年の目標と任務を明らかにしたこと。第2に、新たな概念「新たな質の生産力」の提起である。中国は西側の挑発に乗らず、如何に平和な環境下で新たな社会主義建設を推し進めるかにしか関心がない。対中戦争で中国の台頭を抑え込もうと躍起になる西側帝国主義とは真逆の平和的な道を進んでいるのである。

「外圧」と諸困難の中での経済回復――共同富裕へ着実に前進

 報告は、「複雑極まりない国際関係」「外部からの圧力」、そして「内部の困難」を乗り越えて、GDP5・2%増をはじめ経済の全般的回復、産業イノベーションや科学技術のブレークスルー(飛躍的進歩)など達成しつつある成果を明らかにした。それは、西側帝国主義の対中制裁やデカップリング策動をはねのけて勝ち得たものである。
 しかもその「回復」は、住民1人あたりの可処分所得が6・1%増とGDPの伸びを上回り、脱貧困地域の農村住民の所得は8・4%増と、低所得者層ほど大きい。貧困脱却の成果が定着・拡大し、人民生活が向上して、共同富裕に向かって着実に進み始めていることを現している。
 報告は、「GDP5%前後」など2024年の経済目標を明らかにした。それは西側諸国の2024年GDP予測(米国2・1%、先進国全体で1・5%:IMF)を大きく上回る。だが重要なのは、従来のもっぱら量に基づく超高速成長から、イノベーションに基づく質の高い持続的成長への移行、産業構造の転換を図るための戦略的方針である。
 報告は、2024年の政府活動の任務として、①産業体系の現代化と新たな質の生産力の発展の加速、②教育と科学技術を軸にした質の高い発展の基盤固め、③内需拡大、④改革の深化、⑤対外開放と互恵・ウィンウィンの促進など10大課題を掲げた。その上で、覇権主義に反対し、平等互恵の多極化とグローバル化を推し進め、あくまでも平和外交政策を堅持し平和的発展の道を歩む基本路線を強調した。

「新たな質の生産力」――イノベーション主導の社会主義建設へ

 今回、政府活動の最重要任務として掲げたのは、「新しい質の生産力」の発展である。これこそ全人代の核心となるキーワードで、われわれが最も注目する点である。
 これは、人口知能(AI)、量子コンピューティング、デジタル経済、新エネルギー等々、最先端技術のブレークスルーが生み出す、イノベーション主導の生産力である。すでに、電気自動車、リチウム電池、太陽電池(「新三種」)では世界をリードし、5Gをテコとするデジタル経済の加速度的発展、量子技術、新素材、生命科学などの先端新興産業の急成長、グリーン・低炭素投資の増大など、科学技術と産業全体のイノベーションが原動力となって、社会主義の土台となる新たな生産力が形成されつつある。それは2035年の社会主義現代化(中程度の先進国と同水準に)を成し遂げる基本戦略の要となるものである。
 この政策概念は、昨年9月、習近平総書記が初めて提唱して以来、中国の政策立案の主要テーマとなり、12月の中央経済工作会議の冒頭に「イノベーション主導の現代的産業システムの構築」が挙げられている。党の中央財経領導委員会は「新たな質の生産力」について、①新しいタイプの労働者の創出、②新たな生産手段(コア技術、戦略的新興産業、未来産業等)の活用、③新たな質の生産力に対応する生産関係の構築、の3点を指摘している(12/17新華社)。さらに、生産力(労働力、労働用具、労働対象)と生産関係、イノベーションの生産力・生産関係・生産様式に与える影響、大量消費・廃棄物排出の見直しと持続可能な発展、知的労働と熟練労働などについて、活発な研究と討論が行われている。
 社会主義中国は、科学技術・イノベーション主導の新たな社会主義に向かって動き始めている。


(水島)

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