1月13日の台湾総統選は、民進党の頼清徳が国民党侯友宜を退けて当選した。日本と西側のメディアは一斉に、「台湾の人々は民主主義を選択した」「蔡英文政権の抗中路線が信任された」と大々的に報じた。「権威主義国家」中国に対する「台湾独立派」の勝利だと、あたかも台湾の民意が「台湾独立」であるかのように描き出したのである。
だがこの図式は、全く事実に反する。頼勝利だけを一面的に切り取った低劣な反中プロパガンダだ。総統選の得票結果は、「一つの中国に反対する」民進党が約4割、「一つの中国に反対しない」国民党・民衆党の野党2党は約6割であった。
同時に行われた立法院選挙では民進党は過半数割れとなり、国民党が第一党となった。しかも民進党は対中政策を掲げて選挙を戦ったのではない。蔡英文のもとで振りかざした親米と独立志向が緊張と戦争の危険を生み出したことが住民の反発をうみ、選挙では独立志向は背景に隠した。さらに2月1日の立法院院長・副院長選挙では、どちらも国民党委員が選出された。一連の選挙結果は、台湾の主流民意が「台湾独立」や「二つの中国」、対中対決ではないことを明確に示すものであった。
しかし、米国は総統選での民進党勝利を最大限に利用して、対中挑発と緊張激化で動き始めている。ブリンケン国務長官は頼候補の勝利を祝い、「台湾海峡の平和と安定」「力による現状変更反対」を打ち出した。選挙直後には、ハドリー元大統領補佐官らに頼清徳と会談させた。外交関係を持たないと言いながら、米政府は「非公式」代表団を5月の就任式に送るつもりだ。
共和党もジョンソン下院議長が5月の訪台を要請するなど、対中挑発で競い合っている。台湾海峡強行通過、「航行の自由」作戦、南シナ海や東シナ海での軍事演習など対中軍事挑発を目論んでいる。米国にとって、民進党の台湾は中国を包囲し挑発する最前線、その道具なのである。バイデン大統領は「台湾の独立は支持しない」と言ったが、実際に台湾分裂をそそのかす言動をごまかす欺瞞に過ぎない。中台間に対決と緊張を作り出し、戦争の不安を煽ることで、台湾の人々に中国脅威論を刷り込もうとしているのだ。
日本も同じである。上川外相が頼当選を祝い、協力を呼びかけた。麻生は、「台湾にまず戦ってもらわないと」と無責任に対中戦争を煽り立てた。公然たる戦争挑発であり内政干渉である。日本政府も米帝の台湾利用に全面協力するつもりだ。
米国とそれに追随する日本の対中挑発・対中対決のプロパガンダを暴き出し、「台湾独立」「台湾有事」策動を許さない世論を作り出していかなければならない。
「中国の選挙介入」を垂れ流し続けたメディア
米国と日本のメディアは、総統選での「中国の選挙介入」を繰り返し流し続けた。しかし、以下で明らかなように、「介入」してきたのは中国ではなく、米国と日本を中心とする西側政府とメディアである。
当選した頼氏は、選挙前の9日、海外メディア向けの会見で、中国による軍事的威嚇や経済的圧力、フェイクニュースなどによる選挙介入があると言い立てた。実際これに呼応するように昨年末来、日本のメディアも、中国政府が与党・民進党へ圧力を強めるために経済的圧力を強めているとの報道を垂れ流していた。例えば昨年12月21日に中国政府が台湾からの輸入品に対する関税優遇措置を今年1月から一部の品目に関して停止するとの報道である。しかしこれは台湾が農産品や金属・化学品など多数の品目について輸入を禁止していることを中国政府が確認し、対抗措置を取ると示唆していたことの結果にすぎない。
また、あるメディアは、従来中国は、民進党の支持基盤が強い南部の農作物や水産物を買ったり、地元の有力者らを中国に招いて手厚い接待をして、取り込みを進める、いわば「見えやすい介入」を進めてきたという。
しかし台湾農民・漁民にとって、農作物や水産物の販売先が中国だからと拒否するいわれは全くないだろう。また、中国が台湾の中国大陸出身者やその子孫を大陸に招いて歓待することは珍しくはない。しかし、メディアはこれも「台湾統一工作の一環だ」という一部の訪問者の声だけを切り取って伝えるのだ。
米日両政府にとって本当の目的は、何としても台湾で「台湾独立」の声を高め、それを圧殺するために武力行使を行う中国政府、台湾を守るために戦う米日という構図を作り上げることだ。 習近平総書記は第20回大会で中台統一に関して「武力行使の放棄を約束しない」と確かに述べた。だが、その対象は「外部勢力からの干渉とごく少数の『台湾独立』分裂勢力とその分裂活動」であること、「何としても平和統一をめざす」としている。中国が目指しているのは、あくまで中台の平和的統一であることを繰り返し強調している。「台湾有事」「日本有事」を何が何でも作り出したいのは米日の側なのだ。
NEDによる「台湾独立」工作
米国の台湾工作は今に始まったことではない。1979年、米中国交を正常化し、台湾との国交を断絶した3か月後には、国内法として「台湾関係法」を早くも制定し、武器を有償で提供し続けてきた。昨年末にはバイデンは「国防権限法案」なるものを成立させ、台湾をめぐっては、「米国と台湾の協力を強化し、台湾の防衛能力を向上させ、平和的な両岸関係を促進する」と明記。台湾軍への包括的な訓練や助言、能力構築プログラムを実施することを盛り込み、また中国によるサイバー活動を念頭に、台湾との軍事面でのサイバーセキュリティーでの協力強化を求めている。現に、米と台湾の間でサイバーセキュリティーのための共同演習が行われている。
こうした表の行動と一体のものとして、裏の顔「第2のCIA」=NED(全米民主主義基金)は、早くから台湾で工作を進めてきた。2003年にNEDのカウンターパートとして「台湾民主基金」なるものが設立されたが、実ははるか昔からNEDは台湾に潜り込んでいたのだ。
2014年の「ひまわり革命」(ひまわり学生運動)を引き起こしたのもNEDである。学生・市民らが、中台間のサービス分野での市場開放を目指す「サービス貿易協定」の批准に向けた審議を行っていた立法院を占拠した学生運動から、それは始まった。
当時、国民党・馬英九が総統であり、「平和裏に台湾統一へ移行」しそうな雰囲気をつくり出し、「九二コンセンサス」にも賛同を表明していた。馬英九・習近平会談が実現しそうだった。米国としては何としてもそれを防ぎたい。平和統一などすれば、中国の繁栄は保障され、中国経済が米国を抜く。最先端の半導体産業群がある台湾を中国に渡すわけにはいかない。そこでNEDが動いたのである。
現にひまわり学生運動が終わると、その指導者たちは米国に招待され、米国に「一つの中国」政策を中国にやめさせるようにしてほしいと訴えた。NEDは「民主」に憧れる若者を利用し操ったのだ。さらに2019年には、蔡英文がNED会長に勲章を与え、2022年3月にNED会長が台湾を訪問し、10月に台北で「世界民主運動」を開催し、「台湾独立運動」を支援するとした。
台湾問題に関して動いているNEDは、どんな小さなチャンスでも見逃さず、中国国内においてもほんの一部分でも操るチャンスがあれば必ずそこに潜入して、政府転覆を試みようとしていることが見えてくる(香港はもとより、中国本土における2011年「ジャスミン革命」や、2012年ゼロコロナ「白紙運動」を見よ!)。NEDがいるということは、そこにCIAがいることを忘れてはならない。
米国が作り出す「台湾有事」策動を許してはならない
バーンズ米国CIA長官は昨年2月、習近平が2027年までに「台湾を武力攻撃する」と言い、「証拠もある」とまで言い出した。同様の発言は2021年3月から始まり、それはますます激しくなり、世界を操っている。
だがその「証拠」というのは、2027年の中国「建軍百周年記念」でしかない(2020年「第19回党大会五中全会公報」に、建軍百年にむけた奮闘目標として「両岸関係の平和的発展と祖国統一を推進しよう」と記されてある)。そこに、先述した習近平の「武器使用を放棄しない」を重ね合わせて「2027年台湾武力攻撃説」を米国はひねり出したのだ。
陰に陽に台湾に中国との分裂策動をけしかけ、「台湾独立」の世論を作り出し、武力衝突にまで発展させることを目論んでいるのが米国であることは明白だ。「民主」を掲げて世界に「戦争と内乱と混乱」をもたらしてきたのは常に米国であったこと、戦争によって肥え太っているのは米国の軍事産業であることに、日本人民は改めて気づくべきだ。
岸田政権は、この米国に追随し、一体となって「台湾有事」を煽り、対中戦争準備を加速し始めている。われわれは、かつての天皇制軍国主義日本が台湾を侵略し、中国大陸侵略の拠点とし、50年間植民地支配し、人民の抵抗に血の弾圧を加え、略奪と殺りくを繰り返したこと、中国大陸を侵略して2000万の中国人民を虐殺し、破壊と暴虐の限りを尽くしたその歴史を忘れてはならない。
その中国を敵とする日本の対中攻撃基地化と、中国の内政に干渉し台湾独立を唆して中国を分裂させようとする戦争策動を絶対に許してはならない。
(MK)