大企業は労資一体で「満額」演出
他方で労働者の多数は状態悪化、ストライキ機運の高まり
メディアでは連合、政府、財界、大企業の経営者、そして日銀までが加わってまるでお祭り騒ぎだ。だが、こんなものは春闘ではない。
しかし、その陰でまったく異質の動き、ストライキがまだまだ小さいながらも芽吹き始めている。私たちは、まずはこの後者の動きに焦点を当て今春闘の変化を捉えたい。
(2024.4.5 石河)
「ストライキ」がよみがえってきた
長崎のアマゾン配達労働者が、3月8日、全面ストライキに突入した。2次下請けの運送会社「トランプ」から契約打ち切りを通告されたが、この2次下請け会社自体が契約解除される立場のため、1次下請けの会社「若葉ネットワーク」に交渉を求め、拒否されたのだ。「東京ユニオン アマゾン配達員組合長崎支部」は、2022年結成、約50名の組合だ。今回のスト参加はわずか20名だが、それでも非正規労働者のストでこの規模は画期的だ。
「非正規春闘2024」は2月8日、総合サポートユニオンなど約20の合同労組(約5万人)を結集して開始した。その日に経団連前集会に50名が集まり、「10%賃上げ」を突きつけた。今春闘では、15社、500人のストライキを計画している。
日本のストライキは1万件近かった1970年代半ばから激減し、2019年には49件と地を這う状態にある。それでも2022年には65件とかすかに反転し5年ぶりの高水準となった。その過半がこの合同労組主導だ。昨年からはさらに大きな変化が起こっている。そごう・西部百貨店、ABCマートの一人ストライキ、それに米の大規模なストライキが刺激要因となったのだ。
郵政ユニオンは組合員数2683人、うち約4割が時給制契約社員だ。大幅賃上げと同時に非正規の均等待遇、正規化を求めて、3月15日にストライキを実施した。だが時給制契約社員については地域最賃に20円上乗せしただけという事実上のゼロ回答だ。
格安航空会社ジェットスターの労働組合は3月29日からのストを通告したが、会社から48時間前ではないので「懲戒処分」と脅され実施を見送っている。
全医労は3月9日、140か所の国立病院でストライキを行った。
ある大病院でも春闘交渉を前にさまざまな職場から悲鳴のような訴えが次々と届き、これまでにない改善を勝ち取った。介護労働者の闘いも広がっている。自分たちの低賃金、過酷労働改善のためばかりでなく、患者、利用者のためにという気持ちがより切迫した状況を作り出している。
中小企業労組の春闘はこれから本格化する。大企業の政労使協調の「満額」回答ムードに対して、中小零細企業の春闘は様相が大きく異なる。闘わずして大幅賃上げを勝ちとることは至難である。全労協や全労連など闘う姿勢を堅持する労働組合は、それぞれの統一行動で結束を固めながら、交渉と闘争を開始している。全労協では、「『官製』賃上げを突破し、原則的に要求を掲げて闘いに挑む」ことを確認しながら、正規―非正規、官―民連帯、外国人労働者との連帯が強く押し出され、とくに昨秋の全米自動車労組(UAW)の果敢なストライキ闘争に学ぶ姿勢が打ち出されている。
全港湾沖縄地方本部は、米ミサイル駆逐艦入港に抗議して、3月11日から3日間ストライキを決行した。これは「職場が軍事利用される」ことに反対するという画期的な内容をもったストライキであった。
メディアで「満額回答!」が踊っている
連合「春闘」は、闘争ではなく、徹頭徹尾、大資本との協調と政府・自民党へのすりよりだ。
連合とその中心の金属労協、自動車をはじめとする有力単産は、自分のことしか考えていない。労働者全体の賃上げなど眼中にない。トヨタが労使とも回答を非公開にしていることがその典型だ。組織労働者の決定的な部分が労働者の大部分と離れた特権的な階層になっているのだ。
連合「春闘」の影響は中小企業にはほとんど及んでいない。首都圏の中小零細企業調査では3割が「賃上げ予定なし」と答え、「賃上げする予定」はたったの36%だ(城南信金と東京新聞のアンケート、3月13~15日)。この中小企業は全国で、企業数の99.7%、労働者数の70%と圧倒的多数を占めている。
逆に言うと、大企業は企業数で0・
3%、労働者数では30%にすぎない。しかもその労働者の約4割は非正規労働者である。だから高収益の大企業正社員は1割にも満たないと考えられる。メディアはこのごく一部にすぎない労働者上層の賃上げをはやし立てているのだ。
日本経団連が主役
今春闘に、何とも不可解な「要求を超えた回答!?」が現れた。基幹労連の中心=日本製鉄労組の要求30000円に対する35000円の回答だ。これこそ巨大企業と財界が春闘を主導し牽引していることの歴然たる証拠だ。彼らの狙いは、直接には「人手不足」対策であり、同時にデフレからの脱却、異常円安対応と金利の正常化である。だがこの「人手不足」対策も二面的だ。一方のエリート人材獲得をめぐるグローバル競争は過熱しているが、他方の圧倒的多数の労働者に対しては労働時間・労働密度の悪化を押しつけている。
日本経団連は昨年から「構造的な賃金引き上げ」を主張している。狙いは生産性の増大とのセットだ。主張の第1は、賃上げはより大きな利益のための「投資」だということだ。「人材を企業の資本と捉え」、生産性向上につながる「人的投資」を行うと言うのだ。しかも彼らはエリート層に対しては、賃金とは別に、株式による優遇制度を政府に要望している。「役員・従業員へのインセンティブ報酬制度の活用拡大に向けた提言」(24.1.25)だ。第2は、「円滑な労働移動」、すなわち解雇の自由だ。今も執拗に「解雇の金銭解決制度」の創設を追求している。第3が、「労働時間法制の見直し」だ。そして第4が、「自社に適した賃金引き上げ」、おきまりの支払能力論だ。
同時に日本経団連は、今年の1月16日に「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を出した。これは、労働法を一段と骨抜きにし、連合の労使協調路線、日本の労働組合の弱さにつけ込んで、「労使自治」を盾にやりたい放題にしようということだ。要求項目は、①「労働時間規制のデロゲーション(免除)の範囲拡大」、②「自主的な健康管理」=「自己管理」等。「経営者は、労働者を無制限にこき使うことができ、しかもその健康には責任を持たない」という信じがたい要求だ。日本経団連が理想とする「労使自治」とは、労働者の心身や権利を保護する法律や規制をすべて撤廃した状態なのだ。
日本の労働者の状態は極めて悪い
一方には史上最高の利益、株高、そして配当がある。とくに自動車、鉄鋼等の大手輸出製造業は絶好調だ。このおこぼれが連合の上層を酔わせている。
対照的に実質賃金は今年1月まで22ヶ月連続低下、2年連続低下だ。97年から系統的に低下している。だから「スキマバイト」(スポットワーカー)が激増している。日本経済新聞(23年6月)によれば、23年5月に1000万人を超えた。「タイミー」を利用した労働者の収入の中央値は月1万5000円~2万円である。労働者の生活がいかに追い詰められているかということだ。
この両極化を成し遂げているのが異常なほどの労働分配率の低さだ。大企業ではとくに低く22年度はここ50年で最低の36・6%だ。連合の、労働組合の弱さの反映である。
さらに日本では国家の制度・政策が低賃金構造を維持・拡大している。診療報酬制度が看護師をはじめとする医療労働者の賃金を、介護報酬制度が介護士の賃金を押さえ込んでいる。また保育士も国家と自治体の政策によって信じがたいほどの低賃金だ。これらの職種は「人手不足」を過酷労働で補わされている。
一部巨大企業の賃上げではなく労働者全体の底上げを図ろう
巨大企業は、大学生・大学院生、有能な技術者等々を高額の初任給や高給で奪い合う。しかし、これは労働者の課題ではなく経営者の問題だ。
労働者と労働組合は圧倒的多数の労働者大衆の賃金の抜本的な引き上げを構想すべきだ。これは労使協調や政府・自民党へのすり寄りでは実現しない。労働者大衆の下からの要求を組織し運動を作り上げることによって実現する以外にない。
この要求の中心は最低賃金1500円の即時実施だ。
パート労働者の賃上げではUAゼンセンの賃上げが注目を浴びた。企業との協調でパートを上から大量に組織して、連合の中でもダントツに巨大な187万人の組合だ。とくにイオングループのパート時給が76.66円(7.02%)引き上げたことが話題をさらった。しかしよくよく見ると、引き上げ前の平均時給は1070円で、東京都の最低賃金1113円以下だ。
日本ではなんと労働者の約半数が時給1500円未満だ。これは非正規労働者だけでなく、中小企業はもちろん、大企業・公務員の一部まで含む労働者の課題なのだ。日本の最低賃金はフルタイム労働者の賃金の中央値の45.6%だが、世界の大勢は60%だ。ぜひとも労働者全体の賃金を押し上げる水準にしなければならない。
最低賃金1500円を全労働者的な要求とし、本気で実現を目指して闘おう!